第30話 オーリスカルテットッ


 それからは襲ってきた野獣を糧にしたり、野盗を獅子ヌルが掃討したり昼夜問わず歩き続け二日。ノバル公国の公都に着きました。

 公都門では入都待ちの方々が並んでいます。私達もそこへ並び大人しく待ちます。


 待っていますと、フレイザー侯爵配下の影さんが戻ってきました。侯爵の手紙を携えています。

 影さんは最初に辿り着いたそうですが、侯爵の判定と手紙を待つ為に最後に出発したそうです。最後に出発した影さんに抜かれる私の眷属達……。


 手紙によりますと、到着順は一位影さん、二位梟ツヴァイ、三位蝙蝠ドライ、四位孔雀アインスでした。

 正確性は一位影さん、二位孔雀アインス、三位蝙蝠ドライ、四位梟ツヴァイだそうです。


 これはどう判断しましょう。とにかくもうすぐ眷属達も追い付くと思いますので、入都待ちの列からはずれ人の見えなくなった平原で待ちます。



「オーリス様! やりました、私が一番です」

「えー? あたしだったしー」

「馬鹿じゃないの!? 僕だったろ!」


「いいえ! オーリス様はおっしゃいました。速く正確に、と。つまり総合的に私です」

「可愛さ的にもあたしー」

「ツヴァイは途中で結界張って、僕らの道を塞いだろ!」


「ツヴァイと、ドライも反則です」

「えー? ドライも変な音出して方向狂わせたしー」

「邪魔をするなと言うルールは無かった!」



「あんた達五月蠅い! 黙れ」


 見かねた獅子ヌルが三体を睨みながら言い放ちます。


「え、なぜここにヌル様が」

「ヌルちゃん拗ねてたんじゃないのー?」

「あ! ヌルだー! やほーい!」


 孔雀アインスは怯え気味に、梟ツヴァイはからかうように、蝙蝠ドライは姉に慕うように獅子ヌルへ声をかけます。


「最初からいたっ。拗ねてないっ。やほ」


 律儀に三体それぞれに、蝙蝠ドライには小さく手を振りながら返事をしています。


“さて、君達。優勝は影さんです。三体は罰として送還でしたね?”


「オーリス様……?」

「それ、アインスが言っただけだしー」

「オーリス様は今回はって言った! 言った!」


「オーリス、こいつらはわたしがちゃんとさせるからっ」


「ヌル様!」

「ヌルちゃんやさしー、好き」

「ヌルー! 三番目に好き!」


「あんた黒騎士さんが三番じゃなかったの?」


「え、本当に最初からいらしたと?」

「ヌルちゃんのアレは視えないからねー」

「黒騎士さんは、頼んだけど釈放してくれなかったから四番」


“君達、商人登録証と通行証は貰ってきていますね?”


「……はい」

「……はい」

「……はい」


“何をしたのですか?”


「オーリス様! ノバル公国のあの砦の兵士がいけないんです!」

「なんか、あたしに相手しろってー」

「砦破壊パンチをくらわせたよ!」


 砦の三人の兵士だけではなく、全兵士が野盗のようだったという事ですね。

 詳しく聞くと、砦ごと破壊したようです。このまま戦争になりそうですので、フレイザー侯爵との話は修正が必要になりますね。砦が無くなった事はロムダレン国側の砦からも確認出来るでしょうし、早めに手を打った方がいいですね。


「しかしこれでオーリス四天王が揃いました」

「四天王? なにそれー」

「フフフ、アインスを倒したか。奴は四天王の中では一番役立たず」


「なんて事を! なんて事を!」

「やられキャラねー」

「四天王って結局全員やられちゃうよね」


「オーリスカルテットッ」


「かっこいいです、ヌル様!」

「もしかしてヌルちゃん、隠れてて会話に入れず寂しかったー?」

「オーリス様を中心にポーズを考えなきゃね!」



 主よ、三馬鹿が四馬鹿にならないよう祈ります。



 影さんにフレイザー侯爵への伝言をお願いします。ノバル公国砦の兵士を全滅させ砦を破壊した事、戦争に突入する懸念、計画していたアルブ殿下の件、この後ロムダレン国がどう動くか王と相談して欲しいという事を頼みました。

 影さんが戻ってくるまでに三、四日かかると思いますので、その間にノバル山脈の神殿へ観光に行きましょう。


“ノバル山脈の神殿へ観光に行きましょう”


