第41話 監視者

ある日、監視対象者がフィドキアとラソンの居る迷宮の底に作った監視室に訪れた。


「オーイ、フィドキアァー居るかぁ~、あ!! ごっ、ごめん。来客だった?」

こちら向きのラソンと、背中を向けた水色の髪の男が座っていた。


「待っていたわ、貴男に紹介するわ。こちらはカマラダと言うの」

「やあ、君が噂のモンドリアン君だね。私はフィドキアと同じく龍人のカマラダだ。宜しくな!」

「初めまして」

「さあさあ、座ってください。」

「ところでフィドキアはどうしたの?」

「実はチョット事情があって外出しているの。それで臨時でカマラダが監視を手伝ってくれているのよ」

「・・・監視って俺だろ?」

「まぁ硬い事を言うな。これで私達は知り合いになったのだから」

「困ったなぁ、相談したい事が有ったけど」

「あら、私達から伝えるわよ」

「じゃお願いしようかな」



龍人の末裔でる監視対象者が、ある宗教国家で”意図的に”国王にされてしまったのだが、獣人達の国も統べる事となり現状の問題と計画を語った。



「今、クラベルの町は凄い速さで拡大していて、この先人口も王都並みに増える可能性が高い。王族が考えている都市計画の中に、この迷宮監視室がある山も入っていたが俺の一族の所有にしたから良いけど、いずれこの山の周りにも沢山家が出来るだろう。そうすると間違って洞窟と思い入る奴が居るはずだ。そこで俺からの提案が有るのだが・・・」


ラソンとカマラダは黙って聞いていた。


「その前に獣王からのお願いを受け入れてくれるか確認したいのだが、居ないならどうしょうかなぁ」

「どんなお願いだったの?」

ラソンが優しく聞いてくれた。


「一度王都に成龍状態で召喚したので黒龍がにわかに流行っているのさ」

「あらあら」

「へぇ、フィドキアもやるもんだなぁ」

2人の龍人が褒めてる。


「暗黒龍だとか、龍王とか言って新しい宗教が出来るかもよ?」

「・・・それは、ちょっと」

怪訝な顔をしたラソン。


「分かった。俺が何とかしよう」

パッと明るくなったラソン。


「本当に?」

「ただし、やり方は任せて欲しい。結果的にアルモニア教が拡大すれば良いだろ?」

「えぇ、お願いしますわ」


「でさ、話しは戻るけど、もう一度召喚して成龍の姿を街の獣人達に見せて欲しいのさ。当然、攻撃なんかは無しで、城の上空を旋回するだけで良いけどね」

「大丈夫だと思うわ、その位の事であれば」

「本当に?! 良し! じゃ俺からの提案だけど、この場所が住みにくくなるので新しい場所に移したらどうかなと考えたわけさ」


「でもこの場所は・・・」

「分かってる。俺ともう”1人”を監視する場所だろ? ここはこのまま残して迷宮の入口を塞げばいいのでは?」

「だったら移らなくても良いじゃないの?」

カマラダが当たり前のように答えてきた。


「まあ聞いてよ。俺は獣王と交渉して棘の森の跡地を譲ってもらう事にしたんだ。そこに城と街を作る計画を考えているが、城の地下に迷宮作れないかなって思ってさ。別に最初から地下では無く街の中に監視室があってもおかしくは無いと思うし、普段から出入りしていれば誰も龍人と気が付かないと思うぜ!」


「「名案だ(よ)!」」

「えっ?」

何故かカマラダも乗り気だ。


「私も協力するから、私専用の部屋が欲しいなぁ」

「ズルいわ、カマラダ。私の部屋の方が先よね?」

「まあその辺は簡単ですから、いつでも作りましょう」

「本当ですか!」

嬉しそうなカマラダだった。


「それで、俺はその城を棘城と命名しようと思っているけど、意見を聞きたかったのさ」

「「素晴らしい!!」」

「是非そうしてくれるかしら」

「私も早くその城が見たいです」

大喜びの龍人だが監視対象者には理由が解らなかった。


「それでさぁ、設計とか外観とか龍人の力でパパッと出来ないかなぁって思ってさ、ハハハッ」

すっくと立ち上がった2人の龍人は上機嫌で告げた。


「直ぐに取り掛かるから君は国で待っていたまえ」

「そうね、私達も直ぐに取り掛かるから準備ができしだい連絡するわ」


なぜこの龍人達がヤル気になったのか監視対象者には分からなかった。

「じゃお願いします。フィドキアからも早目に連絡くれと伝えてください」



その後、フィドキアから監視対象者への念話で、一悶着あったが獣人の街の散策につき合わさせる事を同意させられて念話を切った。


(我に内緒で自分達だけで旨い物を食らうとは・・・許さん。街中の肉を食らいつくしてやる)



