第42話 ロサの活動

監視対象者に連絡する為に念話で呼び出したフィドキアだった。

(モンドリアン聞こえるか?)

(あぁ聞こえているよ。どうした?)

(実は棘城の事で会って話がしたいから来てくれるか?)


監視室でいつもの様に声を掛けて居間に向う監視対象者。

「フィドキア~来たぞ~」

「やぁ、待っていたよ」

声を掛けて来たのはカマラダだった。


その横で難しい顔をしたフィドキアが腕組みしている。

ラソンは至って普通だ。


「どうしたの? 3人も居て」

監視室の誰に聞いたつもりでは無かったが答えたのはカマラダだ。


「私が君に部屋をもらえる事が気に入らないみたいなのさ、フィドキアが」

「ん? どうして」

仕方なく話すフィドキア。


「我ら龍人にはそれぞれの管轄があって、カマラダの管轄はここでは無いからだ」

「だから? フィドキア様は気に入らないとおっしゃるわけですね?」

監視対象者が急に丁寧な言葉で話すから驚いたフィドキア。


「どのような事情か知りませんがフィドキア様の代わりにいらっしゃったのであれば、私からもお礼をしなくてはと思いお約束をしました。私の勝手な約束で申し訳ありません。フィドキア様はカマラダ様に貸し1つだと思われれば良いのではないでしょうか?」


「あ、あぁ。分かった」

目を丸くしてフィドキアが監視対象者の意表を突いた接し方に戸惑って返事をした。


「じゃお土産食べよう。今日はお菓子の日です」

クスクスと笑いをこらえながら喜んだのはラソンとカマラダだ。

フィドキアは無表情で口一杯に詰め込んでいる。

龍人は甘い物もかなり好きらしい。

ラソンの入れた紅茶を飲む。


「それで、棘城のどんな話だ?」

「お前の要望を我ら龍人が受けようと思ってな」

監視対象者は驚いた。


(冗談のつもりで言った事を真に受けたのか? )

本来ならば何十年とかかる築城と城下町にどんな協力をしてくれるのか内心はドキドキしていた監視対象者にフィドキアから説明があった。


「まず、お前達が考えて提出する物が必要だ」

それは大よその見取り図だ。

城の大きさ、階数、部屋、通路、様々な施設と大きさを図面にして欲しいとの事だった。


「なんでそこまで細かくするのさ、作るのは獣人達だぜ?」

「我らが協力すると言っただろう。龍人の力を使えば城などあっと言う間に出来る!」

自慢げに話すフィドキアに、監視対象者は立ちあがり褒め称えた。

「すげぇー、すげぇーよ! 流石は龍人だ! やっぱり龍人の力は偉大だよなぁ」


監視対象者はフィドキアに向かって普段絶対にしないベタボメをすると、少し照れた様子で「とっ、当然だ」と一言だけ答えた。

他の”2人”は微笑ましく見守るので更に質問した。


「城下街はどうするの?」

「城の次に作る」

「龍人最高ぉ!!」

「貴男が作る訳では無いでしょ」

監視対象者が喜ぶと自慢げなフィドキアに諫言するラソンだ。


「じゃ城の地下の迷宮はどうする? 監視室をココと同じ迷宮の最下層か、城下街にコッソリと作ろうと思っていたけど」

監視対象者の問いにフィドキアは答えた。

「両方だ」

「ええっと、じゃ迷宮は任せていいよね?」

「ええ、私達に任せて」

ラソンの返事に安心した監視対象者だった。


「あと通常の城も大体地下が有るからね」

「分かっている。地下2階分を考えてくれ」


確認の意味で聞いたが、最後に気になったのが龍人達の部屋だ。


「城下町の何処に隠し部屋を作るかも考えろよな。余り目立つ建物や大きさにするなよ。俺はもう戻るから」

「待て、まだ話は終わって無いぞ」

一応念を押して帰ろうとする監視対象者を引き止めたフィドキア。


「お前、棘の腕輪を持っているな?」

「あぁ、コラソンにもらったけど外せなくてさ」

「ウム。では魔素を送って見ろ」

「ええ!?」

コラソンは棘王に吸収されたと聞かされていたので存在しない者だと思っていたからだ。


「まっ、まさか棘王が出る訳じゃ無いよな?」

「安心しろ、成長したコラソンがお前に会いたがっているからだ」

「マジでか! 生きてやがったのかアイツ」


監視対象者は目をつむり腕に有る棘の腕輪に魔素を送って呼びかけた。

(コラソン! コラソン! 聞こえるか?)

