第6話 旅のお供が増えました

 ミィアはルフナの手を引き、テラス経由で自宅のリビングに戻ってくる。

 尊さで私の正気を奪おうとしたルフナだ。彼女は当然のごとく完璧な防犯のシールドを超え、ミィアと一緒にリビングにやってきた。


 ファンタジー世界の住人であるルフナは、世界観の違いすぎるリビングに呆然。


「ここは、一体……」


 タイムスリップでもしてきたみたいな表情のルフナ。

 ミィアは私とシェフィーの手を握り、スミカさんの膝の上に座って言った。


「紹介するね! ユラユラとシェフィー、それにスミカお姉ちゃんだよ! この3人がね、この不思議な建物でミィアを助けてくれたんだ!」


「そうなのか!? それじゃあ、感謝しないとな。3人とも、ありがとう」


 まっすぐなルフナの感謝の言葉に、私とシェフィーは照れ笑い。

 スミカさんは一安心したのか、ミィアの頭を撫でながら微笑んだ。


「こうしてミィアちゃんとルフナちゃんが再会できて、本当に良かったわ」


「まったくだ。ええと、あなたがスミカさんか?」


「ええ、そうよ」


「ミィアが世話になった」


「いいのよ。ミィアちゃんを撫でると、ふわふわしてて気持ちがいいもの」


「分かる! 分かるぞ! ミィアのふわふわさえあれば、3日は飲まず食わずで――」


 謎のテンションを爆発させかけ、ルフナは咳払いする。

 スミカさんはおかしそうにするだけ。


 続けてルフナは振り返った。


「君がシェフィーだな」


「は、はい!」


「シェフィーは、たしか『西の方の国』の見習い魔法使いだったか?」


「そっ、その通りです! どうしてご存知なんですか!?」


「以前にマモノの軍勢と戦ったときに、鮮やかな魔法陣魔法が気になってなぁ」


「鮮やか……わたしの魔法が、鮮やか……!」


 褒められたシェフィーは、目をキラキラとさせ黙り込んでしまった。


 困ったルフナは、私をじっと見つめる。

 どうしよう、そんな凛とした目で見つめられたら、胸のあたりが崩壊してしまう。


「ええと……あの……」


「ユラユラ、だったか? 変わった名前だが、いい名前だな」


「いや、本名は由良ユラなんだよね……」


「うん? ああ! そういうことか! ミィアに変な名前をつけられたんだな!」


「大正解」


 私の返答に苦笑いを浮かべたルフナは、私の耳元に近づき、小声で言った。


「ミィアに振り回される苦労はよく分かる。ミィアはじゃじゃ馬王女様だからなぁ」


「ルフナ~! 聞こえてるよ~!」


「悪い悪い。でも、そんなじゃじゃ馬王女様なところが……ムフフ」


 怪しすぎる笑みを浮かべるルフナと、頬を膨らませたミィア。


 2人は、私が思っていた王女様とナイトさんではなかった。

 だけれども、2人がとても仲のいい幼馴染だというのは間違いない。


 そんな2人に、スミカさんは優しく微笑む。


「もしかして2人は、『西の方の国』に帰る途中だったりするのかしら?」


「うん! そうだよ!」


「なら、ちょうどいいわ! 実は私たちも『西の方の国』に向かっている最中なのよ!」


「おお~! そうだったんだ~! 偶然、すご~い!」


「2人に会えたのも何かの縁だわね。ミィアちゃんとルフナちゃんを『西の方の国』に連れて行ってあげる」


「ホント~? やったー! スミカお姉ちゃん大好き~!」


「助かる。これから『西の方の国』までの道中、世話になるぞ」


 ミィアは大喜びでスミカさんに抱きつき、ルフナは頭を下げた。

 まさか王女様とナイトさんが『西の方の国』への旅のお供になるなんて、びっくりだ。

 これにはシェフィーも開いた口がふさがらない。


「ミィア様とルフナさんのお2人と一緒の家で過ごすことになるなんて……わたし、まだ信じられません!」


「人生、何があるか分からないよね。家が動いて喋って、異世界で旅することになって、王女様と一緒に住むことになるんだから」


「ユラさんの人生は、何があるか分からなすぎです!」


 たしかに、ここまでくると何が起きても不思議じゃない。

 先のことなんて何も分からない。

 王女様と一緒に住むことになるぐらいだ。魔王と一緒に住む日だってくるかもしれない。


 なんにせよ、自宅がさらににぎやかになるのは間違いなさそうだ。

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