目の下に熊を飼う女

渋谷かな

第1話 熊を飼う!? マグロ女

「うわあー! 佐藤さん、きれい。」

「本当! 結月さん、素敵よね。」

 私の名前は佐藤結月。女子アナウンサーをやっている。私は女性から憧れの眼差しで賛美される。

「今度、飲みに行きましょうよ。」

「佐藤さん、俺と付き合ってください。」

 女子アナウンサーは男に腐るほどモテる。私は男性に告白されるなんて朝飯前だ。

「なに? 私と付き合いたい? いいけど、私は不規則な生活で疲れ切っているから何も動かないわよ。私、疲れ切っているので、料理も掃除も夜の営みも、あなたが全部やってね。」

 こんなことを言っている私に着いたあだ名がマグロ女。

「あ! マグロ女だ!」

「誰がマグロだ!?」

 テレビ局の中をすれ違う人々にマグロと後ろ指を指されている。

「佐藤さんはマグロ女と呼ばれているそうなんですが?」

「私、マグロが大好きなんです。アハッ。」

 テレビでのインタビューなんかは、マグロが大好きな女子アナウンサーということで世の中に知られている。

「でも残念よね。」

「そうね。目の下にクマが無ければ、もっと美人なのに。」

 そう、私の仕事は不規則で早朝の情報番組の司会をやっていると遅刻が嫌なので、テレビ局で宿直になる。寝過ごしてはいけない。

「はあ!? zzz。はあ!? zzz。」

 真夜中は寝ては起き、起きては寝るの繰り返しで心が安らぐ時はない。

「ああ~早く深夜と早朝の担当から外れたい。」

 これが目の下に熊を飼っている私たち深夜早朝のアナウンサーの本音である。朝出勤のお昼のニュースやワイドナショー、夕方のニュースは、大ベテランが陣取っているので、なかなか奪うのは難しい。

「ああ~、女子アナのプレミアムを使って、さっさとお金持ちと結婚して、こんな仕事さっさと止めたい。人間らしい生活がしたいよ。」

 これが本音である。深夜早朝組は基本的に恋愛はできない。他の人と起きている時間が合わないからである。

「簡単よ。マグロが好きな男もいるのよ。オッホッホ。」

 そんな深夜早朝組でも結婚できる勝ち組の女はいる。その人たちが言うには、女子アナならマグロでも構わない。結婚したいというお金持が多いらしい。

「こんな生活していたら死んじゃうよ!? 目の下の熊なんて、もう私から離れてくれない!? どうやって男を作るのよ!? ああ~婚期が過ぎていく!?」

 この物語は、目の下に熊を飼う深夜早朝組の女子アナウンサーの悲劇的物語である。疲れ切っている彼女の名前は、佐藤結月。またの名をマグロ女。

 つづく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る