第3話 言霊の暴走と反逆者の無双 

 「あなた、このクソみたいな世界を何とかしたいと思わない?私の同志になって世界を変えてくれる?」


 彼女の一言が何かを動かした気がする。

 そういえば、あそこの学校で酷い目に遭っても誰も助けてはくれないし、教師も見て見ぬ振りをする。

 誰も話しかける人はいない。

 自宅にいてもとくにすることはない。


 自分の価値は一体なんだろう


 そう考えると自分の価値はないように思える。

 ところが、この世界のクソの部分に疑問を感じて共に何とかしたいと思っている人がいる。そう言うものって、とても力になる存在である。

 この人がどれだけの力を持っているか知らない。少なくともカリスマ性は自分よりもある。

 ならば、もう少しこの人の話を聞いた方が良いのかもしれない。

 でも、ちょっと気になる点がある。

 「…………結局、中二病みたいな要望は変わらないのね」

 歩が淡々と見たまま感想を述べると、彼女は段々恥ずかしくなってきたのか顔を真っ赤にして両手を振って顔を背けた。

 「そんな目で私を見ないで!」

 「…でも、中二病っぽい表現は除いて着眼点は良いと思おうよ。」

 「えっ…同志になってくれるの?」

 「まずはどうしてそうなのか話してくれない?」


 歩の問いかけに、彼女は深呼吸しゆっくりとその理由を説明した。


 「私も転生者です。私はとある国の政治家でした。余所の国から色々言われていましたがそれでも平穏な毎日を過ごしていました。そんなあるのこと、私の国が侵略者に攻め込まれました」

 「…それは災難だな」

 「総力で迎え撃つ準備をしていたところ…裏をかかれてしまい、私はアサシンに殺されてしました…でも『次こそはこの間違った世界を正してみせる!!』そういう気持ちで死ぬ寸前に転生を試みました。転生は成功しましたが…結局転生した世界はクソだったのです。これだったら前の世界の方が何倍もマシです…」

 「あ、わかるぅ、その気持ち!それはお互い災難だったな」

 「あのアサシンさえ出てこなければぁ、今頃私は、今頃!!」

 「そうか、そのアサシンはどんな奴だったの?」

 「敵国では『勇者』って言われていました」

 「そうか…ユウシャ…ねぇ、そいつは酷い集団だったんだな……ん?!」

 そう同意しつつも、歩は首を傾げていた。

 「アサシン=勇者なのか?そういう話は初めて聞いたな。俺とは違う世界なのかもしれないな」

 「それはどこの世界の話?」

 「マカロフって世界でした」

 「ん?マカロフ?!」

 (あれ?それって俺がいた世界じゃん?時代が違うのか??)

 「ちなみに前世の名前は?」

 「私の以前の名前はアナスタシア、通称エイビルクライシスと言われてました」

 「アナシタシアさん…記憶にないけど、えいびるさんね…ってどこかで聞き覚えがあるような…」

 しばらく歩は考える。どこか聞き覚えのある名前だ。

 (えいびる…くらいしす…あれ、そういえばあいつもそんな名前だったよな…)

 いくら前世の自分と融合したとはいえ、昔の事を思い出すのに時間が掛かってしまうものだ。記憶の引出の在処と開閉に10秒かかった。

 

 「ブフォ…っ!!」

 歩は思わず咽せた。

 (聞いたことあるよ、その名前!!エイビルクライシスって魔王だよな、俺の世界の!!でもアイツ、女だったっけ?あっ、でもいきなり切りつけたから良く確認してなかったわ)


