第12話 その異形の口元を醜く歪ませながら
まずはヴォルブ様へ帰還の報告を、と黒騎士さんに先触れをお願いすると、すぐ戻ってこられそのまま執務室へ案内されました。
「おう、オーリス! 戻ったか、どうだ森は? そいつらが眷属か?」
“眷属の孔雀アインス、梟ツヴァイ、蝙蝠ドライです”
「初めましてアインスと申します。よろしくお願い致します」
「だーれー?」
「なんか人間のくせに偉そうなんだけど? 頭が高いんだけど?」
「お、おう。この国の王のヴォルブ・ロムダレンだ。よろしくな」
“君達……”
「王は唯一オーリス様しかおりません」
「おじさんいらんわー。王子様とかいないのー?」
「早くこの国をオーリス様に明け渡せよ!」
“ヴォルブ様は魔王資質をお持ちですよ”
「魔王様! ははーっ!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「魔王様。お疲れのご様子です。肩でも揉みますか?」
孔雀アインスと梟ツヴァイは平伏し、蝙蝠ドライはヴォルブ様の肩を揉もうと後ろに回り込みますが、銀騎士さんに止められています。
「面白い連中だな。さっきの感じで接していいぞ。その方が楽だ」
「なんと寛大な魔王様であらせられますか!」
「おじさん、王子様呼んでー」
「ちっ、ここは茶も出ないのかな!」
「はっはっ! ほんと面白いな。さてオーリス、聞かせてくれ」
執務机前のソファーに座り、森の獣約百頭を信徒にした事。
その中に猫獣人がいて、獣人の村へ連れて行ってもらい信徒にした事。
獣人の村民数の少なさ、帝王国へ渡る事の厳しさなど見てきた事を報告しました。
「そうか……。同じ人として何か出来んかオーリス」
“ヴォルブ様は人間と獣人を同じと見做すのですか?”
「同じだな、オーリスのように野獣は同じようには見られんが、獣人は同じだ」
“王都の状況が変わるまではこのままがいいと思います。信徒にしましたので食糧不足もなく、村の周りには信徒の獣達がおり守ってくれます。何より子供達は楽しそうでした。ただあまりにも人数が少なくこのままでは獣人達に未来はありません。それぞれの種族が絶えます”
「そうか、そうか……。信徒になると食事がいらんと言うのは本当か?」
“はい、味を楽しむことは出来ますよ。睡眠も必要なくなります。”
「寝なくて済むようになったらその分、仕事させられるな! 後で王城内の信徒を書き出しとけよ」
ああ、マリスさん私のせいではありませんので……。
“ヴォルブ様、この国は森が海に面しており陸地側からは海へ抜けられませんが、塩はどうされているのですか?”
「国内で岩塩が取れるが需要を満たすほどでは無いな、ノバル王国と公国からの輸入に頼っている状態だな」
“森を開拓しないのは野獣のせいですか?”
「そうだ、数が多すぎる。強引に道を通しても商隊の警護に経費がかかりすぎる。海まで遠いしな。……おい、まさか!」
“はい、森の獣をある程度信徒に出来れば抜けて海へ出られるかと思います”
「何!? いつだ!」
“一年内には……。ただし、という条件があります”
「なんだ言ってみろ、出来る限りの事はする」
“獣人との折衝と保護です。森を抜けられるようになれば、どうしても獣人を見る機会が増えるかと思います”
「そうだな、獣人達は元々何とかしようと思ってたしな、それは何とかする」
“帝王国へ向かった獣人達の希望があれば、こちらで保護してほしいと思います”
「む、帝王国とは外交が始まったばかりだ。困難な交渉になるな。まぁいい、それも何とかしよう」
“折衝役は適任がいらっしゃらなければミッツルフ男爵がいいかと思います。ただすぐには難しいですね。教会関係者のようですので”
「ほう、オーリスからの推薦とはな……考えておこう、まぁ一年を目処に森を切り開く準備をさせておこう」
“後は獣人達を保護するのならば問題は教会ですね”
「それはオーリスが何とかするのだろう?」
“はい”
「任す」
王城内の信徒一覧を早めに出しとけよ、と言われ退出します。
本気なのですね、ヴォルブ様。
貴賓室へ戻ると侍女さんが迎えてくださり、お茶の用意を始めて下さいます。
