閑話・エレストル三話


 ガイアめ! ここまでやるか! お前の息子クロノスを含めた十二神!


「冥友達よ! 引きなさい! おさ達よ、十二神を止めるわよ!」


 十二神に敵いそうに無い冥友達を引かせ、各種族のおさ達を並び立たせ迎え撃つわ。もちろん私も行くわよ。ミーちゃんは冥界樹の傍で待機、こいつらの相手は無理ね。


「解放なさい!」


 おさ達を縛る戒めを解き、本来の異形で迎撃させるわ。ある者は翼を携えた大悪魔、ある者は大きく偉大で気高い狼、また幽鬼の長は死神鎌を構え待ち、アスモデウスは気の入れすぎで軍服が弾け飛んでいるわ。やっぱり軍服いらないわよね?

 こちらの長達が七十二体、行くわよっ!


 全速で走り出すと相手も応えるようにこちらへ向かって走り出したわ。右手を前へ突き出し力を放出、黒い稲妻が空間を裂きながら走っていくわ。でも稲妻は簡単にクロノスに防がれ弾かれた……クロノスの鎌の斬撃が来るわ、避けなきゃ……地を滑り込み斬撃を避け振り返ると、巻き込まれ切り刻まれた冥友が十体ほどいたわ……。


 そんな簡単に切られる者達ではないのよ!? なんなの! 神はいつも反則技を使うわね!

 鞭を出しクロノスの足を捉えて転ばす、その上から黒い稲妻と同時に金的に蹴りを入れるわ。神に金的は効かないけれど気分ね。

 悲鳴を上げながらゴロゴロと横に転がっていくけれど、あら? 金的効くのかしら?


 クロノスはすぐに立ち上がり私を睨み付ける、やだ、熱い視線を受けたいのはオーリス様だけよ。お前はいらないわよ。

 ニヤリと笑いかけまた金的蹴るわよ? と言わんばかりに蹴りの仕草をすると、クロノスは金的を押さえちょっと腰を引いたわね。こいつらには効くのね。


 みんなボロボロになりながら応戦しているわ、狼は無数の傷に耐えながら、アスモデウスは左腕を無くしたのね。


 その時、私の頭に体に心にオーリス様の死が走ったわ……そんな……冥友達にも走ったようね……ああ、オーリス様! なぜ!? 誰に!?


 脱力している冥友達を十二神が次々と斬り捨てていく……ここまで、なの?


 クロノスがニヤニヤと下卑た笑いをしながら言うわ。


「どうやら太母ガイアが貴様らの主を殺ったようだな? フハハハハ!」



 そう……そうなの、ガイアがやったのね? お前達の母がやったのね?


 私のオーリス様を、私達の主を、キ、キサマラガァァァァ!



 漆黒の髪が逆立つ姿を見た者には死を。

 金色に鈍く光る瞳を覗く者には快楽を。

 口は跳ね上がり響く声は全身を浸蝕し絶望に打ちひしがれる。

 そこに慈悲は無い。

 見よこの醜い様を、聞けこの厭わしい汚声を。

 嘆くがよい、このモノの前に居る事を。



 魔剣を両手に喚び出し次々と十二神共を狩って行く。もうお前達は帰れない、もうお前達に持てる物はない、死ね、疾く死ね。私に狩られる事に喜び悔やみ憎しみながら死ね。お前達の憎悪を寄越せ、後悔を渡せ、私が畏怖を教えてやろう。



 死にに来たんでしょう?



 狩り続けて残るはクロノスとレイア。フフ、レイアは怯えているわ。弄んだりしない。

 即、殺す。

 レイアに向け魔剣を十字に切ると、その形のまま体が別れて行き四つの醜い肉塊が小さな無数の光になって消え去ったわ。


「貴様ァ! 我が妻レイアを! よくも! よくも!」


 はぁ? 馬鹿じゃないのかしら? これは戦争でしょう? お前達の一方的な制裁などあり得ないわ。私達の冥友はちゃんと分かって戦っているのよ。お前だけが何も分かっていない。

 一方的な蹂躙しかした事のないお坊ちゃま、もう、いいわよね? 死になさいな。


 魔剣を構え斬撃を放とうとした瞬間、クロノスを光が包み消え去ったわ。

 ちっ、ガイアめ。我が子可愛さに無理を通してまで天界へ引き上げさせたわね。


 それよりオーリス様! ああ、繋がりを感じられない、どこにもいらっしゃらない、なぜ? なぜ? アアアア!



