第18話 家族と帰国
「今までのダリアは何処に行ったの?」
と疑いたくなるほどの豹変ぶりを見せてくれた我が娘だ。
何故なら彼女は恋に夢中なのだから。
父である国王と恋愛に関して敵対関係になろうとも、恋の炎が燃え盛りラソンの援助を得て目的を達成しようとするダリアだった。
だがセジの不安はラソンが居なくなった後の事だ。
今までの経緯は全てラソンと出会ってから良い事ばかりで事が進んだからだ。
その変わりを我が娘が行なうとしてもラソンの実績とは比較にもならなかった。
そんなセジの思惑とは裏腹に全てはラソンの計画通りに進んで行った。
顔を合わせれば、いがみ合う様になったセジに妥協案を出したのだ。
セジの産まれた国や周辺国家にも土着の宗教らしきものが乱立する。
大地の神、山の神に川の神。
闘いの神、病気や怪我の神、食べ物の神に様々な神を
そこで一計を考えたラソン。
森の奥の聖なる泉に建物を立てて神を奉り、何かしらの魔導具を作り念話で娘に助言する方法を立案する。
そうすれば魔導具を介しダリアに助言でき、セジの要望に応える事が出来るからだ。
人族の一生など龍人にとって一瞬の
ラソンにとってセジへの関与も時間の問題だった。
魔導具の事を隠してセジを説得し、泉の近くに
本当は石作りにしたかったのだが木造で妥協するラソンだ。
中身は何も無い倉庫の様な社に、こっそりと手を加えるラソン。
床は土間だったが流石にそれは我慢出来ず石の板を引きつめて綺麗にする。
適当に作られた何かを祀る為の祭壇に、装飾を施して魔石を散りばめた念話が出来る魔道具を用意した。
そして、もしもの場合の転移場所の確保だ。
そんな適当に作った社に対して、後に
((いったい何を考えているのかしらお母様ったら・・・))
今までセジと暮らしてきた時よりも、残りわずかな時の長さでセジは寿命が来るだろう。
最初から解っていた事だ。
何時までも若い姿のままのラソンだが、そんなセジが死んでいく光景を見たくなかったのも事実だ。
もっとも運悪く戦いで敗れる可能性も有るがそれは低いだろう。
何故ならばラソンの加護が常時発動しているからだ。
当然ダリアにも内緒で加護を付与してある。
戦の時に味方に付与するのは、その場限りの加護だ。
加護と言っても形式上のお祈りを行なうのだ。
これは土着宗教を真似ての行ないだ。
本当の加護はラソンの思念で与える事が可能なのだから。
娘にも扱える加護を新たに作ったり、この地を離れる時の準備に余念がないラソン。
そしてとうとうその時を迎える。
それはダリアの婚儀だ。
小さな地方国家とはいえ、一国の王女が婚姻するのだ。
たとえ相手が流れ者の傭兵だったとしても。
ラソンに言わせれば、セジも娘の見つけた相手も同じく流れの者の傭兵だ。
しかし、セジは気に入らなかった。
国王となったセジは覇者であり、権力者となったからだ。
そんなセジをラソンが”言いくるめて”婚儀の今日まで進めて来たのだ。
「お母様、後の事は私にお任せください」
ついこの前までは、後を継ぐ事を否定していたとは思えない言葉が娘の口から放たれる。
「ダリア、練習したようにすれば私の声が聞こえるからね」
「はい、お母様」
引き継ぎの準備は万端、後は国王の交代をいつするかだが流石にこれはセジに一任するラソンだ。
婚儀は滞りなく進みラソンの役目が終わろうとしていた。
そして龍国に戻る直前に娘から吉報が伝えられた。
ダリアが妊娠したのだ。
手放しで喜ぶラソン。
娘にお願いされて名前を付ける事になった。
「まだ男の子か女の子か解らないのよぉ」
だが龍人たるラソンには解かったのだ。
産まれて来る子は女の子。
名を付けるとしたら・・・ジーナ。
それ以上は産まれて来る子の為にも先読みするのを止めたラソン。
ラソンには眷族の特徴である”先読み”が出来る。
未来視だ。
と言ってもわずかな未来でしかない。
そして自身の未来は解らない。
娘にだけ、そっとその名を告げて聖なる森の社から転移するラソン。
数十年ぶりに龍国に帰るラソンだ。
龍国の大まかな事は担当の妖精王から報告を聞いているので、帰国した報告をしに眷族達に挨拶回りを始める。
「只今戻りました。お母様」
「ご苦労様でしたラソン」
「あなたの事は全て聞き及んでいます。それでね、ラソン。貴女に伝える事が有るの。これは龍人として受け止めなさい」
龍人としての責務は誰よりも重んじていると自負しているラソンだ。
「インスティントがフィドキアの子を授かりました」
“えっ”
思考が停止した。
いや、封印していたフィドキアへの思いが溢れだしてきた。
“何で、どうして、私とはあれ程愛し合って出来なかったのに、何故!?”
