第33話 作戦名アルテミスの矢、発動です


 梟ツヴァイに私達のみ出入りできる結界を張ってもらい、三、四日ここで影さんを待つ事にします。私はこのまま何もする必要はないと思いますが、眷属達はそうではないようで神殿を何やらいろいろと改築したり、物を持ち込んできたりしているようです。

 アポロンとアルテミスを喚んでまで手伝わせています。二神はいやいや手伝っている様子でも無いようで意外にノリが良く、こちらの環境を変えてまで天界でしか咲かない花や樹木を植えたり、装飾品を持ち込んだりしているようです。元の神殿はどこへ!? というほどの変わりようです。

 わざわざ姉妹のアテナに頼んでまで私の像を造って来ていますが、神が敵対する者の像を造るとかいいのでしょうかね。アテナは気性が激しくおそらく私の事を忘れていないでしょうから、私の事が露見したら即ここへ攻め込んでくる事でしょう。

 しかしこの像は胸があるのですが……。乳ポロンのせいでしょうか、そうでしょうね。妙な感じに懐かれたら困りますね。この胸のおかげでアテナには知られていないと思いたいですね。


 眷属達が神殿にかまけている間、私はこの三日間でノバル公国公都の教会や貴族街で人々を信徒にしていきました。新たに信徒になった人が約百五十人、糧になった人が約五十人ですね。


◇◇◇


「オーリス様! 改修完了しました!」

「楽しかったー」

「もうすでに原型がないくらいだよ!」

 

「オーリス像可愛い……」


 三眷属がやりきったとばかりに清々しい笑顔をし、獅子ヌルは私の女体化像が気に入ったようです。


「魔王よ、どうだ妾の力はまだこんな物では無いぞ!」


「なぁ、姿形を自由に変えれるだろ? ちょっと女性型になってみてくれよ」


 アルテミスは自信満々にアピールしますが、アピールのしどころが違うと思います。乳ポロンはもう放っておきましょう。


 神殿前に天界の花々や樹木がそびえ、この世の物とは思えない……実際、この世の物ではありませんが美しい風景を見せており、神殿内部は、神器と思われる縁の装飾の凝った姿見ほどの鏡や天井には宗教画、奥には重厚感のある内陣と祭壇があり、ステンドグラスから漏れこぼれる光によって私の像に後光が差しております。弱い使い魔ならば浄化されそうな雰囲気です。


「ここはもう聖域と呼んでも差し支えないのでは?」

「肌がピリピリするわー」

「このピリピリが癖になりそうだよ!」


「わたしとオーリスは神界にいたから大丈夫っ」


 確かにここは聖域と言えますね。三眷属はここにいると耐性が付いて今後の為によろしいのではないでしょうか。


「これだけ天界の物があふれておるし、妾達がおる事で神気で満たされておる。妾にとっては居心地がよいわ」


「姉ちゃんお気に入りの鏡も持って来たしな! あれで下界の様子が見れるぜ。扱えんの姉ちゃんだけだがな」


 居心地が良いからと言ってここに住む気ではないでしょうね? 可愛いポーズを研究していた鏡も持って来たと? ここでも研究を? まぁ、下の様子が見られるのならば良しとしましょう。早速、まずはロムダレン国国王をアルテミスに頼んで見てみましょうか。


「うむ、任せよ。鏡よ鏡、ロムダレン国国王を映してちょーだいっ!」


「なんですかその文言は」

「そんな可愛く言わなきゃだめー?」

「ミニスカはいてそれ言ってんのかよ!」


「どうせならポーズも付けて欲しいっ」


「姉ちゃんは乙女なんだよ、永遠の処女である事を義務づけられた神だしな」


 言った後、顔を真っ赤にするアルテミスを見ていると、なるほどミニスカタンクトップも似合いそうだな、と思ってしまいます。そう、どうせならポーズも付けて欲しいですね。


 最初は真ん中辺りが鮮明に、それから霧が晴れるように鏡全体にヴォルブ様が映し出されました。ヴォルブ様の顔のアップでしたので、もう少し引いて映すよう頼むと何かの式典のようです。

 アルブ殿下と、婚約者のエリノア様も映っています。アルブ殿下が主役の式典のようです。ノバル戦争の仲裁、もしくは砦破壊の釈明に出発されるところでしょうか、そうでしょうね。

