2-4 夜の陰謀と朝の喧騒
ニルヴェアとレイズが夜の街に出たところから、時は少しだけ遡って。
「これで『ニア』さんの仮申請は完了となります。こちらが身分証明証です」
アカツキは組合の受付にて、ニルヴェアの身分証明証を受け取っている最中であった。
組合の職員に渡された掌サイズの厚紙。その表面には氏名、顔写真、登録日などの個人情報が。そして裏面には旅客民への簡易的な注意事項の一覧が載っていた。
「本申請には後日、ニアさん本人あるいは同伴による再度の申請が必要となりますが、それに関してはどこの組合でも受託できるのであとは期間だけお忘れなきようお伝えください」
「了解した。いきなり飛び込んできて、おぬしらには世話を掛けたな」
「これも仕事ですから。それに、ああいう子に居場所を用意してあげるのも組合の意義で……あ、そうそう。アカツキさんに手紙が来ていましたよ?」
「手紙?」
旅客民同士の手紙の受け渡し。それもまた旅客組合の仕事の一つである。
なにせ旅客民はその性質上、住所というものがない。ゆえになにかしらを連絡するなら旅客民を統括している組合を介するのが一番早いのだ。
「はい。えっと……ああこれこれ。氏名は『ブラク・ワーカ』。この方も旅客民で、職業は記者ということですが……」
「ふむ……」
職員の言葉に対して、アカツキはなにやら腕を組んで考え込んだ。
「えっと……お知り合いの方であっています、か?」
「ん? ああ、相違ない。受け取らせてもらおう」
アカツキは平然とそう答えて手紙を受け取った。
だが実のところ……彼女は『ブラク・ワーカ』なる名前には、全く心当たりがなかった。
だがその一方で、”知り合い”というのも嘘ではないだろうと踏んでいた。アカツキの脳裏には、”協力者”の顔がちらついている。
(
◇■◇
やがてアカツキはレイズたちから逃げ……別れたあと、組合からいくらか離れた一軒の酒場へと赴いた。
そこは『ブラク・ワーカ』の手紙に記されていた住所であった。のだが……果たしてアカツキを出迎えたのは、漆塗りの気品溢れる看板を掲げた立派なお店。
そこは見るからに、高級路線な
そこは誰がどう見ても、ぼろ布を纏った自称侍には似つかわしくない場所だった、が。
「たのもう」
アカツキはなんの迷いもなく店内へと足を踏み入れた。すると入り口に待機していた、いかにも質の良い身なりをした店員がアカツキを出迎え……
「……」
ることなく、むしろ警戒するように眉をしかめた。妥当な判断であった。だがアカツキはアカツキで、その視線をこれっぽっちも気にせずに尋ねる。
「拙者、名をアカツキと申すのだが……ここにブラク・ワーカなる者は来ておらぬか?」
するとその瞬間、店員の表情があっという間に接客スマイルへと切り替わった。それは彼の中で、アカツキが不審者から客へとランクアップした証拠だった。
「アカツキ様でございますね。ええ、ワーカ様より伺っております。どうぞこちらへ」
そうしてアカツキが通された部屋は、完全な個室であった。
(仕切りなどではなく、部屋そのものが完全に別個になっている。防音性はまずまずか)
アカツキはそう分析しつつ個室に入って、
「――うわっ」
アカツキを出迎えたのは、そんな驚きの声だった。しかしアカツキはそれにも動じず、開口一番。
「久々に会った友人に対する第一声がそれか。失敬なやつでござるな」
そう言ったアカツキの眼前、その”青年”はすでに席に座っていた。その青年は呆れたような声音をもって、アカツキへと言い返す。
「こういう店にその恰好で来る方が失敬だと思うけど。君にはTPOって概念がないの?」
青年はそう言うだけあって、きっちりとした身なりをしている。鈍色の髪をオールバックに整えて、小奇麗なスーツに身を包み。
つまり誰がどう見ても今一番浮いているのはアカツキなのだが、しかしアカツキはアカツキなので。
「そんな物弁えるくらいなら、この口調から先にやめておる」
