第28話 誰が一番優秀か決める大会開催です
“眷トラ合体お願いします”
旅に出る旨の書き置きをし、眷トラに乗ります。そしてそのまま窓から外へ出て、王都門へ向かいます。
王都門を出た後は眷トラに全速を出してもらい、捕まった街は通り過ぎます。
あの街で王城発行の身分証を出すと、門番さんや門長さんが気まずいでしょうしね。
日はすっかり暮れてもう夜です。まだ眷トラは走り続けています。
「オーリス様! 前方に焚き火と思われる灯りがあります」
「きゅうけいきゅうけいー」
「眷トラ楽しいけど眷属使い荒すぎだよ!」
“焚き火の場所へゆっくり進んでください”
近づいて行きますと、少し広めの場所が
馬車が二台止まっており、真ん中に大きめの焚き火があります。
そこで何人かの人が火にあたっているようです。
“こんばんは、ここは野営地ですか?”
「お! なんだそれ!? 人に乗ってるのか。こんばんは、そうだよ」
“火に当たらせて頂いてよろしいでしょうか?”
「ああ、いいぜ。旅人は助け合うのが道理だ。いや騎士様か?」
私が騎士服を着ているからでしょうか、そうでしょうね。
“ありがとうございます。騎士ではありません、旅人です。あなたは護衛さんですか?”
私が話しかけた人は男性で革鎧に帯剣していらっしゃいました。
その横にも護衛と思われる男性がひとり、他に一般の方だと思われる人が何名かいらっしゃいます。
「ああ、そうだ。この人達の護衛だ。この人達は商人さ」
なるほど、外業の人ですね。そして街から街への護衛をしていらっしゃる、と。
横にいる方々は商人さんだと言われました。四名ですね。
護衛の方は全部で七名いらっしゃるとか。他の人は仮眠中だそうです。
“こんばんは、商人さん”
「こんばんは、旅人さん。どちらまで行かれるのですか?」
“ひとまずノバル公国へ。行きたい所へ行き、見たい所を見る、そういう旅ですね”
「そうでしたか、羨ましいですね、所でお言葉が……」
“事情がありまして筆談で失礼します”
「そうですか、立ち入った事のようで申しわけありません」
人の良さそうな男性で少し恰幅の良い商人さんです。
他の二人はその商人さんのお手伝いさんで、あとの方はおひとりで商売をされているそうです。
眷属達を私の使用人だと紹介します。
この辺りの地理を伺いますと、この先の街がフレイザー侯爵領だそうです。
最初の目的地がその街ですので、かなり近くまで来ていたようです。
さて、それでは先を急ぎますので失礼します、と別れを告げます。
眷トラに乗って向かおうとする所を止め、振り向きます。
『跪け!』
焚き火にあたっていた人達が跪き始めます。
仮眠中の護衛さん達にも聞こえたのでしょう。天幕から出てこられ跪いてくださいます。
『主は唯一神であらせられる。改心せよ!』
教典が皆さんに入り込みやがて祈り始めます。
街から街へ移動する商人さんと外業さんは、信徒確保の為に教戒しておきたかったのでちょうどよかったですね。
ひと月後からが本来の教戒による信徒確保の本領発揮です。先にひと月迎えるのがマリスさんや黒騎士さん達ですね。
ロムダレン国では(森の獣含む)三百人以上教戒出来ましたから、あとは他の国の為に残しておきましょう。
それではまたお目にかかれるのを楽しみにしていますね、とその場を離れました。
次の街へ行く途中で眷属達に集めて貰った野獣を糧にし、眷トラで街の門まで行きます。まだ閉門されているようですので、ここで朝まで待ちましょう。
私と同じように門の前で夜を過ごす方が五人ほどいらっしゃいました。
馬車が一台ありますね。屋根も幌もなく、荷馬車のようです。皆さん焚き火をして暖を取っていらっしゃいました。
今は夏の終わりで、この世界に季節はあるようですが冬はそこまで厳しくないようです。
「こんばんは騎士様、あなた達もここで? どうぞ火にあたってください」
焚き火にいた一人の男性が声をかけて下さいました。眷属達に大人しくしておくように言い含めて火の傍に寄ります。
“ありがとうございます。騎士ではありません。間が悪くてこのような時間になってしまいました”
「僕らもねー、途中で荷馬車が壊れちゃってねー。直してたら間に合わなかったよ」
“それは大変でしたね。どちらから来られたのですか? 私達は王都からです”
「僕らも王都からだよ。僕は商人、そこの三人は護衛の外業の人達でね。もう一人は妻さ」
商人と言われる男性は四十代ほどで金髪、人の良さそうな顔立ちです。外業の三人を見ますと帯剣して革鎧の人が二人、魔法士の様な人が一人。皆さん男性ですね。目を合わせると目礼してくださいました。
奥様の方は疲れているようで、焚き火の横で就寝中です。
「ノバル公国に行きたいんだけどねー、ほら戦争中でしょ? 商隊に混ぜて貰おうと思ってね。護衛の外業の人達はここまでの契約だしね」
フレイザー侯爵と打ち合わせした時に聞いていたのですが、外業を装ってノバル両国それぞれから工作員や諜報が入り込んだらしく、外業の人は出入国出来なくなったという事らしいですね。
国の輸出入に関わるお茶や塩などの品は、厳しい審査と検査を終えた各国の兵士が護衛として付くそうです。
商人達は出入国出来るのですけれど、護衛がいないと不安ですので外業の人に商人登録して貰うという事でその問題を回避しているらしく、国は黙認しているようですね。
