第14話 それぞれの思い

至福の時。

しかし、それはいつしか焦りに変わっていた。

何故ならば、定められた時の期限が迫っているからだ。

なのに全く懐妊の兆しが無いのだ。

予兆も母から聞いており、あらゆる手段を講じて来たにも関わらず懐妊しないのだった。

そして焦りが苛立ちとなり相手にぶつけてしまう事もある。


本龍は理解しているつもりだった。

短い期間での繁殖は賭けだったと。

インスよりも先にフィドキアの側に居たかった思いが、その夢は壊れかけていた。

無口なフィドキアと些細な事で口論となるが、思いをぶつければぶつけるほど相手は口を閉ざしてしまう。

やるせない気持ちが龍人としての職務を停滞させる程だった。


「ラソン。貴女の気持ちは解かるわ。でも限られた残りの時間を悔いの無いようにね」


母からの言葉にも頷くだけだ。

解っている。

自分の望んだ事だ。

理解している。

今、何をするべきかを。


この数日、口喧嘩が元でフィドキアと会っていない。

やるべき事は謝る事。

そして全ての愛を捧げる事。

例え結果がどのようになろうとも・・・

許された時を一緒に居たい。

「フィドキアァ・・・」



※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero



そんなラソンが絶好調だった頃、インスティントの耳に僕から情報が入って来た。


「ラソン様とフィドキア様が交配されているとの事です」

「ふぅ~ん。じゃあたしも交配しようかな」


あっけらかんとしたインスティントが僕に事情を探らせた。

僕同士で情報の共有も行なっているが、恋愛関係の情報は僕達にとっても楽しいネタなのだ。


ラソンは恋愛感情の元で自然交配を基本に考えているが、龍国では龍為的な交配も実験的に行われている。

多種多様な交配で生み出された新種は地上世界に放たれて観察される。


ある時、フィドキアに思いを打ち明けたインスだった。

「ねぇ、あたしも貴男と交配したいなぁ」

「・・・今は出来ない。それに我らの交配は神からの命令だ。我らの一存では出来ないのだ」


あっさりと否定されたが、決定的な情報を入手したインス。

(じゃ、お母様にお願いして、神様に何とかしてもらおう)