(モンドリアンさんですね!)

(本当にコラソンか!)

(そうですよ、”2人のやりとり”をたまたま聞いてしまったコラソンです)

確かにコラソンだと確信した監視対象者だ。


(無事で良かった。パウリナもお前の事をいつも話しているからな、生きていたならいつか会えるな)


パウリナとは、ロサの復活の為に人身御供となって眠らされていた獣人族のお姫様で、結果的に監視対象者の三番目の嫁となる女性だ。


(ハイ。お二人の結婚式に参上しようと思っています)

(本当か! それはパウリナも喜ぶぞ)

(それでモンドリアンさん。私の部屋も欲しいのですが良いですか?)

(当たり前だろ。元々お前の居た場所だからな、フィドキアに言っとくから好きなようにしてくれ。あっ、獣人達に怪しまれないようにな)

(ハイ、解かりました。では、結婚式の日にお会いしましょう)

短いやり取りだが、パウリナを連れ去った犯人とはいえ監視対象者達にとっては”悪者”では無かったコラソンに親しみを持っていた。


するとフィドキアが又難しい顔をしていた。

「どうした?」

「コラソンの居場所はどうするのだ?」

「子供の一人や二人お前の部屋の隣に作ればいいだろう」


溜息をついて説明するフィドキア。

「コラソンはお前たちが出会った時の姿では無い」

「ええっ! どうなっているんだ?」

「普通の青年だ」


監視対象者はてっきり”あの時”と同じ位の子供だと思っていた。

「そうか大人になったか。じゃ、任せる」

「ロリに私の部屋の事で相談したいから、連れて来てくれるかしら」

フィドキアに丸投げして話を切り上げようとしたらラソンから申し出が有った。

「了解、連絡するよ」



※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero



見ていた映像の内容を後で知ったテネブリス。

「全くロサったら、私に何も話さずに勝手に決めて・・・」

「でもお姉様、何でも願いを叶えると言ったのはお姉様よ」

(・・・余計な事言わなきゃ良かった)




最近はかなりの頻度で監視室に訪れる監視対象者だ。


「フィドキア~、ラソン居るか~。あっと、新しい龍人の方ですか?」


監視対象者を驚かせようと思いロサが訪れていたのだ。

その事をフィドキアが照れくさそうに説明した。

「前に話しただろう、成長した”コラソン”だ」


コラソンは立ち上がり監視対象者に語りかけた。

「やぁ、モンドリアンさん。その節は本当にありがとう。私もこうして無事に成長しましたよ」

コラソンは緑色の髪の毛で黒い瞳。しかもロン毛の優男風だ。


「コラソン。俺も会えて嬉しいぞ」

「本当ですか?」

「ああ、この腕輪には随分助けられているからな。お前の無事を知ったらパウリナも喜ぶと思うぞ」

「ありがとうございます。その件ですが、どうせなら2人の結婚式にモンドリアンさんからのお土産としてパウリナ姫をビックリさせるのは如何ですか?」

「そうだなぁ。”アレ”の心の友だからな、お前は。分かった、そのようにしよう」


楽しい一時を共有して本題に入る。


「皆に相談したい事が有るのだが聞いてくれるか?」

監視対象者は龍人達に新しい城の図面が全く進んで無い事とその理由を説明した。


「では、バレンティアを呼んで具体的に意見を聞いた方が良いのではないか?」

「では呼びますか?」

コラソンとフィドキアの会話だ。


「ちょっ、ちょっと待った。バレンティアって誰?」

「大地を司る龍人よ。棘城を作ってくれるのよ」

優しく教えてくれたラソンだ。


「ええっ龍人が城を作るの?!」

監視対象者は想像が出来なかったのだ。

石を1つ1つ積み上げて行く過程が・・・。


「大丈夫だよ。バレンティアだったら獣王の城程度ならばアッと言う間に出来るさ」

凄い事をサラッと言うカマラダ。



監視対象者は考えていた構想を伝えた。

「城は地下二階、地上五階分を予定。東西南北に守護する龍人を司る塔を配置(どの塔にどの龍人かは未定)、中心の最上階には棘城と城下町を守護する棘を司る塔を作る。近隣の川から水を引き城と街に円となるように水路を築き、そのまま別の川か海へと水路を築く。城の内部は未定だ。城壁は高く幅広で東西南北に城門が有り街の外まで続いている。

城下町にも北東、北西、南西、南東に龍人を司る塔を作る。塔の形状は未定だ。街は城から続く東西南北に大通りが有り、賽の目に道が細かく入る。北東、北西、南西、南東に業種などを分けて街を作る予定で、半分は道路だけで未開地にして欲しい。

