第23話 わたくしに妹が出来ました!


 王都門を出て森の手前で馬車を降ります。

 ミージン王女達も種族柄、休憩と野営は必要ありませんが、王女を全く休憩無しで移動させるのもどうかと思いますので、二日くらいかかりそうでしょう。


“孔雀アインス、獣人さんの村へ先触れをお願いします。二日くらいで着くでしょう”


「オーリス様……?」

「よろしくー」

「お仕事貰えたね!」



 行きましょう私。頑張りましょう私。



「あ! 野獣です。間引きして参りますわ!」


“ミージン王女、あの獣は信徒です。やめてあげてください”


「野獣をどうやって信徒にしましたの?」


“お答えできません”


 ミージン王女が睨んでいますが気にしないようにしましょう。

 さすが外業をやってらっしゃるだけあり、ミージン王女は文句も言わず森の中を坦々と歩いていらっしゃいます。

 フレイザー侯爵は庭を散歩するかのような優雅な動きです。

 ミージン王女の護衛騎士さんが草を切り分け、木の枝を落とし道を作ってくださっています。


「王女、意外とやるわねー」

「文句ばかり言うかと思った」


「森も山も外業で経験ありますわ。もちろん野営もですわ。戦場はフレイザー侯爵が止めるのでまだ行っていないですけれど、いつかきっと!」


 梟ツヴァイと蝙蝠ドライの呟きにミージン王女が答えます。



“休憩にしましょう。梟ツヴァイ、蝙蝠ドライ警戒を”


 眷属達に警戒を任せ休憩に入ります。

 荷物は下に敷くシート、天幕くらいしか持ってきていません。

 人間とは違いますしね。もちろんミージン王女の護衛騎士さんもすでに文字通り人間離れしておりますので、荷物が少なくなるのは楽で良いですね。


 護衛騎士さん達がミージン王女の為に天幕を張り、シートを敷きます。準備ができた所でミージン王女が座られ落ちつかれたようです。


「オーリス様、あの兎と犬のようです」


 黒騎士さんが最初に教戒した兎と犬の獣を見つけます。

 兎と犬の獣は私に寄ってきて身体を擦りつけるように甘えます。


“お元気でしたか? 村の方は問題ないですか?”


 私が聞くと犬の獣がひと声鳴き、大丈夫だよと言っているように感じます。

 二匹を撫でているとミージン王女が話しかけてこられました。


「その野獣は信徒ですの?」


“そうです。森で最初に信徒にした獣ですね”


「わ、わたくしも撫でていいかしら?」


“二匹が許すようならどうぞ”


 ミージン王女がそっと寄ってきて二匹に手を伸ばします。

 私は二匹に大丈夫ですよと言うように頷きます。

 ミージン王女の手が兎の獣に触れ、壊れ物を触るように、やがてなれたら優しく撫でていました。


「野獣を撫でたのは初めてですわ。可愛らしい……」


 嬉しそうに微笑んでいらっしゃいます。

 フレイザー侯爵は見守るように慈愛の表情で見ていらっしゃいます。


 犬の獣が優しげな声でひと声吠えると、六匹の獣達が現れこちらに寄ってきます。

 犬二匹、猿四匹、それぞれが寄ってきて私達の前に果物をいくつかぽとりと落とします。

 貢ぎ物のようです。


“ありがとうございます。いただきますね”


 果物を皆で分け、口に入れると冷たく芳醇な香りと味が広がります。

 洋梨のような味です。とても好きな果物です。


“もしかしてわざわざ川かどこかで冷やしてくださったのですか?”


 獣達に聞くと、うんうんと誇らしげに何度も頷いてくれます。


“ありがとうございます”


 ミージン王女やフレイザー侯爵も、マナーなど気にせずにかぶりつき食しています。

 美味しそうに微笑んでいらっしゃるので満足されているのでしょう。


「美味しいわ。オーリス様の信徒達は皆優しいのですね」


「本当に美味しいですね。これは王都では味わえません。今まで食べた果物より遙かに美味しい」


 ミージン王女とフレイザー侯爵がそう言われ二つ目に手を伸ばされていました。


 それから、羊皮紙に“諜報さんへ。ご堪能ください”と書いた物を木に貼り付け、その下に果物を二つ置いておきます。



 天幕等を片付け再び歩き始めます。

 そうして休憩を取りながら歩くこと一日半。獣人さんの村が見えてきました。

 ここまで一度も野獣に襲われることはありませんでした。きっと信徒の獣達が守ってくれたのでしょうね。

 ミージン王女はその事に関しては不服そうです。



「あ! オーリス様! おーい、オーリス様がいらしたぞー!!」


 孔雀アインスの先触れがちゃんと届いていたのでしょう、村の門を守る犬獣人さんが大声で村の皆さんに知らせます。


“お久しぶりですね。お元気でしたか?”


