ゴリは霧をつくる

早朝に出ていた霧は、昼頃には消えた

空は曇りなき快晴になる


観光客の関心は、そのころには渓流の紅葉に移っている



ゴリとコウはテントを倒し

事務所へ戻る支度を始めた

それをユキも手伝う


ユキは話す

『この霧には本当に感謝している』

『うちは農家だから』



十数年突然あらわれた霧

町は、霧のおかげで観光に農業に救われた

特に農産物の品質は良かったものの、知名度がなかった

霧の町は広く世間に知られるところになった


ゴリは、その霧は私が作っていると言いたかったが

とても言えなかった

みんな知らないままの方がいい



ユキは続けていった

『ゴリさんは、本当に仕事熱心ないい人』

『霧に満足したお客さんを見ている時、すごく優しくてスッキリした顔をしてるの』



『・・ありがとう』

ゴリは、感慨深げにそう答えた




そんな話をしながらJAの近くまで来たころ

大きな黒い煙が上がっている



『先輩、火事じゃないですかね』

コウが言った



『行ってくる』

ゴリは、荷物を全部コウに渡し、走り出した



2階建ての住宅がよく燃えている

誰か中にいるかもしれない、早く消さないと



ゴリはすぐに、近くの家の軒下に隠れて

霧を出すため、ゴリは始めた

この家は留守のようだ



2回目はきついな

朝の霧を1回だして疲労が残っている


よっし、いけた


あたりに霧が立ち込めて

霧は火事の火を弱めた、そして上昇気流をつくった



もう一度だ


3度目は本当にきつかった


よっし、これも


さらに霧が重なった

そして、とうとう雨が降り出した


体の一部が痙攣している

1日3回はやりすぎだ



火は次第に弱くなってきている

そこへようやく、消防車が到着し消火活動が始まった



(けが人がいない事を祈るだけだ)

ゴリは思った



軒先から出ようとしたとき


家の家主が驚いたようにこちらを見ていた

手にはスマホ、電話をかけている

『もしもし、家の敷地にへんな人がいます?』



あたりには、火事場の交通整理をしていた警官がたくさんいた




ゴリは、すぐに駆け付けた警察に拘留されてしまった


取調室で尋問を受ける

『どうしてあんなところで、あんな事をしていた』

とっさに、ゴリは説明する事が出来なかった




数日間、この町から霧が消える事になった

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