第3話 ファンタジー世界でお金を稼ぐなら、やっぱりクエストだよね
異世界から転移してきた私と自宅に、この世界のお金があるはずがない。
でも、どうしてシェフィーたちまでお金を持っていないのか。
ちょっと聞いてみよう。
「本当にお金ないの? 誰もお金を持ってないの?」
「わたしは家族の仕送りでやっと生活していたぐらいなので、元々お金はありません」
「私も、馬車から飛び降りてからそのままだから、お金を持っていなかったんだ」
こんな場所でシェフィーの苦労を知ることになるなんて。
ルフナも、戦闘状態のまま自宅にやってきたんだから、お金がなくて当然。
問題はミィアだ。
なぜ彼女までお金を持っていないのか。
「ミィアは王女様でしょ? お金なんて、いくらでもあるんじゃないの?」
「ないよ~! 少しのお金も持ってな~い!」
「満面の笑みで言うことじゃないですよ、それ!」
鬼気迫る表情のシェフィーのツッコミ。
すると、ミィアは珍しく申し訳なさそうに、小さな声で言うのだった。
「ええとね、実はね、お金はいつも使用人さんとか護衛の人に預けてたの。だから……ミィアはお金を持ったことがほとんどなくて……」
「庶民とは違う土俵に立ってたんだね、ミィアは……」
本当のお金持ちは、自分でお金を持たない。
私たちは、ミィアの護衛を置き去りにした時点で、ミィアのお財布も置き去りにしていたらしい。
困った。私たちは本当に一文無しになっちゃった。
さすがのシェフィーたちも肩を落としている。
「このままだと、今日の夕ご飯もないですし、魔法陣も作れません……」
「お菓子が食べられないよ~! やっぱり、ミィアたちは幽霊さんみたいに、お腹を空かせたまま世界をさまようんだ~!」
「ミィアにひもじい思いをさせるなんて、世界が滅ぶよりも大変なことだぞ。食糧については、私と不死鳥の剣が何か獲物を捕らえてくるしかないか?」
深刻な事態に悩みだす3人。
スミカさんは私をじっと見て、おもむろに聞いてきた。
「緊急事態のときは、ユラちゃんの出番ね。何かいいアイデアはないかしら?」
「いいアイデアか……」
私は顎に手を当て考えはじめる。
選択肢は2つ。自給自足生活か、お金を稼ぐかだ。
自給自足生活は、主に私のメンタル面の問題で長続きしそうにない。
となるとお金を稼ぐしかないけど、短期間にお金を稼ぐ方法って何だろう。
ファンタジー系のゲームなんかではよく――
「あっ! クエスト!」
考えた末にたどり着いたのは、願望半分の夢のような四文字だ。
私の思いつきを聞いたみんなは、一斉にこちらに視線を集中させる。
特にシェフィーの視線には、希望を見出したような輝きがあった。
「そうです! クエストです! いいクエストがあれば、旅の資金にもなります!」
続けてルフナとミィアが言う。
「そうか、その手があった! どうして私は気づけなかったんだ?」
「クエストでお金稼ぎ!? おお~! 冒険者さんみた~い!」
話はとんとん拍子に進んでいった。
シェフィーはテラスに出て、広場を見渡す。
「たぶんあの辺に――ありました! クエスト掲示板です!」
「どんなクエストがあるか、見に行こうよ~!」
「うお! ミィアと一緒にクエスト掲示板を眺めるだと!? これは何のご褒美だ!?」
好奇心を胸に自宅を飛び出したミィア。なぜかご満悦のルフナ。
今の2人は、王女様とナイトさんではなく、ただの仲良しの幼馴染だ。
取り残されたシェフィーは、私に向かって頭を下げた。
「わたしたちが困ったとき、ユラさんはいつも助けてくれますね。ありがとうございます」
「べ、別に、私は大したことしてないよ」
「フフフ、それでもユラちゃんが問題解決屋さんなのは間違いないわ」
「スミカさんまで……」
「よしよし」
「だから、私は子供じゃないってば!」
褒められた直後に頭を撫でられると、さすがにちょっと照れる。
照れて顔が赤くなってきたので、私はリビングのソファに埋もれることにした。
ソファに埋もれること数分後。ミィアとルフナが帰ってくる。
満足げな表情を浮かべたミィアを見る限り、いいクエストが見つかったみたい。
立ち上がったシェフィーは瞳を輝かせ、ミィアとルフナに聞いた。
「どうでしたか?」
「楽しそうなクエストがあったよ~!」
「とミィアは天使のように喜んでいるが、クエスト選びには苦戦したぞ」
そう言って、ルフナは小さくため息をつく。
私はすぐに質問した。
「苦戦したって、何に? 報酬? 難易度?」
「報酬だな。『屋根の塗り替え』や『ネズミ退治』『大掃除』『フィギュア製作の手伝い』『町に落ちてる片方しかない手袋集め』みたいな小規模クエストばかりで、どれも報酬がイマイチだったんだ。でも高額報酬のクエストは、1日で終わらないものがほとんでなぁ」
「へ~。それで、どんなクエストを受けてきたの?」
「それは――」
「待って! クエスト内容はミィアが言う!」
焦ったような顔をして、ミィアはルフナの口を塞ぐ。
口を塞がれたルフナは興奮状態になり、言葉を失った。
ルフナが黙れば、ミィアはリビングの真ん中に立ち、クエスト内容が書かれた紙を掲げながら声を張り上げる。
「じゃじゃ~ん! これからミィアたちが挑むクエストは『あわあわ魔法石を見つけ出して、トラコンの里に運ぶ』だよ!」
「うん? あわあわ魔法石? トラコンの里?」
よく分からない単語のオンパレードだ。
解説をしてくれたのは、冷静さを取り戻したルフナ。
「あわあわ魔法石は、険しい崖にある、上質な泡が出ることで有名な魔法石だ。トラコンの里は、トラコンという動物たちが住む里だな。どうやらトラコンたちは、お祭りで使う上質な泡を手に入れるために、あわあわ魔法石が欲しいらしい」
ふむふむ、分からない。
とりあえず大事なのは、クエストの難易度だ。
できることなら、自宅でゆっくりしているうちに完了するようなクエストがいい。
「そのあわあわ魔法石って、どこでどうやって見つけるの?」
この質問に答えてくれたのはシェフィーだった。
「この辺りなら、きっと『ちょっと怖い崖』にあるはずです。『ちょっと怖い崖』であわあわ魔法石を見つけるのは大変ですが、スミカさんなら難しくはないと思います」
「フフ、私が活躍する場面ね。私、張り切っちゃうわ!」
なんとなくだけど、なんとかなりそうな感じ。
はじめてのクエストは、勇者スミカさんと一緒なら難しくなさそうだ。
だとすれば、早く出発しよう。
「じゃあシェフィー、スミカさんに道案内をお願い」
「はい! スミカさん、『ちょっと怖い崖』はあっちです!」
「分かったわ!」
「おお~! クエストだ~! ねえねえルフナ、はじめてのクエストだね!」
「そうだなぁ。まさかミィアと一緒にクエストをする日が来るとは思わなかったぞ。クエストを頑張るミィアの姿を、きちんと脳に焼き付けないとだな」
こうしてはじまる、のんきなクエスト。
4本足で立ち上がった自宅は、町の人たちの視線を集めながら、のしのしと『ちょっと怖い崖』に向かって歩きだした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます