第17話 本当に犯罪者になっちゃったよ!
「オーリス様、この国を把握する為に王都を探索したく思います」
「いい考えね! ついでに制圧しちゃいましょー」
「僕の都市破壊パンチでやっちゃおうよ!」
暇そうにしていた眷属達からそう提案がありました。
“君達は遊びに行きたいだけでしょう?”
「はい」
「はい」
「はい」
素直に返事が来るとは思いませんでした。
“いいでしょう”
「ありがとうございます! オーリス様」
「あれ? 聞いてくれるとは思わなかったわー」
「僕たちを放置してた罪滅ぼしだよ! 反省してよね」
断るとずっと五月蠅く言いそうですからね。
“はぐれるといけません、この縄を両手首につけて貰って、と”
三体の両手首に縄を縛り、三体を数珠繋ぎにします。
「オーリス様、これは……」
「れんこー」
「これ犯罪者だよ!」
それぞれ力任せに縄を引きちぎり文句を言って来ます。
“はいはい。行きますよ”
三体と共に城門を出ます。
黒騎士さんふたりはもちろん護衛に付いてきて頂いています。
一番区貴族街を抜け、二番区商人街へ差し掛かります。
二番区はちゃんと見た事がなかったですね。
貴族向けの商店が多いらしいのですが、少し覗いていきましょう。
「大きく広い店舗が多いですね、オーリス様」
「ここの人間で流行ってる服が見たいわー」
「ツヴァイは何着ても残念お姉さんにしか見えないよ!」
なにー! と言いつつ梟ツヴァイと蝙蝠ドライがじゃれ合います。
先ほどから兵士が三人組で道を行き交っています。
「兵士さんが多いですね。いつもこのような感じですか?」
「いえ、三番区で失踪事件が相次ぎまして警戒を厳にしております」
黒騎士さんがそう教えてくださいます。
“失踪事件ですか”
「はい、誰も居なくなった酒場、突然失踪した家族や友人の捜索と言った陳情がここ最近多く寄せられております」
「……」
「……」
「……」
君達、急に大人しくなると、かえって怪しいでしょう。
「オ、オーリス様。ここのお店など見てみられませんか!」
「……」
「……」
孔雀アインスが示した店舗に皆で黙って入ります。
動転して選んだのでしょう。
そこは下着の専門店のようでした。
「いらっしゃいませ! 男性用はこちら、女性用はあちらになります。御用の際はお声をかけてくださいませ」
女性の店員さんが声をかけます。
「オーリス様、も、申し訳ありません!」
「あらー、ちょっと見てくるわねー」
「僕はノーパン派だしー!」
孔雀アインスは気まずそうに、梟ツヴァイは楽しそうに、蝙蝠ドライは興味なさげです。
私も見てみましょう。
ここではゴムは見つかっていないか、活用されていないようですね。全部紐で縛る物のようです。生地素材はあまり種類がなさそうです。
詳しくはないのでよくわかりませんが、男性用はトランクスタイプが多いですね。
「オーリス様。ツヴァイが……!」
「見て見てー、どうかなー?」
「誰に見せる気なんだよ!」
梟ツヴァイが下着だけをつけ見せに来ました。
上下真っ赤で、下は紐パンと呼ばれる物ですね。
“似合っていますよ。
「オーリス様……?」
「えへへー、これ覚えて後から自分で作ろうっとー」
「僕もパンツ履くよ! オーリス様選んでよ!」
“蝙蝠ドライは何を着ても似合いますよ”
「オーリス様! 私は!?」
「次は何着よっかなー」
「し、知ってるし!」
“これは水着ですか?”
水着らしき物が展示してあります。店員さんに伺ってみます。
「はい、そちらは最近流行の兆しを見せている物でして、川や海に入る際に使う物になります」
そう言えば獣人さんの村は海に近いのでしたね。余裕が出来たら海に行ってみましょう。
「オーリス様はきっと海水浴に連れて行ってくださるに違いないと思われます」
「眷属の福利厚生は大事よねー」
「オーリス様と砂浜で遊びたい!」
“いつか行きましょうね”
「はい、オーリス様!」
「日にち指定なーし」
「百年後とか言うパターンだよ!」
その店を出ていろいろな店舗を覗き見しながら三番区へ向かいます。
私が糧を得た三番区の酒場は閉店されていました。店主も一緒に糧になりましたからね。
「この酒場でも失踪事件があり、店主もろとも客も消えたようです。賑わいのある酒場だったようでして、おそらく十名以上は消えていると思われます」
私が閉店した酒場を見ていると黒騎士さんが教えてくださいました。
「オーリス様……?」
「ここは知らなーい」
「やっちゃったんだね!」
黙りなさい。
露店や屋台を眺めつつ歩いていると眷属達が、屋台の肉串を欲しそうに眺めています。
“食べてみたいのですか?”
