閑話・エレストル二話


 天使達が私達に向け聖なる光を放つけれど、私はもちろんウィガールを着たミーちゃんには通じないわ。天使達はミーちゃんに任せて私はラファエルね。うふふ、どんな声で鳴いてくれるのかしら?


「ラファエルちゃん、私が調教ころしてあげるわ」


「くっ。魔王エレストルか! なぜこのような所に! くそっ!」


 私に剣を振りかぶり切りつけようとするけれど、そんな速さじゃ無理よ。三大天使の聖なる光も効かないわ。

 足を掬って転ばせてあげるわね。私の番ね?


 うふふ、まずは翼をもぎ取るわね? その不浄の腕は要らないわね? 鼻も耳も目も。



 要らないわね?



「ぎゃあああっ! 父よ! 我らの父よ! この悪行をお赦しになるのか! ぐうっ……不埒なこの者に聖なる裁きをーっ!」


 うふふ、天使に依り代は造れないから貴方実体なのよね。私が傷つけたら修復も出来ないでしょう? 良い顔になってきたわ、いい声で鳴き始めたわ。鞭打ってその身に私を染みこませてあげるわね。ピシィッ!


 アハ……アハハハハ! もっと鳴きなさいな、足掻きなさい、慈悲を請いなさい! アハハハハ! 私を愛しなさいな!


「も、もう……や、やめて」


 まだよ。まだ消滅して死んでないでしょう? 貴方をここへ遣わした者を恨みなさいな。悔しいわよね、憎いわよね、でもね、私が愛してあげるわ。私だけが貴方を愛してあげるのよ。さぁ、委ねなさい、縋りなさい。


 そして死になさい。



 うふふ、堪能したわ。ミーちゃんは……まだ頑張ってるわね……。長いわね、もう飽きたわ。


「ミーちゃん、グラムの柄頭を押し込みなさい」


 ミーちゃんが私の言う通りに柄頭を押し込むと、刀身から真っ赤な光が溢れ出してきたわ。準備はいいわね。


「最速の一撃を振り抜きなさいな!」


 ミーちゃんはグラムを脇構えにし力を溜め込むようにじぃっと天使、敵兵を睨んでいるわ。

 そして横に一閃。追いかけるようにグラムから真っ赤な光が伸び出て奴らを斬り払ったわね。この子、剣の才能あるのではないかしら。グラムがいつもより楽しそうに踊っていたしね。ウィガールもよく守ってくれたわね。二体はミーちゃんに任せようかしら。


「エレストル様! わたくしは! わたくしがっ!」


 私の呼び方も戻っているし興奮して言いたい事が纏まらないようね。いいのよ、落ちついてからで、ね。

 ノバル王国側を見ると、そこには後方に居た指揮官らしき者達だけが立ちすくんでいたわ。さぁ、ロムダレン兵達、捕らえなさい。


 もう私達の用は終わりとばかりにそこを引き上げ、またミーちゃんを抱えて王都へ飛んだわ。もうノバル王国へ聖皇国からの援軍は来ないからね。ノバル王への報復はヴォルブがしないと、ね。



 王城へ戻ってヴォルブに引き継ぎね。我が子を戦場に送ったのだから心配でしょうしね。


「戻ったわよ。国境での初戦は圧勝ね。ロムダレン兵士は一人も死んでいないわ」


 ヴォルブの執務室へ入るなりそう言ってあげたわ。報告は正確、簡潔にね。


「おう! よくやってくれた! ミージンもよくやったぞ」


 立ち上がって嬉しそうに笑顔で迎えてくれ、ミーちゃんをハグしようとして躱されてるわ。少し照れくさそうにソファーへ座るよう勧めてくれたわ。


「ミージンのその鎧はどうした?」


「エレストル様からお借り致しました」


 そうね、ウィガールとグラムはそのままだったわね。


「その二体はミーちゃんの配下にしなさいな。血を少し垂らして受け入れられればその事が分かるわ」


「配下? 生きているのか、ソレ?」


「そうよ。普段は脱いでおいて護衛騎士にしなさい。鎧のままだけれど形状は変化させられるから女性型騎士にすればいいわ」


 ミーちゃんが私の言葉通りに籠手をはずして、ヴォルブから借りたナイフで指先を少し切りウィガールとグラムに血を垂らしたわ。血はちゃんと出るのね。すぐ配下になったようね、ミーちゃんの表情からも分かるわね。


「ウィガール、グラム。女性型鎧騎士になって下さいまし」


 ミーちゃんがそう命ずるとウィガールが解体され、ミーちゃんの隣に再構築、グラムを帯剣した女性型騎士になったわね。上出来よ。

 鎧下姿のミーちゃんを見て、侍女がすぐに服を用意してくれたわ。


「ありがとうございます、エレストル様。大切な友人として信頼を築きたいと思いますわ」


 そうね、それは大事なことよ。配下、無機物とは言え、物では無いのよね。ちゃんと分かっているようね。さすがは私の子供! (に、なる予定)



