第19話 願いは叶う・・・
ラソンはフィドキアを探した。
本当は念話で呼びかける事も可能だが何故かしなかった。
理由は簡単な事だ。
恥ずかしいのだ。
自身とインスティントが行なった行為。
それに嫉妬し後悔の念もある。
フィドキアの気持ちも考えずに自分達の欲望を押し付けた事。
龍人として成すべき事とフィドキアから注意されていた事。
全てが”兄”の言う通りだった。
だが今は新たな魔法を手に入れて思いを告げたい一心で探し回っていた。
「フィドキアッ! 今良い?」
散々探し回って最後に辿り着いたのはフィドキアの自室だった。
「うむっ、構わんが」
モジモジとしながら初めて入るフィドキアの自室だ。
何の飾り気も無い。
卓1つに椅子が五つ。
あとは寝台だけだ。
「インスに赤ちゃんが出来たそうね」
「ふむ・・・」
「私も欲しかったなぁ」
「ふむ・・・」
「フィドキアはどう思っているの?」
「・・・ふむ」
何を聞いても”ふむ”ばっかりでイライラしてきたラソンだ。
「私の話しを聞いているの!?」
「ふむ・・・」
腕を組み、目を閉じて考えているフィドキア。
((そうそっちがその気なら、こっちだってやってやるんだからねぇ!))
一向に相手をしてくれないフィドキアに業を煮やしてラソンが暴挙に出た。
((リビドーボール・・・))
自らの胸の前で手の平を合わせて魔法を唱える。
使用するのは少量の魔素と”
相手に捧げる愛情が深ければ深い程、強力になり相手にその気持ちが快楽となって伝わると言う魔法だ。
暫らく沈黙しているラソンを不思議に思い、目を開けるとただならぬ気配と共に魔法を展開中のラソンを見て驚く。
「何をしているのだ、ラソンよ」
「貴男に私の思いを伝えたいの・・・」
「それで我を攻撃するつもりか?」
「違うわ。これはアルブマ様から頂いた魔法よ。そしてアルブマ様はテネブリス様から伝授されたと聞いたわ」
「何ぃ!!」
「これは攻撃魔法では無いの。私の気持ちを伝える魔法なの!!」
そう言って魔法を解き放つラソン。
神々が自らの気持ちを伝える為の魔法。
自らが敬愛する存在が産み出した魔法。
フィドキアの思考は、その魔法全てを受けとめる思いに変わっていた。
「来い!!」
気合を入れて受け止めるフィドキア。
ゆっくりと着弾する。
「グッ、グオオオオオオオオォォォォォッ!!」
座っていたフィドキアがひっくり返り床にひれ伏している。
「ぬおおおおぉぉぉぉぉっ!!」
必死の形相で何かに耐えているようだった。
そんなフィドキアを見て驚いているラソン。
苦しそうな表情に驚き後悔しているのだ。
両手を口に当ててオロオロとしている。
「ガハッ、はぁはぁはぁはぁはぁはぁ・・・」
「大丈夫??フィドキア・・・」
未だかつて見た事も無いフィドキアの状態はラソンの思考を塗り替えていた。
愛欲よりも魔法の効果が心配になっていたのだ。しかし・・・
ガシッとラソンの手を握るフィドキア。
「ラ、ラソン。これ程まで我の事を・・・」
そう言って意識を手放したフィドキアだった。
※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero
フィドキアの敗北。
闘いに負けたのでは無い。
他者を愛する思いの強さを持つ事。
その思いが快楽に変換されてフィドキアを失神させたのだ。
意識を失う事を恥とすれば戦いに負けたも同然。
そんなフィドキアから驚くべき言葉が送られる。
フィドキアは自室で目覚めた。
傍らには椅子に腰かけながら寝ているラソンが見えた。
((ふむ。まだ子供だと思っていたが・・・良かろう))
フィドキアの思考は龍人としてラソンがまだ一龍前とは思っていなかったようだ。
しかし神々から魔法を伝授され、それを使いこなす程成長しているのであれば認めざるを得ないと判断した。
「起きろ、ラソン」
「えっフィドキアァッ大丈夫!?」
「ふむ。お前に伝えたい事が有るから良く聞け」
ラソンはてっきり怒られると思っていた。
神々から頂いた魔法で愛しい者を失神させたのだから。
「今後、いかなる時でも我の横に立つ事を許そう」
「えっ!?」
普段からラソンはフィドキアの横に立って居る。
ただしそれは正式な順序の為だ。
眷族の手前や儀式など形式においては横に並び立つ。
しかしラソンの耳に入って来た言葉。
”いかなる時でも”
この意味する事は・・・
「お前の事を認めよう。オルキス様のように頼むぞ」
ラソンは嬉しさの余り震えている。
「ただし、条件が二つある」
ギュッと拳を握るラソン。
「インスとその子は不問にしろ」
黙ってうなづくラソン。
「そして我らよりも上位の存在が許可しなければこの話は無しだ」
どんな手段を使ってでも上位眷族に納得させると心に誓うラソンだ。
「宜しく頼むぞ、ラソン」
