第38話 混浴という事でしょうか?
「オーリス様。浴場の用意が出来ております。皆様でいかがでしょうか」
私の私室であると案内された部屋でお茶を飲み寛いでいると、エレストルがそう声をかけてきました。
私室は、なぜこんなに広くする必要があるのかというほど広く、玉座の間と変わらないほどの応接室で、他にも寝室や控え室、キッチン、クローゼット、風呂、トイレなど六部屋が附属しているそうです。寝る必要も食べる必要も排泄も着替えを収納する必要もありませんので無駄な広さですが、様式美だそうです。
装飾品に樹人はもちろんの事、生きた鎧の者や飛び出す絵画、踊る植物などがあり目を楽しませてくれています。
「オーリス様! 行きましょう!」
「わーい、おっふろー」
「洗いっこだー!」
「オーリス、久し振りに風呂に入ってみたいっ」
「フィーは髪の毛(蛇)洗いたいです!」
眷属達が行く気満々ですね。ちゃんと空気を読めますよ。ここで私に風呂は必要ありません、などと言うつもりはありません。さぁ、行きましょうね。
皆で立ち上がると、ミージン王女は俯いて座ったままです。どうされたのでしょうか。
「あ、あの、皆様でという事は、こ、混浴という事でしょうか?」
なるほどそこを気にしていらっしゃいましたか。当然混浴ですよね? エレストル?
「はい、そうで御座います。混浴しかありません。むしろ男女別とかあり得ません。ムフー」
強い口調でエレストルが言いますが、鼻息が荒いですよ。
「わ、わたくしは遠慮させていただきますわ」
「王女殿下……?」
「臭うわよー?」
「くっさ! 腹黒王女くっさー!」
「く、臭くなんかありませんわ! ただ恥ずかしいだけで……」
「お恥ずかしい身体をしていらっしゃるので?」
「ひんそーなのね」
「みんな女体化すればいいんじゃない?」
「駄目よ! オーリス様のお身体を、男性体のお身体を洗わせていただくのが私の生きる証! 私の全て! ムフー」
「エレストル様?」
「エレちゃん、一緒にオーリス様あらおー」
「さっさと行こうよ!」
「わたしがミージン連れて行くっ」
獅子ヌルが立ち上がり、抵抗するミージン王女を脇に抱え歩き始めました。獅子ヌルの力は私に匹敵しますからね、抜け出せないでしょう。
脱衣所で衣服を脱ぎ風呂場への扉を開けますと、ここもまた無駄に広い空間がありました。もうこれはお風呂というよりアミューズメントパークと化しています。以前入った時は三人が入るのがようやくの広さだったのですけれどね。ここにはプールのような広さの浴槽や、遠くにはスライダー付きの浴槽、本物と見紛うような滝、小山から流れ出る赤い物はマグマではないですよね!? 溶岩風呂を勘違いしていないですよね?
「これは一日では回れなそうです!」
「よーし、ここにお泊まりだー」
「行くぞー!」
三眷属はこの風呂を見た途端、洗い合うことなど忘れたのでしょう、走り出して行ってしまいました。私は洗い場で座りエレストルを待ちます。勝手に洗い始めると怒りますからね。
「オーリス様。お待たせして申しわけありません」
エレストルが全身露わにし隠すこともせず、わざわざ私の前に回ってお辞儀をします。コクリと頷きで返すと、私にお湯をかけタオルに石けんのような物をこすり泡立てます。以前も思いましたけれど、まずは後ろから洗って「ま、前も洗いましょうか?」と恥ずかしそうに聞くのが様式美なのではないでしょうか、そうでしょう? 堂々とし過ぎて羞恥など何処にもありません。おかげでエレストルの美しい裸体、完璧なプロポーションと言うのでしょうか、それを見ても何とも思いません。私自身そういう感情は薄いのですけれどね。
エレストルの方は一生懸命洗ってくれていますが、ムフー、ムフフーと鼻息荒く、そのせいで泡が飛んでいっています。リアルオーリス様は最高ですと言いますが、リアルではない私などいませんよ。
ようやく獅子ヌルがミージン王女を抱えて入ってきたようです。脱がせるのに手間取ったと言いつつ、私の隣に王女を座らせます。
「ひっ! オ、オーリス様! こちらを見ないでくださいませ」
恥ずかしそうに手で身を隠しながら反対側に顔を背けられています。が、お断りします。ふむふむ、いつか猫獣人のテリサさんが言っていたミー姉は意外と大きいにゃ、という事はこのことですか、なるほどなるほど。
「オーリスっ、あまりじろじろ見ない! ミージンが固まってる」
獅子ヌルが注意してきますが、ちらりと見るのはよろしい、と? ふむ、ちらりちらり。獅子ヌルの裸体もちらりちらり、胸は大きくありませんが筋肉質でちゃんと腹筋が割れています。相変わらずかっこいい身体です。
そうこうしている内にエレストルが、ここは聖域ここは聖域と言いながら下半身を洗い始めました。ちゃんとタオルを使ってくださいね。素手で洗うのはやめましょうね。