 「?」

 歩の動揺を見て彼女は首を傾げている。

 「そうか…蛭谷さん、あなたも大変だったんだな…よし、皆まで言わなくていい。協力するよ」

 「えっ、本当!!」

 ただ、一抹の不安もある。真緒は当初『下僕』を求めているような言い方をしていた。さすがにその扱いはナシなので、少し牽制する必要がある。


 「そうか、お前はだから思い詰めていたんだな…だから俺にその体を差し出して『滅茶苦茶にしてもいいから』下僕になって欲しいと…」


 「えっ、ちょっと待って。誰があなたに体を差し出すって言った?」


 「…なんかこの人スケベそうだから、体差し出すという形にして『俺がやりたい放題』んだろうな…折角のご厚意、その戴くとするよ」


 「ちょっと今、私デスられなかった?しかもなぜか丁重に断られているし!」


 だが、この牽制が予想外の展開となった。

 いじける素振りを見せる蛭谷。だがその瞳は妙に生き生きとしている。

 何かに目覚めてしまった様だ。

 「ごめん、ちょっと弄りすぎた。俺ら相性が良さそうだったからつい調子に乗った。今の忘れてくれ」

 とりあえず謝って収拾を計ろうとするも、彼女はそう簡単に終わらせてくれない。

 「いやいや。確かに今の話のやりとり凄く面白いと思う。それに私達ってとっても相性が良いと思う!」

 真緒はうれしそうに歩の手をぎゅっと握って目を輝かせている。

 「嫌な言い回しは嫌とハッキリいうから、遠慮しないでバンバンぶっ込んでくれる?…ていうかもっとトークしない?」

 「えっ…何でまた…」

 「私、こんな言葉遊び今までなしたことがなかったのよ!!ちょっと…いや滅茶苦茶楽しんですけど!!」

 真緒は目を輝かせて前のめりにコイコイと手を自分に寄せ要求する。


 (完全に、地雷踏んだ。この人は面倒くさい人だ)


 歩は様子見であわせてみようと思った。

 「た、例えば?」

 「そうね…お互いの言い方も少し改めない?」

 「でも露骨に呼びつけって言うのも違和感あるけど」

 「あらそう?私は『真緒』と呼びつけでもいいし、逆にあなたのことを『歩様』って言い方も…ある意味いいかもよ。それはもちろん却下するけどね!」

 真緒はそれの返しを期待しているようで掌を自分の方にクイックイッと向ける。


 (あ、間違いない。絶対面倒な人だ)


 歩はあえてスルーして出方を確かめて見た。

 「それも一興だけど、普通に『真緒さん』『歩君』でいいんじゃない?」

 真緒は顔を前に出して自分の耳を疑う。

 歩がスルーしたと理解すると自分の胸をポンポンポンと叩き煽ってきた。


 「っていうか。私のボケ、一言で斬り捨てないでよ!ほらもっと言うことないのかしら。あんまり『あっさり』まとめられると正直つまらないんですけど!もっと弄ってくれない?もっと馬鹿話しましょうよ」


 結構ノリノリの真緒。

 「えっ…まだするつもりなの?」

 歩は若干引き気味で顔を後ろに遠ざけた。

 でも、そういいつつも馬鹿話は好きである。


 (しょうがない、話を相手に合わせるか)


 「それで、真緒さんはどうする?どう世界を変えたいって?」

 「そうそう。昨日体育館裏で歩君が倒れていた場所って私以外にも生徒会の連中もいたのよね」

 「そうなの?それは気がつかなかった」

 「普通さぁ、私みたいにビビりながらでも助けに行くじゃん」

 「ありがとう。俺を助けてくれるのって真緒さんか美礼先生ぐらいかも」

 「でも、生徒会が見捨てるってどういうことよ?」

 「知らなかったからあまり驚かないが、そういわれてみればそうだね」

 「そこから世の中を変えていく必要があると私は思うのよね」

 「それは筋がとおっている」


 「だから、私は……」

 「………………生徒会のメンバーを殺す、実にいいじゃないですか」


 真緒はまだ言いたいことを言っていない。えっ…という表情で会話を止め、顔を彼に向ける。


 (この男、なんか物騒な事を言い出し始めたぁ。しかも素でボケに転じてるぅ)


 そして真緒が説明していたのにもかかわらず何故か主導権を持って行かれ、彼の話を聞くハメになろうとは…

 「魔王の世直しといえばまずは虐殺だね。そうすると誰を先に始末する?雑魚から徐々に殺していくのかな?」

 「…いや、あの~魔王って露骨に言われるとなんか嫌なんですけど…」

 「それとも、俺を見捨てた生徒会長を裸にして校庭に放り投げるとか…おぉっ真緒さん、本当に酷い人だな」

 「いやいや、私そんなこと言っていないし!!それは歩君の欲望でしょ?」

 「確かに真緒さんが言うとおりだよ。そんなこと言ってない…つまり証拠残さなきゃいいってことだろ?なるほどね魔法使えばこの世界では証明できないから」


 「だから、私そんな物騒な事言っていません、ちっとは人の話聞けっ!!」

 