※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero



「お待ちください、父上。我が創造主よ。どちらへ行かれるのですか?!」


歩きながら話すのは、悠久の時を経て再生した”ロサ”こと、オルギデア・ロサ・ティロと、フィドキアの2人だった。


「フィドキアよ。私には”コラソン”の記憶が有ると教えたな」

「ハイ」

「再生した事の嬉しさのあまり、私もお前もすっかり忘れていた事が有る」


腕組みし頭をひねるフィドキアは思い出せないでいた。

「馬鹿者、私の監視役が居ただろぅ」

「ハッ! ヴィオレタ・ルルディ!!」


「そうだ。これから”アレ”の所に行くが、”ヤツ”のお前にした提案、面白いではないか。私も礼がてら手伝おうと思ってな」


「そのような手間は私が致しますので父上はお戻りください」

「・・・フィドキアよ、黙って付いて来い」

「はい」



※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero



獣王国から遥か南西の海域に島があり、そこにある妖精の国が周りから隠れるように存在し、更に島の奥には太古の昔から原生林が生い茂っている。


原生林と妖精の国との中間に転移したオルギデア・ロサ・ティロとフィドキアは飛ぶように森の中を進んで行った。

同時刻、妖精の国では物凄い魔力が突然現れた事に驚き、緊急警戒態勢を取っていた。


「皆の者ちょっと待て、小さい方の魔力には覚えが有る。これは・・・龍人か?! ハッ、もしや!」

(小さいと言ってもこの島を覆う程の魔力と、更に巨大で濃厚な魔素を持つ者を感知していた)


ヴィオレタ・ルルディの直感は”元棘王”だと思い、猛烈な勢いで飛んで行った。


「ルルディ様ぁ~」

配下の妖精たちが慌てて後から追い掛ける。




原生林の中心には巨大な木が立っていた。

樹齢は千や万ではきかない老巨木だ。


「コヤツ、このような姿で生きておったのか」

オルギデア・ロサ・ティロが壁の様な老木に手を当てて魔素を送り込んでいると声がした。


「そこで何をしている! それは我らが守り神、神代の霊木だぞ! 手を離せ!」

慌てて飛んできたヴィオレタ・ルルディが叫んだ。


「久しぶりだな、ヴィオレタ・ルルディ」

声を掛けるフィドキアだ。


「後ろのヤツは誰だ! 手をどけろ! 龍人!」

まくしたてるヴィオレタ・ルルディが飛びかかった。

その時 ! 巨大な老木の枝がヴィオレタ・ルルディを捕まえた。


「うるさーなールルデは、おとなすくすろ」

巨大な幹から現れた顔のような部分から声がする。


「われにマソを送ってるの、おまは誰ぞ」

「フ~ム。あれから、どれだけの時が流れたのか分からないが、随分と久しぶりにお前の声を聴いたがなまっているぞ、アルセ・ティロよ」


辺りが静まり返る。

老木の目が巨大になりオルギデア・ロサ・ティロを見下ろした。

バキバキ、バサバサと老木が震え表皮が崩れ落ちているのが解る。


「いっ、一体どうしたのですか長老!」

叫ぶヴィオレタ・ルルディ。


「嬉しくて身震いしているのさ」

そう答えるフィドキア。


「そっ、その名。いまは誰も知らんワレの名と、この魔素。そっ、それにその姿は! おおおおおおおぉぉぉ!!!」

小刻みに震えていた老木が緑色の葉を付け、一斉に花を咲かせた!


