第7話 ステータス:状態情報
「あれ? ここは?」
「あ、アキさん! 気がつきましたか!」
ハンナがパッと顔を明るくすると同時にほっとした表情を見せる。
アキはフラフラする頭に手を当てながら、上体を起こした。水場から少し離れた場所で横になっていたらしい。
先ほどまでの緊迫した戦闘が嘘のようだ。頭上には青空が広がり、穏やかな風が頬をなでる。
「……いったい何が?」
「気絶したみたいだな」
ヨシミーが冷めた目でアキを見ながら言葉を投げつけた。
怒りなのか別の理由なのか、若干赤い顔をしているヨシミーを見て、彼は直前の出来事を思い出し、あーしまったと頭をポリポリと掻く。
「……あれからどのくらい経ちましたか?」
「30分ほどだ」
「アキさん、大丈夫ですかー? 痛いとこないですかー?」
ハンナが心配そうな顔をしてアキの顔をのぞき込んだ。
「まだ頭が少々クラクラしますが、大丈夫です」
アキはそう言いながら、両手で顔をマッサージするようにしてから頬を叩く。
その様子を見ながら、ヨシミーが何かを思いついたような真剣な顔で尋ねた。
「アキ、
「ステータスですか?」
アキは一瞬何のことか分からないという顔をするが、すぐに気づき、ポップアップ画面を表示させて自身の
そこには魔力や体力、攻撃力や防御力などの能力が数値として表示されているのだ。もっともそれはマギオーサというゲーム内での話で、アキはそれがどれだけこの世界でも通用するのかは懐疑的だったのだが。
「魔力が1%になっています……。なるほど、魔法を遠くまで放てるようになったのはいいですが、魔力が足りないと。そして、魔力が
そして、じゃあこのステータス情報は正しいということか、とふむふむ呟く。
「やっぱりそうか。それにしても、ずいぶんラッキーな倒れ方だったようだが?」
ヨシミーは未だに冷たい目でアキを見つめた。
「それは……いえ、すみません。不可抗力とはいえ、お二人とも失礼しました」
「えー、何のことですかー? 私は大丈夫です!」ハンナは相変わらずの笑顔で二人の会話を聞いている。
「……まあいい。それよりもあの白いのと黒いのはいったい何だと思う?」
ヨシミーはいつにも増して深刻な表情で聞いてきた。
そんな彼女の表情に含まれている不安な影を敏感に察知したアキは、慎重に言葉を選びながら話し始める。
「魔獣とはまた違う存在のようでしたね。ああいうのはマギオーサでは見たことも聞いたこともありません。……ですが、魔法陣と魔法発現は同じように見えました。……何か人工的・機械的な存在のような気がします」
アキは出来事を思い出すように時々遠い目をしながらゆっくりと話す。
「とにかくこの世界は明らかにマギオーサとは違うという事を再認識できました。予想以上に危険な世界のようです。ですが、少なくとも我々の魔法陣での攻撃が通用するのは確かです。今後はもう少し慎重に行動しましょう。油断して離ればなれになったのは私の判断ミスです。申し訳ないです」
アキはできるだけ冷静に事の重要さを強調し、自分の非を素直に謝った。
ヨシミーは、アキのその冷静で理論だった説明を聞いて少し表情を緩める。むしろ、あの状況の後で気絶から回復したばかりだというのに、冷静な分析をするアキに少し感心した。もしかしたら自分がぶったせいで倒れたのかもと内心焦っていた事を考えると、アキのその沈着さは彼女にはありがたかったのだ。
ハンナは相変わらず笑顔を浮かべており、彼女は意外と動じないなと内心感心する二人であった。
「とにかく無事切り抜けられて良かったです。さて、今回の不幸中の幸いは、私の攻撃魔法が使えるようになったことでしょうか。ただ、持って5分。それ以上は今回のように気絶してしまいますね」
「使えん」
「ははは、まさにその通りです。でも無いよりはマシですよね?」
「枯れ木も山の賑わいか」
「枯れ木も全力で頑張りますので」
彼女のバッサリとしたセリフを跳ね返すように、アキはおどけた様子で肩をすくめ、ヨシミーに優しい笑顔を向けた。
ヨシミーはそんなアキの様子を見て、胸が少しドキリとする自分に驚いたのであった。
「枯れ木がどうかしましたか?」とハンナがツッコむ。
「ないよりはあった方がよい、という
「へー! 勉強になりました!」とハンナは両手を合わせて笑顔を浮かべた。
「さて、いずれにせよ、私の攻撃魔法はあまり期待できません。予定通りハンナさんのトレーニングを早急に進めましょう。それと、何か気付いたことがあったら必ず報告し合うということにしませんか? これまでの経緯を考えると、どんな些細な事でも重大な手がかりになるような気がします」
アキがそう言うと、二人は分かったと頷く。
「そういえば、私の攻撃ですが、黒いボールには有効でしたが、白い立方体には無効でした」アキはふと思い出して報告する。
「でも、わたしの攻撃では白いのをやっつけちゃいましたよ!?」
ハンナは自分の攻撃が当たって嬉しかったのか、満面の笑みで自慢げに言った。そして続けて、
「でも、黒いボールにはまったく当たりませんでしたけどー!」と笑う。
そのあっけらかんとした態度に苦笑しつつ、アキはハンナに向かって言う。
「そもそもあれらの存在自体が謎なのでなんとも言えませんが、我々の魔法が使える使えないの理由と何か関係するのかも知れません。今後万が一遭遇するようなことがあった場合は、役割分担が必要かも知れません。ハンナさん、頼みますよ!」
「ハイ! 任せてくださいー!」ハンナは片手の拳を高く挙げて、エイエイオーと小さく叫んだ。
突然ヨシミーが意を決したような顔をして話し始める。
「なあアキ……その、自分の身体で何か違和感はないか?」
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