第48話 光よ。あれ
ゼウスが
ゼウスの一撃は聖皇国側を引き裂き、その雷撃が大陸を真っ直ぐ走っていきます。雷撃は直線攻撃だけでは無く、空や地面からも雷が起こり天使達を消滅させていきました。
そんな中、結界を展開しているのか雷をはじき返しながら、聖皇国側から一体の者が前に出てきます。
なるほど、あの者がミシェル・ハーベストですね。三大天使の一体、ミカエル。命名が苦手なのは変わっていないようで、なんの捻りも無い名付けですね。男性体の姿を取り一対の美しい白い翼を輝かせながら、銀色に煌めくショートソードをその手に、にこやかに御業を放ちます。
その光は太陽に等しく、月でさえ陰る事を許さず。
奏でる音は祝福、全てに愛をもたらし、抗う事を諦めさせる。
放たれた御業にゼウスは何もする事が出来ず、左半身が消滅します。わざと残しましたね、ミカエル。意地の悪い癖はそのままのようです。
ゼウスは軍勢の神に支えられながらすでに左半身の再生を始めています。
「三大天使が来てたかよ。しかしなぁ、天使如きが神に抗えると思っているのかよっ!」
ゼウスがケラウノスから雷撃を速射します。よけるミカエルを雷が追従し次々と命中していきました。体を貫かれ膝を地に着けながらもどこか余裕がありそうです。
「
嘲るように言い放ち剣を振るうと、風圧とその後を追う炎の二段攻撃がゼウスを襲います。
ゼウスはケラウノスを縦にし雷を放射すると、その雷が盾型となり攻撃を弾き返しました。
「ほう、守りにも使えると。面白い。が、その前に覗き見している者を何とかしないと気になるのですよね」
ミカエルが私の方を見て手招きをしています。私は上空からミカエルとゼウスの間に降り立ち声をかけました。
『現人神はどうした。出て来ぬのか』
私の問いかけにミカエルが応えます。
「お久しぶりです、大天使長。挨拶も出来ぬようになられたとは嘆かわしい」
『こんばんは』
「はい、こんばんは。あの方はこのような場に居ていい存在ではあらせられませんよ。こんなゴミ共は私で充分です」
「糞がっ! ゴミだと? もう手加減しねぇぞ!」
ほぼ再生を終えたゼウスがミカエルを睨み、雷霆ケラウノスを向け雷を纏わせます。
確かに手加減をしていたのでしょう、本来の雷撃を放てばこの星その物が消滅しそうですしね。
「父の御名において雷を禁ずる」
ミカエルがそう言うとケラウノスに集まっていた雷が霧散し、その武器の輝きも消え去ります。
「いつでもあなたを消滅させる事は出来ますので、少し黙っていて下さい。今は大天使長と話をしているのです。異教神から吐かれる言葉は邪悪、沈黙せよ」
ミカエルの言葉にゼウスは言葉を発する事が出来なくなり、口をパクパクと開け閉めして出てこない声に驚愕しています。
「それで? 大天使長。なぜここに? また敵対すると? それとも何か言いたい事が?」
ミカエルの言葉に、頷き肯定します。
『貴様、名付けのセンスがないな』
「え!? ミシェルの事ですか!? え? 良い名前だと思うのですが!」
「オーリス様は他の者の事を言えません」
「たしかにー」
「たしかにー」
「たしかにっ」
「フィーもそう思います!」
私の後ろに隠れている眷属達から全否定されていますね。君達はどちら側でしたでしょうかね。
「な、名前などどうでもいいのですよ。さて大天使長、貴方の討伐令はまだ生きていますのでね、また消滅させてあげますよ。無駄な抵抗はしない方がいいと思いますよ」
『雷よ』
ミカエルが禁じた雷を喚び浴びせます。当然、効いてはいませんが驚いているようです。
「禁じた物を喚ぶとは……父よ、悪を打ち破るその御力を私にお与え下さい。父の御名において灼熱の炎を聖なる剣に纏わせ賜え」
そう唱えるとミカエルの持っていた剣に炎が纏われます。私は異形の姿になり対抗します。
その異形は混沌。
全ての界層の光と闇を集めて来たかのような混沌。
顔は無く、姿形を捉える事はあたわず、発する音は恍惚と醜悪。
広げた翼は光と闇。
羽の一枚一枚に生きとし生けるもの全ての定めがそこに渦巻く。
大きく包み込む両腕は摂理となり、何者にも変える事は出来ず、抗う事が出来ず。
赤く染まった眼は生と死。
その眼に魅入られた者は死を願い、再生を請う。
自らを受け入れ、愛し、喜び、そして殺す。
ミカエルが振るった剣戟を盾で受け流し、光と闇の羽を絡ませ放つ。その羽に左腕を飛ばされながらもミカエルは、地面から浄化の炎を現出させ焼き尽くそうとする。
この者の攻撃に梟ツヴァイの結界は通用しない。結界をまるで児戯であるかのように扱い、破壊し混沌を焼き尽くしていく。
眷属達はそれぞれの異形となり、初めから全力全開で立ち向かう。孔雀アインスはその羽を飛ばすが届かず、梟ツヴァイの小結界は展開さえ許されず、蝙蝠ドライの超指向性超音波にも怯まず、三眷属は一振りの剣戟に切り裂かれ消滅していった。
『光よ。あれ』
天界からの光を喚び出しミカエルに照射する。強すぎる光は毒となりその身を焼き、消滅させる。
「お前がっ! お前が父の言葉を使うなぁっ!」
逆上したミカエルが光を振りほどき我に向け剣戟を出す。盾で受け流そうとするがあまりの勢いに、盾に
振り切ったままの姿勢のミカエルを、後ろから獅子ヌルが爪を伸ばし引き裂こうとするが胴の半ばまで爪が入った所で止まり、その腕を掴まれ就撃に吹き飛ばれる。裂かれた胴から血は出ず、小さな光が少しずつ零れ落ちる。
『闇よ。あれ』
真の闇は自分の立ち位置が分からず、前後不覚になり、その静けさに耳が破壊される。いかに空間把握能力を持つ者でも我の闇に自らの存在を見いだす事は出来ず、光と時間も吸収する。
ミカエルから零れ落ちる小さな光は闇となり、裂かれた胴へ闇が吸い込まれる。
「ぐあああ! こんな事で! 私を消せると思うなー!」
ミカエルは目を閉じ耳を塞ぎ修復に専念しているようだ。だが修復が追い付かず闇に取り込まれようとしている。徐々に体が蝕まれ足先、指先と黒く染まっていき闇と一体化していく様がわかる。美しく輝いていた翼は、今では見る影も無く浸蝕されぼろぼろになって散っていく。
ここまでの真の闇は経験した事がないであろ?