「ああそう、うん……」
そこまで堂々と開き直られては何も言い返せない。青年は諦めて、その柔らかな垂れ目を困ったように手元のグラスへと向けた。飲みかけの酒に視線を落としながら彼は言う。
「こうして会うのはわりと久々だし、お互い積もる話もあるんだろうけどさ……」
青年が顔をあげた。全体的に人の良さそうな顔を、しかし真面目に引き締めて。
「正直、時間が惜しいんだ。だから早速本題に入りたい」
「ふむ……それはそうと『ブロード』よ。お主に尋ねたいことがひとつあるのだが」
この侍、いきなり話の腰を折ってきた。
ゆえに青年……ブロードは、がくっと首を落として呆れ果てた。
「いや時間が惜しいって言ったよね? 君ほんと人の話聞かないよね……」
「いやいや、拙者はこう見えて超真面目だからな。ちゃんと聞いた上で外しに行ってるのだ」
「余計に性質悪いね……で、なにさ? 手短に頼むよ」
するとアカツキは言われた通りにあっさりと、手短に一言。
「お主、越警をクビになったのか?」
「さすがに怒るよ!?!?!?」
ブロードは怒った。
「なんだ違うのか。偽名&別職業だろう? とうとうなにかやらかしたのかと……」
「そんなやらかす人に見える!? 偽名も記者も潜入捜査の一環! そりゃ物書き自体は結構好きだから! 貯金が貯まったら越警なんてさっさと辞めて、そっち方面でのんびり暮らしたいって人生設計はあるけど! いやむしろ今すぐ辞めたいクビにできるものならクビにしてくれ!」
「あっはっはっ! お主も随分溜まっとるようだなぁ。どうだ、今宵は飲み明かすか!」
「だーかーらー、時間がないんだってばマジで~~~」
「なんだなんだ。そんなに切羽詰まっておるのか?」
「分からない」
「はぁ?」
「まだ情報が足りないから単なる直感の域はでない。というわけでさ……そっちの方はどうだった? 例の”依頼”。なにかあった……いや、なにが起こったんだ?」
そのときにはもう、ブロードの表情は静かな剣呑さを湛えていた。その表情からアカツキもまた察する。
(さすが、良い嗅覚をしておる)
――ブロード・スティレイン。
彼こそがかの越境警護隊の一員であり、またアカツキが個人的に信頼する”協力者”の正体である。
「そうさな。たしかに事態はお主の言う通り
アカツキはそう前置いてから話し始めた。ニルヴェアの屋敷で起こった一部始終を。そしてそのニルヴェアを連れて旅を始めたことを……。
「くそっ、金髪蒼眼の少女ってそういうことかよ……!」
一通り話を聞き終えて、ブロードが最初に行ったのは頭を抱えることだった。彼はそのまま1人でぶつぶつと呟き始める。
「でもちょっと待て。飛空艇、通信機、どれ使っても噂が広がるのが早すぎ……ってことは予め次善策として、周辺の街に噂を流してた?」
そんな彼の様子にアカツキもまた「ふむ」と顎に手を当てて考える。
「どうやら本当に、ゆるりと晩酌を楽しむ余裕はなさそうだな?」
その言葉に、ブロードはようやく面を上げて答える。
「……とりあえず今夜は徹夜決定として、その前に僕の方で得た情報を共有しときたい。いいよね」
「えー、それ聞いたら拙者も徹夜で働け的な? でも拙者にはレイズたちを定期的にからかうという任が」
「――実は僕も、君に呼びつけられる前からすでにブレイゼル領内を調べ回っていたんだよね。もちろん表向きは『旅客民≪ナガレ≫の記者』として、ね」
「うわこやつ問答無用で話し始めた……」
アカツキは嫌々ながらも、仕方なく聞き手に回ることを決めて黙した。それを確認してからブロードも話を再開する。
「これはここ数か月の出来事なんだけどさ、ブレイゼル領内で小規模な事件が立て続けに発生してるんだ。で、それらはおそらく神威の仕業だって言われてる」
「……おそらく?」
