第4章 奪還編

第38話 王都『ヘインズバーグ』

 美しい湖の都、王都『ヘインズバーグ』。

 ジェイたちの故郷であり、『ヘインズワース王国』の首都だ。

 

 ひときわ立派な城が湖のほとりにあり、周りには城下町が広がっている。予想以上の大きな街と高度な文化にアキとヨシミーは驚くと同時に安心した。

 


 ジェイたちの飛行船に乗った後の空の旅は順調だった。

 アキは、その時間の殆どを飛行船の仕組みを理解する事に費やした。

 彼がジェイとコトミに根掘り葉掘り聞く一方で、ヨシミーはデッキから景色を眺めていることが多かった。


 

 王都が一望出来る程の距離まで近づいた。

 その壮大な景色を眺めながらぼんやりとしているヨシミーにアキが近づく。

「ヨシミー、大丈夫ですか? なんだかぼんやりしてますね、最近」

「ああ」

「ハンナさんのことが心配ですか?」

「ふん。まあ、あれでも苦難を共にした仲間だからな」

「そうですね。彼女は頑張りました」

「だな」

「修行もそうだし、ダリアに洗脳されかけたときもそうだし……。私にもう少し知恵と力があれば……」


 アキは、同じ景色を眺めながら、どこか違うところを見ている。それをチラッと横目で見ながらヨシミーは胸に痛みを感じる。

 自分が手伝えることはあるのだろうかと自問するヨシミー。

「アキ、……」

「まあ、私に任せてください。といっても今はまだ分からない事だらけですけどね」

 アキは肩をすくめ弱々しく笑うと、ヨシミーのことを優しく見る。

「でも、ヨシミーがそばにいてくれると助かります」

 彼は小さくそう呟いた。

 

 そんな彼の顔に、僅かだが焦っているような無理しているような何かを感じるヨシミー。それはほんの些細な変化だが、彼女にはわかる。

 私がアキを守らねば。

 ヨシミーはほほ笑みを浮かべ、ほんの少し彼との距離を縮めるかのように彼に近づくのであった。

 


 船が近づくにつれ、眼下に王都が広がる。

 街を眺めていたアキは、ふと気付く。街全体をうっすらと霧が覆っている。ただ、不自然に濃い霧がある場所があるのだ。

(この街は霧が多いんだな。しかも所々にあるあの霧は、なんだかおかしいような……? 単なる濃淡なのか?)

 アキはふとダリアと遭遇する前に見た霧の事を思い出した。

(もしかして、あれはダリアの暗黒球と関係しているのだろうか? 探査用と思われる暗黒球の事もあるし、もしかして……)

 アキは訝しげに思い、なんとなく調査がいるなと内心思うのであった。



 王都へは何事もなく到着した。ちなみに飛行船は羽をたたむと普通の帆船になるので、船として港に停泊するのだ。

 大きな川に繋がる湖の湖畔に広がるこの街は、水運産業が盛んだという。立派な港には多数の船が並んでいた。

 

 港から宿屋までの道すがら、街を行き交う人々や建物などの文化にアキは目を奪われる。19世紀中頃のイギリス映画のような町並みとファッションだ。

 

 道行く人々は総じて似たような服装をしていることから、この街の流行がわかる。

 男性も女性も適度にウエストを絞った上着に、襟元はリボンかタイ。女性のスカートはパニエを入れてふんわりさせている。

 派手な色のものは好まれていないようで、くすんだ色や深みのある色が主流のようだ。

 アキはふとある女性の集団を見て目を輝かせて、思わず叫ぶ。

「おおー、あの女の子たちが着てる服、超絶可愛いですね! スチームパンク? ゴスロリ? ヨシミーも着てみませんか?」

「却下」

「えー、似合うと思うんですけど」

 そう言いながら、アキはヨシミーをじっと見る。目をキラキラと輝かせているアキを、ヨシミーはじと目で見た。

 それから彼女は顔をそらし、赤くしているのを隠す。

(信じられん! アキはあんなゴスロリファッションが好みなのか?)と驚いて声を失うヨシミー。


 歩きながらジェイが街を案内する。花屋、薬屋、酒場、食堂、パン屋。この辺りは店が充実しているんだと、何故か得意げなジェイ。

 

「あそこにみえるレンガ造りの大きい建物は図書館だ。王都随一の立派なやつだ。あの辺り一帯は大学だからなんだが。魔術書が充実しているからアキさんも一度行くといい。それに……」

 ジェイはすがるような目でアキを見上げた。

「アキさんならアーカイブ取り出しの魔法陣のヒントを見つけられると思う」




 ジェイとコトミの紹介で、彼らがよく滞在しているという宿屋に同じように宿泊する事になった。

「えらく立派な宿屋ですね。というか、我々はお金を持っていないのですが」

「心配するな。俺の奢りだ」

 ジェイは、お詫びもあるし、とすました顔で堂々と宿屋に二人を案内した。


 ジェイが借りている部屋は立派で、いわゆるスイート・ルーム。リビングルームがあり、独立したベッドルームが二つ繋がっている。

 アキとヨシミーの部屋は、彼らの部屋の隣に開いている部屋を二つ用意してもらった。



 四人は宿に落ち着くと、まず最初に作戦会議を開いた。

 

 暗黒球の出没情報を冒険者ギルドで集める。これは冒険者ギルドに所属しているという理由でジェイとコトミが担当することにした。

 勇者送還の神殿の場所を調べる。これは王家の秘密なので普通は不可能だと言いつつ、コトミがを使って調べるとあっさりと言い、彼女に任せる事になった。

 

 アキは魔法陣について調べたいことがあるらしく図書館に通うというので、ヨシミーは彼と行動を共にすることになった。


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