「さぁ、次はヴォルブ陛下の出番よ。蹂躙しなさいな」


 私がそう言うと魔王の笑みを浮かべ瞳が金色に変わったわね。うふふ、ヴォルブの活躍は見たいけれど冥府に戻らなきゃね。あちらに攻め込んで来そうな未来視があるのよね、まだはっきりしないのだけれど。


「私と王女殿下は冥府、貴方達の言葉で言う冥界に行くわ」


「冥界へ? なぜだ?」


「冥府はオーリス様の家。家を守るのは妻の仕事よ」


「そ、そうか。危険は無いのか?」


「ここよりは安全かもしれないわね」


「わかった。ミージンを頼む。ミージン、冥界特使とし派遣する。見聞を広めよ」


 ホント人間面倒、いちいち理由付けしなければならないのかしら。


「拝命致しました」


「オーリスの方はどうだ、何か連絡あったか?」


 オーリス様なら大丈夫よ。まぁ、そうね、ロムダレン国の国王直々に様子を聞いてきたから少し覗いてみましょうね。これは個人的な興味では無く国王の依頼だから仕方ないわよね。

 オーリス様はイージスの盾を持っていらしたわね。協力して貰いましょう。


「イージスの盾フィーア、オーリス様の様子を見せなさいな」


 鏡のように磨かれたイージスの盾は私の能力と合わさって、盾が映す風景を垣間見る事が出来ると思うわ。やったことはないけれど大丈夫よね。


 しばらくすると空中に人間の頭ほどある大きさの円窓が開いたわ。

 ああ、そこには愛しのオーリス様のお姿! なんて凜々しいの!

 あら? 白龍と話をしているわね。なに、この白龍! 頬を赤く染めてまるで恋する乙女じゃ無いのかしら? ああ、声は届かないからもどかしいわ。

 白龍の元から海岸へ戻られ……は? なんでセイレーンがそこに居るのよ。オーリス様を惑わしているのでは無いでしょうね! 殺すわ。

 ふぅぅ、落ち着こう。オーリス様はあんな小娘に惑わされるような方では無いわね。


 ええ!? なにあれ! オーリス様の像? 素敵! 冥府へ持って帰りたいわ。いえ、冥府でも造るべきね!


 お姿を堪能していると、オーリス様がイージスの盾を覗き込まれて何かおっしゃったわ。

 だ、め。駄目とおっしゃったのね、覗いているのがばれているわ。ここまでね。

 円窓が閉じてあちらの風景がもう見えなくなったわ。はぁ、数瞬でもお姿を拝見できて嬉しかったわ。


「オーリスは何も問題なさそうだな」


 ヴォルブがそう言うけれど、問題だらけよ! もう私だけを愛すように、オーリス様を時の牢獄に監禁してお世話した方がいいのかしら。


「エレストル様、エレストル様!」


 ハァハァ……いろいろと妄想しているとミーちゃんが心配そうに声を掛けてきたわ。納豆プレイは危険ね。


「早速行くわよ」


 休む暇を与えず、冥府への道を開き移動するわ。ミーちゃんはウィガールに守られながら歩いているけれど、ここは安全よ? 久し振りに護衛対象を得て嬉しいのかしら、何だか歓喜が伝わってくるわね。



 冥王城へ着くと配下の悪魔達が迎えてくれたわ。異変は無いようね。女性型悪魔、サキュバスに指示を与えましょうね。


「この方はオーリス様より託された護衛対象よ、私と同室にしなさい。常に行動を共にするわ。それと私の部屋に警備隊長を呼びなさい」


 サキュバスは了承の意に頭を下げる事で表しすぐに行動に移ったわ。私達は庭の冥界樹へ向かうわ。


「冥界樹。冥府に異変は無いかしら?」


「大丈夫大丈夫」


「そう、近く天使達が冥府に攻め込んでくるかもしれないわ。冥府から出ている冥友を全て呼び戻して、冥界の門を閉じなさい。一切の出入りを禁じ、近づく者は排除なさい」


「閉じて排除閉じて排除」


 天使達が攻めてくると聞いてミーちゃんがびっくりしているけれど、すぐに歪み笑いをし出したわ。頼りになりそうね。


 私室へ行き、ミーちゃんにお茶を淹れて一息付くと警備隊長が来たわ。

 身なりは濃い緑の軍服にロングブーツ、着帽せず制帽を脇に挟んでいるわね。背は私より高く筋骨隆々、人間の三十代男性を模倣しているわ。軍服は要らないわよね? と言った事もあるけれど、形から入りたい! と強い要望で押し切られたわ。