「越警や現地の騎士の対応で現行犯は一応毎回捕まえてるんだけど……なんか尻尾切りっていうかさぁ。捕まるのは誰かに依頼された野盗とか、何も知らない下っ端とか、言葉は悪いけど”どうでもいいやつら”ばかりなんだよね」
「尻尾切り……つまりそいつらは囮ということか?」
ブロードは素直に頷いた。
「僕もそうなんじゃないかって思ってる……実のところ、個々の事件の規模に対して越警から割かれる人員が明らかに過剰なんだ。そりゃ神威を主とした、大陸を股にかける悪党の撲滅が越警の本懐ではあるんだけど……」
「ふふん、なんか色々きな臭くなってきたな?」
「まーねー。とはいえここら辺は首突っ込むと話長くなるから、一旦置いといて……実は本当にヤバいのは、もう1つの方かもしれない」
「もう1つ、というと?」
アカツキの問いに、ブロードは少しだけ黙ると……その口を、ほんの小さく動かして呟く。ニルヴェア様、儀式、噂……語るためでなく、整理するための呟きをひとしきり終えたあと、ブロードは改めてアカツキへと向き直った。
「君たちが会った黒騎士は『前領主がニルヴェア様を使って儀式を行おうとしている』って言ったんだよね」
「ああ」
「それと関係がある……とは断定できないけど、実はここ1か月ほど前領主……ゼルネイア・ブレイゼル様の姿が見えないんだ」
「姿が見えない……?」
「言葉の通り、目撃情報が全くないんだ。とはいえ元々ゼルネイア様は領主の座を息子に譲り渡したあと、剣の都から遠く離れた別荘で半ば自給自足の隠居生活を送ってるんだ。奥様にもすでに先立たれてるし、目撃情報が少なくても納得はいくけど……」
「ならば、その前領主の別荘とやらはどうなっておる?」
「半月ほど前に一度尋ねたけど留守だったよ。とはいえ自給自足の畑は手入れされてる様子だったし、行方不明とは断言し難い……さすがに核心もないのに前領主の別荘に忍び込むわけにはいかなかった。だから引き返したんだけど……くそっ。ためらうべきじゃなかったかな」
「なるほど。いずれにせよ、あの黒騎士の言葉と重なる形でなにかしらの動きはあると……」
「なにかしら、じゃすまないかな。もう現時点で明確な動きが1つあるんだ」
――他でもない、この街でね
ブロードがそう語ったその瞬間、アカツキの両目がすぅっと細まった。
「おぬしが先ほど取り乱したのはそれが理由か」
「そういうこと……僕も今朝がたこの街に着いたばかりだから、正直詳しいことはまだ分からない。だけど、どうも”良くないやつら”の間でね……」
「神威の策なら実働隊は使い捨ての雑魚か、あるいはそこら辺のゴロツキが定番だろう」
ブロードの言葉に先んずる形で、アカツキが言葉を重ねた。
――ざっくり言えば仇討ちというやつだ
長年神威を追い続けているアカツキにはすでに見えていた。やつらの策の定番が。
「――金髪蒼眼の少女を攫えば、多額の報酬が手に入る。どうせ、そんな噂でも流れておるのだろう?」
◇■◇
街に入った次の日の朝。組合に併設された宿屋の廊下にレイズは立っていた。
レイズはいつも通りの――動きやすいラフな上下に、ポケットのたくさん付いた奇妙なベストを羽織った――格好をしていた。
しかし1つだけ変わった点もあった。彼はなぜか壊れた琥珀銃を腰ベルトのホルスターにしまい背負っているのだ。
そんなレイズは今、人を待つためそこにいた。ならば待ち人は誰なのか……
「待たせたな」
ここ数日ですっかり聞き慣れた少女の声が、レイズの耳に届いた。彼はその声の方へと、なにげなく顔を向ける。
「お、準備長かったな……って」
レイズの言葉はそこで止まった。彼は目を丸くして、目の前の少女……ニルヴェアをしげしげと眺めた。
長い金髪を首元で括ったところはいつも通り。だが首から下が、すっかり様変わりしていた。
空色と若草色に彩られた素朴なエプロンスカート。それを軸にコーディネートされた、昨日とはまた違う装い。
それを見て、レイズは考える。
(昨日がどこぞの令嬢風なら、今日はさながらパン屋の看板娘辺りか?)