 真緒は病室で大声をだして否定した。

 「あの、ここは病室だよ。静かにしなきゃ」

 「あっ、ごめんなさい…ってそこ、なんで私1人だけ怒られわけ?」

 「さっきから話を遮ろうとしているけど、まさか新聞部と協力して不正を暴こうと考えているんじゃないでしょ?真緒さんともあろう方が」

 真緒は眉毛を動かし動揺している。ずばり図星のようだ。

 「それよりも…歩君もどこかの転生者よね?出身先と名前を教えてくれる?」


 「いいよ。出身はマカロフ、名前はレオンバルド」

 「おっ、同郷だね?職業何やっていたの?」

 「勇者だよ。サウザンドクロウって言われてたっけ」

 「そうか、そうか、ユウシャって職業なんだぁ…」

 真緒は最初うんうんとうなずいて話を聞いていたが、内容を理解して段々顔色が青く変わっていく。

 「…ちょ、ちょっといいかな」

 「何?」

 「掛け布団貸してくれる?」

 「いいけど」

 彼女は布団を自分の口押し当てると


 『ギヤアアアア、私を殺した人がここにいるぅぅ』


と声を押し殺し喚いた。


 (でも、違う人かもしれない…って、あの世界の勇者は一人だよね。確か私を襲ってきたアサシンって・・・サウザンドクロウ…だったわよね…名前あってるじゃん)


 真緒は布団を口に押し当てたままウォオオオオオオオっと雄叫びを挙げた。

 「どうしたの騒がしい人だね。そんなに再会うれしい?」

 これで真緒のスイッチが入ってしまった。

 ここから歩の天然に対して真緒の無双が始まる。


 「うれしいも何もびっくりだよ!!なんで私をぶっ殺した人を『いや~お久しぶり』ってなると思う?大間違えだよ!!『嫌ぁ…お久しぶり…』ってもはや恐怖しかないよね?!」

 「大丈夫、俺もあの後すぐに死んだから。過去は気にしないで」

 「気にするわ!私を殺したあなたが言うな!」

 「俺もさっき死にかけて前世がわかったばかり。だから真緒さんと話してみて色々と齟齬が生じてると思うけど…」

 「いやいや、十分一致しているし!齟齬が生じているとしたら、歩君が私のこと殺したっていう罪悪感が全くないってことくらいじゃないかな!!」

 「一応あるよ。ごめんなさい。ところで…」

 「今、謝るって振りしてさらっと流したぁあ!!」

 「さっきから感じているんだけどあの頃と比べてパワーもさほど変わっていないみたいなんだよね。あの当時、お前を殺したようにこの世界でも暗殺ぐらいはできるんじゃないか?試しに生徒会役員殺してくるか?」

 「いやいや…あなた勇者だったんでしょ?その発言はおかしいから!!あの当時の非業の死を迎えた私に謝ってよ、いや謝りなさいこの残忍勇者!!!それにこの世界では殺し良くないから!!」


 真緒は歩の言葉に鋭く反応し続ける。段々すごい会話になってきた。


 「そんな前世のこと反省すること事態、無駄だと思うよ。でも安心して、魔王と勇者がタッグを組めば世直しなんてあっという間だから」

 「いや、むしろ世界征服の間違いじゃない?っていうか反省しろよ!」

 「いいんじゃない魔王と勇者の結託ストーリー、だから俺もそれくらい残忍でいなかきゃならないよね。うん、これで君に合わせられられるよ。でもこれって魔王と勇者のほのぼの系ファンタジー?」

 「いや、今の話ほのぼのじゃないし、むしろ殺伐ストーリーだよ!それに私はそんなこと望んでないから!あと付け加えるなら勇者が世直しのため、たかが生徒会会長殺すっておかしいよね?それを止める私もおかしいけど!」

