第37話 幕間:王都へ

 アキの説明に納得した三人は、これからどうするかを議論することになった。

 

 コトミが用意してくれたお茶で一息ついた後、彼女は、情報提供しましょうと話し始めた。

「我々が知っているブラック・スフィアの動向についてお教えしましょう。ダリアの出没の手がかりになるかも知れません」

「おお、それは助かります」

 アキはパッと顔を輝かせる。

 

「ギルドでの情報ですが、ブラック・スフィアはこれまで、不特定多数が出没していることが確認されています。通常、現れただけでは特に被害は確認されていません。ただ、魔獣の群れ付近に現れた場合に、魔獣が凶暴化するという現象は確認されています」

「魔獣が凶暴化、ですか」アキは眉を曇らせた。

「はい。ただ、ブラック・スフィアが攻撃するというわけではなく、単に近くに居るだけで何らかの影響が発生するようです。場合によっては、その凶暴化した魔獣による被害が発生しますので問題ではあります」


 アキはじっと考える。あの暗黒球はかなり異質に感じた。魔力なり状態なりが何らかの影響を与えるのだろうか……。

 

「さらに、ブラック・スフィアの大きさの種類なのですが、通常の大きさ以外に、小さい物も目撃されています」

「小さい?」

「はい、これくらいですね」

 コトミは両手でボールのようにして見せた。

「それは、小さいですね。我々は遭遇しませんでしたが」

「そうですね。街での目撃情報が多数ですね。特に神殿近くでです」


「なるほど。探査目的なのかも知れませんね」

「ギルドでも同じ結論を出しています」

 

「ちなみに、神殿というと、かつて勇者送還に使われた神殿があるんですよね?」

「ええそうです。ただ、それは王家の秘密なので簡単には場所はわかりません。それが何か?」


「そのブラック・スフィアはそれを狙って探しまわっているのでは?」

 アキが言う。

 そして、自信のある表情ではっきりと言葉をつなげた。

「それがダリアが言っていた『マギオーサに引っ越す』ということじゃないかと」

 

「どういうことだ?」とジェイ。

「神殿の送還魔法陣を使ってマギオーサ世界への移動を狙っているのでしょう」

「だが、ハンナは転移魔法陣を使ってたぞ」

 ヨシミーは、ふと思い出して呟く。

「そうですね。ですが、ハンナさんはそれを使った事によって記憶を無くしたようですし、何らかの限界なり制限があるのでしょう」

「ありえるな。ダリア自身は使えないのかもだな」

 ヨシミーは思案する。

 

「とにかく勇者送還に使われた神殿について調べないといけないな。神殿を見つけられさえすれば、もう一度ダリアに遭遇できるかも知れない」

 ジェイが期待に満ちた顔で言う。


「そうですね。では、まずは王都『ヘインズバーグ』へ行きましょう。王家との接触が必要ですから」

 コトミがそう宣言した。




 その後、アキたち四人は、森を抜け、丘をこえて、泉までやってきた。

 荒野にぽつんとある泉、小さな湖という趣だ。

 

「何も見えませんが、一体どこにあるんですか?」

 アキはジェイの方を振り向いた。

「ははは。アキさん、見ててください」

 そう言うと、ジェイは小さいが何やら複雑な魔法陣を展開する。

 すると湖の手前部分が光り輝き、だんだんと何かが現れ始めた。


「おお、クローキング・デバイス物体不可視装置、……いえ、隠蔽魔法ですか?」

「凄いだろ! 俺のオリジナルの魔法なんだ」

 

 そして、そこから見えるジェイたちの飛行船に、アキとヨシミーは驚愕した。

「え? 飛行船って、あのバルーンのように浮くやつじゃなくて、帆船?」

 そこに置いてあったのは、小型の帆船。それに翼が付いているのだ。

 

 地球ではスクーナー型と呼ばれる、縦帆じゅうはんの2本マストの帆船だ。全長40メートルくらいで幅は7メートル程。全体が白く塗られていて、美しい船体だ。

 船の側面には『シルフィードI号』と銘が打ってあるのがみえる。

 

「バルーン? それが何か知らないが、この世界ではあれが飛行船と呼ばれている。かつてこの世界を訪れた使徒と呼ばれる人が開発したものだ。魔導船とも言うが」

 そう言い、ジェイが簡単に説明する。

 

 船体中央下部の円盤で浮遊し、四カ所の駆動翼と舵の駆動魔術で移動・方向操作を行うのだ。オカメインコ型に実体化した魔導船精霊に対する口頭での命令で操船出来るという。


 アキは予想外のその高度な魔術に興奮した様子で、急いで行きましょうと走り出し、残りの三人は思わず笑った。

 

 そして、四人は、その飛行船に乗って、王都『ヘインズバーグ』へ向けて出発するのであった。

 

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