「オーリス様!」
「買ってー」
「食べたい!」
“お金がありません”
「オーリス様……?」
「びんぼー」
「甲斐性なさすぎだよ!」
黒騎士さんが、私が出しましょうかと申し出てくださいましたが、丁重にお断りしておきました。
黒騎士さん優しいです。
「オーリス様、お金を稼ぎましょう!」
「その辺の人間を攫うー?」
「殺した方が早いよ!」
“人間を殺傷せず、迷惑をかけず、正当な方法での対価獲得大会開始です! 私は判定しますので参加しません”
「それでは私から!」
「それってヒモー?」
「僕たちに稼がせる気だよ!」
孔雀ドライが通りを見回しながら何かを探しています。
やがて一人の老人女性に近づいて行きました。
「そこのお姉さん、少しお話でもどうですか?」
≪えー? これはなくない?≫
≪ナンパかよ!≫
様子を見ていた梟ツヴァイと蝙蝠ドライが呆れています。
「はいはい? 何でしょう?」
老人女性は優しそうな方でにこやかに返してくださっています。
「お姉さん、ご家族は?」
「わたしゃ、ひとりもんですよ。みんな死んでしまった……」
「そうですか。それでは老後がご心配でしょう? お金はどうしていらっしゃるので?」
「旦那が店をやっていてねぇ、死んだ後その店をやめて売ったお金で細々とやってるよ……」
「なるほどなるほど、実はここら辺の皆さんやっている事なのですが、預けたお金が二倍、三倍になって返ってくる商材があるのですよ! もうこれで老後も安心! 貴族街の方に屋敷を建てた人もいますねー!」
「そんなうまい話があるわけないじゃない」
「皆さん最初はそうおっしゃいますね! しかし私は王城の方からやって来た者でして、身元は保証済み。商材は残りわずか。皆さんやっていらっしゃる。どうですか、やらないとあなただけ損をしますねー」
「そ、そうなの……? みんなやってるの?」
≪あちゃーアウトー!≫
≪王城の「方」からって誰でも来れるよ!≫
“黒騎士さん確保願います”
即、黒騎士さんが孔雀アインスを確保し、老人女性に謝罪します。
孔雀アインスの羽を一枚抜き、老人女性に渡します。
“迷惑な人に絡まれたりしたら、その羽軸の部分でつついてください。痺れて動けなくなります。死にはしません”
「オーリス様、どこがいけなかったかご教授を!」
「全部だよねー」
「性格も顔も身体もね!」
「お金を出してくれそうな雰囲気でしたのに」
「じゃあ、次はあたしー」
「どうせナンパだろ!」
梟ツヴァイは若い男性に目を付けたらしく近づいて行きます。
≪予想通りナンパでしたか≫
≪それしか能が無いからね!≫
梟ツヴァイが少しよろけ、若い男性に寄りかかります。
「ごめーん、よろけちゃったー」
「いえ大丈夫ですよ。お嬢さんこそ大丈夫ですか?」
親切な男性のようです。手を取りしっかり立たせてあげています。
梟ツヴァイはありがとーと礼を言い、その男性から離れこちらへ戻ってきました。
「えへへーゲットー」
そう言って梟ツヴァイが見せたのは、男性が持っていたと思われる革袋。お金が入っているようです。
「犯罪です」
「えー? 誰も殺傷してないしー」
「スリかよ!!」
“黒騎士さん確保願います。先程の男性をお連れください”
梟ツヴァイを確保。男性に革袋を返し、謝罪します。
梟ツヴァイの爪を一枚はがし男性に渡します。
“細かく砕いて水で溶かしてください。まぶたに塗れば一晩程、夜目が利くようになります”
「お金を稼ぐのは難しいのですね」
「なんか判定厳しすぎー」
「じゃ、次は僕だよ! 見てろよ、まともに稼ぐから!」
蝙蝠ドライが辺りを見回し始めます。
すると突然走り始めました。
≪あちらには何もないような≫
≪なんだろねー≫
蝙蝠ドライは通りを走っていた馬車の前へ飛び出し、馬に跳ね飛ばされます。
「痛いよー! 痛いよー! うわああん! ひどいよ僕が通ってたのにこの馬車突っ込んできたよー!」
御者さんが降りてきて困った様子でおろおろとされています。
≪当たり屋ですね≫
≪あれはセーフ≫
“アウトです。黒騎士さん確保願います”
黒騎士さんはわかっていた様子で、すでに確保の準備はされていらっしゃいました。
二体続けば次も同じと考えますよね。
黒騎士さんさすがです。
御者さんと馬車に乗っていた商人の方に謝罪します。
蝙蝠ドライの皮を剥ぎ渡します。
“乾かした後、細かく砕いて煎じて飲めば便秘に効きます”
三体は手首に縄をかけられ数珠つなぎにされています。
“お城へ戻りましょう”
黒騎士さんに引っ張られ歩き始めます。
「オーリス様はこれを予言していらっしゃった!」
「れんこー」
「本当に犯罪者になっちゃったよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます