第4話 不安と方針
「元の世界に帰れると思うか?」
ヨシミーが不安そうに呟いた。
その声がかすかに震えていることに気付き、アキはハッとして二人の少女の顔を見る。ヨシミーは、あどけない顔に緊張の表情を浮かべているが、ハンナはなんだか楽しそうだ。
対照的な二人の様子に戸惑いながらも、彼はなんとか力強く答える。
「きっと大丈夫です。私が何とかしてみせましょう! そうですね、まずは方針を決めましょう」
そう言ってアキはしっかりと励ますように二人の目を見てうなずく。
「でもその前に改めて自己紹介しましょうか。私はアキ。21歳の大学生です。一応プログラマーの仕事もしてます。
「魔法陣言語! プログラマー! かっこいー! わたしは、ハンナです! 魔法陣コンテストで優勝するのが夢ですー! 花の18歳です! ……高校生? かな?」
ハンナはなぜか疑問形で答える。
「ヨシミーだ」彼女はいやな顔をしながら呟いた。
「えー、それだけですかー? ヨシミーさん何歳ですか?」
「……16」
「若いー! 可愛いー!」
「同じだろ」と、ぼそっと苦笑しながら言うヨシミー。
「最近頭角を現した『芸術系幾何学系魔法陣』使い、で合ってますか?」とアキが真剣な顔で聞くと
「ああ」とヨシミーは神妙な顔で答えた。
「あ! 知ってます! 今まで見たことのない魔法陣の形だと有名ですよね!? 凄いですー!」
「……」
ヨシミーは褒められたにもかかわらず無表情で返事をせず、じろりとハンナを睨んだ。
そんなヨシミーの態度を何ら気にせず、相変わらずマイペースなハンナが言いだす。
「じゃあ、アキさんが私たちのリーダーですね! 最年長ですし、大人だし!」
「そうですね。私が君たちをできるだけ守る努力をしましょう」
アキは両手を広げて、おどけた表情で大げさに言った。
「わーい、お願いしますー!」
「ふん」
ハンナは楽しそうだが、ヨシミーは冷めた目をアキに向ける。アキはその表情に気付いたが、気付かないふりをして話を続けた。
「さて、本題に入りましょう。先ず大前提として、この世界がより高度なVRの世界なのか、現実なのか分らないという問題は依然としてあります」
アキは深刻な顔をして問題提起する。
「えー、そうなんですか? 痛みがあるからって現実だって言ってましたよね?」
「そうなんですが、現実問題として、ポップアップ画面が使えるのが非現実的で、VR世界じゃないかという点を否定できないのです」
ヨシミーもその通りだという表情で頷く。
「もちろん、痛みがあるし怪我をすると血を流す。しかも、実は私は喉が渇いているのですが、そういう生理現象もあるようです。それらの事象を考慮すると、限りなく現実に近いVR世界だと考えた方が良さそうです。とにかく怪我には気をつけましょう」
「分かりましたー」
「分かった」
「ただ、幸いな事に、元いた
アキは、希望はまだありますね、と少し安心した表情で呟く。
「だな」
「アキさん、そういえば異世界っていってましたが、それってなんですかー?」
「あぁ、異世界というのは、元の世界とは異なる時空間に存在し、異なる原理に基づいて存在する世界のことです。つまり、地球ではあり得なかったような、まるでVR世界のように作られた現実世界などをいいます。つまり、今いるこの世界がまさにそのような世界ですね」
「時空間? 地球? よくわからないです! でも私にはこの世界はなんだかしっくりきます! なんだか楽しくないですか!?」
「ははは、ハンナさんはいつも楽しそうですね」
「はい!」
満面の笑顔のハンナに、アキはなぜかほっとする自分に気付く。
「さて、当面の課題ですが、この世界は、マギオーサと同じで魔法が使える
アキはヨシミーの顔色をうかがいながら、やんわりと提案した。
「やったー! 教えて貰えるんですね!」ハンナは心底嬉しそうな満面の笑みをパッと浮かべて両手を突き出した。
「ヨシミー、いいでしょうか?」アキはヨシミーの目を見る。
「背に腹はかえらないな」
仕方ないなという表情を浮かべてアキを見返し、ヨシミーはうなずいた。
「それで、まずは人のいる街を探す必要がありますね。この世界に人がいるという前提ですが」
「そうだな」
「とりあえず川沿いを下ることにしましょう。向こうの方に川が見えています。川沿いに人が住んでいることを期待して、ですね」
アキは努めて明るく言う。
「わたし川の景色好きですー」とハンナはマイペースで元気だ。
こうして三人は人里目指して移動することにした。
「ところで、ヨシミーさん、槍
「槍の使い方なんて、どこで?」
「昔
「おお、なるほど。私にはそんな風な杖での戦いはできませんね。素晴らしかったです。助けてもらって有り難うございました」とアキが心底感心したように言い、お礼を言った。
すると、ヨシミーは少し嬉しそうに、
「この世界、現実だがVRの世界の要素が大いにあるな。身体能力が向上している。さすがに自分もあそこまで動き回れたわけじゃない」
「現実のようで、VRでもあるか……ふむ」
ヨシミーのめずらしい長いセリフにおっと思いつつ、アキはそこであることに気付いた。
「そういえば、パーティー登録って使えるのでしょうか?」
「え、パーティーするんですか? 楽しそう!」とハンナは無邪気に喜んだ。
「違うから」
ヨシミーがハンナにつっこむのを聞きながら、アキはメニューを操作する。
「おぉ、使えますね。いったいこの世界はどうなっているんでしょうか。いや、まあそれはこの際どうでもいいですね。ともかくパーティー登録しましょう」
「同意」ヨシミーは特に表情を変えずに頷いた。
「ハンナさん、パーティーというのはグループのことです。グループを作ると、便利な機能が増えるんです。例えば、魔獣を倒したときに得られる経験値が共有できるかも知れないし、パーティーにしか見えない情報も共有できるかもですから」
「へー、便利なんですね! えーと、どうすればいいんですか?」
待ってくださいと言いながら、アキはポップアップ画面を表示し、二人をパーティーへの招待をする。
「あ! 何かメッセージが来ました。これ、『了承』ってすればいいんですね?」
「そうだ」
「取りあえず、これでいざというときの連絡とかはできそうですね」
「なんだか楽しいですー! これ、聞いたことがあります。みんなで一緒に冒険するんですよね! 一度やってみたかったんです! 憧れだったんです!」
ハンナが心なし目をうるうるさせて、でも満面の笑顔ではしゃぐ。
「それはよかった」
アキは、その様子を優しい気持ちで見守るのであった。
三人は、魔獣と戦った場所を離れ、川の近くまで移動する。
河原と森の境あたりが平地になっており、そこを歩いて川を下ることにした。
「水魔法での水は飲めるようですね。あと、何とかして食べ物を入手しないといけません。気付きましたか? お腹空きませんか?」
「ああ空いた」
「私は大丈夫ですけど!」
「あそこに見える河原のそばの広場で野営する事にしましょう。手頃な大きな岩もあるみたいですし、その影になっている場所がいいかもですね。日が暮れる前に野宿の準備をしましょう」
「しかし、どうやって夜を過ごすんだ?」
ヨシミーがそう聞くと、ハンナが
「あ、わたしキャンプセット持ってます!」
と言い出した。
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