第2話 悪夢

「はあ!? また寝てしまった!? ジュルルルル。」

 私の名前は目野下熊子。不規則な勤務時間に、いつでもどこでもウタウタ眠ってしまう。そして涎を啜る。

「ああ~、人間らしく朝起きて夜眠る生活がしたいな~。」

 私の仕事は誰もが憧れる女子アナウンサー。倍率2000倍の狭き難関を潜り抜けて内定を勝ち取ったのだ。あの頃の私は美しかった。

「ああ~、またクマができてしまった。」

 そんな私が女子アナになって、あっという間に目の下にクマができてしまった。もう学生の頃の美しかった私はいない。

「あ!? いけない!? 本番の時間だ!? 穴を開けてしまう!?」

 私は慌てて仮眠室からスタジオに入る。私は深夜早朝組の担当なので、朝起きて夜に寝る普通の人と真逆の夜起きて、昼に寝る生活を送らなければいけなかった。

「おはようございます。目野下熊子です。」

 私は女子アナウンサーとして、眠くても目の下にクマを作っても、早朝の番組の司会進行を務める。早朝番組に起きているが半分寝ているアナウンサーが多いが、私もそのうちの一人である。大変なのよ。深夜早朝組の担当は。

「最近は秋らしくなり各地で紅葉が色づいてます。それでは日本の4名園のVTRがあるので見てみましょう。」

 私は半分寝ぼけているので、普通に3名園といったつもりだった。

「4名園!?」

 私の発言にスタジオのプロデューサーからADなど全員の表情が凍りつく。

「まずは岡山の後楽園です。きれいに色づいていますね。」

 紅葉のきれいな映像が全国放送されている。

「どうする!? どうする!? 4つ目の名園はどうするんだ!?」

 スタジオのスタッフはてんやわんやで右に左と打開策を考えていた。

「金沢の兼六園です。赤い色が鮮やかですね。水戸の偕楽園も食べごろですね。」

 私は眠気と戦いながら仕事をしているので、少しの言葉の使い方の間違いは気にならなかった。

「ダメだー? 放送事故だ!? お詫びを入れろ!?」

 スタジオはお詫びを入れるという結論を出した。

「そして最後は甲子園です。野球シーズンも終わり、蔦が伸びてますね。」

 私は普段から甲子園を名園だと思っていた。

「これでいいのか!?」

 スタジオのスタッフは放送後に会議を開くことが決まった。

「それでは良い一日を。目野下熊子がお伝えしました。」

 私は無事にニュースを終えることができた。

「ふう~始末書は免れたな。」

 戦争が終わった後の様なスタジオ。

「ぐう~ぐう~。」

 本番の緊張感から解放された私は、そのまま眠りについた。

「こら~! スタジオで寝るな!」

 これが私の日課である。

 つづく。

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