第11話 洗濯機?
泥まみれの三人が、どうするんだよこれ! とブツブツ言い合っていると、突然、新しいおもちゃを見つけた子供のようにキラキラと目を輝かせて、アキが言い出した。
「いいことを思いつきました」
「なんですかー!」
ハンナが素早く反応する。しかも彼と同じ目をして期待に満ちた笑みを浮かべている。
ヨシミーはそんな二人を見て、不安しか感じられない。
「なんだ?」と
「いえ、このどろどろの服と身体を何とかしないといけませんが、またあの泉まで戻るのも大変です。なので、魔法で洗濯することを考えました」
泥まみれの顔で真剣に話すアキがおかしくて、吹き出しそうになるのを必死でこらえてヨシミーは平静を装った。
「……洗濯?」
彼女は不思議なものを見るような目でアキを見る。そんな魔法陣は聞いたことが無いのだ。
アキはニヤリとして、二人から少し離れる。
「見ててください。名付けて、
片手の
その瞬間、彼の頭上に三つの円が重なった魔法陣が表示される。
「三つ同時!? 何だあの魔法陣言語の密度は?」
ヨシミーは驚いた。魔法陣を三つ表示させるということは、三つの別々の事を同時に考えるに等しく、普通は出来ない。
「水球降臨」
アキがそう言うと、第一の魔法陣が光り輝く。そして直径2メートルほどの水球が現れ、ゆっくり降下し、アキ全体を包む。
アキは水の中でグッと息を止めているように見える。
「ごぼぼご、ごぼぼごごぼぼん」
とアキが水の中で何やら言ったように見えた途端、二つ目の魔法陣が光る。すると水球が回転を始めた。まさに洗濯機のようだ。
高速で5秒ほどした後、水はバシャッと流れ落ちた。アキはずぶ濡れだが、綺麗になった。
「乾燥
その声と共に、第三の魔法陣が光り、アキの周りで空気が動く。それは徐々に早くなり、暖かい空気がまるでつむじ風のようにアキの周りを包む。
風がやんだ後には、すっかり乾燥したアキが
なお、髪の毛がボサボサなことに気づいていないアキである。
「アキさん凄いですー。人間洗濯機ですー! 私もお願いしますー」
ハンナは大はしゃぎだ。
その様子を見ていたヨシミーは
もちろん、その間抜けな魔法の動作やボサボサの出来上がりに驚いたわけでは無い。
三つ同時に魔法陣を発動するだけでなく、順次に決められたとおりに機能を発揮する。普通の魔法陣では出来ない。あの高密度の魔法陣言語で埋められた独特の魔法陣のなせる技だと気付く。
「……あぁ、これは凄いな、確かに。凄い。素晴らしい……」
ヨシミーは無意識のうちにアキを賞賛する声を上げた。
「え? ああ、ありがとうございます。あ、ちなみにこれが私の魔術言語の最新の成果ですよ! それはもう苦労しましたが、なかなかのものでしょう? 名付けてプログラマブル魔法陣! なんてね?」
アキはそれはもう無邪気な笑顔で喜んで、褒めて貰えるっていいですねーと言いながら頭を掻いた。
ヨシミーはそんなアキの顔を見て、胸がきゅっとなるのを感じた。
こんなに楽しそうに自分の好きなことが出来るのか。
この術式は、きっと並大抵の苦労なんてものじゃ無いだろう。好きならそれをも厭わないのか。
今までみてきた大人や同世代の人間にはこんなに心が輝いているやつはいなかった。
ヨシミーは、今までの自分の人生を振り返り、出会ったことの無い新しいタイプの人間としてのアキのことがもっと知りたいと思う自分に気付き始めたのであった。
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