第35話 ハンナの決意

 ダリアの圧倒的な攻撃に、皆は為す術もない。さらにハンナまで攻撃に加わると、もうどうしようもないのだ。

 ハンナはますます黒い光りに覆われ、徐々に薄くなり、吸収が加速しようとしている事に気付くアキ。


 ダリアにコントロールされつつあるハンナが、皆に向かってレーザーの魔法陣を展開し、それは赤い輝きを放つ。

 だが、彼女は最後の力を振り絞ったのか、必死の形相で叫んだ。

「できませんー! ジェイさん! アキさん! ヨシミーさん! コトミさんー!」


 そして、みんなを見回し、ひときわ大きな声で叫んだ。

「ダリアに吸収されるくらいならいっそ私を撃ってくださいー!」

「姉様もそこの甘っちょろい人達と一緒にいて感化されてしまいましたの? その坊やに姉様は撃てませんわよ!」

 

「ジェイさん、早く!」

 そう叫んだアキの目に映ったのは、目を見開いたままガタガタと震える彼の姿だった。

「まずいですね」

 だが、ふとジェイの展開している魔法陣を見て、『魔法陣実行機構の起源』の中の『ある仕組み』についての記述が頭をよぎった。

「そうか!」

 アキは即興でジェイと同じような魔法陣を展開し始める。

 

「ヨシミー、攻撃を! コトミさん、防御を!」

 ヨシミーは彼の意図を瞬時に察し、攻撃魔法陣を発動した。

 

 アキはヨシミーを見て頷き、「リボンにハーモニーを」と一言。

 ヨシミーはハッとする。彼がやろうとしている魔術のイメージがなぜか心に浮かんだのだ。

 

 アキは、複雑な魔法陣を必死で展開する。さらにその周りに別の魔法陣を展開し、そこから魔法陣言語のリボンをダリアに向かって放った。

 すかさずヨシミーがそれに重なるように光の触手を伸ばす。


「む・だ・で・す・わ!」

 そう叫んだダリアは、再び花びらミサイルを放った。

 

 だが、リボンと光の触手が重なった新たなそれは、光が強くなり、花びらミサイルをことごとく破壊し、ダリアに迫る。

「しつこいですわね!」

 ダリアはそういいながらも障壁でそれを弾く。

 

「えーい、面倒ですわ」

 ダリアは、そばに控える暗黒球からも、さらに多数の花びらミサイルを撃ち放つが、コトミが小さな魔法陣障壁を多数展開しことごとく防御する。

 

 アキが再び大きく別の角度から大回りで魔法陣言語のリボンを伸ばしてダリアを攻撃した。

「しつこい人は嫌われますことよ、アキ様! 観念して次の番をおとなしく待っていてくださいな!」

 ダリアはアキのそのリボンの動きに気をとられた。

 

 一瞬アキとハンナの直線上に空白ができる。

「許せ、ハンナ!」

 アキの叫びに、ほほえみを浮かべたハンナの口元が「ありがとう」と形作った。

 

 その瞬間、アキが展開完了した特殊な魔法陣から光の粉でできた槍状のものが飛び出し、一直線にハンナの胸に突き刺さった。

 

「え?」

 アキがハンナを攻撃すると思っていなかったダリアが驚く。

 ジェイは、目の前で起きた出来事に理解が追いつかず、ハンナを見て呆然とした。


 ハンナは、弱々しくアキとヨシミーを見る。

「お二人と過ごした時間、楽しかったです。頑張って帰る方法探してくださいね」


 そしてジェイを愛しい人を見る目で見つめた。

「ジェイ、あなたと会えて良かった……。もっと一緒にいたかった……。自信を持って! あなたなら大丈夫!」


 ハンナがどんどん光の粒子になり、それらが光の槍に集まる。そして、それが一挙に収縮、ダリアの中にひゅんっと消えた。

 

「くっ」とヨシミーが俯いて下唇を噛む。

「ハンナさん……、ハンナさぁーんーー!」

 ジェイが目を見開き、半狂乱で叫んだ。

 

「おほほほほほほ、! やりましたわ! とうとうハンナ姉様と一つになりましたわ! ああ、なんて幸せなんでしょう!」とダリアが高笑いする。

 

「では、ハンナ姉様得意の雷ボールをどうぞ!」

 ハンナを吸収したからであろう使えるようになった雷ボールを、見せつけるかのように撃ち放った。


「きゃああああああああ!」

 雷の閃光と轟音に恐怖したヨシミーが叫び声を上げてうずくまる。

「ヨシミー!」

 アキは障壁を展開しようとするも、彼女に一瞬気を取られる。その瞬間、稲妻がアキを穿ち、彼は電気ショックの衝撃で膝から崩れ落ちた。

 「アキ!」

 辛うじて片膝で体勢を保とうとする彼を助けようとしても、ヨシミーは雷の恐怖から身体が言う事を聞かない。

 

 そこへ、落雷で我に返ったジェイがパニクってアキに向かって火の玉を撃った。

「アキさん、なぜハンナさんを攻撃したんだぁー!」

 

 アキは必死に障壁を展開しようとするも叶わず、腕に命中する。

「がはっ!」

 衝撃で弾き飛ばされ、大怪我と魔力枯渇でアキは倒れ込んだ。


 冷静さを失ったジェイが再び火の玉を撃とうとアキを捉える。

 だが、間一髪で障壁が展開され、その火の玉が弾かれた。

 ヨシミーが恐怖を抑え、彼のそばまで行き、防御したのだ。

「アキ、しっかりしろ!」

「ヨシミー……だいじょうぶ……」

 アキはそう言いかけて、意識を失う。

「アキ!」

 

「ジェイ様、落ち着いてください! ダリアの対応が先です! ダリアのミサイルが尽きたようです。今ならホワイト・キューブで攻撃が可能です」

 コトミがアキとの間に立ち、険しい顔でジェイを窘めた。

「コトミ? ……あぁ、そうだな……」

 ジェイはよろよろしながらも立ち上がり、白立体の魔法陣を展開、多数の白立体を生成し、ダリアに向かって攻撃しようとした。


「あら、それはちょっと分が悪いですわね。皆様、またお会いしましょう! 次回はアキ様をいただきますわ」

 ダリアは状況が不利になりそうだとすぐに気付き、すぐさま巨大な暗黒球に変化したかと思うと、他の二体と共に上空へ飛び上がり消えていったのであった。

 

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