5けんめ はじめてクエストに挑戦してみる話

第1話 片付けとお買い物は大事

 私しか住んでいなかった自宅も、今では4人が暮らすおウチ。

 ここに自宅そのものであるスミカさんの思念体を加えれば、5人が暮らすおウチになる。


 住人が増えれば、不足するものも出てきた。

 特に深刻なのが食べ物の不足だ。


「あれ? あれれ? ねえねえ! お菓子がないよ~!」


「そりゃそうでしょ。ミィア、昨日の夕ご飯を覚えてる?」


「ちゃーはん、だっけ? あれ、とってもおいしかったよ~!」


「たしかに、おいしかったね。でも、それだけだったよね。しかも、2人分の冷凍食品のチャーハンを、4人で分けて食べたんだよね。寂しそうなスミカさんの顔が、今でも忘れられないよ」


 ついでに言うと、今夜の夕ご飯は、もうない。

 食べ物がないと知ったミィアは、今にも泣き出しそう。


「じゃあじゃあ、ミィアたちはもうお菓子を食べられないの~? ミィアたちはこのまま、お腹を空かせて世界をさまようの~?」


「そこまで心配しないでいいよ。食べ物不足を解決する方法はあると思うから」


「おお~! さすがユラユラ~!」


 希望を取り戻したミィアはつぶらな瞳で私を見つめている。

 私は食べ物不足を解決するため、ミィアと一緒にシェフィーのいる書斎へと向かった。


――魔法で食べ物を出してもらえば、食べ物不足も解決だよね。


 そんな期待を胸に、書斎の扉をノックしようとする私。

 でも、ノックをする前に、扉の向こうから激しい物音と叫び声が聞こえてくる。


「ああああぁぁぁ!!」


「どっ、どうしたの!?」


 扉を開けて、私はシェフィーが無事かどうかを確認。


 書斎にいたシェフィーは大量のチラシに埋もれながら、涙目で呆然としていた。

 何が起きたのかは、だいたい想像がつく。


「あ~、お父さんが片付けてなかったチラシの山が崩れたんだね」


 お父さんも、よくチラシの山を崩して困ってたっけ。

 それにしても、シェフィーはなんで涙目で呆然としてるんだろう。


 よく見れば大量のチラシも黒く染まってるし、何か問題でもあったのかな?


 ミィアはチラシの山に埋もれたシェフィーに寄り添った。


「だいじょーぶ??」


「大丈夫じゃないです……魔法陣を作るのに必要なインク……全部こぼしちゃいました……」


「ええ~!?」


「うう……」


 チラシを頭に乗せたまま、真っ黒に染まるチラシを見つめ、力なく答えたシェフィー。

 私は思わずシェフィーに詰め寄った。


「それって、もう魔法陣が作れないってこと!?」


「はい……」


 大変だ! 食べ物不足を解決する方法がなくなった!

 シェフィーも魔法の研究ができないし、いろいろと大問題だよ!


 というところでルフナ登場。

 ルフナは片手を腰に当て、頼れるナイトさん感全開で口を開いた。下着姿だけど。


「話は聞かせてもらった。そんなみんなに朗報だぞ。近くに町がある。あの町で買い物をすれば、問題解決だ」


 悲しい雰囲気を一瞬で吹き飛ばしてくれた、嬉しい報告。

 パッと表情を明るくしたシェフィーは、チラシの山から抜け出し、胸の前でぎゅっと両手を握った。


「本当ですか!? 良かったです! 町で食糧とインクを買えば、万事解決ですね!」


 喜ぶシェフィー。一方の私は、彼女の言葉に疑問を抱く。


「待って。買うのはインクだけで良くない? 魔法が使えれば、食べ物だって魔法で出せるんだし」


「あ、ええと、実は、魔法陣魔法で出現させたモノは、召喚魔法と違って魔力の塊でしかないんです。ですから、いくら魔力の塊を食べてもお腹はいっぱいにならないので、食べ物は別に買う必要があります」


「へ~、そうなんだ」


 残念なお知らせだけど、食べ物不足は解決できそうだし、まあいっか。

 話に区切りがつくと、チラシの山の中からいきなりスミカさんが飛び出してくる。


「それじゃあ、近くの町に進路変更よ!」


 ということで、自宅は近場の町へと向かっていった。


 数分後、窓の外を眺めていたシェフィーは満面の笑みを浮かべる。


「町に到着です! これで、いろいろなものを調達できます!」


 その言葉を聞いて、私は期待に胸を膨らませながら、シェフィーの隣で町を眺めた。

 実のところ、この世界に転移してから町にやってくるのは、これがはじめてだ。


 到着した町は、2階建てのカラフルな家が並ぶ、小さくてかわいらしい町。

 大通りには人々と馬車が行き交い、町の真ん中には、こぢんまりとした教会が建っている。

 教会の前は広場になっていて、そこには様々な露店が並んでいた。

 昼間なのもあって、町はとってもにぎやか。


 あまりに期待通りすぎる町並みに、私の心は大騒ぎだ。


「CGかマンガかアニメでしか見たことない光景が、目の前に! つまり私は、二次元の世界に来たということ!? 私、ついに二次元デビュー!? 夢が叶った!?」


「ユラさん! よく分かりませんが、次元の壁は超えてませんよ!」


 騒ぎすぎたのかシェフィーにツッコミを入れられてしまった。

 でも、ここは私が夢見てきた町並み。少しぐらいは騒いでもいいんじゃないかな。


 さてはて、実のところ、騒いでいるのは私だけじゃなかった。

 町の人たちも、謎の歩く建築物を見て騒然としている。


「なっ、なんだ、あの建物は!?」


「新手のマモノ!?」


「いいや、マモノならとっくに町を襲っているはずじゃ」


「きっと『大きな帝国』の最新兵器だよ!」


 町の人たちは、私の家から少しだけ離れて、それぞれに勝手なことを言っている。

 まあ、仕方がない。東京郊外の閑静な住宅街にあった1軒家が、4本の機械の脚を動かして町をのしのし歩いているんだ。驚いて当然だよ。

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