私の持っている王城発行身分証は問題なく出入国出来るのですが、王城で発行されるほどの身分であると知られると動きづらくなりますので、フレイザー侯爵のコネを使い商人登録証と出入国の際に必要な通行証(パスポートのような物)を、この街の領主館で受け取る事になっています。
「あなた達は旅人さん?」
“ええ、そうです。ノバル公国に行きたいと思っていまして、ここで商人登録しようと”
「今、ここでは新規の商人登録はなかなか許可が出ないらしいよ。王都の方が許可は出やすいね。許可が出ても新規商人では通行証がほぼ出ないね」
“そうなのですね、ありがとうございます”
「あまり心配してなさそうだね、コネでもあるのかい?」
“はい”
「そりゃー羨ましい限りだ。商人にとってコネは大事。ましてや通行証出せるほどのコネとはその人、偉い人なんだねー」
“そうですね、コネは大事にします”
「うんうん、それがいいよ。僕はコネを作るのが下手でね。通行証発行して貰うのに半年もかかっちゃった」
“ではここで私とコネの様な物が出来ましたので、コネコネですね”
「あははは! コネコネかー、それはいいね。僕はボイド、よろしくね」
ボイドさんはニコニコしながらそう言って握手を求めてきました。
“私はオーリスです。よろしくお願いします”
私もにこやかに握手を返します。
「オーリス君は公国に行って何をするんだい?」
“行きたい所へ行き、見たい所を見る。そのような感じですね”
「なるほど、羨ましいねー。ああ、そうだ。それならノバル山脈にあるガイア信仰教神殿は見とくといいかもね。噂によると神がおわすらしいよ」
最後の言葉は内緒話でもするかのように小声で教えて下さいました。
“ありがとうございます。そこは行ってみようと思っていました”
「観光で有名だからねー、知ってたかー」
あはははと照れ笑いをし、誤魔化すかのように頭をかきそう言われます。
ノバル山脈は、公国と王国の間にありその山頂付近に神殿があるそうです。その神殿の所属を巡って両国の戦争はより激しさを増しているとか。
ボイドさんは話し好きなようで、尽きない話をいろいろ聞いていると空が白み始め、やがて街の門が開き始めました。
「それではオーリス君、何処かで会えたら今度はお酒でも飲み交わそうよ」
“はい、いろいろなお話ありがとうございました。また何処かで”
ボイドさん達が先に入街手続きに入り、街の中へ入っていきました。
私達の順番になり身分証を出します。
「これは! ようこそオーリス様。領主代官へ連絡を入れますので、狭いところですがこちらの控え室でお待ちくださいませ」
すでに話は通っているようで門番さんが丁寧に挨拶をしてくださり、控え室へ案内されます。
お茶を飲む間もなく代官さん自らが迎えの馬車で来てくださり、そのまま領主館へ向かいます。代官さんはフレイザー侯爵の配下の者だと紹介されました。
「オーリス様。フレイザー侯爵より連絡を受けております。商人登録証と通行証はすぐにお渡しできます」
“ありがとうございます。しかし早いですね”
「はっ! フレイザー侯爵の使い魔が飛んできましたので、すぐに手続きを致しました」
なるほど、鳥系の使い魔でしょうか、そうでしょうね。使い魔がいると便利ですね。
私の眷属は飛行系ですが、速度があまり出ませんし、何よりちゃんとお使いできるかどうかが問題になります。
“優秀な使い魔なのですね”
「オーリス様! 私にも出来ます!」
「誰が一番優秀か決めよー」
「僕に決まってるだろ!」
“では、誰が一番優秀か決める大会開催です。今回は伝言を速く正確に届けられるか大会とします”
「私です!」
「今回、とか言ってるー」
「賞品とかないの?」
“出来て当たり前の事に賞品はありません。むしろ出来なかったら罰でしょう”
「オーリス様。出来なかったら送還という事で!」
「あーそれ言っちゃう?」
「二人ともバイバーイ!」
“それでは、影さん出てきてください”
そう言うと私の足元からフレイザー侯爵の配下である影さんが出てきます。
“では、四体とも良いですか? 今から言う言葉をフレイザー侯爵に伝えてくださいね”
“無事、フレイザー侯爵領に着きました。これから四体をフレイザー侯爵に伝言役として放ちます。この伝言を聞きましたらその者達がどの順番で、何と伝言したか正確に覚えていてくださいね”
“はい、ここまでです。では、スタート!”
四体は素早く馬車を降りるとそれぞれ、孔雀、梟、蝙蝠、鳥のような黒い影になり飛んでいきました。
「オーリス様。間もなく領主館へ着きます」
代官さんが教えてくださるとすぐに馬車が止まります
馬車の窓から外を見るとあまり華美ではない、重厚なお城がありました。国境に近いという事で戦争になった時を考えて民の避難所や要塞の役目を果たすそうです。
城の周りには四、五メートルほどの幅の堀があり水が入っています。さらに五メートルほどの城壁で囲まれ、中へは一箇所の跳ね橋からしか入れなくしているそうです。
跳ね橋手前の兵士詰め所で入城手続きをして、中へ入ります。
この城の貴賓室へ案内され、ソファーで寛ぎながらお茶を飲んでいると、私と眷属達の商人登録証と通行証を代官さんが持って来て下さいました。
私の分と眷属達の物から一体分を抜き取り、代官さんにお礼を言ってその街を後にします。
眷属達や影さんは私を追跡できますので、そのうち追い付く事でしょう。
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