 私達の主をなくした冥友達はその場へ座り込み、泣き崩れ、絶叫をあげているわ。

 周りを見渡すと街は破壊し尽くされ、無事なのは冥王城だけね。城の庭へ行き冥界樹の傍に居たミーちゃんに真実を告げるわ。


「私の目を見て。落ちついて、いいわね?」


 不思議そうにしながらも頷き、私の目をしっかりと見据えるミーちゃん。


「オーリス様が身罷られたわ」


「なっ! え!? は? な、なんとおっしゃいました?」


「オーリス様が身罷られたのよ。詳しい状況がわからないわ、ロムダレンへ行きましょう? もしオーリス様の眷属が存在してたら、あるいは……」


「え? オーリス様が……? そんな……」


 脱力して倒れそうになるミーちゃんを支え、冥界樹に上へ送るよう命ずるわ。上と繋がった冥界樹はすぐに送る事が出来るからね。


「冥界樹。上へ送りなさい。オーリス様が力を注いだ場所へ」


「送る送る」


 樹の幹が開き、私達がそこへ入ると閉じて真っ暗になって、また開くとそこはもう地上だったわ。

 冥界樹の周りには獣人と、アルテミス、アポロン、ポセイドンまで居るわね。

 冥界樹から出てきた私達にその者達は驚き、私と分かると声をかけてきたわ。


「エレストルか、どうした? なぜこんな所から?」


 アルテミスね、こいつ……実体ね。消滅したいのかしら?


「私が聞きたいわ。なぜここに貴方達がいるのかしら?」


「ああ、俺達はオーリスの傍なら安全だろって親父から言われてよ」


 親父? ああ、ゼウスね。クロノスの子、クロノスの子ォ!

 お前はクロノスの孫だったなッ!


 魔剣を喚び返事をしたアポロンに斬り付けると、ポセイドンがそれを止めたわ、ちっ。

 ポセイドンもクロノスの子よね。殺す。


「なんじゃー急に? お嬢さんは兄者の傍に居る者だろう? いかんぞう、此奴らは兄者が預かり庇護しておる。兄者の意思に反する事になるぞう」


 双子とポセイドンは消滅さす。心のトゥドゥリスト最優先にしておくわ。


 何者かが私の腰に抱きついて来て、反応できなかった事とその勢いに驚いて見て見ると、オーリス様の眷属、ヌルちゃんだったわ。


 ああ、よかった。ヌルちゃんが存在しているという事は完全消滅ではないわ。今頃はきっと神界ね。


「エレストルぅー! オーリスがっ! オーリスが!」


「わかってる。ガイアは殺す。これは確定未来よ」


「おい貴様、何を言っておる。妾が許すと思うのか?」


 アルテミスの許しなどいらないわ。


「まぁ、ちっと皆落ち着けや。兄者がどうかしたのかの?」


「オーリスが死んだっ……うぅ、うわああああああ」


 ヌルちゃんが感極まって泣き始めたわ、我慢していたのね、よしよし。

 ヌルちゃんに触発されてミーちゃんも泣き叫び始めたわね、こちらもよしよし。


「な! 兄者が! そんな、誰に!? 太母か!」


「馬鹿な! 彼奴の負ける姿など想像出来んぞ」


「姉ちゃん、そう言えばさっき真名が返って来たよな? あれって……」


「ヌルちゃん、大丈夫よ。あなたがまだ存在しているのだから。ね?」


 ヌルちゃんはそう言えば! と気がついたように私の顔をじっと見て、うんと頷いたわ。


「ヌルちゃん、傍に居たのよね? その時の事を教えてちょうだいな」


 私からそっと離れて涙を拭うと、思い出したくないように顔をしかめ、それでも私に教えてくれたわ。


「ゼウスとミカエルを倒したっ。その後すぐに空から二つの光がオーリスに向かって来て、貫いた。……わたしはオーリスを支えようとしたけど、オーリスから突き放されて……またすぐに二つの光がオーリスを消した……」


「そう……オーリス様はヌルちゃんを巻き込みたくなかったのね」


「わたしは一緒に逝きたかった! この前も逝けなかった! なんで! なんで!」


「例え再召喚してヌルちゃんが復活できるとしても、オーリス様はヌルちゃんが消える所を見たくなかったのよ」


「うん、うん。わかってるっ。わかってる! けど!」


「よしよし。オーリス様を待ちましょう? 戻られたら文句言いましょうね?」


「うん……うんっ」


 オーリス様はきっと戻られる。それがいつになられるかわからないけれど、いつまでも待つわ。私達は永劫の時を生きる者達だから、ね。


 しかし……オーリス様を貫いた二つの光? ガイアと……誰?

