第21話 恐怖と絶望がありますよ
“御者さん、大教会へ向かってください”
御者さんにお願いし大教会前で、馬車に乗ったまま眷属達に指示を与えます。
“君達に重要な任務を与えます。この大教会の中で明日まで隠れて待機してください”
「畏まりました、オーリス様」
「えー? どこが重要ー?」
「僕たちここに捨てられるの?」
“明日の大説法会の為です。朝では人の出入りが多く、信徒証を持っていない君達は入れないでしょうからね”
「オーリス様、明日の私の役目は何でしょうか!」
「ないよー」
「ないね」
“孔雀アインスは目立たぬよう、椅子の下か柱の陰で二体の仕事の監視です”
「え……、それって……」
「監視よろしくー」
「監視よろしくー」
眷属達を置いて王城へ戻ります。
貴賓室へ戻り静かな時間を侍女さんと共に過ごしました。
深夜、糧を求め王都を散策します。
こんな時間なのに兵士さんが多く警邏しており、一般の人は少ないですね。
三人組で警戒しています。ちょうどいいですね。
「まて! そこの! こちらを向け!」
兵士さんに呼び止められます。ゆっくりと振り向きますと、ひとりは黒騎士隊のようです。
「御使い様? なぜこのような所に?」
“こんばんは、この路地奥へ用がありまして、護衛していただけませんか”
「はっ! 畏まりました。おい、行くぞ」
黒騎士隊の方は他の兵士に声をかけ、三人で付いてきてくださいます。
先頭は黒騎士隊の人。さすがに護衛慣れしているようです。
「御使い様、奥には何もありませんが」
恐怖と絶望がありますよ。
三人の逃げ道を十二枚の翼で塞ぎ、異形に戻って行きます。
「うあああああ!」
「何だ!? 化け物だ!」
「み、御使い様? いや御使い様ではない! 化け物め!」
兵士二人は脅えて動けないようですが、さすがは黒騎士隊。剣を抜きこちらへ向かって来ます。剣を振りかぶり切ろうとしますが、眼で制し動きを止めます。
身体の動きを、考える事を、心さえ止め、三人の恐怖を畏怖を絶望を喰らいます。
路地奥で糧になっていただいた後、遺体は闇で処理します。
三組ほど糧になってもらい明日を待ちます。
◇◇◇
翌朝、キャソックを着て黒騎士さんふたりと大教会へ向かいます。少し遅めに出ましたので人の流れはもうないようです。
大教会前で黒騎士さんに、私が中へ入ったら扉を閉め、誰も入ってこないよう外で警戒をして貰います。
中へ入ると大司教と思われる方が内陣に立ちお話をされていました。信徒達は立席も椅子席も満員です。やはり五百人近く集まりましたか。
大司教を視ますと、なるほどあなた確か話し好きな天界に潜む獣でしたよね。私と同じように声を使って、洗脳するモノでしたね。
ガイアに連なる獣よ。
こんな所で何をしているのですか?
獣がお金を集めて何をするのです?
私はゆっくりと身廊を歩き内陣の方へ向かいます。
“梟ツヴァイ、反響結界を張ってください。私にも結界をお願いします”
「んー? 君は誰だね? 説法中だぞ、ここの聖職者か? 控えていたまえ」
大司教が少し怒った様子で話しかけてきます。それでも進むのを止めません。
私は六対十二枚の光り輝く真っ白な翼を広げます。
「んん!? な、なぜここに! 熾……」
大司教の言葉を遮るように翼をはためかせ、突風を起こしよろめかせます。
「何をする! 異教の天使め!