安易な発想の元、母である第1ビダのヒラソルに懇願した。

「ねぇお母様。あたしもフィドキアと交配したいよぉ」


突然の問いかけに訳が解らなかったヒラソルは詳しくインスに確かめた。

「・・・そう。だったら我が創造主たるフォルティス・プリム様にお願いするよりも、テネブリス・アダマス様に掛け合った方が良いわね」


ヒラソルの母、使徒のフォルティス・プリムは七天龍セプティモ・カエロと外出が多い。

閉ざされた龍国から出て宇宙空間を探索しているのだ。

その大事な仕事中に娘の我が儘をお願いしたりはしないし、より良い方法を知っているからだ。


一応名前は”姉の物”となったが本龍からは以前と変わらなく接して欲しいとの要望で、ヒラソルにナルキッスとプリムラにも定期的に会っていたロサだ。


無論、会って何をするのかは言うまでもない。

それぞれに永遠の愛を確かめる為だ。


だが、フィドキアの交配に関してはヒラソルも知らない事だっだ。

そんな事をするのは”姉”の企みに決まっている。

そんな企みに横槍を入れようとする妹が動く事にした。


そんな思いを胸に、定期的に訪れるロサに詰め寄るヒラソルだった。

「ロサッ、貴男にお願いがあるの。あたしのお願いだから叶えてくれるわよね」


会って早々に迫ってくるヒラソルに狼狽えるロサだ。

「フィドキアとラソンが交配しているそうじゅない。何故あたしには教えてくれなかったの? インスが焼餅焼くとでも思ったの?」

「んっ、あっああ。そうだなぁ」

内緒にしていた事がバレたので、しどろもどろのロサだ。


「インスは女の子よ。そしてフィドキアの事が好きなの・・・何を言いたいか解かるわよね」

「・・・まぁな。だがカマラダやバレンティアも居るではないか」

「あの子達は若すぎるわ。それにインスの気持ちが大事よ」

「・・・」

一応困った表情を見せるロサ。

「それとも姉さんの子だけを受け入れて、あたしの子はダメだって言うの!?」

眉間にシワを寄せて怒気が膨らむヒラソルの顔にゾクッとしたロサだ。

「まっ待て、ヒラソル。話せばわかる」

「へぇ、何を話すと言うのかしら。教えて頂戴」


龍種の中では最強を誇るセプティモ・カエロの眷族と認識しているロサだ。

ヒラソルと争う事など無いし、愛する者を傷付ける事など絶対に無いと考えているロサだ。


「あれは我らが神の決めた事だ。我らがフィドキアに命じた事では無い」

本当の事だが、責任転換してヒラソルの怒気を治める事に成功する。


「じゃ姉さんが神様にお願いしたのね。だったらあたしもお願いするわ。テネブリス様からの命令だったら問題無いわよね、ロサ?」

「あっ、ああ」



※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero



ヒラソルは宇宙探索から戻って来た母、使徒のフォルティス・プリムと七天龍セプティモ・カエロに説明した。


「ヒラソルよ。ではインスは強い子を作れるのだな?」

「勿論です、我が神よ。フィドキアとインスの子であれば間違い無く」

「そうか。じゃ、姉貴に掛け合って来るか・・・」


燃える様な赤い髪を揺らしながら、身体から溢れ出る熱量が近づく者を警戒させるほどの攻撃的な印象を持つ女性が颯爽と歩いている。


お供は一体だけだ。

後ろから付き従う女性も同様の熱気を帯びている。

最強の肩書きを持つ七天龍セプティモ・カエロだ。

付き従うのは使徒のフォルティス・プリム。


セプティモ母娘は始祖龍スプレムス・オリゴーに命ぜられ、外界(暗黒空間。宇宙空間とも言う)の探索を行なっている。

龍国での仕事は第1ビダのヒラソルと第2ビダのシエロが行ない、龍人のインスティントは成龍となったが、まだ成龍形態の修行中だ。


第2ビダのシエロが特化して開発している魔法は熱量の加速減速と探索系だ。

これは属性魔法と外界を探索するうえで必要な選択だった。

また、開発された魔法は第2ビダ同士で共有されるので、必要な魔法を分け与えたり要望して開発している。


「七天龍セプティモ・カエロ様と、使徒のフォルティス・プリム様が御見えになりました」


気怠い表情でうたた寝をしていた女性がハッと起き、近づいて来る2体を迎え入れた。


「セプゥゥ~。良く来てくれたわぁ、お姉ちゃん嬉しいぃ!!」


飛び付いて抱きしめてくる姉に困惑する妹だ。


アルブマとは違い、セプティモに対してはデレデレに可愛がるテネブリスだ。

何故ならアルブマに対してはテネブリスが龍種としての道理を教えたが、セプティムにはアルブマが教えている。


テネブリスは蔭から見守りセプティムの長所を伸ばそうとしていたのだ。

褒めて煽てる作戦だったがその結果、最強を目指す様になったセプティム。

テネブリスは自分の助言がなぜ最強を目指すようになったのか理解出来なくてアルブマとよく相談していた。


「あっ、ああ。姉貴ぃ、今日はお願いがあって来たけど聞いてくれるか?」

「勿論よ。貴女の願いなら何でも叶えてあげるわぁ」


満面の笑みで答える神の一柱にホッとするフォルティスだった。


「さぁ2人共いらっしゃい」

テネブリスに連れられて部屋の奥に入る2体だ。


「それで、一体どうしたの?」

「フィドキアとラソンが交配していると聞いたけど、うちのインスティントも交配させて欲しい」

「そうねぇ。・・・良いわよ」

「「良かったぁ」」

ホッとするセプティモと、使徒のフォルティス。


「でも余り時間が無いわねぇ」

「姉貴、何の時間?」


セプティモも知っているはずだが、確認の意味で教えたテネブリス。


「我らの眷族の末裔に龍人の因子を与える実験よ。その末裔の5種族が安定するまでの間であればって条件だったの」

「姉貴、それはどの位の期間なの?」

「私が聞いたのは200年チョットかな? だからラソンには200年間だけ許可したの」


「じゃ、ラソンの後すぐにインスと交配すれば良いわね」

「はい」

要望が叶ったと安心するセプティモと、使徒のフォルティスだ。


「2人共、時間が無いと言ったでしょ」

「大丈夫よ」

「あのねぇ。数回で子を成すと思ってるのぉ?」

姉の問いかけに本来の目的を間違っていた事を理解した。

そもそも2体は繁殖する必要が無いし、出来ないのでその部分が抜け落ちているのだ。


「ラソンだって子が出来ない可能性も有るのよ。短い期間で出来るとも思えないわ。ヒラソルにも聞いた方が良いわよ」

「えっ? うちのヒラソルに何を聞けば良いの?」

「もう、ヒラソルが繁殖した期間とか方法よ」

「そうか、流石は姉貴。早速戻って聞いてみる」


先走るセプティモに使徒のフォルティスが確認する。

「ではテネブリス様、フィドキアとインスの交配は御許可頂いて宜しいですね?」

「ええ」

「交配の期間はどの位でしょうか?」

「そうねぇ、ラソンが終わってから下界に行くまでの間かしら。100年も無いわよ!?」

「ありがとうございます」


テネブリスに承諾を得た2体は喜び勇んで自分達の領域に戻って行った。


「フォルティス、交配の期間が短いが大丈夫なのか?」

「お母様、あたしに考えが有ります」

「ラソンが交配を始めてから100年以上が立っているぞ。それなのに懐妊の知らせは入っていないからなぁ。どんな考えなの?」


「はい、第2ビダのシエロが研究している加速と、探索の魔法を応用して懐妊する確率を早めるのです」

「そう任せるわ、フォルティス」

「はい、お母様」


当初、加速は攻撃魔法の熱量を増やす目的だったが、人体の行動においての効力に発展し、治癒魔法との共同研究や身体の部位や組織と個別に研究され、繁殖を行なう組織との共同研究も有った。


目的は異種族同士の繁殖を魔法的、技術的に早め、受胎した個体の成長を加速させる事だ。


情報は共有されているが、実際に行なえるかは別だ。

その点、種族特性を持つインスティントであれば、開発した魔法を使い数回で受胎すると考えていたフォルティスだ。


その事をヒラソルに説明し実行に移そうとするが、ラソンの期間が終わるギリギリまでインスティントに教える事は止めにしたのだ。


インスティントの性格を知る2人なら、直前に教えた方が良いと考えたのだ。

目標を与えると我武者羅に突き進むインスティント。

フィドキアを慕う気持ちも一途で歯がゆく思うヒラソルだ。

生みの親としては娘の気持ちを叶えさせたいが、我慢して準備するのだった。






Epílogo

龍人達に子供は出来るのか?

セプティモ・カエロの姉とは漆黒の髪を持つ女性の事です。

龍為的=人為的

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