 次にノバル公国公都の状況を、ポーズ付きでお願いしました。


「くっ。鏡よ鏡、ノバル公国公都を映してちょーだいっ!」


 右手を目の付近で横ピース、左手は真っ直ぐ伸ばし銃を撃つポーズ、そしてアヒル口です。可愛らしいですね。


「七十点です」

「えー? ポーズ古くなーい?」

「オーリス様、次はミニスカタンクトップでお願いしようよ!」


「オーリスが好きそうなポーズっ」


 獅子ヌルの言葉にどきっとしますが、気にせずに鏡を注視します。アルテミスは、そ、そうかこのポーズは好きか……とか言っていますが、本当に気にせずに鏡に注視します。


 公都が映し出されこちらでも式典らしき物が行われていました。千人は居るでしょうか、居そうですね。兵士が帯剣し盾を持って整列しています。派兵式典のようですね。派兵先はロムダレン国でしょうね。さすが戦時中ともあり、兵の召集が早いですね。おそらくこの人数が第一陣でこの後にも続くのでしょう。このままですと初戦はロムダレン国の負けになりそうです。



 ふとアルテミスが神殿の外の何かに気付き、まさに神速でそれを掴み上げ戻ってきます。


「貴様らに関係する物かもしれんからな、潰さずに持って来たが敵か? 味方か?」


“その者は関係者です。影さんと言いまして連絡役です”


 影さんは後ろから首を片手で掴まれ持ち上げられていますが、抵抗せずにこちらの様子を窺っています。


「む、そうか。しかしこいつは連絡役にしては鈍重だぞ。妾のケリュを貸し与えてくれようぞ」


 ケリュって矢より早く動ける鹿でしたよね。あなたの聖獣ではないですか。


“結構です”


「むぅ、ケリュならこの世界なぞ一日で一周するのだぞ!?」


“早い遅いの問題ではありません。要りません。そうそう、この世界は三つしか大陸がないのですか?”


「いや、四つだな。この大陸からすると、西に一つ、南に二つ」


 南の二つは帝王国と聖皇国ですね。すると西の大陸は未発見という事なのでしょうね。


“西の大陸に人間はいますか?”


「おるな、この辺りとは違った発展の仕方をしておる。そのうち連れて行ってやろう」


“いいえ、自分で何とかしますから結構です。それより影さん、報告をお願いします”


 妾のでいとの誘いを断るとは、と聞こえてきますが無視無視無視です。


 影さんの報告によると王と相談した結果、アルブ殿下を砦破壊の釈明に向かわせる、また戦争も想定してすぐに兵を召集するとの事。アルブ殿下は公国に辿り着く前にお隠れになる予定でフレイザー侯爵は動くそうです。私達に対して王から出来るだけ戦争を止めて見せよ、その結果によって砦の件は不問とすると伝言を承ったそうです。そしてまだフレイザー侯爵の正体を明かしていませんので、影さんは私の使い魔という事にしておくそうです。


 それから非常に困ったお方が動き始めたそうです。ミージン王女です。私達が王都を出発した翌日、護衛二人を伴ってノバル公国へ向け出立したらしく、今頃は国境の辺りだと思われます。

 ミージン王女がお越しになったら、面倒くさい事になりそうです。覚悟だけはしておきましょう。


 アルブ殿下が公国によってお隠れになったら戦争は必至ですが、その前に一時的に戦争を止める方法を考えましょう。一番簡単なのはノバル公国の兵を全て殺す事ですが、公国側の感情をさらに悪化させ、むきになって攻めてきそうです。

 穏便にすますとなると時間がかかりますが、教戒して信徒にして行く事ですね。ここはプランCの何でも使おう作戦でしょうか、それで行きましょう。


 三眷属、獅子ヌル、アルテミス、アポロンを集合させ作戦を説明します。その内容にアルテミスは嫌そうですが強権発動でお願いします。影さんにはこの作戦の内容をフレイザー侯爵に伝えて貰う為に再度伝言を頼みました。


「オーリス様、作戦名をお願いします」

「それだいじー」

「アルテミスが要だからア号作戦!」


「それすでに作戦名として存在してたし、アホウ作戦に聞こえるっ」


「む、妾がアホウだとでも言うのか!」


「姉ちゃん、ちっとアホウになってパンチラサービスくらいしないと信徒増えないぞ」


“作戦名アルテミスの矢、発動です”


「おお、妾のかっこよさが滲み出るようだ。いいぞ、うむうむ」

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