「エレストル様。お呼びと聞きました」


「アスモデウス、あなたの宿敵ラファエルを殺しちゃったわ。悪いわね」


「お……? おおう! ありがとうございます! とでも言うと思ったかこの野郎!」


 言葉遣いも形から入ろうとしているけれど、すぐに本性が出るのよね。


「野郎じゃないわよ、よく見なさいな。馬鹿なの?」


「見つけたら教えろって言ってただろうがぁ!」


「はぁ、なんなの? 他人任せなの? 自分でやれば良かったじゃない」


「教えろよ! どうせ趣味に走ってやり過ぎたんだろうがぁ!」


「そうよ、私は満足。あなたも宿敵が居なくなって満足。ウインウイン! はい、一緒に」


「ウインウイン! やるかアホウ!」


「やってるじゃない」


 堕天して悪魔になったアスモデウスは一度ラファエルに負け、復讐を望んでいたのだけれど私が先に殺っちゃって、何処に怒りを向ければいいかわからないのね。


「くそっ、くそっ!」


「はいはい、そんな事は些細な事よ。それより天使達がここに攻めてくるかもしれないわ」


「些細な事じゃねぇんだがな? くそっ。で、いつだ?」


「分からない。はっきり視えないのよ、上が邪魔しているのね」


「わかった。警戒態勢だな? すぐやる」


「超警戒態勢よ。門を閉じるわ」


「おう。他には?」


「冥友達を城へ集めて、全員ね。街じゃ把握できないわ」


「わかった」


「それじゃ、動いて」


 アスモデウスはさっと踵を返すと、その体型に似合わない素早い動きで部屋を出て行ったわ。


「ミーちゃんはウィガールを着けてなさいな」


 そう言うとミーちゃんはウィガールにお願いし装着すると、グラムを帯剣したわね、うん、これでいいわ。



 しばらくすると少しずつ騒がしくなってきたわ、冥友達が集まり始めたのね。謁見の広間へ行きましょう。


 広間へ行くと騒がしさがより大きくなって……五月蠅いわね?

 玉座の横に立ち手を上げ沈めて現状を伝えるわ。


「冥友達、天使達が攻めてくるわ。戦える者は城の周りで警戒、戦えない者はこの事をここに居ない者に伝え、戦える者のサポートをしなさいな」


 それだけ伝えまた私室へと戻ったわ。血気盛んな者達ばかりだから興奮してたわね、血の気がない者も居るけれどね。

 私達に連携など無い、各個撃破が基本ね。連携してたら却って弱くなるわ。



 冥府の守りを固めてから三日。冥界樹の様子がおかしいと連絡が来て庭に見に行くと、以前よりさらに大きく太くなっているわね。オーリス様の気配も漂っているわ。


「冥界樹、何かあったのかしら?」


「オーリスオーリス、力くれた力くれた」


 そう……オーリス様が力を注いでくれたのね。


「繋がった繋がった」


「何と繋がったのかしら?」


「森森、オーリス居るオーリス居る」


 オーリス様が居る森と繋がったのね。地表に冥界樹が出現したのだわ。オーリス様が注いだ力と地表の森とで冥界樹の守りはきっと倍増ね。



 その時、上空の空間が裂ける音がして光が注がれてきたわ。まずいわね、ここまで本気なの?

 幾筋もの光が注がれ、冥府の街がその度に爆発したように吹き飛んでいくわ。

 聖なる光……ラファエルの比ではないわね。これはガイアね……。

 爆発音は日常茶飯事だからみんな驚かずに城の周りを固め始めたわ。裂けた空間から天使達が降りてきて城へ向かってきているわね。失礼な奴らね、ちゃんと門があるでしょう? そこから訪問しなさいな!


「各個撃破開始なさい!」


 ミーちゃんが飛び出していきそうになるのを抑え、城の最上階から様子を窺うわ。

 冥友達は天使に負けていないわ、みんなで城を守りつつ撃破しているわね。


 城門上空に天使達が集まり、縦に輪になって回り始め、その輪の中心から光が城へ向かって発せられたわ。その光に冥友達は並んで盾を構えていたけれど、吹き飛ばされ城門も破壊されたわ……。

 無茶苦茶やるわね。占領じゃなくて殲滅しに来たのね。

 ああ、アスモデウスがそこに向かって行き槍を一閃。一撃で文字通り粉砕したわね。怒りの矛先を見つけたようね。

 それにしてもガイアと天使達……? ガイアの系譜に天使は居ないのよね。オーリス様とガイアと聖皇国の三竦みになるかと思ったけれど、手を組んだのかしら。どちらにせよ攻めてきている敵に違いは無いわね。


 今のところ冥友達が優勢ね。少しずつ押し返して消滅させて行っているわ。


 そこへ今までより大きな光が注がれ、何かまずい者が降りてきたようだわ。

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