大司教は人間の姿を取るのをやめるようで、身体が輝くと手足が本来の物へとなり、羽が生え四つ足になり、馬の姿へと変わりました。
天馬と呼ばれる地母神ガイアに連なる獣です。
前世界では神獣のように崇められていましたが、本来は狡猾で残忍、人を弄ぶのが好きなただの獣です。
天馬は鳴き声を上げ、私を攻撃してきます。
声で狂わせ思考を奪いますが、強すぎるとそのまま身体ごと粉々になります。
後ろで悲鳴と泣き声が響き渡ります。
半数以上の信徒達の身体が粉砕され血が巻き散らされたようです。
あ……反響結界を張っていたのでした。
それによって天馬の鳴き声が反響され、信徒達に降り注いだようです。
「今日もオーリス様の失敗記念日です!」
「あたしのせいじゃないよねー」
「オーリス様、ドンマイ」
“眷属達、殺さないように”
孔雀アインスが羽を広げ魅了と麻痺を天馬にかけますが、元々魅了が得意な天馬には効きません。
蝙蝠ドライの超音波で右羽と右前足が粉砕されます。
天馬が倒れ込みそこを梟ツヴァイの小結界で押さえ込みます。
“はい、そこまででいいですよ”
私は天馬に近づきその背にガイアへの伝言を書き込みます。
“排除する”と。
「私も書きましょう。大人しく排除されなさい、っと」
「あたしもー。今、お前の後ろにいるぞ、っと」
「阿呆が見ーる! っと」
“さぁ、お前はメッセンジャーです。聖職者達の加護をはずし、行きなさい”
天馬は鳴き声を上げ加護をはずします。これで加護のついていた聖職者達にも私の教戒を受け入れることが出来ますね。
そしてこちらを恐れるようにあわてて飛び上がり、バランスを崩しながらも天へ戻ろうとしますが、何かにぶつかり落ちてきます。
「梟ツヴァイが結界を張ったままです」
「アーわざとじゃないのよー」
「絶対わざとだ! そういうとこあるよね!」
梟ツヴァイが結界を解き、あわてて帰って行きました。
残りは半数以下になった信者、聖職者達ですね。
“蝙蝠ドライいきますよ”
『跪け!』
声が増幅されさらに反響結界によって教会内に響き渡ります。
信徒、聖職者達が跪き始めます。
『主は唯一神であらせられる。改心せよ!』
全員身体を震わせ祈り始めます。
聖職者達に、無くなった信徒の後処理等をお任せし、大教会を出ます。
「お疲れ様でした、オーリス様。今日は大量に信徒を得ました」
「アインスは疲れてないんじゃない?」
「あれ? アインスいたんだー」
「オーリス様! 眷属内いじめが発生しております!」
「いじめは良くないねー」
「イジメ、ダメ、ゼッタイ」
◇◇◇
王城へ戻り王に報告する為、黒騎士さんに先触れをお願いします。
貴賓室で待っていますとヴォルブ様からすぐに来いとの事で、侍女さんの淹れかけたお茶を堪能する事も出来ず執務室へ向かいます。
よほど大教会の事が気になっていたようですね。
「よう、オーリス! 急がせたな、まぁ座れ」
ソファーにヴォルブ様と対面に座り、侍女さんの淹れてくれたお茶をいただきます。
お茶を飲んでいる最中にもなんだかそわそわしているようです。
一息つくと待ってましたと話しかけて来られます。
「それで? どうなった?」
もちろん大教会の件ですね。お待ちください、ご説明致します。
“結果は大司教を天に還し、信徒を二百名ほど獲得しました”
「大司教を殺したのか?」
“いいえ、大司教はガイアに連なる獣でした。何を目的としていたかはわかりませんが、民を洗脳していたようです。撃退し文字通り天に帰って行きました”
「そうか、これで教会はどうにかなるか?」
“聖職者達も信徒になりましたので、もうこの王都の教会は機能しないでしょう”
「そうか、よくやってくれた。おい、教会を全て接収しろ」
銀騎士さんにそう指示を出します。
「信徒二百人とはオーリスが言っていたよりかなり少ない数だな」
“大司教が獣の姿で攻撃を仕掛けてきました。その際に民が巻き込まれました”
「オーリス様……?」
「結界無かったら五十人も死んでないよねー」
「間違ってはない、間違ってはないけど!」
「……おう」
“犠牲となった者に永久の安らぎを”
「そ、そうだな。祈ろう」
“王都以外の街や村の教会はどうされますか?”
「直轄地は兵をだし接収させる。貴族の領地は布令を出す」
“教会寄りの貴族は応じないかも知れません”
「まぁ、そうだな。貴族をふるいにかける事になるな」
“なるほど、国につくか教会につくか、という事ですね”
「この国の貴族が国につくのは当然だ。教会につくような貴族はいらんな」
“その辺りのさじ加減はお任せしますが、民は何も知らずに信仰しています。民の事もお考えください”
「ああ、もちろんだ。オーリスが国中を回るのがいいんだがな!」
“そこはおいおいと、策もありますので”
「まぁいい。好きにしろ」
“はい”
「ところで夕べのパーティーは派手にやったそうだな」
“諜報さんを入れていましたか”
「おう、諜報が見惚れていたと言っていたな。披露目の時以上の物が見られたと」
“ダンスの時の天使はここにいる眷属達ですけれどね”
「オーリス様と舞いました!」
「勝負下着披露したかったわー」
「露出狂かよ!」
「諜報の夢は壊さないでおこう」
“それがいいでしょう”
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