 「そうかぁ…覇道を目指す勇者と魔王って面白いと思うよ」

 「それってさ、君の話だと二人掛け合わせたら出来る子は大量殺人を犯す犯罪者生まれるわよね?」

 話がピタリと止まる。


 「えっ?なんでそこで子供作る話になっているわけ?」


 真緒が話の展開を変な方向に変えてしまったからだ。

 このまま続ければ猥談に入ってしまうかもしれない。

 彼女は自分の発言に顔を真っ赤にして慌てて逆ギレした。

 「ちょっ、違うの?それならそうとハッキリいいなさいよ」

 「面白い人だな。話に一々くノリツッコミをいれてくれる人、俺、好きだなぁ」

 「私もこんな状態じゃない告白受けたらマジでうれしいよ、こんちきしょう!」

 お互いにボケとツッコミで語り合ったせいかゼイゼイと呼吸が荒くなる。

 この後も漫才はまだまだ続いたが、強制終了させてもらうことにした。


 「わかった。もう無理に合わせて物騒なことは言わないよ。それに真緒さんが生徒会に不満があるのなら真緒さんが会長選に立候補して会長になって改善してくれよ」

 「えっ、何か都合良くまとめてない?それに原因て私の所為なの?」


 二人は息を切らして布団に寄りかかった。

 もし、彼らが裸でいようものなら男女の事後に見える。

 もちろん、淫らな行為には及んでいないが、それに近い暴走っぷりだった。

 とりあえず、ヒートアップした体を冷やすため冷蔵庫から飲み物2つ取り出す。

 ウーロン茶、一本を真緒にもう一本を自分用に。

 「生徒会を狙うなら内通者が必要だな。側近を一人引き抜くか」

 「そういえば、会長の天野と会計の財前があまりいい感じではなかったわね」

 「彼女、こちら側に引き抜くかい」

 「うまく行くの?」

 「うちらの信念が通じればね。でも、一つだけ気に掛かることがある」

 「何が?」

 「うちらの障害になる奴らだよ。近々、対策を執るよ」

 「?」

 真緒は疑問に思いながらもウーロン茶をグビグビ飲む。

 でもその話はあえて振れないことにした。

 もう少し喉をカラカラになるまで彼とコントトークを楽しんでもよかったけど、なんとなく彼がとろうとしている行動がわかった。

 そういうことなら話を振るのは野暮だとおもった。

 「まぁ、歩君が勇者の転生者なら少しお手柔らかにね」

 「いや魔王が、平和的な考えの持ち主だと思わなかったもので、勝手にそうだと決めつけていたよ。大丈夫、便に解決するよう心がけるよ。ちなみに今日退院予定だから、明日は授業は休むけど学校は行くから」

 「?…そんじゃ、放課後ミーティングでいいかしら?」

 「それでいいよ。とりあえず明日、対策するから」

 「わかったわ」

 「はぁ…なんだか俺、無茶苦茶疲れたぁ…」

 「そう?今日の会話、漫才みたいですっごく楽しかったわ!」

 「そうか。よかった…」

 「あと、私さっき『同志』って言ったけど…」

 「『相方』って言い方変えろと?」

 「そうそう!!わかっているじゃん!そうなるとその次行けるよね、ほら…何かない?」

 まだやる気満々の真緒。この人、まだ欲求不満なのか?

 「もう、今日はおしまい」

 歩は疲れて帰ってきた旦那さんの様に言うと布団をかぶって話を遮った。


 次の日の朝


 歩が教室に行くと案の定、自分の机の上に花が活けられた花瓶が置かれていた。

 どこかでみたことがある花である。


 さて、祭りの始まりである。

 

