第21話 忌まわしい出来事2

眷族の視線はテネブリスに集中していた。


「テネブリス、受け入れ方法と封印を皆に説明してくれるかしら」

母からの問いかけに頷き説明を始める。


「お母様と私、アルブマ、セプティモ、セプテムにスペロが協力して減速の巨大魔法陣を作成するの。これを第一陣とします。そして回転減速停止の巨大魔法陣を第二魔法陣として五体の使徒達で作成。次に速度停止の第三の巨大魔法陣を五体の第1ビダで作成。これらの三つの巨大魔法陣を一組として、多重魔法陣を大量に作成し巨大隕石の速度を殺し大地に着地させ封印させる考えよ」




「「「・・・・・・・」」」




全てが沈黙し思考し始めた。


更にたたみかけるテネブリス。

「五体の龍人達は巨大隕石の周りある小隕石を撃破し殲滅せよ」

「「「はっ」」」

勢いの良い返事が伝わるとセプテムが立ち上がる。

「姉上の考えを大至急計算する。我が眷族よ、全てついて来い」

付き従う眷族の後ろには初期のしもべ達も連なった。



問題は龍族が作る三重結界を”いくつ”作れば巨大隕石が停止するかだ。

巨大隕石の大きさに質量、回転速度に推進速度と、龍族の個々の魔力を使った魔法陣の効果を数値化して何度も計算された。                                                                                        



「セプテム様・・・」

「!!・・・・」

眷族から受け取った内容を見て驚愕するセプテム。

「皆の者、我が母の元へ行くぞ」



それは連なって歩くのでは無い。

駆け足でも無い。

全力疾走だ。



セプテム達を待っていたのは不安と期待が入り混じる眷族達だ。

息を切らしスプレムスの前に近づき報告する。


「姉上の提案を計算した結果・・・」

全員が硬直している。


「巨大隕石が地表に到達する前に停止する可能性は・・・四割です」

「「「おおおおおおぉぉぉっ!!!」」」

今までの草案が一割の可能性であれば、四割となると期待が高まる一同だ。


「静かに!!・・・ただし、三重結界を一組として、二千七万組の魔法陣を即座に行動を開始して作り上げなければならない。遅くなればそれだけ可能性が低くなる・・・母上、ご決断を」


全員の視線がスプレムスに集まる。

「皆の期待に沿えるよう可能性を信じましょう」


スプレムスが立ち上がると全員が立ち上がった。

そして即座に行動だ。

スプレムスの隣にはセプテムがはべり今後の説明をしながらの移動だ。

後ろにはテネブリスが続き、横にはアルブマとスペロが敬意の眼差しでテネブリスを見ていた。


セプティモには念話で戻る様に指示し、使徒のフォルティスから対策の説明が有り指示に従ったのだが、一点だけ不満? というか疑問があった。

それは我らの大地に到達する地点がセプティモの管轄だからだ。

厳密に言うとセプティモの眷族、インスティントの管轄だ。


(なんで、どうして? 他に沢山場所は有るのに何故あたいの管轄なんだよぉ)


