第2章 テネブリスの回想
第20話 忌まわしい出来事
それは龍国内で初期の住家が構築されていた遥か昔までさかのぼる。
七天龍セプティモ・カエロと使徒のフォルティス・プリムは始祖龍スプレムスから言い渡された眷族の役目である外界の見回りを行なっていた。
スプレムスが守護する自分達の住まう大地を中心として周辺を周遊する惑星たちを網羅し、更に無限に広がる暗黒空間を探索調査しているのだ。
セプティモには気になる事が有った。
それは以前、母なる大神からコッソリと教えられた事。
「いつの日か、遥か彼方から訪れる災いが大地を汚す事になるわ。貴女には早くそれを見つけて我らに教える事が役目なのよ」
それがいつ頃なのかは母であるスプレムスも解らない。
それが何処から来るのかは解らない。
その災いが何なのかは解らない。
だが母なるスプレムスは、それが必ず訪れると言う。
セプティモは眷族に指示して周囲を警戒し、外敵や異物を発見する魔法を開発させた。
セプティモの魔素量であれば全方位で惑星間の範囲まで可能となる探索圏内だ。
その魔法を更に魔法陣で強化し数倍の範囲まで網羅できる程の威力だ。
フォルティスはセプティモ程の広範囲までは網羅できない。
しかし方向性を持たせる事でセプティモと同様の距離を感知出来るほどの能力を持つ。
セプティモが見つけフォルティスが認識し、2体が感知した存在が災いをもたらす存在なのか近づいて確認する行為を繰り返していた。
無限に広がる暗黒の世界を真っ赤に燃える2体の龍が飛び立つ姿は同族からも見とれるほどの美しさだ。
もっとも同族の評価よりも、強さを求めるセプティモにとってはどうでも良い事で幻想的な美しさよりも、真なる強さを追求する事のみしか興味が無かった。
無限に広がる暗黒空間を飛び回り、惑星も調査しながら行動範囲を広げていく2体。
たまに見かける塊の様な物。
流星だ。
重要なのは何処に向って移動しているのか。
守護する惑星に向っているのであれば全力で木端微塵に消滅させる力を行使する。
そんな事は極めて
たまに見かける流れ星も、全く違う方向に飛んでいるからだ。
セプティモの不安感はよそに、何も発見できない時間が過ぎ去っていった。
それはとても長い時間だ。
※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero
心配していた事も忘れるほどの悠久の時を過ぎた頃、違和感を感じ取ったセプティモだった。
急に飛行を止め停止したまま、ある方向を睨んでいるセプティモ。
「・・・・・」
「お母様、どうしたの?」
フォルティスが呼びかけても微動だにせず睨み続けている。
母の異変にフォルティスも同じ方向に遠距離探索魔法陣を使い調べてみた。
「・・・あれは・・・」
フォルティスが感知した物。
それは・・・
「無数の隕石だ・・・しかも途轍もなく大きな塊が有る」
正確に答えたのはセプティモだった。
現在の場所からすると遥か彼方だが、セプティモの魔法範囲の中でも異質な違和感を感じ取ったのだ。
「フォルティス、行くぞ」
「はい、お母様」
セプティモは”それ”のわずかな動きで方向を見定めていた。
しかし魔法陣を使い方向を計算しても自分の違和感なのか嫌な予感が不安感を煽っているようだった。
飛行速度を上げて向かう2体。
多少近づいた頃合いで再度方向を調べてみる。
母娘2体でだ。
自分達の仲間が居る惑星は感覚で解っている。
飛来物の飛行線上に停止して惑星の位置を確認する2体。
「・・・・・」
「・・・お母様・・・もしやこれが大神様の予言のあった災いでは・・・」
2体とも眉間にシワを寄せて遠くを感じ取っている。
「・・・チッ、なんてデカさだ」
「あんなのがぶつかったら我らの大地が大変な事に・・・」
「いや、大地どころじゃねぇな。惑星自体が崩壊か無くなる可能性もあるぞぉ。不味いなぁ」
セプティモの不安を煽るような念話にオロオロするフォルティス。
「フォルティス、あんたは直ぐに戻ってこの事をお母様と姉貴たちに伝えてくれ」
「はい、お母様は?」
「あたいは、もう暫らく様子を見てから戻るから」
フォルティスは飛来する巨大隕石の大きさと、無数に飛散している小隕石の速度に自分達の惑星との位置関係を覚えて戻る事にした。
セプティモ達が遠出から戻る場合は基本的に転移魔法陣を使うのだ。
位置関係を把握していれば造作も無い事で、惑星間の移動も遠距離転移で移動が可能だ。
七天龍セプティモ・カエロの使徒フォルティス・プリムが遠距離転移で龍国に戻り、始祖龍スプレムス・オリゴーと暗黒龍テネブリス・アダマス、聖白龍アルブマ・クリスタ、七海龍セプテム・オケアノス、翠嶺龍スペロ・テラ・ビルトスに、迫りくる災いの報告をした。
