第24話 くっ、そ、そうですわね
しばらくその家でくつろいでいるとミージン王女達が戻ってこられました。
「この家は温もりを感じられて、ゆっくりくつろげそうですわ」
「ここはオーリス様の家と伺いましたが」
「ここにみんなで住もうー」
「猫立ち入り禁止にしようよ!」
「なんでにゃ! お前らが立ち入り禁止にゃ」
ミージン王女に上座を勧め座っていただきます。
すかさずフレイザー侯爵がお茶を出されていました。
“狩りはどうでしたか?”
「猪の野獣を仕留めましたわ! 今まで狩った中で一番大きいのですのよ」
ミージン王女が嬉しそうに話されます。
どうやらフラグは大丈夫だったようです。
「果物なども収穫してきました」
「果物おいしー」
「今夜、宴をするって言ってたから渡してきたよ」
「宴の後、ミー姉と一緒にお風呂に入るにゃ」
その時は護衛騎士さんと黒騎士さんに風呂の警戒をしてもらいましょう。
さすがに村の人が入ってきたら困りますからね。
「オーリス様が思考顔です」
「ラッキースケベ狙ってるー?」
「狙ったらそれはただの覗きだよ!」
「オーリス様。覗かないでくださいませ」
“覗きません”
「あたしはオーリス様とお風呂入った事あるから平気にゃ」
「ええ!? なぜそのような……一緒に洗いっこ? 前も洗おうか? さぁ膝の上においで? いやらしいですわっ!」
「王女様……?」
「意外と妄想力あるわー」
「わかってたけど残念王女だね」
ミージン王女の妄想は止まる様子を見せません。
フレイザー侯爵、出番ですよ。
「そういえば庭にオーリス様の像を見たのですが」
「誰が造ったのー?」
「あれ持って帰ろうよ!」
「岩人が造ったにゃ、あれはダメにゃ。小さい像があるからそれにするにゃ。えーっと、あった。これにゃ」
テリサさんが家の中の戸棚を開けると、びっしりと小さい私の木像が並んでいました。
他者に恐怖を与える私ですが、恐怖を与えられました。
「これは素晴らしいです!」
「毎日一緒に寝よー」
「王城の部屋に飾ろう!」
「そ、それ、わたくしもいただこうかしら?」
「王女様、やはり……」
「オーリス様が好きー?」
「オーリス様は残念腹黒王女は嫌いだよ!」
「そ、そんなのじゃありませんわ!」
「それではいらないと言う事で」
「いるなら好きー」
「好きならいるー」
「要りませんわっ! ……あ」
「ミージン王女殿下の分は確保してありますのでご安心くださいませ」
「ダ、ダリオン」
ミージン王女、動揺が言葉に出て侯爵をファーストネームで呼ばれていますよ。
えー良い笑顔でこちらを見ないでくださいませ、フレイザー侯爵。
あなたもヴォルブ様と同じように私とミージン王女をどうにかしようと……?
「みんなで宴の準備を手伝うにゃ、三馬鹿はお風呂の手伝いをして来いにゃ」
「さ、三馬鹿?」
「なんで猫が指示するのー?」
「主よ、まだ猫が全滅していません。僕の願いは届かなかったのでしょうか」
“眷属達、お手伝いをしてきてください”
「畏まりました」
「猫の指示じゃないから行くー」
「ばーかばーか、ばか猫ー」
「オーリス様、あいつらに焼いた石を抱かせていいにゃ?」
ミージン王女とテリサさん、フレイザー侯爵は宴の準備を、眷属達と岩人さんはお風呂の準備をしに出て行きました。
外へ出ると獣の姿が見えたので目で追うと、私の木像にそっと果物を捧げ森に帰って行くのが見えました。
え? お供え物でしょうか。
木像前に結構な数の果物や野菜などが捧げられているようです。
あまり熱心に祈られるとそのうち木像に魂が宿りそうです。
村の様子を窺うと皆さん楽しそうに宴の準備をされています。
ミージン王女も材料を切っているようですがどこか危なげですね。フレイザー侯爵は手際よく華麗に調理をされています。侯爵、あなた貴族ですよね? 何をしても器用にこなしそうです。
「オーリス様にゃ。どうしたにゃ?」
“お手伝いしましょうか?”
