第22話 オーリス様、わたくしも行きますわ!



 話は落ち着きましたので貴賓室へ戻り、侍女さんにフレイザー侯爵へと先触れをお願いしようとしたら先に先触れが来ていました。

 すぐに面会の手はずを整えて頂き、フレイザー侯爵を待ちます。



 フレイザー侯爵はアルブ殿下と共に来室されました。


“ようこそいらっしゃいました。アルブ殿下。フレイザー侯爵”


「うむ、邪魔をする」


「御使い様。早速、拝謁の機会をいただきありがとうございます」


 おふたりに席を勧め、お茶を出して貰います。

 眷属達はいつもの席へ。



「御使い様、アルブ殿下の件ですが」


“はい、どこで辻褄を合わせるかという事ですね”


「ええ、私の計画しておりました通り、アルブ殿下にはノバル仲裁に向かって頂き、そこで……と、思っております」


“ノバルと戦争になりますか”


「はい、ミージン王女をお喜ばせしたいのもあります」


“王国と公国、どちらに謀殺させる事になるのでしょう”


「どちらにさせてもノバルはひとつに纏まり、ロムダレンと敵対すると思われます。私は教会から手を引きますし、王都の教会はもう機能しないようですので」


“着地点はどうされるおつもりですか”


「ロムダレンの辛勝です。御使い様のお力添えがあれば圧勝となりましょう。いずれにしてもこの大陸はロムダレンで纏まります」


“それは考えておきます。戦争は半年後くらいからでしょうかね”


「根回しもあります。それくらいと考えて頂ければ」


“アルブ殿下はいつノバルへ向かわれますか”


「十日ほど下準備期間をいただき、それからになります」

 

“わかりました。アルブ殿下お気を付けて”


「わかっている。御使い様もご注意を。トリストロイトが動いているようだ」


“はい、招待状をいただきました。今の所、動く気はありません”


「む、そうか。では、失礼する」



 おふたりは必要な事だけをお話になるとすぐに退出されました。

 眷属達、静かでしたね。


“君達、どうしました? 静かでしたね”


「私はいつもそうです!」

「オーリス様に怒られるからー」

「出来る眷属をアピール!」


“まぁいいでしょう。明日から獣人の村へ行こうと思いますが、来ますか?”


「私はいつでも何処でも御一緒です」

「いくいくー」

「猫は殺していい?」


“駄目です。海水浴にも行きましょうかね”


「オーリス様!」

「わーい、勝負水着ー」

「百年後じゃなかった!」



 その時、来客があり侍女さんが対応していますが、あわてているようです。


“侍女さん、どうされました?”


「それが、その……」



「わたくしが来てあげたのですわ!」


 あー、中へ入って来られたのはミージン王女でした。


“ミージン王女。護衛付きとは言え、男性の部屋へ来室されるとは少し浅慮が過ぎますよ”


「かまわないわ。席へ案内してちょうだい」


 来られたのはしょうがないですね。上座の席へ案内し椅子を引きます。優美に腰掛けられ、こちらを見てにこやかに微笑まれます。

 その微笑み、少し怖いですね。


「オーリス様、王女と言われましたが」

「えー? あれが王女ー? っぽくなーい」

「腹黒い、絶対腹黒いよあいつ!」


 ミージン王女の左眉がピクッと上がります。蝙蝠ドライするどいですね。


「あの無礼な者達はなんなのですの?」


“私の眷属達です。孔雀アインス、梟ツヴァイ、蝙蝠ドライと申します”


「王女殿下、アインスと申します」

「ツヴァーイ」

「ドラーイ」


「ぶ、無礼ですわ! 主人の顔が見たいものですわ」


「オーリス様……」

「そこにいるじゃーん」

「目も頭も悪いのかな?」


 ミージン王女の左眉が三回上がります。新記録です。



“その辺りにしておいて、眷属達は無視してください。今日はどうされたのですか?”


「オーリス様? 最近わたくしの眷属と非常に仲がよろしいようですわね」


“そうでしょうか? 優秀な眷属で羨ましいとは思いますが、仲がいいかは……”


「毎日のようにお会いしているようですけれど?」


「あーこれは」

「嫉妬だねー」

「醜い醜い」


 なるほど、ご自分の眷属なのに私がここの所、お願い事を立て続けにしているからでしょうか、そうでしょうね。


「し、嫉妬なんかではありませんわ! わたくしの眷属を我が物のように使っていらっしゃるから!」


「僭越ながら王女殿下、それは嫉妬でございます」

「ございまーす」

「ドンマイ」


 ミージン王女の左眉が上がりっぱなしに! やりますね、眷属達。


“ミージン王女、最近確かにフレイザー侯爵にいろいろとお願いをしておりました。出過ぎた真似だと反省致します。申し訳ありません”


「そ、そうね。許します」


“では、お引き取りを”


「わたくしが邪魔だとおっしゃりたいのですの!」


「はい」

「はい」

「はい」


「くっ、本当に無礼だわ」

 

“ミージン王女、お茶をどうぞ。今日は毒は入れておりませんよ”


 一度眷属達をキッと睨んだ後、カップを手に取りお茶を飲まれます。

 美味しいですわ、と言われ少し落ち着かれたようです。


「オーリス様、昨晩ミレガン侯爵のパーティーに出席なされたそうですわね」


“はい”


「天使の舞をされたとか……?」


“はい”


「天使はどうでもいいのですけれど、わたくしのパーティーにも出席なさいませ」


“いつでしょうか?”