思いっきり叫びたい衝動に駆られるが身を震わせながらグッとこらえるラソン。
「インスティントは子供を下界で産んだ後、龍人としての使命を果たし眷族の末裔と子を成したわ」
「一体、いつの間に!?」
「ごめんなさいね、ラソン。貴女に伏せるように指示したのは私なの」
「どうしてですか、お母様」
「使命を果たす前にその事を知ったらどうなっていたかしら・・・」
「・・・」
言い返せないラソンだ。
そして込み上げてくる悲しみと嫉妬に裏切られた絶望感。
ただし、これはラソンの一方的に思いだ。
ラソンの両目からは涙が溢れていた。
その表情を見てオルキスがラソンを抱き寄せる。
「ああぅぅぅぅお母様ぁぁぁぁ」
「ラソン。お泣き。貴女の悲しみを私に分けなさい」
ラソンは泣いた。
母に甘える様に泣き崩れた。
こうなる事は予期してあった。
眷族と相談してオルキスが説き伏せる事となったからだ。
勿論、我が子が可愛いオルキスは条件を出した。
それはフィドキアにラソンにも子を作らせるか、別の何かを与えるかだ。
ラソンもインスティントも共にロサの子供だ。
“どちらが”では無く、”どちらも”大切なのだ。
悲しみの淵に立つラソンに天の声がかかる。
それは眷族の長であり、神の一柱からの呼び出しだった。
龍国の中心に近くなるほど神の住居に近くなる。
大神が瞑想にふける領域の手前には神の支配する領域が有る。
オルキスに連れられて向かったのは聖白龍アルブマ・クリスタの元だった。
「ラソン。貴女の事は聞き及んでいます」
ラソンは羞恥心で一杯だった。
自らの行ないと、母に八つ当たりして慰めてもらっていた自分の情けなさ。
神の御前でも小さくなっていた。
「お姉様が”あのような状態”で、ロサも不在でいつ戻るか解かりません。貴女よりもフィドキアの方が辛いはずですよ」
ラソンはショックだった。
自分の事しか考えていないと知る事となる。
「申し訳ありません。ですが・・・」
ラソンの説明を制してアルブマが自らの眷族に救いの手を差し伸べた。
「貴女にこの魔法を伝授します」
神から直接受け取った魔法。
それは自らの愛情を具現化し、思いを寄せる相手にぶつける魔法だ。
その効果は、自らの愛の深さをそのまま相手に体感させる事が可能なのだ。
この魔法を開発したのはアルブマでは無い。
その開発者には本来別の目的が有ったがアルブマはその事を伏せた。
その魔法は愛情が深まるほど強力になり、受けた標的者は愛情に比例した快楽を全身で受け止める事になる魔法なのだ。
「リビドーボール・・・」
「使い方は解かるわよね」
「はい・・・」
恍惚の表情を浮かび上がらせるラソンだった。
Epílogo
ラソンの手に”世界を救った魔法”が伝授された。
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