第14話 わたくしは聖女と呼ばれていますのよ?
さて、ミージン王女とお茶にしましょう。
王女は御参加くださるとの事で場所の選定からお茶の用意まで、申し訳ないですが全て侍女さんにお任せします。
場所は王城一階で池が見えるティールーム。防諜に優れ、王の諜報さんレベルではないと探ることは難しい場所だそうです。
眷属達は貴賓室にて留守番です。
しばらく待つと護衛の騎士二名を伴ってミージン王女がおいでになりました。
“ようこそいらっしゃいました。急なお誘いで申しわけありません”
「オーリス様のお誘いでしたらいつでも出席させていただきますわ」
椅子を引きミージン王女を席へ誘います。
ゆっくりと美しい所作で着席され、すぐに侍女さんがお茶を出してくださいます。
今日のお茶はハーブティー、香りが良くとても落ちつく味です。毒も入れております。
「た、大変美味しゅう御座いますわ」
ミージン王女が左眉をピクピクさせながらお茶を飲まれます。
“毒は様式美かと思いまして”
王族に毒など無礼千万、すぐに処刑されるでしょう。それがミージン王女以外の方でしたら。
「そ、それで……? 今日はいったいどのようなお話がありますの?」
“帝王国への企てはどこまで進んでおられますか?”
「なっ!! ど、どこでそれを! い、いえ、そういう企てとやらは知りませんわ」
“帝王国エランとトリストロイト
「な、な、何の事かしら? そ、そういう話でもあるのかしら? そうね、戦争になったら大変でしょうね。オーリス様は、帝王国には近づかない方がよろしいかもしれませんわ」
ミージン王女は企てには向かないのではないでしょうか。
顔汗がすごい事になっていらっしゃいます。
「ち、父上はそのような根も葉もない噂話をご存じなのかしら?」
“いいえ、まだご存じありません。例え話ですが、よその大陸で大きな戦争を起こす前に、近くの国で練習がてら戦争を起こさせるなどは、荒唐無稽なお話だと思われますか?”
「な、なんの事をおっしゃっているのやらわかりませんわ」
“ノバル公国近くの領地など戦争景気で大忙しでしょう。フレイザー侯爵とか”
「もう! おっしゃりたい事があればはっきりおっしゃいませ!」
“フレイザー侯爵へ紹介していただきたいのと、帝王国への
「なっ!! あなたわたくしのことが……」
“それはありません”
「ちっ。侯爵に紹介するのはいいですわ。
“戦争の為に
「……そうですわ」
“戦争を早めに起こしてしまいましょう”
「戦争を理由に婚約破棄するのですね。近くで見ることが出来ないのは残念ですわ……」
“いえいえ、もっと大きな者とミージン王女自身が戦えますよ。神とか”
「はぁ!? お前、何を考えている!」
“ミージン王女、お言葉が美しくないですよ”
「天界へ討って出るつもりか!」
“唯一神であらせられる主にとってガイア神は邪魔ですのでね”
「な、な、なんという! 素晴らしい! 素晴らしいぞお前!」
“ご協力願えますか?”
先日、ミージン王女からのお手伝い申し込みはお断りしましたが、特に理由もなく、びっくりしたお顔を拝見したかっただけですので、私の為にご協力願いましょう。
「ああ! もちろんだ! これは美味しい争いに……グフフ」
ああ、ミージン王女。王女がしていい顔ではありません。
口元が笑いで歪み瞳孔が爬虫類のソレになり、金色に変化しておりますよ。
天界へ討って出るのはまだ先の話ですので落ちついてください。
ミージン王女が落ち着くのを待って話を再開します。
“ノバル公国はどのように独立戦争を起こさせたのですか?”