 「いい飾り物だろう?」

 力石がニッタリと笑っている。その横で白石も歩の机の角に靴底を押し当て挑発している。みたところ剣持と黒井の姿が見えない。

 「そうだね。良い飾り物だね。そうだ、ちょっと空手の相手をしてあげようか?」

 「お、おう。ずいぶんやる気があるな…」

 「どうせなら武道館の方がいいと思う。防具もあるし」

 「防具?そんなのいらねえだろ?お前殴っても怪我しないし」

 「そう?では防具なしで。白石も一緒にくる?」

 「あったりまえじゃん。こんな面白いもの間近に見る機会ないしな」


 それから20分経ったこと頃だろうか。


 遅刻寸前で剣持と黒井が教室に入ってきた。

 「あれ?力石と白石の姿がないな…」

 「どうせ、日比谷のこといじっているんでしょ。ほら、机に花瓶あるし」

 「へぇ、ずいぶんしゃれたことしているじゃん」

 「でも、そろそろ授業はじまっちゃうわよ」

 「もう、ボチボチ帰ってきても良い頃なんだけどなぁ」

 すると、白石が慌てて、教室に駆け込んできた。

 「まずい、力石が、力石が!!」

 「はぁ?」

 「いいから来てよ」

 「授業始まっちゃうし」

 「お願いだから助けてよ!!」

 剣持は自分らでなんとかしろとあしらうつもりだったが、あまりにも白石が慌てているから渋々話を聞くことにした。

 「で、誰に力石が何かされているって?」

 「それが…」

 彼女は何も言えなかった…というか何かを言葉にしようとしているが、それを封じられた様にその部分が言えないのが正解である。

 「んじゃあ、あたしもいくわ」

 「授業さぼりたくねぇんだけど…」

 正直、剣持は面倒事は嫌いである。女の子2人が騒いでいるのに男が逃げていると言うのもカッコ悪いので諦めて彼女らの後をついていくことにした。

 白石が武道場…というより剣道場に案内する。

 「あれ、空手道場じゃないのか?」

 3人は剣道場に入ると、急に後ろのドアがバタンとしまった。


 「待っていたよ、イケメン」


 歩である。袖が真っ赤に染まっていて、何があったのか容易に想像がつく。

 歩の後ろには何か真っ赤に染まったYシャツを着た筋肉質の男が転がっていた。

 力石である。顔の形が変わるほど殴られ血まみれになっている。

 歯もボロボロになっており、よほど激しい暴行が加えられたと思われる。

 「彼、重くて・・・ほら、せっかく男手を呼んでくれたから、彼返すよ」

 歩は体重が100キログラムほどある力石の下顎を右手で持ち上げると片手で白石、黒井目掛けて投げつけた。

 当然、支えられる訳もなくガシャ…と鈍い音を立てて3人が倒れた。

 黒井が激痛で泣きわめいている、彼女の腕が折れた様だ。

 白石は完全に腰を抜かしビビって失禁している。

 「あっ、一応再生リジェネレーションを施してやるか」

 力石の顔と黒井の腕にそれぞれ掌をあて「再生リジェネレーション」と詠唱し施術する。

 「力石は俺同様に再生できるよう一時的にしたんだけどさあ…ダメージを受け続けたせいか再生速度遅くなっちゃって」

 「お、おまえ…力石に何をした」


 「いや、俺が自動再生あるのに力石にはないからさ。かわいそうでしょ?だから稽古付けさせてもらった際に倒れちゃったから再生させたのよ。再生すればほら、また戦えるじゃん?もう少し稽古つけさせてもらってさ…それを15回ほどやったんだけど動かなくなっちゃったんだ…でも安心して、時間は掛かるけどもう少ししたら再生おわるから」


 生き地獄である。

 倒れる事も許されず、ようやく意識を失うと再生させられ、一方的に殴られ続ける。

 「さて、今度は剣持の稽古の時間だよな」

 「…いや、あの…」

 「遠慮しないで。俺らクラスメートだし、俺はお前達が困ったときたくさん付き合ってあげたから…」

 「…わ、わるかっ…た」

 「いや、謝罪はいらないよ。ほら今から練習するぞ。ところでお前はどうする?力石の奴防具いらないって言っていたからこんなことになったけど?」

 「あ…」

 異様の事態に怖くて足がすくむ剣持、歩はここぞとばかりに一方的に攻め込む。

 「怖いよな、怖い…それも2人の男にボコボコにされてさあ…俺、惨めだったなぁ…女の子2人の前で恥じ晒してさ…だから、な。謝って済む問題じゃあないよね」

 「いや…これは…」

 「何?防具いりません。よしわかった。剣持は竹刀構えて。それでハンデくれてもいいよね。俺、初心者だからこれ使うから」

 そう言って歩が持ち出したのは竹刀…なんかじゃなく木刀であった。

 「いや…まじで…し、死んじゃう…」

 「大丈夫だよ、こいつら同様に再生かけてやるから。もちろん、俺が気が済むまでつきあってね」

 

