第34話 腹黒王女に見つかっちゃったよ!


 皆、ここで別れます。私は獅子ヌルに乗って、ノバル王国と公国の国境へ全速で向かいます。三眷属は公国の兵士達の元へ、アルテミスはゆっくりと公都へ、アポロンはノバル王国の王都へと向かいました。


 さすがは獅子ヌルの全速です。十五分もせずに国境へと辿り着きます。

 三眷属が破壊した砦と違って、ここは要塞のように頑強そうな砦がそびえ立っています。その砦に空から中央に見える広場へ降り立ち、獅子ヌルとふたりで異形の姿をとります。

 近くに居た兵士達をまだ殺さずに薙ぎ倒して行きます。


「ば、化け物! 化け物がでた!」


「悪魔だ! 指揮官、指揮官を呼べー!」


 やがて兵士達は私達を取り囲み、槍をこちらに向けていますが戦おうとはせず、どうやら指揮官を待っているようです。私達はお構いなしに兵士達を薙ぎ倒していきます。


「な、なんだあれは! 早く倒せ! 全員招集せよ!」


 指揮官らしき男性が来て兵達に指示を出しています。その指揮官がターゲットです。獅子ヌルはすばやく動き、その指揮官を私の前に投げ飛ばします。


『貴様の公王へこの状況を報告せよ!』


 私はその指揮官に、この砦が「ノバル王国によって」陥落した事、兵は全滅した事を伝えるよう吹き込みます。指揮官は洗脳でもされたかのようにコクコク頷き了承の意を示しました。そうして獅子ヌルは、指揮官を公都へ連れて行き公王へ報告させる為に襟首を後ろから咥え全速で飛び立ちました。

 私は生かしておいた兵達の恐怖を畏怖を絶望を喰らい死体に変え、闇に取り込みこの砦を空にした後、獅子ヌルを追います。

 この砦はノバル王国王都へ向かう途中のアポロンに、王国側国境砦で神として降臨し王国兵士に奪取するよう諭して貰います。間もなく王国兵達がやってくるでしょう。


 獅子ヌルに追い付き公都上空に辿り着くと、丁度アルテミスが降臨するところでした。派兵式典は終わっており、千人の兵達は出発したらしく式典の後片付けを行っています。私は姿を見られないよう不可視化します。アルテミスには見えているでしょうけれど。


 上空に停滞していた雲が割れ、天使の梯子が降りてきます。梯子と同時に七体の天使がラッパを片手に現れました。ラッパ!? アルテミスは黙示録を起こす気でしょうか、しかし黙示録を起こす天使は、アルテミスらの神々とは系統が違いますからパフォーマンスだとは思いますが。

 天使達が降りてくるのに気付いた民達が騒ぎ出します。跪き祈りを捧げる者もいますね。天使達は上空で輪になり城の周りを回り始めました。公王らしい人物や騎士が城のバルコニーに現れ、その状況を見て驚き戸惑っているようです。

 輪の中央に強い光が差しアルテミスが降臨してきます。下から見ると強い光によってその姿は影のように黒い姿である事しかわかりません。ただ私は同じくらいの位置から見ておりますので姿形がよく見えます。ミニスカートにタンクトップ、ショートブーツを履き片手に弓を持っています。アルテミスはちらりとこちらを見て、ミニスカートを少し持ち上げ恥ずかしそうに顔を背けます。私にパンチラしてどうするのですか。


 獅子ヌルは咥えてきた指揮官を公王のいるバルコニーに投げ込みました。

 指揮官は、砦の状況を公王に報告しているようです。公王と騎士達が驚いている様子がわかります。


「妾はたいガイア系譜の神、ゼウスとレトの子、ディーコンセンテスにして十二神の一神、月と闇の女神アルテミス。ロムダレンは妾の庇護下にある。争いを起こそうとするでない。貴様らの敵はこの矢の方向におる!」


 公王や、民全員に聞こえるように声を発しています。ロムダレン国は私が気に入っている国ですので、私の眷属のような立ち位置のアルテミスにとって、庇護下であると言っても虚言ではないでしょう。