全身くまなく洗ってもらい木で出来た湯船につかります。屋根はありませんが冥府は地面より下にありますので星は見えません。明かりは篝火や自らが発光する魔蟲達が照らしてくれています。左側にエレストルが浸かってきました。獅子ヌルとミージン王女は別の浴槽へ行ったようです。
「皆で入ると楽しいですね、オーリス様」
頷き肯定します。
「今いらっしゃる世界で何をするおつもりですか?」
『
「それは……行き当たりばったりと言うのではないでしょうか」
腕を組んでうんうんと頷きます。
「私が元の世界へ戻す事も出来ますが?」
『エレストルよ。しばらく共にここで生きてみよう』
「と、共に……ぶほっ」
何やら琴線に触れたようです。顔を湯につけモゴモゴと泡を出しながら何かを言っています。やがて顔を上げ私を見つめて言います。
「畏まりました! ドレスの用意もありますので式はひと月後くらいでよろしいでしょうか?」
式とはやはり結婚式でしょうね。何か勘違いか先走りをしているようです。
首を振り否定します。
「え!? 式はなし、と。な、内縁の妻という事ですね! 内助の功、ムフー! 燃える!」
私の周りには妄想癖がある者が多いですね。そう言う者達に構うと、妄想が尋常ではないほど広がっていくのを私は学んでおります。さて、別の浴槽にも入って見ましょう。
流れるお風呂という立て看板が見えます。円形の風呂で真ん中に小島があり、ビーチチェアで一休み出来るようです。全裸仰向けで流れに任せ流れていると、三眷属がドカドカとやってきて一緒に流れ始めました。
「オーリス様!」
「オーリス様フルオープンすぎー」
「全裸全開だよ!」
流されながら腕を組み、うむうむと頷き返します。三眷属も一緒に腕を組み流され始めました。裸族という特殊な種族がいるのは知っておりますが、その裸族の真髄に少しだけ触れられたような気がします。
エレストルが鼻息荒くこちらに四角い機械を向け、お風呂の流れと一緒に走ってついて来ています。カメラを現出できたのですか、もしくは造ったのでしょうか、そうかもしれません。股間部分に黒い霧を発生させ隠します。まだ全裸を撮られて高揚感を得られるほど裸族の真髄を掴んでおりません。あああ、マイサンがぁ! と叫んでいますが、あなたの物ではありません。エレストルの視線が外れた時に霧を取り除き、視線が戻るとまた霧を発生させ焦らすという遊びをやった後、三眷属に連れられてスライダーへ行きました。
これはうつ伏せだと危険な事になりそうです。仰向けに寝そべると股間部分に蝙蝠ドライが頭を乗せ同じく仰向けになります。私の後ろに梟ツヴァイが座り、後頭部に柔らかい部分があたります。孔雀アインスは、私は!? 私は!? と言いつつうろうろしておりますが、放っておいて滑り始めました。人間はスピードと放り出されるかも知れないスリルを楽しむようですので、私もそれに習い、霧を噴出し急激に加速させます。
蝙蝠ドライと梟ツヴァイの悲鳴に似た歓喜の声に満足しながら滑走していると、出口部分に魔獣の一体である大蛇が大きな口を開けニヤリとして待ち受けているようでした。ニヤリとしているのは目で分かります。おそらく。
順に飲み込まれ口が閉じられると大蛇が頭をもたげたようです。上を向いたと思ったら勢いよく吐き出され空中に投げ出されます。天井に当たるか当たらないかというギリギリの所で落下し始め、浴槽に足から飛び込みます。ここまでがスライダーのセットなのでしょうね。うむうむ、スライダーとは結構楽しい物なのですね
「オーリス様、御一緒したかったです!」
「おもしろかったー」
「多分、勘違いしてるだろうけど普通のスライダーに蛇は居ないからね!」
なるほど、大蛇は居ないと。居た方が楽しそうですけれどね。
それからは魔獣や悪魔達が合流してマグマに浸かったり、魔獣がマグマで消滅したり、再度スライダーを楽しんだり、魔獣がスライダー出口の大蛇に喰われたり、サウナなどを堪能し私室へ戻りました。
『エレストルよ、風呂を堪能した。良い風呂であった』
お礼を言うと感極まったように目を潤ませ跪きます。
「ありがとうございます! 次のテーマは
よくわからないテーマですが、任せておけば良い物が出来るでしょう。うむと頷き、エレストルを立たせお茶を淹れて貰います。
「次はオーリス様とスライダーを……!」
「王女との絡みがなかったー」
「期待してた人がいると思うけどなー!」
サウナで会いましたよ。私は全裸でサウナでしたので、ミージン王女は恥ずかしそうにしていらっしゃいましたけれど。その王女本人は少しのぼせた様子で、ベッドで横になっていらっしゃいます。
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