第42話 股間が丸見えでイヤです!
ポセイドンに別れを告げ再び帝王国を目指します。獅子ヌルに乗って梟ツヴァイの結界を張りながら海の中を進んだり、海の獣を教戒、沈没船を探索したりしていると陸地が見えてきました。
そのまま上空からさらに南に進み、獣人さん達が居るという森を探します。小高い山を越え広い湖の向こうに森はすぐに見つかりました。もう日が暮れてきて辺りは薄暗くなってきています。
人間ならば暗くなっていく森の中に入るのは躊躇うでしょうが、私達には関係ありません。むしろこれからが私達の時間でもあります。
徒歩に変え森の中を進みます。木々の間隔が狭く、獣道さえないのではなかろうかと思えるほど鬱蒼とした森です。蝙蝠ドライの反響定位によって獣人さん達と思える者達を探し出しその方角へ向かいます。
しばらく進むと六人ほどの獣人さんに囲まれたようです。遠巻きにこちらを窺っています。それに気付かないふりをし、獣人さん達が集まっている場所に向かっていると足元に何本か矢が飛んできて刺さります。警告でしょうか、そうでしょうね。
「人間! ここから先へ進む事は許さん! 引き返せ!」
暗闇から警告を発する声が聞こえます。梟ツヴァイに結界を張らせ警告を無視し進みます。再び矢が飛んできますが、警告ではないようです。結界に弾かれてはいますが、頭と胸を狙った物ですね。すぐ横の草むらから足元を
幾度もの攻撃が効かない私達に焦りが出てきたのでしょう、三人が目の前に姿を現し剣と槍を振るおうとしています。一切の攻撃を無視し進んで行くと、何軒かの建物が見えその前に獣人さん達が集まっていました。建物は粗末な物では無く、ロムダレン国の獣人さんの村よりいい物かもしれません。岩人さん達がいるのでしょうね。
ポセイドンに貰った無花果により、制約は解かれ声を発しても糧を求める必要は無くなりました。
直接話し合いをしましょう。全員教戒してもいいのですが、ブラドさんと希望者のみ連れてくると約束しましたからね。教戒すると全員付いてくると思われます。
『我はオーリス。貴様らをロムダレン国へ戻す。黒猫族族長ブラドの頼みでもある。黒猫族よ前に出ろ』
そう聞くと、一人の若そうな黒猫の男性が前に出てきました。
「僕は黒猫族シャリン。族長補佐をしていた。ここのまとめ役だ!」
私は周りに火の玉を浮かべ辺りを明るくしお互いの姿がわかるようにします。
『帝王国と聖皇国は戦争になる。希望者のみ連れて行ってやろう』
「確かな情報か? 騙そうとしているのではないだろうな!」
私は白い翼を現出させさらに続けます。翼を現出させた時に獣人さん達から驚きの声が上がります。
『信じなくとも構わん。ロムダレンの教会は壊滅させた。獣人差別は少しずつなくなっていくことであろう』
「どれだけあの国で俺達が迫害されてきたか知っているのか! 今更すぎる! ここでも差別や獣人狩りはあるがあの国ほどではない。やっと生活が成り立つようになってきたんだ!」
『知らん。好きにせよ。我は貴様らがここで死に絶えようと一向に構わん』
「ぐっ。しかし……」
「黒猫族テリサから手紙を預かってるっ」
獅子ヌルが一通の手紙をシャリンに渡します。いつの間にそのような物を預かっていたのでしょう。
シャリンは手紙を読み、頷くと他の獣人さん達に回し始めました。手紙が一周し私にも回ってきました。
≪あたしは黒猫族テリサにゃ。オーリス様と出会って人生が変わったにゃ。食事にも困らないし生きる気力が沸いてくるにゃ。運もすごくよくなった気がするにゃ。オーリス様を信じて付いてくるにゃ≫
これは怪しい宗教か物売りのユーザーの声っぽいのですが、逆効果ではないのでしょうかね。これで信じる人がいるとは思えませんけれど。しかしテリサさん。書き言葉にも、にゃが付くのですね。
手紙を読みシャリンを見ると身体が小さく震えており、やがて右手拳を握ったまま上へ突き上げます。その瞬間、獣人さん達全員から、うおおおおおお!! と歓声が上がりました。
「オーリスさん! いえ、オーリス様! 僕達を連れて行ってください!」
シャリンは跪き乞い願います。他の獣人さん達も皆跪き始めました。
あれで信じたのですか?
