第47話 兄者からの宣戦布告じゃな!


 孔雀アインスに黒猫族族長のブラドさんに先触れをお願いし、皆で村を目指して歩きます。二十分ほどの距離ですのでそう遠くはありません。村が見え始め、獣人さん達が揃って出迎えてくれました。


「オーリス様! ご無事で! 全員を引き連れて来て下さったとの事、本当にありがとうございます!」


 ブラドさんが感極まったように目を潤ませながら跪きおっしゃいます。手振りで立たせ黒猫族の青年シャリンと引き合わせます。


「族長! オーリス様の申し出に図々しくも連れてきて頂きました。向こうの村、全員信徒となり合流します!」


 シャリンが族長と握手を交わしながら言います。


「よくやったシャリン。皆をよくまとめてくれた。皆! よく帰ってきてくれた!」


 シャリンを労い皆に挨拶をすると、他の獣人さん達からも口々におかえりという言葉が聞こえて来ました。岩人さん達は早速住居や港湾の建設計画を話し合っています。


 住居は当面の間中央広場で天幕を張って仮住まいとし、皆睡眠の必要がありませんから徹夜で家を建てる事になりました。一日では無理でしょうが一週間もせずに全員の家が出来上がる事でしょう。


 私達は主な獣人さんと共に家に入り向こうでの事や今後の事を話し合います。


「テ、テリサ。元気だったか?」


 シャリンがテリサさんに話しかけるようです。皆でニヤリと見守ります。


「元気にゃ。久し振りにゃ、シャリン」


「うん、久し振り。そ、そのじっとしてて」


 彼はそう言ってテリサさんの後ろ側へ回り込みます。

 目線を尻に釘付けにしながらしゃがみ込み顔を近づけていきました。


「くんくん……くんくんくんくんくんくんくんくん」


 そんなに嗅がなくても良いのではと思うほど勢いよく嗅いでいます。ブラドさんは何が起きている!? とびっくりして動けないようです。眷属達は今にも大笑いしそうです。


「にゃっ!? 何をするのにゃー!」


 テリサさんが激怒しシャリンの顔に後ろ蹴りを入れ振り向き、仰け反ったシャリンに猫パンチの追撃を入れていきます。時折蹴りも混ぜながら殴っていますが、剣を抜いた所で獅子ヌルが止めます。シャリンは鼻と口から血を流しながら気絶していました。

 ブラドさん以外は爆笑しています。


『テリサよ。親愛の証しである。貴様もシャリンの尻を嗅げ』


「嫌にゃ! オーリス様のなら嗅ぐにゃ!」


「オーリス様は駄目です」

「尻に結界張ってるから無駄よー」

「オーリス様の尻は僕のだよ!」


 いつの間に私の尻に結界を張ったのでしょうか。腕を上げましたね。


「オーリス様……これは?」


 驚愕から戻ったブラドさんが私の方を向き、頬を引きつらせながら聞いてきました。


『彼なりの愛情表現である』


「オーリス様の指南です」

「オーリス様の匂い嗅ぎたいわー」

「無臭なんだよね、オーリス様」


「や、野獣はそうやって相手を確認しますが、俺らはそういう習慣はありません」


『多種多様な表現がある』


「た、確かにそれは獣人それぞれですが、子供の尻を嗅ぐなど……」


『シャリンは小児性愛症者ペドフィリアである』


「オーリス様……?」

「断定したー」

「これ原因はオーリス様のアドバイスだよね?」


 私の言葉を聞きテリサさんがシャリンから距離を取ります。三眷属がシャリンを小突くと、何が起きたのかわからない状態で気がつき上半身を起こし周りを見渡しました。


「あ、あれ? テリサに殴られた……?」


『テリサの愛情表現である』


「違うにゃ! 変態を成敗したにゃ!」


「へ、変態……? 違うよ! 俺は変態じゃ無いよ!」


 シャリンがあわててテリサさんの方へ駆け寄りますが、テリサさんは逃げ回りブラドさんの後ろへ隠れました。


「お前の嗜好をとやかく言うつもりはないが、子供をそう言う目で見てはいかんぞ。俺は許さん」


 ブラドさんが威嚇するように睨み、強い言葉でシャリンの行動を阻みます。


「え? 嗜好?」


「シャリンは小児性愛症者ペドフィリアです」

「オーリス様が言ったー」

「オーリス様に恋愛相談なんて無理だったんだよ!」


「え、そんな……俺はそんなつもりじゃなく……」



「テリサっ。オーリスがシャリンにテリサの尻の臭いを嗅げって言ったの」


 見かねた獅子ヌルが話しますが、私が悪いのでしょうか、そうなのでしょうね。


「オーリス様が変態にゃ?」


 私が変態という事になりそうですので、ここは全員で解決策を模索しないといけませんね。言葉に強制力を乗せて発します。


『皆で輪を作り、四つ足になって尻の臭いを嗅げ』


 そうお願いすると私を中心にし、周りを皆がぎこちない動きながら輪になって行き、四つ足で目の前の尻の臭いを嗅ぎ始めました。真名を取られ逆らえない双子神はともかく、強制力の効かないポセイドンまでなぜ楽しそうに四つ足になっているのでしょう。