文句は有るが総意なので、まずは行動有りきだ。





龍種は既に自分達が守護する惑星が自転している事を知っている。

しかも、燃える星を中心に周回している事も知っている。

更に、より大きな渦の中に存在する事も知っている。

更に更にその渦はより大きな渦の中に存在する事も感覚で認識している。


全ての龍族が”空を越えて”算出された場所に移動する。

“全ての回転”を計算に入れて、その時に惑星が接触する場所に魔法陣を作り始める。


始祖龍スプレムスを筆頭に五体の龍の子、合わせて六体で第一陣。減速の魔法陣。

五体の使徒達で第二陣。回転減速停止の魔法陣。

五体の第1ビダで第三陣。速度停止の魔法陣。


五体の龍人達は先行し小隕石を破壊していく。


最初に減速魔法にしたのは、想像を絶する超高速飛行で回転しながら進む物体に即時停止を使っては効果を得られないと判断した為だ。

指定の組数を作り終えたら、”魔法陣を強化する魔法陣”を展開しながら逆戻りだ。

これはセプテムが更に可能性を上げる為に考え出した策だった。





龍族達は果てしない距離を無数の魔法陣を作りながら巨大隕石へと重ねて構築していった。


巨大隕石は物凄い速さで龍族達に向っている。


無尽蔵にある魔素を使い幾つもの魔法陣を構築していく龍達。


魔法陣は巨大隕石を受け止めるだけの大きさを有している。


魔法陣は大きくなればなるほど使用魔素量が多くなる。


龍国がすっぽり入るほど大きな魔法陣が柱のように惑星から伸びて行く。


それは惑星から離れるほど糸のように見えた。


魔法陣を作りながら、敵対する巨大隕石が目視できる程近づく。




「さぁ、もうひと踏ん張りよ」


アルブマの念話で龍族が追い込みをかける。


それは、分かってはいたが隕石は巨大な大きさだ。


第1ビダの中には気おくれする者も居た。




「あと100組だぞぉぉ!!」


数えていたのか、セプテムの怒号が念話された。


そして最後の一組が終わり、全員が輪になった。


始祖龍、龍の子、使徒、第1ビダと眷族の順で回り円を成す。


そして今まで作って来た魔法陣よりも一回り大きな魔法陣を作成している。




「良ぉし、では強化魔法陣を維持したまま一気に戻るぞぉぉ」


テネブリスの案を強化する為に、完成した魔法陣を強化する魔法陣を付与する作戦だ。


直ぐそこまで来ている巨大隕石を背にして、魔法陣を発動しながらの飛行だ。




すると暫らくして最初の魔法陣に巨大隕石が接触した。






この広大な暗黒の世界で”小さなカケラ”が光り連なる線の先に接触した。


遠くから見ればフワッと一瞬輝いた糸の先端。


だが近くで見とる、真っ赤に燃える様な色をした巨大な隕石が、光の筒にすっぽりと入って行き、接触したと同時に魔法陣が次から次へと発動して行った。



違う世界の者達が見ればどのように見えるだろうか。



そしてどのような物語を考えるのだろうか。



当事者達にしか解らない辛い思いと裏腹に、無縁の者達からすれば闇夜に浮かぶ一筋の輝く線だろうとも・・・





暗黒空間は動く最に抵抗力が無いため、一度動き出せば無限に速度が速くなる。

巨大隕石の速度よりも早く移動できるのは魔法陣の効果が有ったのだろうか、龍族が惑星に到着した頃は巨大隕石が連なる魔法陣の中間ほどの距離だった。

それでも光の速度を超えていた巨大隕石が止まるとは思えない程の速さで移動していた。



「フォルティス、打ち合わせ通り”アレ”の側で監視を頼むわよ」

「はい、お母様」

セプティモの指示の元、フォルティスは再び巨大隕石の監視に向かった。


計算通りに巨大隕石が進んでいればよし、不測の事態が起こっても即座に連絡できる体制を取る。

龍の子達は最終防衛として更に大きな速度停止の魔法陣を展開するのだった。


残った使徒達と第1ビダで、空の端から大地に向かい幾つもの速度停止の巨大魔法陣作成にあたる。





「お母様、ヤツはかなり速度を落として接近中ですが・・・止まる気配は有りません」

フォルティスからの念話で巨大隕石の状況を知るセプティモ。

その情報は即座に姉妹と母であるスプレムスに知らされる。



“空の上”では巨大隕石を待ち構える様に、最初の魔法陣を覆う巨大な魔法陣が幾重にも設置され、出来る事は全てやり終えてその時を待っていた龍族達。



既に肉眼でも確認できるほど近づいている巨大隕石。

まるで発光しているように次から次へと魔法陣が発動し、本来は赤い隕石が光り輝く神々しい物体と錯覚してしまうほどの美しさだった。



「・・・嫌な予感がするわ・・・」



巨大隕石がかなり近づいて、こぼれた言葉だ。

全ての龍族がそれを見上げ、誰も聞き取れないような小さな声だった。


龍族達は暗黒世界から空の中に入り、その時を待ち構えていた。



ゴゴゴゴゴゴコオオオオオオオォォォォォォ!!



まだ、空の上に居るはずなのに大地にまで轟音が鳴り響き、小動物は必死で何処かに隠れる様な仕草をし、知能有る集団も様々な行動を取っていたが、空を覆う程の大きさを目の前にして抵抗を諦めていた。



そしてついに空に侵入する巨大隕石。

大音量と摩擦熱で隕石の先端が黄色く見えたと言う。

“それ”は発見した当初と比べれば、直ぐに止まりそうな程の速さにまで遅くなっていた。

しかし、それでも止まる事は無く、確実に大地に向かい落ちていた。




だが、不運は訪れた。




大爆音が辺りを覆ったのだ。

全ての龍族は驚いて周りを見渡すが変化は無い。

しかし・・・




「見て!!お母様!!」

テネブリスの使徒ベルムが上を指さし叫んだ。


そこにはまるで花が咲いたように粉塵を撒き散らし大きな岩の塊が飛んでいるのが目視出来た。


「「「何だ、何が起こったぁぁ!!」」」

辺りが驚いている最中、指示が飛ぶ。


「龍人達よ、上空から飛来する岩を打ち砕け!!」

テネブリスが叫ぶと、同時にアルブマが叫ぶ。

「お姉様!!隕石の速度が早くなってるわ」


「チッ!!」


舌打ちしたテネブリスは落下地点へと転移した。

そして魔法陣を発動させる。

それに気づいたアルブマが近くに転移した。


「お姉様、いったい何の魔法陣を!?」


「これは重力反転の魔法陣よ。みんなも一緒に手伝って!!」

テネブリスの最後の手段として、大地の重力を利用した魔法だった。

しかし、強張った表情で返事が帰って来た。



「お姉様・・・その魔法、聞いて無いから知らないわ」



沢山の魔法陣を生み出した事になっているテネブリス。

しかし、本当は前世から魂が引き継いでいる空間魔法でエスパシオ・ボルサの中に有った魔法大全に記載されているモノを小出しにしていたのだ。


そして多くの魔法を教えた為に何を教えたのか覚えていなかったのだ。

更に重力反転の魔法は過去に使い道が無く、要望も無かったので教えていなかった。



「・・・解かったわ。私のありったけの魔素を使って止めてやるわよ」




Epílogo

テネブリス 対 巨大隕石。


この後は毎週日曜の投稿を予定しています。

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