「畏まりました、オーリス様」

「えー? 山登りー?」

「僕のボルダリング技術を発揮する時が来た!」


「あんた達飛べばいいじゃないっ。わたしもオーリス乗せて飛ぶから」


「観光なのに情緒が無いです、ヌル様」

「あたしもヌルちゃんに乗るー」

「えーっと、じゃあ僕もヌルに乗る! アインスは歩き!」


“山脈の麓まで飛んで貰って、山道を歩きます。獅子ヌル、皆を乗せてください”


 獅子ヌルは、うんと頷き獣の姿になり私を乗せてくれます。私は獣の姿になった三体を抱え込むようにして座ります。

 予備動作や力を溜め込む動作もなしに、獅子ヌルはふわっとした感じで浮き始め雲の下くらいまでの高さまで上がると、山脈の方角に向かって進み始めました。


「未だに不思議です。ヌル様の飛行はどうやっているのでしょう」

「翼ないし、魔法でもないと言うしねー」

「ヌルだけが出来る飛行法だよね」


「わたしに出来る事はオーリスは出来る。面倒くさいからやらないだけ」


 ふっ、と目をそらして周りを見ます。ああ、良い天気です。走るのとは違って、下の風景がゆっくり流れますので見ていて楽しいですね。


「オーリス様……?」

「目をそらしたー」

「護衛とかいらないじゃん!」


“君達、例えば護衛が付いている要人と、ひとりぶらぶらしている要人、どちらが威厳があり、大物そうですか?”


「え、それだけの為に……?」

「護衛がついてるひとー」

「印象操作かよ!」


 印象や見た目というのは大事ですよ。ノバル公国の砦の兵士も、私が甲冑を着けた黒騎士さんに連れられていたら賄賂など求めないでしょうし、フレイザー侯爵が外業の人の格好でいても、あの優雅さは引き立たないでしょうからね。


 三眷属がぎゃあぎゃあ言いながらも私は気にせず、獅子ヌルは進み続け山脈の麓で高度を落とし始めます。



“ここから歩きましょうね。眷属達よ、私を護衛するように囲みながら進んでください”


「畏まりました、オーリス様」

「開き直ったー」

「オーリスカルテットで菱形陣形!」


「わたしが先導するっ」



 左手は壁のように山がそびえ、右手は断崖絶壁、人が三人並ぶのがようやくの道幅です。眷属達は菱形陣形を少しずらし、人間の姿で三人横並びにならないよう気を使っているようです。

 先頭に獅子ヌル、左手に梟ツヴァイ、右手に孔雀アインス、後ろに蝙蝠ドライという配置ですね。

 山頂まで直線の道では無く、山を回り込んだり、つづら折りになったりしながら進みます。

 絶壁側にいる孔雀アインスが怖々と下を見ながら言います。


「押さないで下さいね!」

「ふりー?」

「えーい!」


 蝙蝠ドライに押された孔雀アインスが崖から落ちます。何を遊んでいるのでしょう。いえ、観光ですからこう言う遊びも良いかもしれませんね。


 すぐに孔雀アインスが獣の姿で飛び上がって戻ってきました。また人間の姿をとると文句を言っています。


「押さないでって!押さないでって!」

「えー? ふりでしょー?」

「えーい!」


 そう言う事を何度か繰り返していると、少し開けた場所に木造の門が見えてきました。神殿の聖職者達による通行門かとも思いましたが、兵士が詰めているようで違うようです。

 兵士を教戒しても戦争で死にますからね、ここは押し通りましょうか。



 門までもう少しという所で獅子ヌルが門に向け走って行き、拳を突き出します。門は崩れ落ち廃墟のような跡になります。門前にいた兵士達は驚く間もなく獅子ヌルの爪に引き裂かれそこに倒れていきました。


“獅子ヌル、何をしているのです”


「遅かれ早かれこうなったっ。手間を省いただけ」


「確かにそうかもしれません。さすがです、ヌル様」

「ヌルちゃん居るとらくー」

「もうちょっとこう、なんかこう、因縁付けてくる兵士とのやりとりを楽しむとかあるだろ!」


「面倒くさいっ。どちらにせよオーリスも教戒するか潰すかしたはず」


 ふっ、と目をそらし崖の下を見ます。ああ、高いですね。結構昇ってきたのですね。おや、あんな所に花が咲いていますね。何と言う花でしょうかね。


「オーリス様……?」

「また目をそらしたー」

「もし敵だとしても会話しようよ!」


 獅子ヌルが姿を現してからどうも調子が狂いますね。私の威厳と尊大さと畏敬の念が薄れている気がします。

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