第15話 試練と協力者
最後の最後まで希望を捨てず持てる思いと、愛の全てを捧げて迎えた朝だった。
心の隅に追いやっていた不安が現実のものとなった。
愛し合う時間が足りない。
自分への失望。
期待ハズレ。
やるせなさ。
そんな思いが一気に込み上げる。
フィドキアの胸で泣いた。
大泣きだ。
そんなラソンを優しく抱き寄せるフィドキア。
しかし、かける言葉は冷たいモノだった。
「次に顔を合わせる時は以前と同じ龍人と心せよ」
解っている。
理解している。
でも涙が止まらない。
「お前も龍人として使命を成せ。良いなラソン」
言葉の矢がラソンに突き刺さる。
泣き止まないラソンを置き去りにして部屋を出て行くフィドキアだ。
1体となると、余計に寂しさと哀れさで涙と嗚咽が込み上げてくる。
数日の間、部屋に引き篭もり僕の知らせでオルキスが訪れるまでずっと泣いていたと言う。
オルキスの教えでは、しばらくした後に受胎が解かると聞き様子を見る事にしたラソン。
暫らくは安静にする事となる。
※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero
一方のフィドキアは数日前、神の御前に居た。
眷族の神であるテネブリス・アダマスと使徒のベルム・プリムの前で跪くフィドキアだ。
「フィドキア、貴男に使命を与えます」
「ハッ」
「もうしばらくすれば、眷族の末裔との繁殖が始まります。その前にラソンとの繁殖をお願いしたけど、それももう直ぐ終わるわね。続けてだけどインスティントとも交配して頂戴。期限は下界へ行くまでの間よ」
「ハッ、畏まりました」
「フィドキア。インスにも同様に愛情を持って接してね」
「ハッ、承知致しました」
ここでも疑問は口に出さないフィドキアだ。
後でロサに制される事となる。
「フィドキアよ。お前の思う事は解かる。しかし、龍人としての長であるお前をあの2体は求めているのだ。理解出来るな?」
カマラダやバレンティアではなく自分が選ばれた事を教えられたが、釈然としない。
なぜなら父の姿を見ていたからだ。
4体の第1ビダ交配した事。
それ自体は神々の指示だと理解している。
父に対しては威厳の有る成龍の姿や、底知れない力に羨望の思いが有った。
だが、優しい父は女性達に軽く見られていると感じていたフィドキアだった。
そんな姿をみていたからこそ、自身は毅然とした態度を取らなければならないと、冷静に判断して周りと接していたのだ。
それなのに、父と同じく女性の相手をしろと神からの命令だ。
もっとも、ラソンとインスの2体だけなので、父の様には成らないと自覚もしている。
「はい父上。ではラソンとの期間が終わり次第、インスとの繁殖を始めます」
「ああ、頼んだぞフィドキア」
※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero
インスの成龍体の訓練も自らが考えた工程をこなし、終わりに近づいたので一計を思い付いたフィドキアだ。
それはインスとの繁殖を聞いた後に閃いた事で、本気で戦う事だ。
訓練ではお互いがどうしても気を使い、力を加減してしまうからだ。
強力な力での殴打をしないと、強敵と戦う時に経験の無い衝撃に痛みで戦闘不能になる事を懸念しているフィドキアだ。
衛星の荒涼とした大地で2体の成龍体が念話している。
(インスよ。訓練もほぼ終わりを迎えているが、何か戦いで聞きたい事はあるか?)
(えええぇぇ! もう終わりなのおぉぉ。もっと訓練したいよぉぉぉ)
これは訓練が面白いからでは無く、フィドキアとじゃれ合いたいからだ。
(ふむ。では我がお前に試練を与えよう)
(ええっ訓練じゃないのぉ? )
(その通りだ。お前の試練は2つだ)
真剣な表情でフィドキアを見つめるインスだ。
(1つは我が破滅のスピリートムを防いでみよ)
(ええええぇぇっ!! あなんの無理だよぉぉぉ!!)
(弱音を吐くな。お前が本気で炎のスビリートムを使えば相殺出来るではないか)
(で、でもぉぉぉ)
(更にもう1つは、我を倒す事だ)
(絶対無理!!)
(そんな事は無い)
(フィドキアを倒す何で出来ないよぉ)
(ああっ殺す事では無い。打ち倒すのだ)
(同じだよ。無理に決まってるじゃない)
ここまでは想定していた内容だった。
(では、この2つが成功した時はお前に褒美をやろうではないか)
(えっ、何!?)
詰まらなさそうに、そっぽ向いていたインスが興味を示した。
(ふむ。我はお前と繁殖しよう)
(えっ・・・)
繁殖しようと言う念話に一瞬だが固まってしまうインスティントだ。
(するするするする。今すぐしよう!!)
(こら。2つの試練を乗り越えたらの話だ)
(やる。絶対にやる。やってやるぞぉぉぉぉぉ!!)
与えた餌が思った以上に効果的だったので呆れたフィドキアだった。
(ただし、期限は我らが神から賜った、下界の眷族と繁殖に向うまでの間だ。試練に時間が掛れば繁殖の時間が無いと知れ)
(うおおおぉぉぉぉぉぉ!! 燃えて来たぁぁぁぁぁ!!)
既にヤル気を見せて戦闘態勢を整えたインスティントは体中に炎を纏っている。
(では始めるぞ!!)