「やはり・・・とうとう来ましたか・・・」
スプレムスの不安は的中した。
全ての眷族を集めて巨大隕石の速さと、惑星への到達時間と大地の衝突地点を計算させる。と同時に、再度セプティモが巨大隕石の調査に向かい、巨大隕石対策会議が行なわれた。
当初はセプティモが進める攻撃魔法で撃破する方向だったが、巨大隕石のより具体的な大きさや隕石の素材と質量が明らかに成るにつれて、撃破しても完全に消滅出来ず、いくつも分裂した隕石群を更に攻撃する事となる。
しかもその隕石群もとても大きな塊が予測され、1つでも大地に衝突すれば大きな災いとなるのは計算せずとも全ての龍族は理解してしまったのだ。
何故なら過去に幾度となく隕石が飛来した経緯が有るからだ。
隕石の大きさで消滅した地形や、小さき者達の国、穏やかな気候さえも犠牲となった光景を見ていたからだ。
しかし、現在迫りくる巨大隕石は惑星の24分の1の大きさで龍国の6分の1程だ。
だが、質量は違う。
フォルティスが持ち帰った隕石の欠片を分析すると、龍国の5倍以上と計算が出ている。
理由は明白だ。
龍国は”殻”なのだ。
中身が無いのである。
巨大隕石は”中も”詰まっている。
セプティモ以外の全ての眷族達が集まり対策が練られた。
龍族の攻撃力もってしても完璧に消滅させる事は出来ず広範囲に砕けてしまい、その結果大地に降り注ぎ大きな傷跡を残すと言う結論となっていた。
バンッ!!
「もう、いったいどうすればいいのぉ!!」
机を激しく叩き、普段温厚なアルブマが苛立ちを露わにする。
答えの出ない話し合いに苛立ち、自らの力が足りない事に憤慨する龍族たち。
いつも冷静なアルブマが憤るのも無理は無い。
今までの案を実行しても、美しかった大地が太古の昔の様な姿に戻ると言われると流石のテネブリスにスプレムスも幻滅してしまう。
実際に小惑星程の大きさを粉々に消滅させるのは不可能だ。
破壊した塊を更に破壊して砕き消滅させる事は可能だ。
しかし、計算では飛来する速度が驚異的で、数回破壊しただけでは大地に降り注ぐ小隕石の数を処理できず、大地の生物が死滅する可能性が高い計算だった。
そして巨大隕石の進行方向を変える案も検討される。
全ての龍族の攻撃力を斜め前方から打ち込めば、角度がずれる事が容易だと考えたからだ。
計算の得意なセプテムの眷族が担当した結果は・・・不可能という答えだった。
「どうしてよ、我らの力を合わせれば不可能なんてありえないはずよ」
激しく憤るアルブマに答えるのはセプテムだ。
「もちろん我も最初は、そんなはずは無いと眷族を問い詰めたさ。しかし、セプティモから送られてくる巨大隕石の情報を追加して計算するにつれ、残念ながら角度を変える事は不可能なのだ」
セプティモから送られてくる巨大隕石の情報は眷族に念話で随時送られてくる。
当初、正面からの検索で丸い隕石だと思っていたが、前方斜めから確認すると先端が尖った円柱で、高速回転し多少なりとも崩壊しながら物凄い速度で進んでいる事が確認されたからだ。
この回転が厄介で、魔法攻撃やブレスの効果も半減以下になる可能性が高く、隕石の方向を変える事は出来ないと言う結論だった。
使徒に第1ビダ達が激しく意見と対策案を交わす中、テネブリスは沈黙したまま瞼を閉じていた。
とは言え、迫りくる巨大隕石は待ってはくれないので早急に決めなければいけないが、全ての提案に始祖龍スプレムスは許可しなかった。
それは、それらの提案で巨大隕石を破壊、もしくは方向をそらす可能性が低すぎるからである。
そんな状況の中、一向に動きを見せないテネブリスに不安げに呼びかけるアルブマだ。
「お姉様・・・」
そっとテネブリスの手に自らの手を重ねるアルブマ。
すると、まるで今まで眠っていたかの様にゆっくりと瞼を開ける。
「アルブマ、私に協力して」
「勿論よ、お姉様」
すっと立ち上がり母の前に立つテネブリス。
「お母様、そして眷族達も聞いて頂戴。あの巨大隕石はどうしても我ら守りし大地を破壊せんとやって来るでしょう。我らが何もせず衝突すれば大地の崩壊だけでなく惑星の消滅に至るほどの忌まわしい存在よ。破壊しても半分、もしくは3分の1が小隕石として大地に降り注ぎ、小さき存在は全て死滅するほどの脅威でしょうね」
「だったらどうすればいいのお姉様」
眷族一同が不安の中、代表してアルブマが問いかける。
「受け入れるわ・・・そして封印しましょう」
一同が絶句する。
「!!!・・・」
「それは・・・」
衝撃の答えに即座に切り替えて具体的な方法を求めるアルブマだ。
Epílogo
えぇっと巨大隕石?
受け入れる方法とは?
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