「はい、喜んで」
※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero
「お母様ぁぁ!!」
嬉しそうにオルキスに呼びかけるラソン。
フィドキアと事の顛末を説明すると一緒に聖白龍アルブマ・クリスタの元へ向かっていのだ。
「良かったわねぇラソン」
「はい。全て我らが神から頂いた魔法の賜物です」
「ふふふっ、他の神々には伝えておくから安心しなさい」
「あ、ありがとうございます」
アルブマの問いかけに、まるで全ての幸せを手にしたかのような錯覚に陥るラソンだった。
そしてその通達はインスティントの耳にも入る。
「どういう事よ!! 私はフィドキアの子を産んだのよ。それなのに何でぇ!?」
「フィドキアが認めたそうよ」
「そんなぁ嘘よ・・・本当なの、お母様」
インスティントに直接教えたのは母であるヒラソルだった。
ラソンが一方的に口走るなら既成事実を持って撃退するつもりだった。
しかしフィドキアが認めたのであれば自分が口出ししても意味が無い。
それからと言う物、ラソンとインスは互いに牽制しあい直接対自する事を避けていた。
正式な場面では顔を見る事は有ったがお互いに声を掛ける事は無かった。
お互いに言いたい事が山ほどあり過ぎて、激情すると取り返しのつかない事になるのが目に見えるからだ。
互いに目線を反らし、陰から睨むような態度をとっていれば周りの者達も敬遠しだす。
そんな雰囲気をカマラダとバレンティアは察して、なるべくその事には触れない様にしていた。
下手に首を突っ込むと面倒な事に巻き込まれるからである。
もっとも原因であるフィドキアはラソンとインスの嫉妬の炎には無関心だった。
何故ならば2人の願いをかなえ、解決したと思っているからだ。
そして一部に不協和音が存在するも龍国の時間は流れていった。
※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero
龍人達のやりとりも大神の考えの大きな流れの1つとして知れ渡っており、龍国内ではそれぞれの眷族が日々役目を果たしている。
魔法や魔法陣の開発はそれぞれの眷族が属性に合った研究開発を行ない、また共同研究として魔法科学も開発されている。
その研究も
もっとも、それぞれの神々が極秘に研究させている部隊も存在するのだから。
そんな中、アルブマは自らの役目を眷族に采配して、ほとんどの時間を”ある場所”で籠もっている。
手に持つのは下界から植樹して龍国内で栽培した果物だ。
勿論自分が食す為では無い。
そして同族は食べ物を摂取しない。
必要なのは魔素だけなのだ。
そんな事は解かっている。
しかし、どうしても食べさせたい者が居るからだ。
昔、地上に居た時に果物を教えてくれた者。
食べる必要は無いけれど、食感や味覚を教えてくれた。
何事も経験だと・・・
龍国内の移動は基本的に徒歩だ。
しかし、聖白龍アルブマ・クリスタの部屋からは扉1つで別の場所に移動できる事が出来る。
自室の奥に小部屋が有り、中に入るとまた扉が有る。
その扉を開けると、又小部屋だ。
小部屋同士で転移の扉を挟んでいる状態になっている。
一応秘密になっているが、周知の事実として他言無用になっている。
そして
“コンコン”
「お姉様。入りますわ」
返事を確認せず転移先の扉を開けて、部屋に入って行くアルブマ。
アルブマが訪れたのはテネブリスの部屋だ。
テネブリスの部屋は比較的に簡素だ。
大きな寝台に横になっている黒髪の女性。
傍らには椅子と小さな机がポツンと置いて有る。
アルブマはいつもの様に寝ているテネブリスの手を握りしめて頬ずりをしている。
静かに寝ているテネブリスの寝顔をずっと見つめるアルブマ。
どれだけ見ていても飽きないのだ。
そして、誰も居ないと解っているが回りをキョロキョロ見回して、ゆっくりと唇を押し付ける。
テネブリスの世話はアルブマとテネブリスの使徒ベルム・プリムが交代で行なっている。
世話と言っても子供であるベルムは何もしないし出来ないのだ。
たまに起きるテネブリスに眷族の報告をして眷族の神たる母から指示を仰ぐのだ。
むしろ世話をしているのはアルブマの方だろう。
それは定期的にリビドー・ボールをテネブリスに打ち込むのだから。
しかもそれが現在唯一の”治療方法”なので、母である大神や同族達も納得しての行ないなのだから。
ではテネブリスに何が起こったのか?
一体いつからこの様な状態になったのか?
それは・・・
Epílogo
ラソンの夢。
愛する者と暮らしたい。
その夢が叶った瞬間だった。
あああぁぁテネブリス、どうしちゃったのぉ?
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