「今日も主役だから待ってるにゃ」
私より王女を歓待した方がいいと思いますが。
「オーリス様! 料理とは難しい物ですね。城の料理人に感謝しなければ」
ミージン王女がジャガイモのような物の皮を剥きながらおっしゃいます。
厚めに切られていますが、それも有りでしょう。
一生懸命やっていらっしゃるようですのでケチを付けることはありません。
私も料理出来ませんしね。人間を料理するのは出来ますけれど。
「オーリス様! ささ一献どうぞ」
狐獣人のお姉さんがお酒を持ってこられ、小さめのグラスを手渡しお酌をしてくださいます。
「またお酒を造り始めたんですけど、まだ仕込み段階でしてねぇ。これは三日ほどで出来る果実酒なんですよぅ。これもなかなかいけますよ」
飲んでみると、なるほど果実の味が口に広がり美味しいですね。
少し甘めで女性も好まれる味でしょうね。
“ああ、美味しいですね。さすがは狐のお姉さん”
「ええ!? 私を嫁にですか? そんなぁ、わかりました!」
テリサさんが、にゃ!? とびっくりしてこちらを見ています。
ミージン王女は何故か睨んでいます。
“言っていません。貰いません”
お姉さんは「ん、もう!」と言いながらどこかへ行かれました。
「オーリス様こんにちはー!」「はー!」
狐獣人と犬獣人の子供達が元気に挨拶をしてくれます。
“こんにちは、楽しくやっていますか?”
「はい! 毎日オーリス様にお祈りしています!」「ます!」
“私ではなく、主にお祈りしましょうね”
「はーい!」「はーい!」
二人の頭を撫でるとくすぐったそうに身体をよじらせます。
“後でお風呂に入りましょうね。今日も眷属達がいますのできっと遊んでくれるでしょう”
「はい!」「はい!」
元気よく返事をすると、眷属と遊んでくるーと走って行きました。
今ではないですよ、いえ今でもいいでしょう。
「慕われていらっしゃいますね、オーリス様」
“ミージン王女はすぐに溶け込まれましたね。王女のお人柄でしょうね”
「そ、そんなわたくしなど。無理に付いてきてよかったですわ。楽しいですもの」
“無理に付いてきたという自覚はあられるのですね”
「くっ、そ、そうですわね」
“この村でミージン王女の素敵な笑顔が見られて嬉しく思いますよ”
「なっ!! くっ」
ミージン王女は顔を赤くしうつむかれ、恥ずかしそうにしていらっしゃいます。
さて、眷属の様子を見てきますとその場を離れ、浴場へ向かいます。
浴場では岩人さんが浴槽に焼き石を投げ込んでいるところでした。
眷属達はすでに浴槽に入って子供達と遊んでいるようです。
“岩人さん、眷属達が手伝いもせず申し訳ありません”
「子供は遊ぶのが仕事だぁ! オーリス様の眷属達はちゃーんと仕事しとるわぁ」
ああ、ちゃんとしているといい人なのですね、岩人さん。
しかしうちの眷属達は皆三百歳越えていますので……。
眷属と子供達はそっとしておいてその場を離れました。
村から少し離れて散策していると開けた場所に出ました。
石が墓石のように並んでいます。
ひとつの石の前でブラドさんが跪いて祈りを捧げていました。
「ああ、オーリス様。このような所へ」
“ここは、墓地ですか?”
「はい、狩りや病気で死んだ者、黒猫族の者、一時は飢えで死んだ者もおりました」
“そうですか……。私も祈りを”
跪き祈りを捧げます。この者達に永久の安らぎを。
「オーリス様のおかげでもう飢えで死ぬ事はありません。ありがとうございます」
そう言って深く深く頭を下げられます。
“主のお導きです”
「さぁ、オーリス様。そろそろ日が暮れてきました。宴を始めましょう」
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