「わ、妾はミニスカートなのだが……」


 四つ足のアルテミスがそう言いつつ、手でスカートを押さえながら獅子ヌルの尻の臭いを嗅いでいます。その後ろでアポロンが、姉ちゃんのパンツ見ても何とも思わねぇよと言って彼女に蹴られています。


『これにて……』


「オーリス様……? くんくん」

「えー? 強引すぎーくんくん」

「これでみんなお尻合い! くんくん」


『一件落着!』



 全員で知り合いになり今後の事などを話し今日はお開きにしました。セイレーンはポセイドンに預けておき、双子神と共にこの村の守りをしてもらいましょう。


 一人で外に出て庭にある私の木像を眺めます。ぼんやりと明滅を繰り返しており、以前よりさらに加護が強くなっているようです。この木像にも頑張って貰いましょうね。

 目を閉じ右手で木像に触れ、力を注ぎ込んでいきます。明滅が少しずつ速く激しくなって行き震え始めました。明滅の区別がつかなくなった頃、目が生気に満ち私を見つめ口を開きました。


「オーリスオーリス、繋がった繋がった」


 冥府の樹人であり冥界樹である存在と木像が繋がり、嬉しそうに私に寄ってきます。それをうんうんと頷きながら撫でてあげます。


「嬉しい嬉しい」


『冥界樹よ。この森を支配下に置き獣人の村を冥府同様守護せよ』


「守る守る」


 木像はその場で手を広げ、地面近くに本体を残したまま冥界樹のように上へ上へと高く太く大きく伸びていきます。一本一本の枝の上に家が建てられるほど太く、海まで届きそうなくらいに広く大きくなりました。この姿はきっと王都からでも見る事が出来るでしょう。

 そして天界からすれば冥府の侵略行為と取られてしまいそうですね。


「オーリスっ! 冥界樹?」


 家から出てきた獅子ヌルが聞きながら冥界樹を見上げ、頷き肯定します。


「にゃー! 大きいにゃ! すごいにゃ!」


「これはやりすぎじゃねぇかなぁ」


「こ、これは……太母ガイアが黙っておらんだろうな」


「ふはは! 兄者からの宣戦布告じゃな!」


 外へ出て来たテリサさんが喜び、アポロンとアルテミスは気まずそうに、ポセイドンはどこか楽しげです。

 そして次々と外へ出てきた他の者も冥界樹を見ながら驚き、畏怖とその荘厳さに息を飲んでいるようです。


 何か変わった出来事があると宴をする獣人魂に火がついたようで、合流した喜びと共に自然に宴の準備が始まっています。


 今回の宴は遠慮し眷属達と帝王国へ獅子ヌルに乗って飛んで戻ります。

 双子神はゼウスに面倒を頼まれましたが、戦地の状況が分かりませんので村に残し、危機を察知したら獣人さん達と共に冥界樹へ飛び込むよう指示、冥界樹にも受け入れるよう伝えておきました。

 帝王国が宣戦布告してから三日、何らかの動きがあってもおかしくはありません。


 全速で飛んでもらい帝王国の大陸が見えてくると、東から西へ一直線に光が走りました。それは目映い真っ白な光であり、地上にある物を巻き込みながら大陸を駆け抜けていきます。

 光が収まり近づいてみると大陸が北と南の真横に分断され、溝と言うにはあまりにも広い幅のそれに海水が流れ込んできています。

 梟ツヴァイに結界を張って貰い、イージスの盾を展開しつつ光の始点へ向かいます。私が自ら飛び眷属達は盾に隠れるように指示を出します。


 光の始まりの地は聖皇国大陸の西端だと思われ、そこには海を背にしたゼウス神の軍勢と山を背にした聖皇国の天使の軍勢が対峙しておりました。人間はいないようです。

 私は不可視化し情勢を見る為に上空へと上がります。上がる時に聖皇国側から一条の光の矢が私を目掛け飛んできます。梟ツヴァイの結界を貫通しイージスの盾でそれを止めます。

 不可視化している私を見つけた事もそうですが、梟ツヴァイの結界を一撃で貫通させるとは侮れない者のようです。軍勢先頭に立つゼウスも私を見つけ睨み付けています。

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