第22話 忌まわしい出来事3

龍族の者達は迫りくる巨大隕石の対応に追われ、”それ”に気づく事は無かった。


“それ”は巨大隕石の遥か後方から、同じ方向を同じ速度で飛来していた。


飛来したのは多数の小型隕石だ。

とは言え同じ材質で、魔法で速度を落とした巨大隕石よりも遥かに早い速度だ。


そんな物が加速を重ねて巨大隕石に激突したのだ。

爆音と共に悪寒が走る龍族達。


いち早く異変に気付いたのはアルブマだった。


止まりかけていた巨大隕石が落下速度を増したのだ。



上空の衝撃で飛散する岩の処理を指示したテネブリスが即座に動いた。



「重力反転・・・」



大地に立つテネブリスが集中して作りだした魔法陣。

アルブマが手伝いたくても教えてもらっていない魔法陣なので成す統べなくオロオロする。


「お姉様・・・」


不安がるアルブマを余所に、魔法陣に大量の魔素が注がれた。


上空では五体の龍人では対処できない程の大きな岩が飛散しているので、他の龍達も一緒に消滅を手伝っていた。



そこ場の全員に念話が響いた。


「眷族達よ。小さな岩が数個近づいているわ。全員で対処すれば消滅できる数よ」


「「「解かったわ、お母様」」」


スプレムスの指示の元、龍の子が先導し消滅に向かった。


「アルブマ、貴女も早く行きなさい・・・」

「お姉様・・・」

「早く!!」


追い払うようにアルブマを向かわせて自分の使徒ベルムに指示を出し、自らの魔法陣に魔素を送り込むテネブリス。



と、同時に遠くの大地に隕石が落ちた衝撃が走った。



「チィッ、全部は無理だったか・・・」



最初の小隕石が大地に落ちた頃、既に巨大隕石は地表近くまで来ていた。

それでも落下は止まらず、テネブリスはほとんどの魔素を使いあがなっていた。



そんな姉を心配して戻ってみると、今にも押しつぶされそうな距離を目視したアルブマは強行に出た。



「お姉様ああああぁぁ!!」



アルブマの思考は大地よりも最愛の姉なのだ。

多少変形した大地よりも姉。

姉さえ無事ならば、どうでも良かった。



テネブリスが巨大隕石と大地に挟まれる瞬間、アルブマが体当たりをして転移で回避して見せた。



「アルブマ・・・巨大隕石は・・・」

「もう止まりそうよ」



それはまだ動いていて、止まっていないと言う事だ。

なけなしの魔素を使い巨大隕石の近くに行き重力反転の魔法陣の近くで魔法陣を維持するテネブリス。


「お姉様、無理をしないで。後は私がするわ」


そう言ったアルブマは速度停止の魔法陣を使った。




龍族が展開した全ての魔法陣でも止められず、未だにユックリと大地にめり込んで行く巨大隕石。


全ての隕石は破壊できず幾つかの衝突が有ったが大隕石と比べると些細な物だと無視したが、それでも大きな粉塵と大地を変形させる程の威力だった。

それでも飛来する小隕石のほとんど破壊を終わらせて戻って来る龍族達。



そして更なる魔法陣の重ね掛けだ。



それは暗黒空間で魔法陣を作っていた時間よりも、遥かに長く体感するのは全員が焦っていたからだ。

大地にめり込んで行く巨大隕石を止める為の行為だ。


巨大隕石の九割が大地に刺さり、もうあきらめかけていた頃、重力反転の魔法がその場でテネブリスから伝授されて全員で魔法陣を展開した。


魔法陣が発動したと同時に、歪な巨大隕石の最後尾の部分が大地から少し出ていた。

すると




「止まったのか・・・」

「止まったの・・・」

「本当に止まったのか・・・」

「止まった、止まった」

「止まってるよな・・・」

「止まってくれぇぇ・・・」

「動いて無いよな・・・」

「もう限界だ、魔素切れでダメだぁ・・・」




「どうやら止まったみたいね。じゃ次は封印よ」


スプレムスの念話で全員が種族別に大地で輪になった。


始祖龍、龍の子、使徒、第一ビダ、龍人と順番に封印の魔法陣を使って重ね掛けを行なった。


「終わったわね・・・」


スプレムスのつぶやきに気を許したのか、ドッと疲れが出た一族だ。


するとフラフラとよろけるテネブリス。

眷族達は災いを封印出来た事に讃歌していた。


「凄かったわぁ、お姉様が一体であの巨大隕石と対峙している姿!!」


アルブマを筆頭に褒めちぎるが、テネブリスはそれどころでは無かった・・・


((ヤバイ・・・魔素切れで倒れそうだ・・・))