「フフ、簡単でしたわ。元々公爵が熱心なガイア神信徒であり、教会が後ろ盾になりますよとフレイザー侯爵から囁いていただいただけですわ。国の情勢が不安定になると何故か人間は神に縋りたくなりますから、教会としても積極的だったようですわ」
まだ上機嫌のミージン王女がいつもより饒舌になり、楽しそうにお話ししてくださいます。
“教会はノバル王国にも支援をしていると言う筋書きですか”
「もちろん。すぐに終わってしまってはわたくしの楽しみがなくなるでしょう?」
“ミージン王女はノバルにどう関わってどこで戦争を見ていらっしゃるのでしょう?”
「慰安で何度も訪問しておりますわ。わたくしは聖女と呼ばれていますのよ?」
聖女……。
“次に教会が狙っているのが帝王国という訳ですね”
「聖皇国と帝王国、大国同士ですから戦争の規模はすごく大きい物になりますわ!」
“どのように戦争に仕向けるおつもりだったのですか?”
「帝王国は自由信仰を掲げておりますが、近く国教が制定される予定ですわ。ガイア神信仰になります。フレイザー侯爵が帝王国の貴族達に出資して帝王国議会を掌握。帝王と言えども議会の言葉を完全に無視は出来ませんわ。それに今の帝王は牽引力がなく、女性とお酒に溺れていらっしゃるので発言力があまりありませんわ」
“溺れさせているのでしょう?”
そう私が言いますとミージン王女は意味ありげに微笑んだだけでした。
“そして帝王国に聖皇国
「そうなるでしょうね、フフ」
“宗教戦争は私も起こしましたが、どちらかが潰れるまで終わりませんからね。ミージン王女の楽しみはそれだけ長く続くという事ですね”
「そうね、フフフ……フフフフフ! アハハハハハハ!!」
本当に楽しそうに笑っていらっしゃいます。
“フレイザー侯爵はミージン王女の正体をご存じなのでしょうか?”
「ええ、私の眷属よ」
なるほど、それは優秀な眷属をお持ちですね。この手腕はあなどれませんね。羨ましいです。
そう言えば私にも眷属がいましたね。
“眷属はどこに何名くらいいらっしゃるのでしょうか?”
「そこまで教えるわけがないでしょう。大天使サマに」
“そうですか。見ればわかりますからいいですが、先に知っておいたら排除せずに済むかと思いまして”
「その時はわたくしが容赦しませんわ」
“教会の大司教は眷属ですか?”
「教えないと言ったでしょう? 違うわ」
“ありがとうございます”
「ちっ、オーリス様の事も教えなさいな。信徒はどのように増やしているのですの?」
“お答えできません”
「教会をどうするおつもりですの?」
“お答えできません”
「お前は協力体制を作る気があるのか!」
“ミージン王女、お言葉が美しくないですよ”
「何なんだお前は! 全くもう!」
“それでは、侯爵を紹介、聖皇国と帝王国の戦争を助長、婚約を破棄、ヴォルブ様の次の王にミージン王女が戴冠、という方向で行きましょう”
「……わかった。まて! 最後のは何だ!?」
では、そういう事でとミージン王女に暇を告げティールームから貴賓室へ戻ります。
貴賓室へ戻ると頼んでいたキャソックが出来上がってきておりました。
礼拝祭事に
早速キャソックに袖を通します。色は黒。ブーツは騎士服一式をいただいた時の物で流用します。
侍女さんに鏡を用意していただき、よしよしと頷いていると侍女さんが頬を染めながら私を見ていています。やはり着慣れている物がいいですね。
黒騎士さんから明日、白騎士隊と黒騎士隊総計三十四名で教会へ向かうと教えていただきました。
私の護衛について頂いている黒騎士さんは護衛任務のままだそうです。
騎士隊で向かったとして明日はそう大きな出来事には発展しないでしょうね。
ティーセットを証拠として回収し、シトラさんを保護、今後に教会の締め付けという形でしょうか、そうでしょうね。シトラさんを保護しておかないと最悪の場合、口封じされてしまいそうですしね。
今は諜報さんがシトラさんに付いているはずです。
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