「御久しゅうございます。”ロサ様”。我が創造主である父よ」

変な喋りが無くなった老木のアルセ・ティロ。

満開の紅い花を咲かせる巨大な老木に島中の妖精が集まって来た。


アルセ・ティロは世界に数本しか居ない始まりの原木げんぼくのうち最も古い一本。紅い花を咲かせるのがロサの血脈を証明し、種族は違うがフィドキアの弟になる。


300年周期で転生し代々棘王を見守る役目をになっていた聖妖輪廻華王ヴィオレタ・ルルディだが、度重なる転生で元のロサの姿、形は既に忘却の彼方にあったのだ。


「ルルディ様! こちらの方達は一体誰ですか?」

「多分あの方が・・・」


自信の無かったヴィオレタ・ルルディにフィドキアが答える。

「棘王となっておられたが、再生して元のお姿に戻られたオルギデア・ロサ・ティロ様だ」

「「「えええええっっっ!」」」

妖精たちが驚いいた。


「アルセ・ティロよ、久しぶりに私と共に来い」

「ロサ様、有り難きお言葉ですが、私の魔素はほとんど無く、この大樹と成り果てた身体も動く事が出来ません」


ロサはしばし考えた後で大樹に当てた手が”めり込んで”身体ごと老木の中に入って行った。


しばらくすると出て来たが、右腕はまだめり込んだままだ。

「どうした早く出て来い」

ロサが呼びかけると手を掴まれた腕が大樹から出て、一気に引っ張り出された。

その姿はロサと良く似た色白で緑色の髪をした青年の姿だった。


「おお、アルセ・ティロ! 昔の姿ではないか!」

懐かしく駆け寄るフィドキア。


「ええ、ロサ様に身体を作って頂きました」

「お前の核に大樹の養分を集めた”だけの事”だ。それに若い姿の方が良いと思ってな」

「ありがとうございます父上」

羨ましそうにみているフィドキアだった。


「オルギデア・ロサ・ティロ様、初めてお目にかかります、ヴィオレタ・ルルディと申します」

聖妖輪廻華王ヴィオレタ・ルルディと配下の妖精が一堂に膝まずいた。


「ヴィオレタ・ルルディよ、度重なる転生で忘れているかも知れないが、その方とお前の初代はお会いしているのだぞ」

「・・・」

老木の中から出て来た若い男に言われ、返す言葉が無かったルルディ。


「あぁ、この身体はロサ様に作って頂いた”在りし日の私だ”」

鈍い妖精たちにフィドキアが教える。


「まだ解らないか? お前たちの守り神だった神代の霊木の核を使い人化して若返ったアルセ・ティロだ」

「ほっ本当ですか!」

ルルディが信じられない顔で聞いて来た。


「我ら龍人が不死なのは知っているな?」

うなずくルルディ。

「我が名と創造主たる父の名において、若返った我が弟のアルセ・ティロに間違い無い」

「「「ハハァァー」」」

ひれ伏す妖精たち。


「所で立ち話もなんだ、どこか落ち着いて話せる場所は無いか?」

ロサの要望に応えるルルディ。

「では、妖精の国にどうぞいらしてください」


案内するルルディに付いて行くロサ、アルセ、フィドキア達に妖精の群れ。

花と木に囲まれた妖精の国では奥の一室に、一同と妖精の重臣が話していた。


その話しはロサを救ってくれた監視対象者が、元棘の森跡地に新しく棘城を作りたいと申し出があって、力を貸して欲しいと頼ってきたことに対して、どのように力を貸すかの意見を出し合っていた。


予備知識として、龍人の存在、監視対象者とコラソンの経緯などを含め城の地下もしくは街中に自分達の施設も作ると申し出が有った事などをフィドキアが説明した。


簡単に決まったのは、街の一番外周りを木か棘で囲う事。

問題なのは城を何で作るかだ。

木や棘は火に弱い。

他の国のように石積みの方が丈夫で長持ちなのは解かっている。


「石や土の魔法が得意なのは”バレンティア”ですが、どうされますか? 父上」

フィドキアがロサに問いかけたのは、もう1人の龍人の事だった。


「ふ~む・・・”アレ”に頼んでみるか」

ロサの言うアレとはバレンティアでは無くて、”プリムラ”と言うロサと同位の存在だった。そしてプリムラの居る場所に転移するロサ。



※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero



龍国内のプリムラの部屋に転移したロサ。


「プリムラ、頼みたい事が有る」

「ロサッ! 私を選んでくれたのねぇ」

「あぁ・・・プリムラ。また今度愛し合う事にしよう」

「嫌っ」

我が儘を言うプリムラの”唇を黙らせる”ロサ。


「ところでプリムラにお願いしたい事が有ってね」

「なぁに言ってみて」

ロサは経緯を説明した。


「・・・と言う訳で城と街を作るのにバレンティアの力を借りたいのだが」

「そうね、貴男を助け出したのだから”その程度”の事であれば良いと思うわ。私から伝えておくわ」

「良かった。じゃ、城作りを手伝って来るからヨロシク!」

「もう! ロサッたら!」



再び妖精国に戻る。

「”バレンティア”の件は頼んできたから連絡が有るだろ」

勝手に居なくなり、問題を解決して現れたロサが考えを告げた。


「この後、私の子孫でもあり私を救ってくれた監視対象者に会うのだが、彼の前ではオルギデア・ロサ・ティロでは無く、成長したコラソンとして会おうと思うがどうだ?」


「ハッ、御心のままに」

フィドキアは久しぶりにロサが自由になれた事が嬉しくて、どんな質問に対しても良い返事をしていたのだった。


「私もお供して宜しいでしょうか?」

そう問いかけて来たのはヴィオレタ・ルルディだった。


「棘王様の監視役として存在していた私達なのにお役に立てなかったので、せめて新しい棘城の為に何かお役に立ちたいのです。オルギデア・ロサ・ティロ様、どうかお願い致します」


その懇願はヒシヒシとロサに伝わった。

「分かった。同行を許そう」

嬉しそうなルルディを放置して考えるロサ。


(我とフィドキア、アルセ、ヴィオレタ・ルルディ、バレンティアか・・・どのような城にするか監視対象者と相談しないとバレンティアに丸投げする訳にはいかんなぁ)


「フィドキアよ、監視対象者と会って状況を確認してから我らが会う時を調整してくれ」

「ハッ、畏まりました」




Epílogo

忘れ去られていた監視者です。

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