城や街の移動は飛行魔導具を使った物を予定している。

これは既に聖魔法王国のクラベルと言う街で実施済だが棘城と城下町にも採用したい。

城下街の周りには巨大な城壁と城門が有り、その周りには棘の森があったら良いなぁって思っている。細部は何も考えていないし、装飾はやっぱり棘かな? 名前も棘城と決めているし」



コラソンが立ちあがり監視対象者の側に来て思いを告げる。

「嬉しいよ、モンドアンさん。みんな! 築城後も彼に協力を惜しまないで欲しい」

「「「ハイ」」」


「ところでモンドリアンさん、なぜそこまで棘城にこだわるのですか?」

コラソンが投げかけた質問答える監視対象者だ。


「あそこはパウリナにとって良くも悪くも想い出の場所だろ。あの土地をそのままにしておくよりも以前のような小さな城でも作って、新しく綺麗な棘城と城下町にすればパウリナも喜ぶし、亡くなったコラソンも喜んでくれるかと思っていたのさ。実際は死んで無かったけどな」


監視対象者の手を両手で掴んでブンブンと振るコラソンは目をキラキラさせていた。


「みんな! 決めたぞ! モンドリアンさんとパウリナ姫の為に世界一の城を作るぞぉー!」

「「「パチパチパチ」」」


「構想は分かったから後は任せてください。世界一の棘城に作り替えますよ」


監視対象者が安心して帰った後。


「しかし、現代の食べ物があんなに美味しいとは思わなかったなぁ。あれっぽっちじゃ少なすぎるぞ。”おやつ”には最低三倍は必要だな。今度は来る前にモンドリアンさんに連絡してお願いしよう」


コラソンが楽しそうに話すと同意してうなずく龍人達だった。



※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero



監視対象者が自分達の式典にフィドキアが成龍状態で顕現する条件に、街で食べ歩きを要望して待っていた龍人達。


「遅い!」

「仕方ないだろ」

「どれだけ待ったと思ってるんだ」

「来たから良いじゃねぇか」

監視対象者とフィドキアの掛け合いが、いつもの様に始まると止めに入るラソンも慣れたものだった。

「ハイハイ、じゃ行きますよ」


「ええっ? フィドキアだけじゃないの?」

「フム、結局2人も来る事になったのだ」


「あっそうだ、今度パウリナを連れて来ても良いか?」

「別にかまわんが」

「ええ良いわ」

「是非、会いたいです」

1人だけ興味深々の者が居た。


「カマラダは何で会いたいの?」

「彼女の目がね、私と似ているでしょ? だから、もしかしてと思ってね」

「あぁなるほどね」

カマラダの説明にラソンが答えた。

「遠い子孫の可能性がある訳よ」

「ええっ! 本当に!」

「まぁ会って見ないと分かりませんがね」

「じゃ次回連れて来るよ」


街を歩く道すがら黒龍の話しや、黒龍王の事も耳に飛び込んでくる。


(随分と人気者になりましたねぇフィドキアは)

(本当に”あのフィドキア”がこんなに慕われているだなんて、世の中も変わったものねぇ)

カマラダとラソンがコソコソ話しをしていた。


遥か昔は破壊神だとか、厄災の邪龍などと数多あまたの文明を滅ぼし、生息する生物から恐れられていたフィドキアをやさしく見守る二人だった。


そして十分にご馳走したと思い監視対象者が帰ると言い出した。

「じゃ戻るか」

「なに! もう帰ると言うのか」

「まだ食べたりないわ」

「同感です」

「あのね、エスパシオ・ボルサに今食べた分と同じだけあるからさ、帰ってから食べよう」


「「「・・・・」」」

何やら相談している

「分かった”一度”戻ろう」


監視室に戻り大皿に買った串を大量に出した。


「じゃ約束は果たしたからな」

「待て」

「何だよ」

「明日もう1人の嫁を連れて来るのだろ? では明日も食べに行くぞ!」

「はぁ約束が違う」

「そうでは無い。本来はこの場所に来られるのは限られた者だけだ。お前の嫁として、仕方なく招く代わりに明日も食べに行くぞ。その代りに新しい嫁を連れて来ても構わん」


一方的にフィドキアが話しているが、後の2人はうなずいていたが不満げな監視対象者だ。


「わかった。明日また来るが時間は俺達の都合に合わせてくれ」





Epílogo

渋々納得した監視対象者でした。

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