なんて感想を抱いていたら、ニルヴェアがちょっと後ろに引いた。
「おい、あまりじっと見るな……!」
「や。そう言うわりにはきっちり着替えて、お前も楽しんでるじゃん?」
「違う! 部屋にこれしか着替えがなかったんだ! しかも着替え方のメモ書きまで丁寧に置いてあったし……!」
「そういうことね、はいはい」
レイズはなんか色々察した。一方でニルヴェアは、苦渋に顔をしかめて。
「服を……」
「あ?」
「頼む、服を貸してくれ……! お前のならサイズも合うし、やはりこの格好で外に出るのはこう、色々とだな……」
しかしレイズはさくっと言い返す。
「いいじゃん、わりと似合ってるし」
そんなことを言われれば、ニルヴェアは露骨に嫌そうな顔をして。
「お前、まさか本当に僕のこと……!」
「おいおい自意識過剰かよ。見た目だけとはいえ、似合ってる方が付き合うこっちとしては楽しいもんだ。なぁニアちゃん?」
そう言いながら、レイズはニルヴェアに背を向けて先を歩き出した。だからニルヴェアは慌ててその背を追いかける。
「待てよ馬鹿レイズ! さっさと服貸せ!」
「えー、そしたらその服無駄になるぞ? どーせアカツキのことだから、わりと良い服選んでるんだろうなぁ。それを無下にすんのはなぁ、どうなんだろうな~?」
「ぐ、ぐぐ。それは……」
ニルヴェアの足が思わず止まった。レイズの言う通り、アカツキが用意したであろう服は昨日も今日も間違いなく良い生地を使っている。それは着心地からしても明らかで、だからニルヴェアは律義に葛藤してしまう。
(せっかく買ってもらったのに1度も着ないというのは確かに道理に反するか……!? いやでも、よくよく考えれば完全に押し付けられただけであってだな……!)
ぐるぐると悩んでいる間に、レイズはどんどん先へと行ってしまう。
「ははっ、そういう律義さがお前の良いところだよ。つーわけでさっさと行くぞー、朝一で寄りたいところあるんだから」
「あっ。おい待てって!」
遠ざかっていく背中をニルヴェアは慌てて追いかけた。するとレイズはそれを見計らったように早足で歩き始める。そうして気がつけば、服を着替えに戻るのが面倒なくらいに、二人は宿屋から遠ざかっていたわけで。
そうなればニルヴェアにはもう、悪態を投げるぐらいしかやれることがないのであった。
「師匠も師匠なら弟子も弟子だ! どいつもこいつも全くもう!」
◇■◇
琥珀工房。
それはこのグラド大陸に広く普及しているエネルギー結晶『琥珀』及び、それを消費する道具を専門に扱う店を指している。
レイズとニルヴェアがまず最初に訪れたのも、その琥珀工房のひとつだった。レイズは店に入るやいなや、その工房の親方に頼んだ。
「親方。この琥珀銃を直してくれないか?」
レイズが背負っていた琥珀銃を見せれば、親方はその強面に怪訝そうな表情を浮かべた。
「なんだぁ? お前さんみたいな坊主が一丁前に……む。これは……おい坊主。こいつはお前さんのオーダーメイドか?」
「おうさ。設計書はこれな。この通りに直してくれりゃそれでいいから」
「ふーむ……なんだ、本当にこれでいいのか? この図面……お前さんが素人じゃないのは分かるが、しかしこいつは……」
「そこはそれ、俺専用の武器だからってことでさ。それでできるの? できないの?」
「ちっ、生意気な坊主だ。誰ができないっつったよ。ウチはこの街一番の腕利きで通ってるんだぜ!」
「それを見込んで頼んでんだ。期待してるぜ親方!」
「ったく口の回る坊主だ。ま、とにもかくにも故障箇所を見なきゃな――」
といった感じでレイズと親方が琥珀銃を囲んであーだこーだしている、その一方で。
「大きな工房だな。さすが職人街……」
ニルヴェアは工房内をきょろきょろと見回していた。
(僕の街にも琥珀工房はあったけど、こんなに大きくなかったし……)
工房内はきっちり整理されていて、多種多様な『琥珀機械』が――灯りを点ける、水を汲む、車を動かす……その他数えきれないほどの恩恵を人々に与える道具たちが――所狭しと並んでいる。
(この手の物にはあまり興味を持ってなかったな。思えば学ぶ機会だってろくになかった気がする……剣と同じく、戦闘にも深く関わる分野だからか……ん?)