回りはアルブマや眷族の楽しそうな念話でもちきりだ。


(アルブマ・・・ベルス・・・)

念話しようにも、その程度の事も出来ない程衰弱していたテネブリス。



「ねぇお姉様ぁ、あの魔法は・・・」

アルブマが念話の途中にテネブリスの頭がアルブマに覆いかぶさって来た。


「おっお姉様、みんなが見ているわ・・・」

アルブマの嬉しさとは逆に異変に気づくベルスだ。


「お母様、お母様、返事をしてお母様、お母様・・・」


ベルスのひっ迫した念話と行動に、異変を感じ取り全員が駆け寄って来た。


愛情表現と勘違いしたアルブマも、いつもの姉と違い緊張が走った。




※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero




テネブリスが目を覚ましたのは龍国の中心地、スプレムスや眷族が本体に戻り羽を伸ばす場所だった。


「お母様・・・」

「お姉様・・・」


眼前にアルブマとベルスの顔があった。


「あなた達・・・私は一体・・・そうか・・・魔素切れで倒れたのか・・・」


2人に聞くと災いを封印した後、意識を失ったので全員で龍国に転移したと言う。

そして、魔素切れがどのような事か身を持って眷族に知らしめたテネブリス。

神と呼ばれる存在でも魔素切れを起こすと気絶する事態を起こさない為に対策も考えられた。


今までも眷族の手本として先導してきたテネブリス。

良い事も、愚かしい事も、恥ずかしい事もだ。

その姿を見て一族や眷族がどのように学ぶかはそれぞれである。


事の顛末を知り、ある程度魔素が回復したので人化して自室に戻るテネブリスの後に付いて行くアルブマとベルスだ。



((あれからどの位寝てたのかなぁ・・・))

まだ体調が良くないが、本龍をよそに嬉しそうに世話をするアルブマとベルスだ


どうやら倒れていた時も2人が交代で眷族の取り決めをしていたと言う。

ベルスはアルブマの代行としてだ。


これを機に、自らの知識の一部を隠すことなく全て一族に教え、不測の事態に備える事にしたテネブリスだ。


知識とは魔法や魔法陣であり、前世から引き継ぐ魔法大全の情報だ。

まずは一族で分け合い、眷族で更なる研究が行なわれる。



この頃からテネブリスの極秘研究班が作られたと言う。

行なわれた研究は、転生と時空移動だ。



もともと”下界の者達”がそのような事も考えていると報告が有ったが、自らが指揮を取り研究を進めたのは理由が有る。




初めての魔素切れを起こしてからというもの、たびたび”意識が途切れる感覚”が有るからだ。


気が付くと、何故その場に居るのか記憶が無かったり、言った覚えの無い事を聞かれたりするからだ。


更には、急にフラフラして倒れそうになる事も有った。


全ては”あの時”からで、原因は魔素切れだ。

そして未だに全快しない・・・

どれだけ魔素を貯め込もうとも、絶えず空腹感にも似た感じがするのだ。


そして度々寝台で目を覚ます事が起きる。


「また魔素切れなのか・・・」


寝た記憶は無く。

目が覚めると何時もの天井が見える。


後にアルブマが言うには眠りの時間は段々と”長くなっている”と聞かされた。




テネブリスに不安が過ぎる。

自分の存在が原因なのかも・・・




誰にも教えなかった秘密。

それが原因だと本龍は思い込む様になる。

と同時に自らの部隊に研究を急がせるが、焦ったせいかアルブマにその事を知られてしまう。



「わたくし、お姉様の研究に協力したいわ」



簡単に出来るはずも無いと認識しているテネブリスは、可能性を求めてアルブマの提案を受け入れた。


研究はテネブリスとアルブマの極秘機関が行ない、実験は下界で行なわれた。

理論的な魔法陣が完成したら生物実験だ。

下界でも眷族の末裔が担当する。


かなり昔だが、龍国での僕の集団が下界で繁殖を行なう実験があった。

その子孫が種族となり神から種族名を拝命するまでとなった。


最初に種族名を仰せつかったのはアルブマの眷族だ。


一族の名はエルフと言う。





Epílogo

これからエルフの活躍かな?

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