一息吐くと侍女さんよりミッツルフ男爵からの手紙を渡されました。お願いの件ですね。
手紙を読んでみます。
要約すると(手紙を書いた時点で)九日後の大教会での大説法会に御使いとして、内陣に登壇してほしいとの事。
内陣に立つ者はその教会の聖職者しかあり得ませんので、私をガイア神の御使いであると公表したいわけですね。
もちろんお断りしますが少し保留しておきましょう。
この国の教会を「どうにかする」のは確定なのですが、問題はミージン王女が忠告して下さった大司教がどういう人物なのかですね。
ガイア神信仰はこの大陸のノバル王国、ノバル公国、別大陸にある帝王国エランで信仰されているようですし、大司教より序列の高い聖職者がいるはずです。
そこに各国の貴族が絡んでくる、と。
いろいろと話を聞いて回らなければいけないようです。
深夜、獣人さんの村での浸蝕を解除しようと、王都散策に眷属を連れて出ます。
“王都散策に行きましょう”
眷属達にそう伝え拝領の返事を得ます。
私はそのままの姿で眷属達は獣の姿になり窓から飛び出していきます。
昼間王都散策に出た時に見つけておいた、三番区の路地の行き止まりに着きます。
「オーリス様。また糧をお探しで?」
「いいわね、あたしも欲しいわー」
「僕にもちょうだいよね!」
“そうですね。五、六人連れてきてください。ここで待ちます。梟ツヴァイ、結界を張っていってくださいね”
「畏まりました!」
「はーい。よっと」
「競争だ!」
梟ツヴァイは命じた通り結界を張ります。
そして三体は人間の姿になると捜索を開始しました。
梟ツヴァイの結界によりこの行き止まりは人間に視認出来なくなります。
もちろん諜報さん達にも、です。
眷属達が人間を連れてくるのを待ちます。
最初に人間を連れて来るのは梟ツヴァイでしょうか、そうでしょうね。
女性の姿をしている梟ツヴァイがいつも連れてくるのが早かった覚えがあります。
「うふふ、こっちよー。いいとこがあるのよー」
「なんだよ、この奥は行き止まりだぜ。そこでやろうってか? へへ」
「好きもんのお姉ちゃんだな!」
「よっしゃー最初は俺!」
どうやら三人の若い男を連れてきたようです。
いや三体ともほぼ同時に連れてきたようですね。
孔雀アインスは二人の若い女性を、蝙蝠ドライは一人の中年女性を連れて鉢合わせしています。
「間が被りましたか。手間いらずでいいかもしれませんね。オーリス様」
「そだねー。おばちゃんこっちこっち」
「ちょっと! ドライ君どういう事!? お父さんがこっちで怪我してるって……」
「ア、アインスさん? 何か話が違うんだけど!」
蝙蝠ドライと孔雀アインスが連れてきた人間が困惑しているようです。
“始めましょう”
孔雀アインスが逃げられないよう六人の後ろに回り、獣の姿ではない本来の異形になります。
同じく梟ツヴァイと蝙蝠ドライも異形へと姿を変え人間の前に立ちはだかります。
「ば、化け物!!」
「悪魔!? いやー!!」
「ぎゃぁああー!」
六人は逃げだそうとしますが、孔雀アインスの広げた翼に目を奪われています。
孔雀アインスの美しい瞳のような模様の羽は生き物を魅了し、麻痺させます。
三体は少しずつ、少しずつ人間との距離を縮めていきます。
その異形の顔に愉悦をにじませながら。
その異形の口元を醜く歪ませながら。
孔雀アインスの連れてきた女性ふたりは足元がもつれ合い倒れ込みます。
それを無視して逃げようとしていた男性三人は、孔雀アインスの羽に痺れ動けなくなります。
蝙蝠ドライの連れてきた中年女性は、どうする事も出来ずに震えて佇んでいます。
私は手を振りかざしそして手のひらを六人に向けると、その人間から黒い
甘美甘美甘美甘美甘美甘美。
私から闇が這い出て人間を喰らい始めます。
「オーリス様、終わりました」
「何にもしてないのに勝手に倒れちゃったわ」
「さてご褒美ご褒美!」
三体は人間の姿になり私に寄ってきて身体を寄せ合います。
先ほど吸い取った黒い
“戻りましょう”
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