ニルヴェアの視線がふと止まった。彼女が見つめるのは琥珀関連の書籍が並んでいる本棚。そこに置いてある1冊の本であった。
『獣でも分かる! 10歳から始める琥珀学』
そんなタイトルに惹かれて近寄ってみれば、本にはご丁寧に『立ち読み可』のシールが貼られていた。
ニルヴェアはレイズの方をちらりと見た。彼はまだ親方と話を煮詰めている最中だった。
「おい坊主。こりゃ回路自体が完全に焼き切れてるぞ。こりゃ射撃中に砲身潰されてショートしたってとこか? にしたって、こいつは瞬間的に潰されでもしなきゃ……」
「さすが目ざといな親方。実際、一撃で握り潰されたんだよ」
「おいおい一体なにを相手にしたんだ? まぁなんにせよ回路総入れ替えだと丸々作り直すようなもんだ。高くつくし時間も掛かるぞ? いっそ別のを買い直した方が……」
「それはなしだ。金に糸目はつけないし、とりあえず2、3日ぐらいはここに居る予定だからさ。それでなんとか――」
(……まだ終わりそうにないな)
ニルヴェアはそう見積もると、『10歳から始める琥珀学』を手に取って読み始めた。とりあえずぱらぱらと捲って、ざっくり斜め読みしていく。
『およそ60年ほど前、『魔の大陸』から伝わった技術が元になっているという説が――』
『琥珀によって発達した機械や武器、なにより車の存在が大陸中を繋げ、30年前に十都市条約を結ぶきっかけを――』
『琥珀を用いることで従来の武器にはない性能を発揮する武器。それらを総称して琥珀武器と――』
ニルヴェアの手はそこで止まった。
(琥珀武器、か)
今開いているページに、じっくりと目を通していく。
『琥珀技術の発達により産み出された新しい武器。それが”銃”である。琥珀のエネルギーを弾丸として射出あるいは熱線として照射するその武器は、同じく遠距離用の武器である弓よりも圧倒的に手軽に、そしてさらに遠くから獣を撃つことができる革命的な存在だった』
(なるほど……確かにレイズの琥珀銃は強いし取り回しも良さそうだったな。それに……認めるのは癪だけど、黒騎士の大剣みたいな”いざというときの切札”も浪漫がある。それにそれに、聞いた話によれば兄上だって”光の斬撃”なる超かっこいい必殺武器を持っているってことだし……)
「お、琥珀武器に興味あんのか?」
「!」
背後から聞こえた声に思わず振り向けば、レイズが後ろから本を覗き込んでいた。それに対してニルヴェアは反射的にムッと眉をしかめた。
「勝手に覗くなよ、不躾だな」
服を貸してくれなかった恨みがまだ若干残っていた。それゆえの当てつけだったのだが。
「琥珀武器。興味あるなら試してみるか? 護身用にひとつぐらい持ってくれるとこっちも気が楽だし」
「本当か!?」
ニルヴェアの表情がころっと明るくなった。
「案外現金なやつだなぁ」
レイズは苦笑しながらも、ニルヴェアにひとつ質問をする。
「お前、なんか使える武器ってあるのか?」
「う。それは……」
ニルヴェアは
「武器は扱えないが、格闘術ならなにもなくても練習できるから少しは独学でだな……」
「格闘術ねぇ。んじゃあナックルにブーツ……っつっても琥珀武器って内蔵する機構の都合で基本的にでかくなるんだよな」
「そういうものか……ん? でもお前は足から炎を出したりしてたよな。あれも琥珀を用いているんじゃないのか?」
その言葉に、レイズは少しだけ驚いたような表情を見せた。だがそれはほんの一瞬だけで。
「あれはな。なんていうかな」
「なんていうか?」
「俺にしか使えないんだ。仕組みは企業秘密ってことで」
「はぁ? なんだよそれ、ちょっとずるくないか!」
「ずるじゃねぇって。とにかく、お前の琥珀武器についてはおいおい考えてくとしてさ。ひとまず俺の用事は済んだし、今日のところは引き上げようぜ。修理には結局3日ほどかかるらしいし、それまでは”自由時間”ってやつだ。のんびり行こうぜ」
「そんな……」
立ち尽くすニルヴェアの前で、レイズは「とりあえず飯だ飯!」と先に出て行ってしまう――その瞬間、ニルヴェアの中でひとつの感情が生まれた。
(置いていかれたくない)
考える前に足が動いていた。妙な焦燥感に急かされて。
(憧ればかりで、結局はなにもできない……なんでこんなことばかり、思い浮かぶんだろうな)
近くて遠い少年の背中を、少女は早足で追いかける。
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