第29話 帰り道

 終電が近くなってきていたので店を出る。

 この夜の匂いはいつ嗅いでもいい匂いだ。体に染み渡ってくる。


「今日はありがとう弥生。」


「どうしたんすか?美穂さんらしくないっすね。」


「何かちょっと今日はダメだった。あんただから言うけど今日私が浮気された日なんだ。」


「そうだったんすね。そういうことなら早くいってくれれば良かったのに。」


「行ったらすんなり飲みにきてくれたの?」


「いや。いつも通り断ってました。」


 おもいっきりバックでひっぱたかれる。でも、さっきまで泣いてた美穂さんじゃなくて、いつも俺に絡んでるときの美穂さんの笑顔に戻っていた。


 その時不意に可愛いと思ってしまった自分がいた。


「今、私のこと可愛いと思ったでしょ?笑」


 図星だったので、飲みながら帰っていた水のペットボトルを吹き出す。


「大丈夫? あれ?本当だった??」


「可愛かったです。 すみません。」


 美穂さんは顔が真っ赤になっていた。自分から言っといて何なんだと思いながらそれさえも可愛いと思ってしまう。


(不味い。この雰囲気はダメなやつだ。)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る