第48話 帰還

 雲ひとつ無い青空の下、石舞台の上。

 帰還の日がやってきた。


 ヨシミーは朝からずっとセレを抱きしめている。目は既に真っ赤だ。いよいよ今日でお別れなのだ。


 初めて出会ってから、ずっと、いつも一緒にいてくれたセレ。

 何も言わなくても、自分の気持ちを察して行動してくれたセレ。

 そのあどけない仕草と表情に、彼女はどれだけ癒やされただろう。

 いつの間にか、自分の体の一部とまで思い始めてきたセレとの最後の日なのだ。


「ハンナ、そして、ジェイ、これを」

 ヨシミーは、いつも首から提げていたペンダントをジェイに手渡した。

「ちょうどハンナとおそろいのペンダントだ。セレのお気に入りなので、あんたに託すよ」

「ヨシミーさん、ありがとう」

 

「セレ」

 彼女がそう言うと、セレはぴょんと跳びはね、ハンナの肩に移動する。

 セレはじっとヨシミーを見つめた。

 ヨシミーもじっとセレを見つめる。

 セレが、弱々しく「ぴぴぴ」と鳴いた。

 ヨシミーの目から、ぽろぽろと自然に涙がこぼれた。

 そんなヨシミーを見て、セレは「ぴ! ぴ!」と、彼女を励ますように大きな声で鳴く。その表情も、まるで、元気を出してと訴えかけているようだ。

 

「ヨシミーさん……」ハンナが心配そうにヨシミーに声をかけた。

「……ああ、ハンナ、セレをよろしく頼む」



「アキさん、ヨシミーさん、修業ありがとうございましたー! 二人と出会えて良かった……楽しかったですー!」

「ハンナ、元気でな。ジェイ、ハンナを宜しく。コトミさん、お世話になりました。セレ、元気で……」

 ヨシミーは目をうるうるさせていう。

「ハンナさん、ジェイさんと末永くお幸せに。ジェイさん、守る人が出来たんです、冷静になれるように。そして、強くなれ! コトミさん色々とありがとうございました」


 アキとヨシミーは魔法陣の中心に移動する。

 ハンナはジェイとコトミと共に外側だ。


 アキとヨシミーは両手を前に出し、三重の起動用魔法陣を展開する。

 二人の両手に、12の魔法陣が輝いた。

 それは、魔力共有の魔法陣の最終形。

 アキは「ブルー・ストリング」と静かに詠唱した。

 無数の淡い青い光の糸が飛び出し、五人に絡まって全員を繋げる。


 さらに、アキが展開する魔法陣言語のリボンと、ヨシミーの展開する描画術式による光の触手が絡まり合い、そのハーモニーが白く光り輝く帯を生成して、魔法陣全体を包む淡い光のドームとなる。

 

 そして、それらが強く光を放ったかと思うと、瞬時に一点の光に縮退し、消えた。



 

 アキとヨシミーはハッと我に返った。元のVR世界に無事戻ってきたのだ。

「元の書棚の場所のようですね?」

「そのようだな」

 アキとヨシミーは、一見何の異常も無い事にほっとする。


 だが、突然、赤いポップアップの警告画面がそれぞれの眼前に表示された。

 ログイン時間超過の警告メッセージが表示されており、それは、8時間経過したことを示していた。

「え? たった、8時間しか経過していない?」

 そして、聞こえてきたアナウンスに二人は目を見開く。

 

 ――重大な規約違反のため、アカウントが削除されます。規約違反のため強制ログアウトの処理を実行します。


「ア……」

 ヨシミーがアキの名前を呼ぼうとするも、突然音声が遮断された。

 

 そして、地球での連絡先を知らないことに気付いた二人。

 何かを叫んでいるように見えるが、何も聞こえない。

 お互いの悲しい顔を最後に、そのまま二人は淡い光を残して消滅するのであった。

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