第14話 リーディングライト・セレ

 セレが仲間になったその夜。焚き火を囲んで、リラックスする三人。

 座るのにいい具合の大きな石がごろごろとある場所を見つけ、そこで野営をすることになった。

 

 アキが本を読んでいる最中に、ふと顔を上げて呟く。

「そろそろ暗くなってきましたね。本を読むには暗すぎますか」

 

 すると、ヨシミーの肩に乗っていたセレが、ぽんと彼女の頭上に移動したかと思うと、ひゅるりと少しだけ触手みたいなものを伸ばし、その先端を光らせた。

 そこから放射される光がスポットライトのようにアキの本を照らす。

「おお、セレのリーディングライトですか。白い光が出せるんですね」

 これでもう少し本が読めますね、と呟きながら、嬉しそうにパッと顔を明るくした。

 

「角度が悪いな」

 ヨシミーはそう言うと立ち上がり、アキの真横まで来て地面に体育座りをする。すると、セレは触手をさらに高く伸ばし、上から下の本に向かって光を照射した。

「おお、これは丁度いい光の具合。ヨシミー、セレ、有り難うございます」 

「ふん」

 

 アキはヨシミーがわざわざ横に来て座ったことに驚いた。

 彼女は横を向いていて、アキからは表情をうかがい知ることが出来ない。

 

「あ、でもそこじゃあ地面が冷たいですよね、どうぞ横に座ってください」

 アキは無邪気にそう言うと、少し左に横にずれて、座っていた石の右側を指さし、ここにどうぞと笑顔を見せた。

 ヨシミーはチラリとアキの方を見ると、一瞬「え?」という顔をしたが、意を決したかのように彼の横にアキに背を向けて座った。セレはヨシミーの動きに合わせて常にアキの本に光を当てるという芸を見せる。

 

「セレの光照射方向制御はロボット並みですね」とアキは褒めるが、セレをよく見ようとして、ヨシミーの近さにぎょっとする。

 触れるか触れないかの距離に彼女が座っているのだ。思ったより近い。いや、何も考えていなかったアキである。

 自分で言っておきながら、彼女の存在を意識すると心臓の鼓動が早くなる。アキには、向こうを向いている彼女の耳も少し赤いのが見えた。

 

「あー、ヨシミーさん、二人仲良くしてずるいですー、わたしも混ぜてくださいー」

 アキの左隣りに座ろうとするもスペースがなく、ジリジリしたハンナは叫ぶ。


「あ、分かった! 私が代わりに光を作ります! ヨシミーさんは離れてください!」

 突然ハンナがそう言うと、頭上に魔法陣を展開し、光を発生させた。だが、それはまるで太陽のように煌々と光り輝き、三人とも眩しさに思わず目を瞑る。

 

「ハンナさん、明るすぎます! 威力を抑えてください」

「えー、これ以上暗くならないですー」

 ハンナも自分で作り出した光に目を瞑り、発動を止めた。

 

 光は作れない。アキの横に座りたくても、椅子代わりにしている石に余裕はない。

「うー、いつか頑張って暗い光を作り出しますからー! 座るスペースさえあればー!」とハンナが呻いていると、とつぜん「あ!」と叫んだ。

 

 ヨシミーとアキは、何事かとハンナを見る。

「なければ、持ってくればいいのです!」

 そう叫んだハンナは、元々自分が座っていた石をひょいと持ち上げ、アキの左隣まで持ってきて、ドスンと置いた。

「え? それってかなりの重さだと思うんですけど、ハンナさん、どんだけ力があるんですか?」

「全然平気ですー!」

 ガッツポーズをするハンナ。彼女はそう言うとニコニコ顔でアキの隣に座るのであった。

 

 この日の夜以降、アキが本を読むたびになぜかセレがアキの本に向かって光を照射するので、必然的にヨシミーが隣に座り、ハンナは対抗してその反対側に座ることになるのである。

 なお、この時に座った石はハンナがインベントリアイテム格納魔法にいれ、今後彼らの椅子として活躍することになるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る