「父の御名において命ずる! 闇よ去れ!」
言葉を発するが、闇は音さえ吸収しその効果が現れる事は無い。足がほぼ無くなり立てずにそこへ蹲るように崩れ落ちていく。
その時、一条の雷撃が闇を裂きミカエルが解放された。
『貴様、何をする』
「いやいや、兄様よ。それは俺の言葉だって。俺の獲物だろ、ソレ。横から入ってきたのは兄様だよなぁ?」
雷撃を放ったのは、雷禁じが破られ自由にケラウノスを使えるようになったゼウスであった。
闇から解放されたミカエルは足と腕、翼がもがれた状態で今にも消滅しそうである。意思は強くあるようで私を睨みつつ修復を始めている。
「で? 兄様よう、俺の獲物に手を出したオトシマエ。どうしてくれる?」
半身を一瞬で消されていた者がなぜこうも強く言えるのであろうか。
そうか、これがポジティブシンキングという奴なのだな。
『我が相手してやろう』
「おう! 久し振りの兄弟喧嘩だな! 全力で来いよ!」
『喧嘩では無い、制裁だ。これにサインせよ』
ゼウスの前に契約書を差し出しサインを求める。何も心配要らぬぞ、ゼウスよ。
「兄様よう。知ってるぜえコレ。サインしたらヤバイもんだろ?」
『正当な契約書である。我が貴様と対価無しで相手してやると思うか?』
「思うぜえっ!」
ゼウスが叫び、ケラウノスを我に向け雷撃を放つ。最初に放った聖皇国を横断した雷撃よりも威力が増している。これは避けると大陸が沈みそうだな。
『水よ』
大量の水が空から降り、地面から噴きだしてくる。
『水と水を分けよ』
集めた水を純水と不純物に分け、純水を我の盾とし雷撃を弾き返す。
返された雷撃はそのままゼウスへの攻撃とするが、天空神である奴には効かぬか。雷撃を吸収し自らの糧としておる。
『地よ、草よ、樹よ』
地面が割れゼウスの下半身を飲み込み、草と樹が上半身に巻き付く。幾重にも重なり身動きが取れなくなっていく。抵抗しているようだがただの植物では無い。冥界樹を喚んだ物であるから簡単には解けぬ。
『星よ』
数十の星の欠片を喚びゼウスを目掛け落とす。その勢いにクレーターが出来、星が落ちる度に体が地へめり込んでいく。
ゼウスの腕が潰れ、顔が半分潰れて無くなった時に、我の左足が吹き飛んだ。
直ぐさま獅子ヌルが駆け寄り我を支える。振り返ると両足と右腕の修復を終えたミカエルが炎の剣を振り切っていた。
「ゴミ神よ! 借りは返したぞ!」
ゼウスに向かってそう叫び、ミカエルが倒れる。
クレーターの中から、両足と顎の力だけで這い出るゼウスが言う。
「ちっ。貸したまま消滅させて、永遠に後悔させてやろうと思ったのによ。クソがっ」
ゼウスの顔が宿敵に向ける物ではなくなり、まるで旧友に向けるような忌々しくも思いながらしょうが無いなぁという諦念さが出てきておる。貴様、ミカエルと何がどうなって通じたのだ。神はわかり合えるのか?
おう、これではまるで我がラスボスではないか?
「オーリスっ。ラスボス的立場だね」
獅子ヌルが少し微笑んで我に言う。まさにそう思っていたのだ。
では期待に応えようではないか。
『混沌よ。あれ』
ゼウスとミカエル、それぞれの軍勢を光と闇の渦が巻き込み覆い隠す。ゼウスが何か言葉を発しているがこちらまでは届かぬ。そこは悠久の時の中、貴様らが生み出された時代であるし、遙か先の未来でもある。時の牢獄で復活する事も出来ず、消滅する事も出来ない苦しみを永遠に味わえ。
終わりだ。
混沌を消し、その場には我と獅子ヌルだけとなった。
「オーリスっ。勝ったね!」
『まだ、だ』
我を天界から二条の光が貫く。両肩から足先まで貫いた光に我は浄化される。これは修復の効かぬ光だな。
ガイアと現人神の主人か。油断はしておらんかったが、未だ我が反応できない類いの物であった。獅子ヌルが駆け寄って支えようとしている。それを体で弾き返し離す。
その瞬間、さらに二条の光が我を貫き消滅させられた。
「オーリスーっ! やだやだ! いやだ! オーリスーっ!」
うむ、獅子ヌルを巻き込まなくて良かったな。
さらば……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます