第2話 とある町でスキル解放
自宅は教会が見下ろす広場に腰を落ち着けた。
4本足をしまった自宅は、ただの目立つ一軒家として町にいる。
野次馬たちが遠くから自宅を眺めているけど、完璧な防犯のシールドに守られた自宅は気にしない。
ソファに座っていたスミカさんは、優しく笑って言った。
「私はここで待ってるから、みんなはお買い物にいってらっしゃい」
「はい!」
お買い物という単語を聞いて、シェフィーとミィア、ルフナは相談をはじめる。
「ねえねえシェフィー、何から買うの?」
「やっぱり、まずは食料を買うべきでしょうね。もちろん、お菓子もです」
「わ~い! シェフィー大好き~!」
「食料の他に、私たちの普段着も欲しいなぁ。いつまでもユラの服を借りるわけにはいかないだろう」
「ルフナさんは服を着てないことの方が多いと思いますが……その通りですね。なんだか、荷物が多くなりそうです」
「荷物持ちは私に任せてくれ。マモノと戦うのと比べれば、なんでもないからな」
「あ、ありがとうございます!」
「早く早く~! お菓子、いっぱい買う~!」
出発前から楽しそうな3人。
私は3人に向かって手を振った。
「じゃ、いってらっしゃい」
「ええ!? ユラさんは、お買い物に行かないんですか!?」
なんでだろう。シェフィーが驚いた顔をしている。
野次馬がいるだけでも緊張する極度の人見知り、自宅でのんびりとしていたい私が、買い物に行くわけないのに。
「どうして!? ユラユラも一緒にお買い物、行こうよ~!」
「せっかくの町なんだ。観光でもしてみたらどうだ?」
なんだか、みんなから外に出るようにすすめられちゃってる。
だけど、私は家を出たくない。なんとしてでも家の中でのんびりしていたい。
こうなれば、あの言葉を繰り出すしかなさそうだ。
私はキリッとした表情をしながら低めの声で言った。
「私には、重要な任務がある。スミカさんを――自宅を守るという任務がね。それを全うすることが、自宅警備員である私の務めなのさ」
リビングに訪れた沈黙。
沈黙を打ち破ったのは、首をかしげたシェフィーだった。
「よく分からないですけど、たしかにお留守番をする人は必要ですね。ユラさん、お留守番はお任せしました」
「スミカさんを頼んだぞ、ユラ。私はミィアと一緒に買い物……ムフフ」
「ユラユラへのお土産、ちゃんと買ってくるね~!」
うまくいったらしい。
これで私は、自宅でのんびりとしていられる。
シェフィーたちが買い物に出かければ、自宅には私とスミカさんだけ。
私はソファに寝転がり、スマホをいじりはじめた。
一方のスミカさんは苦笑い。
「フフフ、ユラちゃんは昔から変わらず、お外に出るのが嫌いなのね」
「お外が嫌いっていうより、おウチにいるのが好きなだけだよ」
「まあ! 自宅としては嬉しい言葉だわ!」
スミカさんは笑顔で私に抱きついた。
こうしてスミカさんの腕に包まれると、とっても温かい気分。同時に、ちょっと苦しい。
しばらくしてスミカさんが離れれば、私はテレビゲームのコントローラーを握った。
コントローラーを握ったのは、自宅のスキルを解放するため。
そそくさと『おウチスキル』を起動し、溜まったポイントを見ると、私は思わず驚いてしまう。
「おお! いつの間に10万ポイントも溜まってる!」
「本当だわ! でも、そんなにマモノは倒してないのに、なんでかしら?」
「やっぱり、移動するだけでもポイントが獲得できるシステムなんじゃないかな」
ここ数日間、自宅はかなりの距離を移動してる。
森を抜け、川を越え、山を登り、道を進み続けたことが、きっと10万ポイント獲得につながったんだろう。
しかも、獲得したのはポイントだけじゃない。
スキルツリーから独立した星型のスキルが、いつの間に解放されていた。
「これは……スキル『対地ミサイル』!?」
とんでもないスキルだ。
どうやら一定の移動距離と一定の撃破数で解放されるスキルみたいだけど、マモノ相手にミサイルなんて、ちょっと強すぎる気がする。
――強すぎて困ることはないか。
それよりも、どんどん新しいスキルを解放していこう。
「ねえスミカさん、スキルは勝手に解放していっちゃっていいよね」
「ええ、いいわよ」
許可は得た。あとは私の独壇場だ。
とりあえずは『お散歩だツリー』と『強いツリー』を進め、余ったポイントで『まったりツリー』を進めていく。
残りのポイントが限りなくゼロに近くなれば、私はスミカさんに伝えた。
「今回は、移動系では強化スキルを7つに、『ロッククライミング』と『全力疾走は一瞬だけ』とかいう2つのスキルを解放しておいた。戦闘系で解放したのは、強化スキル6つに、『12ポンド砲』だね。ガトリングとかミサイルとか、少しは狙いやすくなったはず」
「ふむふむ、『まったりツリー』ではどんなスキルを解放したのかしら?」
「『すごい電子レンジ』と『空気清浄レベル2』、それに『スピーカー強化レベル1』、『ソファふかふかレベル2』の4つだね」
「フフ、私、どんどん強くなっていくわ」
間違いない。早くもスミカさんは最強の自宅になっていた。
さて、スキル解放を終えたと同時、シェフィーたちが帰ってくる。
「も……戻りました……」
「戻ったぞ……」
「むう……」
なぜか私とスミカさんから視線を外したシェフィー、ルフナ、ミィア。
思ったよりも早い帰宅だ。というか、3人はひとつの荷物も持っていない。
何かあったのかな?
「シェフィー、どうしたの?」
「実は……その……お金を持っていませんでした!」
悲しすぎるシェフィーの答えに、私は泣きそうになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます