第31話 ガイア信仰教枢機卿のアポロンです
死体を処理し山道を進んでいると、人間の倍はあろうかと思える大きさの狼と蛇が下ってきました。その狼がこちらを見つけると話しかけてきます。
またもや獅子ヌルが動きそうになりましたので止めておきました。
「お前がオーリスとか言う魔王だな? 本来ならば即殺だがヌシが呼んでおる。ついてこい」
きちんと相手を確認する所、うちの子とは違ってなんと礼儀正しいのでしょう。しかも案内まですると言っているとは。この狼と蛇は神殿にいるという神の眷属でしょうか、そうでしょうね。
「こんな奴らここで殺っていいのではないか?」
蛇が狼にそう言っていますが、狼は首を振ります。
「駄目だ。ヌシの所へ連れて行く」
そう言うと、狼と蛇は来た道に向かって振り返り先導を始めます。
蛇の尻尾がゆらゆらと揺れているのを見て、思わず踏んでしまいたくなります。いえいえ、ここで踏んでは失礼であるしせっかく案内をしてくださっているのです。
駄目です駄目です私。
えーい! グシャ!
衝動に駆られ思い切り踏みつけました。尻尾の先が潰れ中の肉が少しはみ出しています。
「ぎゃあ! な、何をする!」
ブンという音と共に蛇の尻尾が大きく揺れ、こちらに攻撃してきました。蛇はこちらに向き直り頭を上げ攻撃態勢に入ります。蛇は、八刹那で時速百キロにも達する速さで頭を攻撃に使い噛みつく事が出来るそうです。
この蛇も同じかそれ以上と思った方がいいでしょうね。
眷属達には動くなと言う合図を送ります。
「おい、ここで殺してはヌシの命に背く。落ち着け」
「先に攻撃されたんだぞ! 尻尾が潰れたんだぞ!」
狼が蛇を
「そんなのすぐ治るだろ? 放っておけ、いいな?」
狼が強く蛇に言い、蛇はグゥと唸りながらこちらを一睨みし先導を再開しました。
眷属達にゴーサインを出します。
梟ツヴァイが結界を張り、逃げられないように、そして外から視認出来ないようにしました。蝙蝠ドライが超音波で方向感覚を狂わせます。
狼が異変を察して反応しますがすでに遅く、獅子ヌルによって蛇の頭が落ちるところでした。蛇の頭と身体を余すところなく獅子ヌルが闇で包み込み消化します。
獅子ヌルはそのまま狼の四肢を落とし、首に爪をあていつでも殺せるという意思表示をします。
「お前ら! 何をしたかわかっているのか! 神の眷属をこのような!」
睨みながら狼が吠えます。四肢はすでに再生を始めています。やはり神の眷属でしたか。
「神に対する反逆だぞ! このままではすまさんぞ!」
唸りながら叫び続けていますが、反逆とは主君に対して行う物であって、私の主君はあなたの神ではありませんので、これは攻撃です。あなたは主君を守り切れずに死んでいくのです。
神の眷属の恐怖、畏怖、絶望を久し振りに味わいましょう。
異形の姿へと戻り狼の元へと迫ると、意外にも狼はすぐに心が折れ靄が吹き出してきました。靄を吸い取り味わいます。愚かな狼、敵に背を向け、ましてや敵をかばい味方を諭すなど、阿呆も同然。ああ、美味しい。
甘美甘美甘美甘美甘美甘美。
獅子ヌルにトドメをさして貰い死体を処理し、皆に分け与えます。
「ありがとうございます。オーリス様」
「はぁー奴らはおいっしいー」
「人間より折れるの早くない?」
「あいつらは未だわたし達と争っていると気付いてない」
確かにそうです。神が呼んでいるのならば素直に付いてくるはずだ、神に本気で背く者など居ないはずだ、などと変な自信と傲慢さがあのような結果になったのでしょうね。
“油断はしないようにしましょう。一度私は殺されているのですからね”
「はい! オーリス様」
「はーい」
「敵は皆殺し!」
「絶対に守るっ」
孔雀アインスは気を引き締め、梟ツヴァイはいつも通り、蝙蝠ドライは殺意を新たに、獅子ヌルは断固とした決意を、それぞれの形で返事をしてくれます。
再び山道を歩き始め神殿を目指します。途中邪魔が入る事無く二十分ほどで神殿が見えてきました。
神殿には聖職者達や信徒達はおらず、祭服を着た神と思われる者が一人立ってこちらを睨んでいました。
二十代くらいの青年の姿をとっており、金髪緑眼、身体は無駄の無い筋肉質をしています。
眷属達にはまだ手を出さないようにと指示を出し、様子を窺います。
「俺の眷属をよくも消してくれたな! 魔王!」
“初めまして、オーリスと申します”
「あ、初めまして。ガイア信仰教枢機卿のアポロンです」
アポロン。本人だとしたら直系の神ではありませんか。ガイアの曾孫。ひとりならなんとか倒せると思いますが、コレには双子の姉がいたはずです。出てくるとやっかいですね。
“ああ、あなたがかの有名なアポロンですか。噂は世界中隅々まで届いておりますよ”
いい噂か悪い噂かは別として、ですね。
「なに!? 俺ってそんなに有名? 曾婆ちゃんや親父の話に埋もれ気味だと思ってた! 俺すげーの?」
“ええ、すごいですね。お父様よりすごいと思いますけれど?”
「よっしゃー! 親父を越えたか! なに? お前良い奴?」
“はい、良い奴です”
「まじか! 何か曾婆ちゃんがお前殺してこいって言うからここで待ってたんだけど、良い奴なら殺しちゃいかんよな?」
“全くもってその通りです。いい加減お婆ちゃん離れした方がいいのでは? もう三千歳越えているでしょうに”
「そうなんだよなぁ、でも曾婆ちゃん五月蠅いんだよ。とりあえず一度戦っとかないと俺が殺されちゃうから戦っとこうや」
“わかりました。この勝負、何か賭けませんか?”
「お、いいねぇ! 何にしよっかなぁ。そうだ! 俺が勝ったらお前、俺の眷属になれ。眷属減っちゃったしな!」
“私が勝ったらあなたが私の眷属になるのですか?”
「いや、それは無理」
“それでは対等な勝負は出来ませんね。私が勝ったらこの神殿をいただくというのはどうでしょう”
「なんだよ、そんな事でいいのか。なんなら俺の加護もやるけど?」
“加護は要りません。ではそれでよろしいですね。ここにサインを”
この勝負に関する契約書にサインをさせます。その間に眷属達には指示を出しておきます。
「なんだこれ、文字細けぇな、こんなに何が書かれてるんだ、全く」
そう言いつつサインをしていきます。神とは言え、契約は絶対。もちろん私も抗えません。
これはどこかの誰かが契約を監視している訳では無く、お互いの神や主義に誓う物になります。ですので契約を反故にすると言う事は、自分の神、主義を失うと言う事、自分の存在意義を無くすという事になりますので、自分自身が消えてしまいます。
細かい文字の特記事項はよく読まないと大変な事になります。
お互いが契約書にサインをすると、契約書が燃え上がり契約が成されます。
「それじゃ、行くぜ!」
アポロンがこちらに向かって来ようとした瞬間、梟ツヴァイの結界に阻まれます。
その隙に獅子ヌルが回り込みアポロンを後ろから攻めます。
四肢を落とし……、四肢を落とすの好きですね、獅子だけに。首も落とします。身体だけ闇に吸収し首に話しかけます。
「獅子だけに四肢を落とすのですね! ヌル様」
「おもったー」
「安直すぎパターン再び!」
主よ、私を送ってくださった時に頭もいじりましたか?
“私の勝ちです”
「卑怯じゃねぇ!? 正々堂々と勝負しろよ! 勝負は一対一だろ!」
“一対一とはお互いに言っていませんよ”
「あれ? そうだっけ? ならいいのか。いいのか?」
その時、空が光で白一色になり、色が痛く目を開けていられないほどになっていきました。これは、何かが降りてきますね。
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