 やはり聖皇国と手を組んだのかしらね。相反する存在だと思うのだけれど……。


「アルテミスとアポロン、ポセイドンは自分が居るべき所へ戻りなさいな。ここに居るなら殺すわ」


「う、うむ。そうじゃのう、戻った方がいいようだのう。ワシらはここでは敵側じゃしな」


「わ、わかった。しかし何か助けが必要な時は妾を喚ぶがよい」


「おう、復活したオーリスによろしくな」


 ポセイドン、アルテミス、アポロンは私の威圧を込めた言葉に戸惑いながら、それぞれ在るべき所へ戻って行ったわ。


 少し落ちついて話をしましょうね。この村にオーリス様の家があると聞きそこへ向かったわ。中は落ちついた雰囲気で全部木で出来ているのね。誰が建てたか分からないけれど良い感じだわ。


「エレストルっ。これから……どうするの?」


 ヌルちゃんが私の淹れたお茶を一口飲み、意を決したように聞いてきたわ。この子、放っておいたら何としてでもガイアの元へ行こうとするわね。駄目よ、あなたでは敵わないわ。


「ここでオーリス様を待つわ。冥府と繋がっている冥界樹の元が一番安全よ」


「ガイアは!? 放っておくの!?」


「さすがに私でもガイアに立ち向かうのは無理よ。オーリス様がいないと、ね。それにあいつはオーリス様の獲物。横取りしちゃ駄目でしょう?」


 優しく諭すように伝えると、そっか……と納得したみたいね。


「エレストル様。わたくしは……」


「ミーちゃんもここで待つのよ。オーリス様からの命だし、何より私が、私の意思でミーちゃんを守りたいから、ね」


「は、い……ありがとうございます」


 ガイアがここまでやるとなると、羽達も心配ね。迎えに行った方がいいわね。明日にでも気配を辿って行こうかしらね。


 冥友達にも知らせなきゃね。家を出て、冥界樹に手を添えて命ずるわ。


「冥界樹。冥友達に伝えなさい。オーリス様はおそらく今、神界におわす、復活を待ちなさい、オーリス様の為に冥府の立て直しをしなさい、と」


「伝える伝える」


 これでよし、と。ふぅっと息を吐くと、誰かがダダダッと走ってきて家に入っていったわ。獣人に見えたけど、誰かしらね。


 家の中に入ると黒猫の獣人がミーちゃんに話しかけていたわ。


「オーリス様が死んだって聞いたにゃ! 本当かにゃ!」


「テリサ……ええ、本当ですわ。でも、いま復活している最中らしいですわ」


 黒猫の獣人はテリサちゃんと言うのね。可愛らしいわ。ミーちゃんの知り合いなのね。


「復活!? 戻ってくるにゃ?」


「テリサっ。オーリスは戻ってくる! ここで、みんなで待つの!」


 ヌルちゃんも知り合いなのね。


「さ、三馬鹿はどうしたにゃ?」


「消滅したっ……」


「そ、そんにゃ……まだあいつらに一発入れてないにゃ! 驚かされてばっかりで、やり返してないにゃ!」


 テリサちゃんは涙目になりながらそう訴えているわ。三馬鹿ってオーリス様の眷属達よね? ぴったりの名前ね。テリサちゃんは眷属達が好きなのね。


「テリサちゃん? 私はエレストルよ、よろしくね。眷属達はオーリス様が復活なされたらまた喚べるわよ」


「そうなのにゃ? よかったにゃ……にゃ!? よくないにゃ! もう喚ばなくてもいいにゃ!」


 そう叫びながらまたダダダッと家を出て走って行ったわ。面白い子ね。

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