第5話 王女様とナイトさん、感動(?)の再会

 ルフナと自宅、マモノが並び立つ戦場。

 最初に攻撃を仕掛けたのはルフナだった。


「うおおおお!」


 突撃をはじめたルフナは、一瞬でマモノとの距離を詰める。


 力強く振り上げられたルフナの剣からは、赤い光の尾が引いていた。

 そのまま、赤く光る剣はマモノの鈍重な棍棒を真っ二つに。


 マモノは綺麗な断面をさらした棍棒を振り下ろすだけ。

 ルフナの勇姿にシェフィーとミィアは驚きの声を上げた。


「すごいです! 自分の体よりも大きい棍棒を切っちゃいましたよ!」


「行け行けルフナ! がんばれがんばれルフナ!」


 にぎやかなリビング。

 私は固唾を飲んで戦場を眺める。


 ルフナはマモノとすれ違い、振り返り、再び剣を振り上げた。

 だけど、棍棒を失ったマモノには、まだ大木みたいな自分の両腕が残っている。

 マモノはルフナの剣を左腕に食い込ませ、右腕でルフナを殴りつけた。


 いくら強いナイトでも、体格差から生まれる力の差はどうしようもないらしい。

 殴られたルフナは吹き飛ばされ、森の中に叩きつけられてしまう。


 この展開にいち早く反応したのはスミカさんだった。


「ルフナちゃん!? 大変! ルフナちゃんを助けないとだわ!」


 そう叫んだスミカさんは、次の瞬間にはガトリング砲を発射した。


 やっぱり照準の定まらないガトリング砲は、豆まきでもするみたいに弾丸をばら撒く。

 ばら撒かれた弾丸は、それでも数十発がマモノに直撃。

 主に胸を蜂の巣にされたマモノは、その場に倒れ込み、霧のように消えていった。


 わずか数秒、あっという間に終わってしまった自宅とマモノの戦い。

 私たちは開いた口がふさがらない。


「おお~! あんなに大きくて強いマモノを、一瞬で倒しちゃったよ! スミカお姉ちゃん、強い!」


「でも、こんなにあっさり終わっちゃって、いいのかな?」


「マモノは倒せたんですから、いいんじゃないですかね、たぶん」


 シェフィーの言う通り、マモノは倒せた。


 問題は、マモノに殴られたルフナが無事かどうか。

 不安げな表情のスミカさんは、窓の外を見回す。


「ルフナちゃんは!? ルフナちゃんは無事かしら!?」


 気が気でない様子のスミカさん。


 そんな彼女とは裏腹に、ルフナは森の中からひょっこりと現れた。

 剣を片手にきょろきょろとするルフナは、驚いたことに傷ひとつない。

 むしろ、すでにマモノがいないことにがっかりしたのか、彼女は残念そうにため息をついている。


 ため息をつき、赤く光る剣を鞘に収め、シルバーのショートヘアをかき上げ、空を見つめたルフナ。


――おお! かっこいい!


 漂う強者の風格に、私は一目惚れ寸前だった。

 一方のミィアは、テラスから家の外に飛び出し、ルフナのもとに駆けていく。


「ルフナぁ~!」


「この匂い……この声……なっ、なぜ!?」


 意外な人物の登場に、ルフナは目を丸くしている。

 ルフナの目の前に立ったミィアは、胸を張り、威風堂々と言った。


「羊の騎士団のルフナ=アクイラ、わたくしの親しき友よ。よくぞわたくしを守り、そして生き残ってくださいました」


「ミィア……」


 王女様モードのミィアは、どこか現実離れした雰囲気。

 対するルフナも、真剣な顔つきでひざまずき、王女への忠誠心を示した。

 まるでゲームやマンガのワンシーンのような光景。私のテンションは急上昇。


「王女様と騎士だ! ファンタジー世界だ! 私はファンタジー世界にいるんだ!」


 お金を払いたいぐらいに尊い光景を、私は必死で脳に焼き付ける。

 ひざまずいたルフナは、凛とした声音でミィアを包み込んだ。


「私の任務はただひとつ、殿下の命をお守りすること。殿下がご無事であれば、私の身がどうなろうと――わにゃ!」


 重厚な空気感は唐突に崩れ去った。

 なぜなら、ミィアが王女様モードをやめてしまったから。

 ミィアは今、ルフナのほっぺたを引っ張り、口を尖らせている。


「もう! ルフナのバカ! 向こう見ず! あんぽんたん! とんちんかん!」


「わ、私は、ミィアを守ろうと――」


「ミィアをひとりにしたら、許さないもん! 『西の方の国』に帰るときは、いつもルフナと一緒じゃなきゃイヤだもん!」


「分かった! 謝る! 謝るから、ご褒美にもっとほっぺを引っ張ってくれ!」


 ルフナがおかしなことを言い出したと同時、ミィアはルフナのほっぺたから手を離す。

 解放されたルフナは少し残念そうにしながら立ち上がり、頭を下げた。


「あの程度の敵なら余裕だと思って、つい馬車を飛び降りてしまったんだ。でも、そんな私の軽率な行動で、ミィアを心配させてしまったなぁ。すまない」


 素直な謝罪。

 続いて訪れる沈黙。


 しばらくして、ミィアは無言でルフナに抱きついた。

 これにルフナは優しく微笑む。


「そんなに心配させてしまったかぁ。悪かったな。でも大丈夫だ。私はミィアから決して離れはしない――って、ミィア? 何を笑ってるんだ?」


「えへへ~、あの程度のマモノにルフナが負けるはずないって、分かってたよ! だから、あんまり心配してなかった!」


「なっ! ミィア! 私をからかったのか!?」


「いきなり馬車を飛び出した罰~!」


 ニカっと笑い、八重歯をのぞかせたミィア。

 ルフナも思わず笑い出し、森には笑い声が響き渡る。


 なんだろう、私の心が温かい。


「お財布どこかな~」


「ユラさん? 何を言っているんですか!? どこ行くんですか!?」


 あまりの尊さに正気を失いかけた私を、シェフィーのツッコミが救い出してくれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る