「二日後ですわ。招待状をお持ちしますわね」


“二日後は王都にいません”


「な! 何処に行きますの?」


“眷属達と獣人の村と海水浴へ参ります”


「な、な、なんなのですの! わたくしの誘いを断ると!?」


“残念ながら今回は都合が合わなかったという事で”


 ミージン王女はぐっと顔を上げられると、護衛騎士さんと何やらこそこそとお話をされています。

 いやな、非常にいやな予感がします。



「オーリス様、わたくしも行きますわ!」


“はい、行ってらっしゃいませ”


 いやな予感は当たったようです。


「ですから、わたくしもオーリス様と一緒に獣人の村へ行きますわ!」


“申し訳ありません。定員がいっぱいになりまして、またの機会という事で”


「え、この流れは」

「オーリス様が好きなのー?」

「オーリス様は腹黒女は嫌いだよ!」


「な! ち、違いますわ! 懸想などしていませんわ! わたくしはこの国の王女として獣人に会いたいだけですわ!」


“はぁ、パーティーはどうされるのでしょうか”


「先程決めた事ですからまだ招待状は出しておりませんわ」


 なんて短絡的な……。ああ、フレイザー侯爵、なぜあなたのような方が王女に仕えていらっしゃるのでしょうか。


“ああ! 出発は二日後でした。勘違いをしておりました。申し訳ありません”


「オーリス様が……」

「うそつきー」

「オーリス様、面倒くさそうな顔をしてるよ!」


 眷属達、黙っていてください。君達にも関わってくるのですよ。


「では、明日出発ですわね」


“ヴォルブ様がお許しになるかどうか……”


「父上が許せばいいのですね? わかりました、さぁ行きますよ!」


 ミージン王女は護衛騎士にそう言って颯爽と退出されます。

 きっとヴォルブ様は面白がって許可するのでしょうね。

 諜報さんも隠れて付いて来そうです。



 深夜、王都に眷属達と糧を求めに彷徨って朝を迎えます。


“さぁ、さっさと行きますよ。眷属達”


「オーリス様……?」

「オーリス様がやる気だしたー」

「王女が面倒くさくて置いていこうとしてるだけでしょ!」


 ヴォルブ様に獣人さんの村へ行く事は侍女さんを通じて伝えましたし、黒騎士さん達に護衛をお願いしました。

 眷属達がいるので護衛はいらなそうですけれど、それが黒騎士さんの仕事ですからね。勝手に行くと黒騎士さんが困りそうです。

 森の中を移動しますので、黒騎士さん達は甲冑ではなく騎士服です。公の場合を除き私の護衛の時はずっと騎士服で、とお願いしました。



 皆で城門を出ると目の前に豪華な馬車が止まっています。

 ああ、いやな予感再びです。

 気にしないように横を通り過ぎようとすると中からお声がかかります。


「おはようございます。御使い様。本日からどうぞよろしくお願い致します」


 挨拶をくださったのはフレイザー侯爵でした。


“フレイザー侯爵、どうされたのですか? なぜここに?”


「はっ! 昨晩ミージン王女殿下より遠征に出られるおりに同行せよと申しつかりました」


 フレイザー侯爵、頑張ってください。あなたの嬉しそうなお顔が救いです。


「父上が、オーリス様はわたくしを置いていきそうだと言われていたのが本当でしたわ」


 ミージン王女がそう言いつつ窓から顔を出されます。


“おはようございます。ミージン王女。いい遠征日和ですね。外の天気を確認しておりました”


「そういう事にしておきますわ。さぁ行きますわよ。お乗りなさいな」


 眷属達と馬車に乗り込みます。黒騎士さん達はミージン王女の護衛騎士さんと共に、護衛ステップに乗って行くそうです。


「オーリス様、作戦失敗です!」

「なかなかやるわねー」

「楽しみで眠れなかっただけじゃないの?」


 蝙蝠ドライの言葉にミージン王女がピクッと反応しましたが、見ない事にします。



 森の中に馬車は入れませんので、御者さんを除く計十名で向かう事になりそうです。


“ミージン王女、森の中を行きますので歩きですが、大丈夫でしょうか”


「大丈夫ですわ。わたくしの格好を見なさいな」


 あらためてミージン王女を見ますと、長めのズボン、長袖シャツ、革鎧に帯剣されておりました。

 フレイザー侯爵はいつもの貴族服です。


「ミージン王女殿下は健脚であられ、剣の腕は一流です。陛下に内緒で外業をされていたくらいでして」


 フレイザー侯爵がそうおっしゃってミージン王女のフォローをされます。

 本当に戦いがお好きなのですね。

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