第9話 幕間:星空を見上げて

 服を交換した二人は、思いのほかその服が自分たちの身体にフィットしたことに驚く。元の老人風アキとヨシミー、大男ヨシミツとアキの身長や体格がほぼ同じだったことが幸いした。

 

「キャー、ヨシミー可愛いですー! 小さな魔女みたいですね! アキさんもそのマントがかっこいいですー!」


 カーキのズボンは丁度の長さで、生成り色の長袖シャツに色あせた茶色の長い上衣。太い皮ベルトで締め、マントを羽織るアキ。

 

 対して、ロイヤルブルーのローブを着て、魔術師の杖を持つヨシミー。元のアクセサリーは付けたままだ。そのアクセサリーと、ローブの刺繍の色がマッチし、まるで元からセットであったかのよう。


 ちなみにハンナは半袖の白いシャツに赤いワンピースで、元と同じ姿だ。


「ああ、断然この方が動きやすいですね。もとの服はかなりキツキツだったので助かります」

 アキは手足を動かしたり、身体をひねったりして服の具合を確かめた。

 ほのかに女性特有のいい匂いがすることに顔がほてるのを感じたが、平静を装おうとして不自然に身体を動かす。


 ヨシミーもぶかぶかで歩きにくかったことが解消され、かつローブが思いのほか可愛いのではと思ったのか嬉しそうだ。


「取りあえずは、明日からは移動の毎日になりそうなので、服装が合うのは助かりますね」

「そうだな」

「じゃあ、今日の夜はキャンプですねー!」

 アキとヨシミーはお互いの着ていた服のぬくもりを意識してなんとなくぎこちない。ハンナはそんな二人の様子に全く気付かず、今夜はキャンプファイヤーしましょう!と期待の目を輝かせてただ嬉しそうなのであった。




 その日の夜、野営をするのにアキが見張りをする事を主張した。夜の暗い間だと、探知魔法が使えて、時間制限があるとはいえ攻撃魔法が使える自分が適任だと彼が判断したのだ。

 

 慣れない場所、今日一日の出来事、アキは女性二人に先に寝るように勧める。そして早朝に日が出てから交代することになった。

 

 サバイバルキャンプ等の経験のあるアキが、この子達を守らなくてはという使命感と共に、今後のことを考えた末の計画である。


 

 テントは二人が並んで寝るのに十分の大きさがある。ハンナはインベントリから毛布や寝袋を取り出し、ヨシミーとともに寝床を整えた。

「なんだかお泊まり会みたいで楽しいですー!」

 ハンナはウキウキワクワクといった表情だ。

 ヨシミーはそんな彼女にツッコむことを諦めたのか、破れたりほつれたりしている毛布の状態に疑問に持ちつつも、無表情で黙々と手伝っていた。

 

「あ! じゃあ、何かあったらこれを鳴らしてくださいね!」

 と、ハンナがインベントリアイテム格納魔法から楽器のドラを取り出し、アキが座る石のそばに設置した。もちろんスタンド付きだ。

 

「いったい何のためにドラを持ってたんですか?」

「……」

 アキは思わず呟き、ヨシミーは言葉を失い黙りこむ。

 

「なぜでしょう?」と、ハンナも不思議がりながら困惑した笑みを浮かべた。

 ハンナのインベントリの内容については、次第にそんなものなのかと思い始めるアキとヨシミーであった。 



 

 想像を超える事態に疲れたのか、ハンナとヨシミーはすぐに寝ついたようで、しばらく聞こえていた二人の話し声も、すぐに聞こえなくなった。

 

 アキは、一人石に座って焚き火に手をかざす。

 日中はちょうどいい気温だったが、夜になると少し冷え、火の暖かさありがたいと思うアキ。

 ふと周りが明るくなった気がして、空を見上げた。

 

「おお、これは……」

 夜半を過ぎて、先ほどまで出ていた薄雲が晴れて星が現れ始めたのだ。

 

 圧倒的な星の海が頭上に広がる。


 地球で見上げる天の川というレベルではない。まるでひとつひとつが繊細に鋭く明るく輝く砂を、全天に大量にちりばめたような数々の星なのだ。


「これは圧巻だな」とアキは一人呟く。


 一等星以上に輝く星が数え切れないほど多く見えることに気付く。

「この惑星は銀河中心方面という設定での投影なのか、それとも実際にそういう場所にある惑星なのか。いずれにせよこの星空が見られただけでも、この世界に来た価値があったかな?」

 天体観察が好きなアキにはたまらない、興味深い星空を見上げながら、これからどうなるのだろうかと少し不安になる。

 

 「まあなんとかなりますか」

 いつも前向きにやってきた。この子たちを守るのは自分の役目だ。

 VR世界のようで、そうではないかもしれない謎の世界。魔法陣研究者であり天才プログラマーを自負する自分の意地に賭けても、何とかしてみせるさ。


 アキは自分にそう言い聞かせながら、異世界の地での初めての夜を一人静かに本を読みながら過ごす。

 

 その日の夜は何事も起きず、平穏な時間が過ぎるのみであった。

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