「ギャオオオオォォォォン!!」と雄叫びを上げるインスティントだ。
ひとっ跳びで2体の距離をとったフィドキアだ。
(我が破滅のスピリートムを受けてみよ)
(あたし極炎のスピリートムで防いで見せるわ)
片方からは黒い炎が
迎え撃つもう片方からは、真っ赤に燃えた灼熱の炎が勢いよく吐き出された。
黒と赤い炎が激しく激突する。
激しい閃光の後にかなりの衝撃波が四方に飛び、2体が吹き飛ばされそうになった。
後からに大音量の爆発音が聞こえて来る。
「ぬうぅぅ」
「キャァァ」
思わず目を閉じたインスティントだ。
近づいて来たフィドキアが問いかけた。
(中々のスビリートムだったぞインス。だが、警戒は怠るな。常に戦闘態勢を取れ。良いな)
衝撃波で纏っていた炎が消え呆気に取られていたが、直ぐに我に返る。
(それって合格って事?)
(ふむ、1つはな。だがもう1つは簡単にはいかんぞ)
(倒す。絶対に倒す。そして繁殖だぁぁぁ!!)
再度全身に炎を纏わせて全力で戦いを挑むインスティントを迎え撃つフィドキアだった。
そしてインスの情熱が功を奏したのか、それともフィドキアが手を抜いたのかは定かでは無いが、3日3晩戦い続けた後にフィドキアがインスを抱きしめて念話した。
(認めよう。お前の強さを)
(本当にぃ!! じゃ・・・)
(ふむ、まずは身体を癒せ。明日お前の部屋に行こう)
(うん!!)
※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero
龍国では地上生物を持ちこみ、数多の繁殖実験が繰り返された経緯がある。
強制的に異なる種族の繁殖や遺伝子操作なども行なわれた。
その中には僕達の人体実験もあった。
そして、僕と龍人の身体構成は非常に酷似している。
生物実験の研究成果で比較的繁殖頻度が遅い僕を強制的に懐妊させる魔法の開発も成功していた。
眷族の末端である僕でさえ自然交配の確率は低く、龍人と成ればその可能性は更に低い事が想像できるだろう。
事実、第1ビダのロサは1000年単位の時間をかけて繁殖したのだから。
ラソンが余りにも短時間で繁殖に挑んだのは、ひとえに愛する思いの為だ。
懸念していた事も愛する気持ちが有れば乗り越えられると思っていたからだ。
しかし、結果は何も起こらなかった。
悲しみだけが残り、僕達に伝播するほど見るに耐えない落ち込みようだと噂になっていた。
そんな噂は七天龍の第1ビダ、ヒラソルの僕の耳にも入って来る。
自分の愛娘が同じ結果を見るのは確実だと判断してしまうが、一計を思い付く。
魔法と魔法陣に魔導具開発専門の第2ビダ達の中から、自らの眷族であるシエロを呼び寄せた。
第2ビダ達の研究開発は生物実験も含まれており、それぞれの眷族に別れて目的別に研究を行なっている。
「シエロ、以前報告書で見た強制的に繁殖させる魔法は、僕やお前達ビダにも効果はあるのか?」
「はい、僕は実験で確認しております。我らと僕は身体構成に臓器が酷似していますから問題無く効果が出ると思われます」
「そうか。ではその魔法をインスに施して欲しい」
「は? 魔法の取得では無く、魔法の効果を与えるのですか?」
「そうだ」
「それは・・・畏まりました」
(何故、どうして、一体インスに何と掛け合わせたいの?)
瞬時に思い訂正したシエロだ。
第一と第二だが共にヒラソルの子だ。
気になるのは当たり前だが出過ぎた事は口に出さない。
※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero
強制的に受胎させる方法をインスに施す為に会いに来たシエロ。
「やぁインス元気?」
「シエロ、久しぶり。元気そうね」
「ええ、貴女も相変わらずみたいね」
何気ない挨拶を交わし、最近の事を話しながら本題に入るシエロだ。
「ところでインスぅ。貴女、誰かと交配するの?」
その質問に驚きを隠せなかったインスだ。
「ど、どうしてその事を! 誰に聞いたのぉ!!」
「お母様よ。それでね、貴女が懐妊しやすくするために魔法を施す為にあたしが来た訳」
その言葉に喜びを隠せない乙女だ。
「あぁ、シエロぉ。持つべき者は眷族よねぇ」
シエロに抱き付いて喜ぶインスだ。
「それで、誰と交配するの?」
「それはぁ・・・」
「何よぉ言いなさいよぉ」
「えぇ恥ずかしいよぉ」
「言わなきゃ魔法を使わないからね」
「ちょっとぉ、言うわよ・・・フィ・・・」
「えっ何っ?」
「・・・・」
「聞こえなぁい。そっか、魔法はいらないんだぁ」
「あぁもうぉ、フィドキアよぉ」
「やったじゃないインスぅ」
「へへぇ」
2人の恋話で盛り上がった後、魔法を施した。
「いい? この魔法は一度使えばある程度効果が持続する特別な魔法だから」
「そうなの? どの位持続するの?」
「過去の実験では最も長い期間で100年ほどだったかな?」
「だけど、一度懐妊すれば効果は無くなるから」
「解かったわ。じゃやって頂戴」
露わになったインスの下腹部に両手をそっと置くシエロだ。
左右で違う魔法陣が発動し体内に吸収されていった。
「はい。終わったわ」
「ええっ、もう終わりなのぉ」
「そうよ。特に痛くも無いでしょ。そう言う魔法だもの」
「ふぅぅん」
親と眷族の協力を
「さぁぁ、やるぞぉぉぉ!!」
勢い余って口から出た言葉をシエロに聞かれ、恥ずかしい思いをするインスティントだった。
Epílogo
Spiritum=息=ブレス
果たして、インスは懐妊するのでしょうか?
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