「はい! 村の皆、誰も死んでおりません。オーリス様のおかげです」


 犬獣人さんが跪き祈り始めます。


“主のお導きのおかげです。主に感謝を”



 集まってきた村の皆さんと中央井戸へ向かい、そこで同行した王女達を紹介します。



「ほー! 王女様初めて見たにゃ。王女様は何歳にゃ? その剣を見せてくれないかにゃ? 一緒に野獣狩り行くにゃ?」


 テリサさんが早速王女を質問攻めです。

 ミージン王女は嬉しそうに答えていかれます。


「オーリス様、ようこそいらっしゃいました」


“ブラドさん、お変わりありませんか? 不自由はないでしょうか”


「はい、皆楽しくやっております。ありがとうございます」


 ブラドさんとも挨拶を交わし、同行者を紹介するとフレイザー侯爵とどうやら馬が合うようです。

 2人打ち解けたようでいろいろな話に花を咲かせていらっしゃいました。

 お互い困った子を抱えているからでしょうか、そうかもしれませんね。



「オーリス様。先触れの任、果たしました!」

「おつかれー?」

「オーリス様、早く海水浴行こうよ!」


“孔雀アインスお疲れ様。海水浴は明日にしましょうね”


「オーリス様達は泳ぎに来たにゃ? 物好きにゃ」


 猫は水が苦手と聞きますしね。お風呂は好きなようですが。


「ちょっとミー姉と狩りに行ってくるにゃ!」


 ミー姉?


「オーリス様! わたくしに妹が出来ました! 嬉しいですわ!」


 ミージン王女の事でしたか。王女は本当に嬉しそうです。


 狩りには護衛騎士さんと信徒の獣達も付いていくようです。

 テリサさんと信徒の獣とは、意思疎通が出来るようですので大丈夫そうですね。


“ミージン王女くれぐれもお気を付けて”


「大丈夫ですわ! 野獣狩りは何度も経験ありますし、テリサが付いてますわ。大物を楽しみにしてくださいませ」


「これは!」

「フラグー」

「立てちゃった」


“眷属達、そっと付いていって守ってください”


「畏まりました」

「えー? あたしが守りたいのはオーリス様だけー」

「王女を守ることで、オーリス様の立場を守るんだよ!」


「なるほど!」

「そのドヤ顔どうなの?」

「ふふん」


 文句を言いつつもミージン王女達に付いていってくれました。しばらく静かに過ごせそうです。



「オーリス様よぉ、そろそろここに住んじゃどうだい?」


 この人がいましたか。


“お久しぶりです。いわびとさん”


「おう、なんかよぉ、オーリス様の事を考えるとじっとしちゃいられねぇでよ、オーリス様の家をみんなで建てたぞ」


 岩人さんが指さす方を見ると、この村にはそぐわないものすごく立派な家が村の奥にありました。

 平屋ですが、広さは村一番。入口の扉は美しい幾何学模様が描かれ、広い庭があります。

 庭にはどうやら私の姿らしき木像があります。


“こ、これはすごいですね。この短期間でよく……”


「おう、眠らなくていいんだろ? まだ内装は納得いかねぇが、木像はよく出来たと思うわ! 毎日崇めてるぜ」


「ふーむ。この木像はサイズを小さく作れますか? 王都で売れそうですね」


 ちょっと! フレイザー侯爵何をおっしゃっているのですか! こんなのを持ち帰ったらヴォルブ様が笑い転げて大変な事になりそうです。


「おう、村のみんなに配ってるからなぁ、たくさんあるぜ」


 すでにあるのですね。


「それは素晴らしい! 是非譲っていただきたい」


「条件がある」


「なんでしょう」


「これは売っちゃなんねぇ。オーリス様を崇め愛す者だけに渡して貰いてぇ」


「畏まりました。岩人様のお気持ち確かに受け取りました。私、ダリオン・フレイザーが間違いなく、オーリス様を愛する者の手に渡るよう尽力いたします」


 ふたりはじっと見つめ合うと、突然ガッと力強く握手をします。そしてハグ。

 岩人さんの言う条件に合う人が少ないことを祈りましょう。

 主は偶像崇拝を禁じてはいませんが、これでは私の信徒を増やしているようで良くない状況ですね。


 家に入ってみると、テーブルやソファー、棚、給仕ワゴンまであり、棚には木製の食器類があります。

 ソファーには獣の毛皮が敷かれてあり座り心地が良さそうです。


「オーリス様よ、この村に来た時はここに泊まってくれや。いやこの村に永住してくれや!」


“あ、ありがとうございます。永住はしませんがありがたく泊まらせていただきますね”


「本当はワシと住んで欲しいんだがよぉ、みんなのオーリス様だからな。ここはみんなで造ったしな!」


“そうでしたか、皆さんにもお礼を伝えておきます”


「いや素晴らしい。オーリス様は獣人達に愛されていらっしゃいますね」

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