 「ギヤアアアアアアア!!」


 剣道場に大きな悲鳴が響くが、誰1人として異変に気がつく者はなかった。

 その声は放課後まで響いた。


 その日の放課後。


 花壇の前に剣持と力石と黒井と白石が真緒を待っていた。

 「あれ、あなたたちは?歩君をボコった人たち?」

 真緒はちょっと仰け反るように体を構えたが、彼らは『歩君…』という言葉で悲鳴を挙げその場で腰を抜かした。

 「さて、何をするんだっけか?」

 歩がいつの間にか真緒の後ろに立ち睨みを利かす。

 謝るのは今しかない。


 「花壇何度も壊してしまって、すみませんでした!!」


 彼らは必死な表情で、その場に土下座し真緒に向かって謝罪した。

 「…歩君、彼らに何したの?」

 「いや、穏便に済ましたよ。やられたことまとめてお返ししただけだから…」

 「この女の子達も何かしたの?」

 「煽ってくれたから同罪。だから、まずこいつの大切な何かを力ずくで奪ってやらなきゃならないし、裸にして強姦魔のところに投げてやる予定もある」

 「ひいいいっ!!」

 「もうやめてぇ!!」

 黒井と白石は体を丸めて頭を抱えて悲鳴を挙げた。

 ドン引きしている真緒。

 それでも、そうやってイジメられていた事を察した。

 ちょっと自分も歩に負けじとお灸を据えてやろうと思った。

 「そんじゃ仕返しまだなのね…でも、何か奪うっていうなら『ペットの命』くらいにしておきなさい『女の子の初めて』とか『家族の命』とかはやめなさいよ。本当に極悪人になっちゃうから。それと素っ裸にして『東京駅のど真ん前にぶん投げる』のはいいとしても、素っ裸で『ワニ園』や『雪の大渓谷』に放り投げるのはやめなさいね」

 なにげに酷い事を言っている。さすが元魔王様である。

 白黒コンビはお互い抱き合って大声を上げて泣き出してしまった。

 「あ~ぁ、泣かしちゃった。俺のは冗談だったのに…やっぱり真緒さんダークヒロインだったんじゃないの?」

 歩は自分の事を棚に上げて真緒に自制を促すが、既に真緒のエンジンは絶好調の様だ。こうなると止まらない。段々発言が過激になってきた。

 「歩君だけにはいわれたくないんだけど…で、私ら悪代官みたいになっているけど、こいつらどうするのよ?この人ら切り刻んで肥料にでもするの」


 「ひいいいいいいい」

 4人はその場で揃って失禁。


 「あら、自動で肥料がまかれたわ。便利ねぇ。穴掘って北京ダックの様に埋めて自家製堆肥でも作ってもらおうかしら。でもちょっとばっちいからゴム手袋は必要になったわね」

 これにはさすがの歩も気の毒に思った。

 「…と、とりあえず、花壇きれいにしてもらえらばいいかな…」

 彼らに救済案を示したが、花壇は直したばかりなのでそれほど荒れていない。

 「ここはいいわよ。他の場所をやってもらうかしら。とりあえず学校中のすべての花壇でいいかしら。それでここの花壇の件はチャラにするから」

 「真緒さん、さすがにそれは酷くない?」

 

 「いや、異存ありません。やらせていただきます!!」


 4人揃ってどこかの居酒屋従業員みたいにハキハキと答えた。

 だが、気の毒なことは立て続けて起こるものである。

 真緒が歩のポケットにしまっていた花を見つける。

 「なにそれ」

 「あぁ、これ?」

 真緒がその花を受け取ると、どこかで見たような花であった。

 「あれ、これってここの花よね」

 「あぁ、それは昨日俺の机にあった花。花瓶に入れてあったやつだよ。そこの力石と白石がくれた花だよ。可哀想なのでここに埋めようと思って持って来たんだけど」


 「あ゛ぁんだと?」

 「!!!!!!!」 


 この後、2人が真緒の逆鱗に触れたのは間違いない。

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