 アルテミスは弓を構えた後、ゆっくりと矢をつがえ弦を引き絞り、光り輝く矢をノバル王国の方角へ放ちました。矢は光の尾を引きながら真っ直ぐ飛んでいきました。


 人々がその矢に目を取られている間にアルテミスと天使達は姿を消します。私はそれを見届けた後、神殿へ戻りました。


 神殿にはアルテミスと獅子ヌルが待っていました。アルテミスはミニスカートタンクトップのままです。やがてアポロンと三眷属も戻ってくるでしょう。


「妾のわざはどうであった!? 貴様らの系統も頭に入っておるのだぞ!」


 アルテミスが胸を張りながら自信満々に言います。


“素晴らしいわざで感服しました。ちなみにあのラッパを吹けばどうなります?”


「うむ、そうであろう。ラッパを吹かせればちゃんと黙示録とやらが起こるようにしておるぞ!」


 得意げにそう言いますが最終兵器ではないですか。危ない危ない、アルテミスが興に乗って吹かせなくて良かったですね。


“今後も吹かせないようお願いします。獅子ヌル、お疲れ様でした。よくやりました”


「うん、ただの配達、大したことないっ」


 獅子ヌルは照れつつ私の服の袖を掴みそう言います。


 やがてアポロンが戻ってきました。アポロンは駄目だったわといいつつ報告をします。


「国境砦の兵士は誘導出来たんだけどよ、まぁ今頃占領してるだろうな。王都は、ありゃ駄目だ。城に居る者はみんな、ミシェルなんとかの加護を持ってて言う事聞かねぇわ」


 ノバル王国に公国との戦争を激化させ、ロムダレン国に構っていられないようにしようと思いましたが、トリストロイト聖皇国現人神の加護を持っていましたか。ミシェル・ハーベスト、思っていたより行動が早く戦略に長けているようです。アポロンの信託が効かないという事は名ばかりの神ではなさそうですね。


“そうでしたか、お疲れ様でした”


「そのミシェルなんとかという者は現人神を名乗っているのだったな?」


 アルテミスが考え込むように聞いてきます。


“そうです。トリストロイト聖皇国の聖皇ですね”


「あれは貴様らと同じ系統だぞ」


 む、同族では無く系統と。ミシェルという名はよくある名で聞き覚えはありますが、まさかそんな単純に名前を決める者が……いましたね。しかし会ってみないとわかりませんので今は保留にしておきましょう。


 そしてようやく三眷属が戻ってきました。ああ、余計な者を掴んで飛んできています。


「オーリス様、任務完了です!」

「はー疲れたー任務は疲れてないけど、その後が疲れたー」

「腹黒王女に見つかっちゃったよ!」


 そう、余計な者、ミージン王女と護衛騎士二人を三眷属がそれぞれ掴んで運んできてしまいました。


「オーリス様。旅に出られたとか? 偶然、そう奇跡的に眷属達に会う事が出来まして、オーリス様にご挨拶だけでもと案内していただきましたわ」


 革鎧に帯剣のミージン王女が前に出て、なぜか私を睨みながらそうおっしゃいます。


「オーリス様、これは偶然ではないと思われます!」

「めっちゃ、きょろきょろ探してたよねー」

「行き先を侯爵に吐かせたんだってよ!」


 三眷属の話を聞きますと与えられた任務、ノバル公国の兵達を追い返す事は完了し、その時派手に蹴散らしたのが王女の目に入り捕まったとか。王女の説得? によりここに連れてきた、とそういう事らしいですね。


“ミージン王女、ご機嫌はいかがですか。旅にはいい日和ですね。しかし王女の護衛が二人だけというのは少なすぎではありませんか?”


