第34話 暗黒球ダリア(2)
ハンナの身体の彩度が下がり、薄くなって透明感を増し、黒い影が差した事にアキが気付いた。
彼はハンナと初めて出会ったときのことを思い出す。
(あのとき存在感が薄いと思った現象……。あれと同じか? となると、やはりハンナは……)
「さあさあ、姉様! さっさとアキ様を吸収して、マギオーサへ引っ越しますわよ!」
「でも、でも、やっぱり覚えていませんー! それに、アキさんを吸収するなんてできません!」
「酷いですわ、姉様! わたくしを裏切る気ですか!? そんな事は許しませんことよ!」
ダリアの顔がだんだん険しくなる。
「分かりました。姉様がそういうつもりならアキ様はわたくし一人でもらいますわ!」
ダリアがそう宣言すると、彼女の背後からいきなり黒い触手が飛び出し、考え事をしていたアキを捉えようとする。
「え?」
あまりにも高速に動いたそれに、アキは反応できない。
「危ない!」
ヨシミーは、突差に杖でそれを払おうとするが間に合わない。
「きゃああ!」
逆に弾力ある触手に弾かれて飛ばされてしまう。
触手に巻き取られたアキはダリアの場所に引き寄せられた。
「ぐはっ」
その勢いと全身を締め付ける力に、アキは苦痛を浮かべる。
「アキさんに何するんですかー!」
ハンナはレーザーを放つ。
だが、ダリアは涼しい顔をして、それをいとも簡単に障壁で跳ね返した。
「おほほほほほほ、無駄ですわ、姉様。早く目を覚ましてくださいませ!」
「やめてくださいー!」
ハンナはレーザーを放とうとするが、ダリアがアキを盾にしているために撃てない。
「おっと、皆さんは動いてはいけませんわ!」
ジェイとコトミが攻撃のための魔法陣を用意しようとした動きを鋭く察知したダリアは、背後に控えていた二体の暗黒球から大量の黒い針を生成し、それらが全員に向けられた。ニヤリと笑うダリア。
「おほほほほほほ、下手に動くと、皆さん蜂の巣ですわよ!」
そして、ダリアはハンナを見据えた。
「さて、ハンナ姉様も一緒に行きますわよ」
そう言った瞬間、ダリアは何かを思いついたように、ハッとしてハンナを見る。
「いえ、いっそ元の一つに戻ることにするのがいいですわ! あぁ、やっぱりわたくしは天才ですわ!」
えぇ、それがいいですわ、と言いながらダリアは素早く触手を伸ばす。
ハンナは一瞬で捉えられ、あっという間にダリアの元に引き寄せられた。
あまりの速さに、誰も対応出来ない。
「おほほほほほほ、元々は一つのわたくしたち。姉様の楽しかった経験、そのまま丸ごと全ていただきますわ!」
ダリアはそう言うと、ハンナの頭を片手でわしづかみし、黒く光り始める。
「キャー!」ハンナが苦痛で叫ぶ。
だが、黒い針を警戒してだれも動けない。
ダリアがハンナに集中した瞬間、突然ヨシミーが彼女達に向かって走り出した。
「あら、命知らずですわね」
ダリアはためらうことなく数々の黒い針をヨシミーに向かって放つ。
両手に発動した魔法陣によって、障壁と青い光の触手で防御しながらダリアに走り寄るヨシミー。
彼女は、右手から伸ばした青い光をダリアに向けて撃った。
「そんな弱い光では何の役にも立ちませんわよ!」
「黙れ」
ヨシミーがそう呟いた瞬間、彼女は左手の障壁を解除、別の魔法陣が輝く。
それはジェイが使っていた白立体の魔法陣と似ているものだ。
そこから、ひときわ輝く水色の光の触手がフッと視界がぶれるかの如く高速で伸びた。
それはアキを捉えていた触手に絡みついて分解、アキを巻き付けて自分の場所まで引き寄せる。
「あぁ……ヨシミー、すまん」
「油断しすぎ」
その技にダリアは驚いた顔をする。
「あら、そこのチビ、なかなかやりますわね!」
ヨシミーは同じようにハンナをも救おうとしたが、さすがに今度はダリアが障壁を展開し、はじき返されてしまう。
「おほほほ、同じ手が何度もこのわたくしに通用するとお思いにならないでくださいませんこと!」
ヨシミーの意外な攻撃方法に警戒しつつも、ダリアはそんなことはおくびにも出さず、蔑むように言い放った。
「まあ、今日のところはアキ様は返して差し上げますわ。どうせまたお迎えに来ますから、それまでそこのチビとせいぜい仲良くなさっていらしてね! ああ姉様、やっと一緒になれますわね。わたくし、姉様のことがずっとずっと前から……」
一瞬愛しい人を見るような顔をすると、
「しっかり吸収いたしますわ!」
そう高らかに宣言し、さらに黒く輝き、闇がしみ出す。
そして、その闇がハンナを覆い始めた。
「そうそう、姉様、よく考えてください。あの人たちは、才能があって、たやすく何でも成し遂げるのですわ。でも、わたくしたちは元はバグ。頑張ってもできない事がたくさんあるなんてずるいですわ! わたくしたちのせいじゃないのにですよ! きぃぃ、わたくしたちの気持ちがわからない人たちは、消してしまえばいいのですわ!」
ダリアの目がだんだんと険しくなる。
「そ・れ・に! 姉様も失敗ばかりで迷惑かけたのでしょう? さっさと離れるべきですわ!」
「……失敗ばかりで迷惑をかけて?」
ハンナがハッとし、呟く。
「ハンナさん、しっかりしてください。落ち着いて! ダリアの言葉に惑わされてはいけません! これまでのことを思い出してください!」
アキが必死に叫ぶ。
だが、ハンナはもはや黒い闇に覆われ、目が薄く赤く光り出した。
「でも、だって、確かに、わたしみんなに迷惑かけてばかりですー! ダメなんですー! 頑張ってもできないんですー!」
そう言った瞬間、ハンナの目がひときわ赤く光る。
同時に魔法陣が展開、レーザーが周りに撃ち放たれた。
だが、その狙いは明らかに定まっていない。
「頑張って、頑張って、練習してるんですー! うまくできるようになりたいってー! いつかアキさんやヨシミーさんに追いつきたいってー! でも私には無理なんですー!」
「おほほほほほほ、その調子ですわ、姉様! その恨みと妬みを力にするのですわ! さっさと皆さんをあの世に送ってあげましょう!」
「ハンナさん! しっかりするんだ! 楽しかった時を思い出すんだ!」
それまで何もできずに固まっていたジェイが叫ぶ。
「ジェイさん……!」
ハンナがジェイの声に反応し、一瞬自分を取り戻して混乱する。
「い、いやー! ダメですー。ジェ、ジェイさん、いっそのこと、まだわたしの理性のあるうちに、撃ってください!」
ハンナはますます黒く染まっていくが、ジェイの声にレーザーの照射が止まる。
「ジェイ様、任務をお忘れですか? ハンナさんが暗黒球の一種だと分かった今、やることは決まっています。しっかりしてください」
「ジェイ、ダリアかハンナを攻撃しろ! とにかく止めるんだ。お前の魔法陣でハンナを分離できないのか?」
ヨシミーはジェイに向かって怒ったように叫ぶ。
「うぅ、できない! ハンナさんを攻撃するなんてできない!」
ジェイは魔法陣を展開した状態で、ガタガタと震え出した。
「おほほほほほほ、無駄ですわ!」
次の瞬間、ダリアが花びらミサイルを多数撃ち放った。
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