第三章 翼を持つ者 パート1エドナサイド

 ロプ村の依頼から一週間後。


 カチュアさんは今まで、ボロボロの男物の服を着ていたが。


「カチュアさん、お似合いです!」


 カチュアさんの髪と瞳の色と同じ、蒼いドレス。ただ……胸元が広く開いているような……。

 此間の依頼の報酬で、ルナちゃんに紹介してもらった洋服屋で、カチュアさんの新しい服を作ってもらった。ルナちゃんが言うには、カチュアは今まで会った女性の中では、物凄く大きいから店に並んでいる服では、収まらないらしく特注してもらったらしい。


「ルナちゃんには感謝ね~」


 よく見ると、カチュアさんの靴も新しくしている見たいだけど、他の靴と比べると靴底がかなり厚いみたい。


「ねえ、カチュアさん。その靴、かなり変わっているような……」

「ルナちゃんが武器屋のおじさんに頼んで特注で作ってくれたの」

「ハルトさんと? ってことは、それ武器なの?」

「うん、ハルトさんから使い方教えてもらったわ~」


 う~ん、確かにカチュアさんは剣を使うよりも足を使うから。きっと、蹴ると岩が簡単に砕けるんだね。でも、カチュアさんの場合はそれがなくっても、蹴りだけで、鉄の塊を真っ二つにできそうな気がする。


「ところでルナちゃんは?」

「ルナちゃんが泊ってる、お部屋にいるわ~。そう言えば、ルナちゃんから伝言、お部屋に来てほしいって」

「え? 何の用だろう?」




 ルナちゃんはこの宿の個室を研究室として、借りているらしい。

 ルナちゃんのお部屋に着くと。


「ルナちゃーん、来ましたよー」


 ドアをノックしても返事がない。ノブの方を握ってみると、鍵は開いていたようみたい。


「あっ! 開いている? ルナちゃーん、入るよー」


 ドアを開けると、部屋が真っ暗だった。

 その先には椅子に座って、本を読んでいた、ルナちゃんがいた。

 いつものルナちゃんと違って眼鏡を掛けている。


「ルナちゃん?」


 呼んでみても。


「ふむふむ、これとそれと……」


 返事がない。

 本に集中しているみたい。


「ルナちゃーーーん!! おーーーい!!」


 カチュアさんは大声で呼んでみる。


「何だ、ルナの邪魔をする気か?」


 どこからとりだしたかはわからないけど、ルナちゃんの武器である杖をあたしたちに向けてきた。

 どうやら、怒られちゃったみたい。あれ? ルナちゃんってこんな口調だっけ?


「ルナちゃん?」

「あっ! すいません! 失礼しました!」


 あっ! 口調が戻っている。


「来ましたね。じゃあ、早速だけど、本題に入ろうかな……二つあるよ」


 凄い切り替えの早さ。忙しかったのかな?


「戦争関係ですか~? わたしは戦争に参加しませんよ?」

「ヴァルダン関係ですか戦争じゃなく救助になります。兄様からでヴァルダンはコルネリア帝国だけでなく、隣国のセシル王国にも、ちょっかいを出しているみたいなんだ」


 確か、セシル王国はコルネリア帝国の隣接国だっけ? ヴェルダン王国とも隣接していたような……。


「あれ?……それはおかしいような~。もう、コルネリア帝国との戦争は始まるのに、その……セシル王国だっけ? どこだかしないけど~、それなのに、他の国にも敵を増やす必要はないはずのような……」

「まあ、正確にはヴァルダンだという確証はない」

「ん?」

「セシル王国には、強力な【魔物】が現れたようなんです」


 【魔物】って、あのライム村の時のが、セシル王国に!


「まさか・・・ヴァルダンが!?」

「確証はないけど……セシル王国が危ないのは確かだ」

「帝国は何もしないのですか?」

「戦争間近だから、他国を助ける余裕なんてない。それ以前に仲は悪くないですけど、だからといって同盟国ではないのです。帝国からすれば関係のない話だ」

「そんな・・・」

「だけど、シグマ様、個人はあの国との交流がある。なんでも、【悪帝】との戦いの時に仲は良くなっていたらしい」

「そこであたしたちがセシル王国に行くんですね」

「そういうことです。シグマ様から報酬は出ます」

「そういえば、アルヴスさんは?」

「本当だったら、兄様は行くはずだったのですが……。村の襲撃してきた、ヴァルダンの連中が、持っていた武器の解析をしていまして……。あの武器の正体が、詳しくわからないと、更なる脅威がある可能性があるのです」


 ということは三人だけで国境を超えるわけね。でも……


「あたしたちだけで大丈夫なんですか? その……仲がそんなにないなら、国境を超えるのは危険では」

「ルナと兄様は、あの国のお偉い様とは、面識ありますので、そこは問題ないですよ」

「よかった」

「で? 二人は行ってくれますか?」


 それはもちろん。


「あたしは大丈夫です。救援ということは、あたしの【治癒術】が役に立ちます」

「わたしも~、人助けは好きよ~」

「よかった」


 ルナちゃんは突然、椅子から立って。


「じゃあ、この話は終わり。本題の二つ目に入ろうか。これが一番、重要」


 ルナちゃんは机にあった、腕輪みたいなものを、三つ取り出し。


「それって?」

「カチュアさんのことです。正確にはカチュアさんの中にいる人のことです」


 それって……ナギさんのことかな? でも……ルナちゃんには言っていなかったような……。


「取り敢えず、カチュアさんとエドナさんはこれを付けてください」


 ルナちゃんは腕輪、見たいのを取り出した。あたしとカチュアさんは、それを、腕に付けてみた。


「そしたら、どうするの~?」

「エドナさん、カチュアさんの手を握ってください」

「え? あっ、はい」


 あたしとルナちゃんは、カチュアさんの左右それぞれの手を握った。


「もしもし。 何でもいいのでしゃべってくれませんですか?」


 ルナちゃんはそう言うと。


『急に『しゃべってくれませんですか?』と言っても困るよ』


 なんか、聞こえた! それはカチュアさんでもルナちゃんの声ではないみたい。


「え? なんか……『しゃべってくれませんですか?』って、誰かが」

『聞こえるの?』


 また「聞こえるの?」って声が聞こえた。もちろん、カチュアさんでも、ルナちゃんでも、ない。

 もしかして、この声って、カチュアさんの中にいるナギさんの声?


「やったー。成功ね」


 ルナちゃんは嬉しそうな声を上げた。

 今の声がナギさん、始めて声を聴いたわ。




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