「ええ、いい日和ですわね。護衛は父上に許可をいただいておりますわ」


「挨拶は終わりました」

「さようならー」

「さぁ、カエレー」


「くっ、わたくしが邪魔だとおっしゃりたいのですの!」


「はい」

「はい」

「はい」


「相変わらず無礼ですわ。ただ今日はこれを父上から預かっていますのよ」


 ミージン王女がそう言って私に書簡を手渡します。恭しく受け取り書簡を開きます。書簡には一言だけ「よろしく」と書かれてありました。サインもしてあります。こちらに丸投げですか、ヴォルブ様。


“アルテミス、アポロン。こちらはロムダレン国ミージン・ロムダレン王女殿下です。ミージン王女、こちらは双子神のアルテミスとアポロンです”


 双子神を紹介するとミージン王女はびっくりして戦闘態勢に入ります。アルテミスはほう、おもしろい。と挑発するように笑いながら腕を組んでミージン王女を見ています。アポロンは王女の胸に眼が釘付けですので放っておきます。


「オーリス様、どういう事ですの! こいつらが倒すべき神ですのね?」


 双子神の強さが垣間見えるのでしょう、冷や汗を噴き出させながらも剣を構え、護衛さん達も反応して王女の前に出て守ろうとします。


“まぁそうですが、今ではありません。今は私の眷属のようなものです。剣を収めてください”


「な! 敵を眷属にしたと言いますの? さ、さすがですわね」


 王女は剣を収め護衛さんに渡された布で汗を拭います。


「そうじゃ、妾は此奴に敗れてしまってのう、伽をせよと言われれば逆らえん。何千年も守り通した処女なのだがのう」


よよよ、と泣き真似をしながらアルテミスが崩れ落ちます。アポロンはひでー奴だと言いながら姉を支えます。


「鬼畜ですわ! オーリス様! なんとむごい事を……。え、そこまで!? それは駄目です! いやらしいっ!」


 ミージン王女の妄想癖が暴発して頭の中が大変な事になっているようです。


“ミージン王女の世話をアルテミスとアポロンに頼みます。よろしく”


「オーリス様!」

「丸投げの丸投げー」

「双子は下請け業者かよ!」


「王女はアルテミスと気が合う。可愛いポーズの練習してたっ」


 獅子ヌルが爆弾発言をさらりと言うと、王女が驚愕した顔で左眉を上げ、獅子ヌルを見てわなわなと体を震わせています。


「オ、オーリス様? この方はどなたでいらっしゃるのですか?」


 声も震わせながら王女が私に聞いてきます。


“私の眷属です。私の護衛の為にいろいろと見て回っていたようですね”


「ほう、貴様もその辺りは同類か。どれ、向こうで話を聞かせよ」


 アルテミスはソレをもう隠す事はなく、嬉々としてミージン王女を神殿の中へ強引に連れて行きます。アポロンと護衛さん達も一緒について行きます。ですが、すぐに男性達は神殿から追い出されてきました。


「なぁ、あの王女? 俺にくれよ。タイプだ」


 アポロンが私に言い寄ってきますが、どこら辺がタイプなのでしょうね。答えはわかっていますが。


“魔王の娘ですよ、完全に敵対する相手ではないですか”


「なんだと! 敵対する家、愛する二人、やがて二人は障害を乗り越え! 子は三人! 引き裂かれる親子! 燃える!」


「愛する二人という前提が間違いでは?」

「眷属という壁を乗り越えオーリス様の元へー」

「なんでこいつらの系譜は恋愛馬鹿しかいないんだ!」


「あいつ胸しか見ていなかったっ。顔は覚えてないはず」


「なぁなぁ、この燃える想いをどう表現すればいいんだ? 二人でどこまでも愛の逃避行するか!」


“アポロンよ、おしゃぶり咥えて少し黙っていてください”


 そうお願いすると、アポロンの口に赤ちゃんが使用するおしゃぶりが現出されそれを咥えさせます。アポロンはもごもごと咥えながら、なかなかいいなコレ婆ちゃんのに似ていると言って黙ります。何が似ているのか知りたくありませんが、黙ってくれたので良しとしましょう。


 ガイア信仰教のトップである枢機卿アポロンをこちらへ引き入れた事により、実質ガイア教会を動かせるようになったわけですが、どう動きましょうね。トリストロイト聖皇国がやっかいそうですのでミージン王女の策略、実際にはフレイザー侯爵の策ですが、帝王国エランとの争いは予定通りおこして貰いましょう。そして信徒もそっくりそのまま頂いてしまいしょうね。

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