第12話 竜巻:力加減を考えろ!

「わー、凄く見晴らしがいいですね!」

 川沿いの林を抜けると、荒野の様相を見せる広い場所に出てきた。

 ハンナはいつもキョロキョロしながら歩く。何もかもがいつ見ても新鮮だと言わんばかりの表情だ。

 所々切り立った岩で出来た丘のようなものが散見され、「あの岩の山、凄いですねー」と熱心に見つめている。


「今日は少々風が強いですね。お、あれは……」

 アキは遠くの景色を目を細めて見つめていたが、パッと表情を明るくした。つむじ風が発生しているのが見えたのだ。

 

「わぁ、凄いですね! あれ……竜巻ですか!?」

「いえ、あれは大きなつむじ風ですね。地上付近のうずは、つむじ風と言います」

 アキは嬉しそうに眺めている。

 

「どうしてあんなことが起こるんですかねー?」

 ハンナも興味津々という様子で尋ねた。


 アキはよくぞ聞いてくれましたとばかりにパッと笑顔になるとペラペラと話し始めた。

「つむじ風というのは、地面近くの空気の上昇気流が発生し、そこへ水平方向の風が当たるなどして渦巻き回転する突風ですね」

「へー」

「ちなみに、竜巻は、上空で発達した積乱雲の内部で、上昇気流に伴う高速回転の渦が発生し、それが漏斗状に地表まで伸びたものですね」

「へー」

 アキの説明を聞いていたハンナは、目を瞑ってしばらく思案する。

 

「なるほど、わかりましたー!」

 目を開けると、にやりとした。そして、えへへと目をそらす。

 その顔を見たアキとヨシミーは悪い予感にぞくりとする。

 

「ハンナさん、何を考えてますか?」

「おいハンナ!」

 二人が同時にそう口にした瞬間、ハンナがさっと手を前に出した。


 そして見たことの無い魔法陣が赤く光り輝く。


 フッと、周囲の空気の質が変わった気がしたアキとヨシミー。

 

 彼らが風の動きを感じたと思った途端、ハンナが手を差し出した前方の場所で、空気が上に向かって砂埃と共に上昇するのが見えた。そして、どこからともなく落ち葉や草などのゴミを含んだ横風が吹き、次第に渦を巻き始める。

 

「どうですかー! つむじ風です!」

「お! うまく出来ましたね」とアキはほっとして褒めた。意外とコンパクトにつむじ風を再現したのだ。

「ハンナも力を制御できるようになったか。前に説明した通りの力加減が出来てるな」

「ハイ! 出来るようになりましたです!」

 ヨシミーは感心して褒めると、ハンナは喜びの笑顔を浮かべて、じゃあ止めますと、魔法陣を消した。


 しかし、風がやまない。しかも横向きの風がだんだん強くなる。

「あれ? おかしいですねー」

 ハンナがそう言った瞬間、ごぉーっという音と共に空気がふるえ、その場全体の空気が浮遊する感覚が三人を包んだ。


「え?」

 彼らが見上げると、はるか上空で、雲がゆっくりと渦を巻いているのが見えた。

 そして、その中心が次第に下降してきていたのだ。


「まずいですね」

 竜巻の真下はヤバいです、とアキが叫ぶ。

 ヨシミーは顔を引きつらせて言葉が出ない。上空の渦が妙にまがまがしいのだ。彼女はしばらくその雲の渦に気を取られていたが、ハッとしてハンナに向かって叫ぶ。

「ハンナ、発動を解除しろ!」

「えー、わたし今はなにもしてませんー!」

「じゃあ、アレはなんだ?」ヨシミーが詰め寄る。

 

 すると、アキが妙に落ち着いた声で説明を始めた。

「自力で大気が回転するだけの初動エネルギーを与えてしまったようですね。いったいどれだけ魔力があるのでしょうか。それだけの運動エネルギーを与えるのに必要な魔力エネルギーを計算しようとすると、まずはグリッドモデルを構築して、それで……」

「えーん、ごめんなさいいー! 分かりません! もうしませんー」

「アキ、分析はいいから! あの穴へ逃げるぞ!」

 

 三人は比較的近くにあった切り立った丘の横に開いていた横穴へと入り込んだ。そしてそれから小一時間ほど風が収まるまでそこで避難したのであった。

 


「おい、ハンナ、魔法陣に注ぎ込む魔力の量を加減しないと」

 ヨシミーは眉間にしわを寄せて、ハンナを睨む。

「えー、そんなに魔力を使ってるつもりは無いんですけどー! というか、どうやって調節するんですかー?」

「何度も教えただろ! 今更何を……」

 

「まあまあ、ヨシミー、そんなに怒っても仕方ありません。ハンナさん、魔法陣の外周のこの部分のパターンをこういう風にして、魔力を感じたら、抑え気味に流し込むのです」

 アキは魔法陣を表示させながら説明する。

「分かりました! アキさんありがとうございますー!」

「ふん、良かったな、アキが優しくて」

「ハイ! アキさん優しくて好きですー」

「ははは。任せてください」

 ハンナは無邪気にそう言うと、アキは満更でも無さそうに嬉しそうにする。

 

 そんな様子を端で見ていたヨシミーは、少し胸がチクリと痛いのを感じるのであった。

 

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