「ええ!? あの手紙のどこに信じる要素が!?」
「あやしすぎー」
「もっと自己防衛力を磨かないと獣人達絶滅するよ!」
『来ない者は立て』
念の為、希望を聞きます。しかし立つ者はいませんでした。
ふむ、全員跪いていますが……。
『跪け!』
『我は
教戒をすると全員に教典が行き渡り取り込んでいきます。獣人さんの村を教戒した時と同じように始めての信仰に打ち震え陶酔しているようです。全員で七十三名、船に乗りきれるでしょうかね。
『岩人よ、前に出ろ』
七名の岩人さんが私の前に跪きます。
『船は造れるか?』
「ここから海まで歩いて二日かかるぞ。木材を持っていくのに現実的じゃねぇ。無理だ」
一人の若い岩人さんが答えてくれます。獅子ヌルだとあっという間に着きましたので距離感覚が分かりませんでしたが、そんなに離れていましたか。
『船を手配する。貴様らは渡る準備をしておけ。三眷属よ、ここに残り守れ』
「畏まりました」
「えー? いやだー」
「畏まりました」
「え? ドライ……?」
「なになに? どうしたの?」
「これで僕がプラス一ポイント、ツヴァイがマイナス一ポイント、と」
「そんな制度ないっ。言われたことはやって当たり前!」
また蝙蝠ドライが変な遊びを始めたようですが、気にしないようにしましょう。
次は帝都にいるフレイザー侯爵の配下商人の所へ向かいます。まだ辺りは真っ暗ですので朝を待って出発することにしましょう。
岩人さん達の自慢だという風呂に誘われましたので眷属達と共に入ります。ロムダレン獣人さんの村の風呂より広く打たせ湯の様な物もありました。岩人さんは何にでも拘るようです。ここでも夜空一杯の星を見ながら堪能することが出来ます。
蛇女フィーアは元の盾の大きさに戻って湯船に浸かっています。髪の蛇を使って移動も出来るようです。蛇が吸い込んだ湯を噴射させ器用に移動しています。楽しそうです。
「フィーアを掴んで移動して貰うと楽しそうです」
「おー、それやろうー。フィーちゃんよろしくー」
「盾に乗ればサーフィンだ!」
「あんた達っ、それ想像してみて?」
「フィーの上に立たれると股間が丸見えでイヤです!」
女の子の顔面に乗るなど許しませんよ。眷属達と楽しみ、風呂を出て馬鹿話をしながらのんびりしていると空が白み始めました。さぁ、行きましょうね。
三眷属に村の守りを任せ、獅子ヌルに乗って西に向かいます。通行証はありませんので、不可視化して帝都上空から入り降り立ちます。
通行人にダリフレ商会の場所を聞きそこへ向かいます。しかしダリオン・フレイザーを略してダリフレ商会など、私と同じで名付けのセンスないですね。ようやくフレイザー侯爵の欠点を見つけた気がします。
その商会は商人街にありたくさんの商会が集まっている通りに面していました。周りの商会と比べるとこぢんまりして何処となく地味です。小さい看板が扉にかけてあるだけでした。
中へ入り配下の商人を呼んで貰います。応接室に案内されお茶を飲んで待ちます。すぐにその人はやって来てオーリスと名乗ると挨拶をしてくださいます。見た目は中肉中背で極力目立たないようにしているのでしょう、何処にでもあるあまり印象に残らない顔を模倣しているようです。
「オーリス様。ようこそいらっしゃいました。フレイザー侯爵よりオーリス様のお話は伺っております。わざわざ帝王国に来られたのですか? どう言ったご用件でしょう?」
紹介状と割り符を取り出し渡します。配下の商人はすぐに自分の割り符と合わせ、確認致しましたと言い私の言葉を待ちます。
『ロムダレン国まで人を乗せる船が必要である。船員除く七十八名が乗る』
「そうなりますと全長百メートルほどの船が必要になりますね。食料、水等も積み込みますので」
『七十八名の食事、水は不要』
「それでも八十メートルほどの船となります。そこまで大きな船は国の管轄になりますのでどの商会も持っておりません」
『貴様の所持している最大の船はどれくらいであるか』
「はっ。私共が所有しております最大の船は、五十メートルほどの船が一隻。四十人が乗るのがやっとかと思われます。あとは二十メートルの物が三隻になります。ただその最大の物は今、聖皇国へ行っておりましてすぐには乗れません」
おや、そうですか。何の計画もなしに突然やって来たのですから文句など言えないでしょう。この商会の船を使うのは諦めるしかないでしょうか、仕方ないですね。フレイザー侯爵との約束のトランシーバーを渡し、使い方を教えます。
≪フレイザーで御座います≫
『オーリスである。ダリフレ商会の船は出航しておる。使えん』
≪なんと! 申しわけありません! 配下の者はそこにおりますか?≫
「フレイザー侯爵、ここにおります」
≪すぐに余所の商会から船を買い取りなさい。いくら掛かってもよろしい。オーリス様のお望みを叶えるよう動きなさい≫
「オーリス様のお望みを叶えるのならば八十メートルほどの船が必要となります。教会から国へ交渉させるのが近道かと思われます」
教会から……。なるほど絶好の者がおりますね。
『フレイザーよ。船と船員を手にしたら、船員とその家族をそちらで面倒見ろ』
≪はっ! もちろんで御座います。信徒にされますか?≫
『うむ。それと教会への指示は我が算段する』
≪畏まりました。そのように動きます≫
フレイザー侯爵との通信を終え、ダリフレ商会を出ます。獅子ヌルに乗り目指すは北、ノバル山脈の神殿へ行きましょう。
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